破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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第四十四話 真の敵

 

 

 

 

 最新鋭戦艦にいることすら忘れてしまいそうなほど、シンの自室は濃密な甘い空気と、それ以上に現実的な「生活感」に支配されていた。

 

 

 

 

 デストロイ戦の後の数日間、そしてその後の休暇。二人は貪るように互いを求め合った。もはやそれは特別なイベントではなく、食事や睡眠と同じ、日常のサイクルの一部と化している。

 

 

 

 ふと部屋を見渡せば、本来なら機能的で殺風景なはずの軍の個室が、奇妙な変貌を遂げていた。

 

 

 

「ねえシン。私の替えのインナー、そっちの棚に入れておいたから」

 

 

「ああ……あっ、俺のTシャツまたルナが着てるのか?」

 

 

 

 デスクの上にはルナマリアの化粧水やブラシが当然のように鎮座し、クローゼットの中では赤と白の制服が肩を並べて揺れている。私物がシンの部屋に集まるにつれ、ここが「誰の部屋か」という境界線は、二人の身体の境界線と同じくらいに曖昧になっていた。

 

 

 

 そんな、蕩けるような甘い沈黙を切り裂くのは、いつも決まってレイ・ザ・バレルだった。

 

 

 

 ある日の任務前、廊下で鉢合わせたレイは、表情一つ変えずにシンの手に「それ」を握らせた。

 

 

 

 数箱のゴムと、ルナマリアのための低用量ピル。

 

 

 

『……今の状況で、不測の事態は避けるべきだ。シン、お前はギルの期待を背負っているんだからな』

 

 

 

 

 事務的な、あまりに事務的で冷徹なレイの言葉。

 

 

 

 シンは、手のひらの中にある現実味を帯びた「対策物資」を見つめ、何とも言えない後ろめたさに襲われた。自分たちが本能のままに溺れている間、レイは親代わりか、あるいは有能なマネージャーのように、二人の「後始末」まで計算に入れている。

 

 

 

(……レイに、悪いことしてるな……)

 

 

 

 

 部屋に戻り、着替えを終えてルナマリアと並んでドアへ向かう。

 

 

 

 

 扉を開ければ、そこにはレイやアスラン達。そして戦火の絶えない世界が待っている。

 

 

 

 しかし、シンは無言でルナマリアの腰を引き寄せ、彼女もまた、気だるげな微笑みを浮かべてシンの肩に頭を預けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私生活を侵食し、レイに呆れられ、それでも止められない。

 

 

 

 

 

 

 二人は、着替えを終えて同じ部屋から出るという「当たり前」を繰り返しながら、ミネルバという巨大な鉄の塊の中で、自分たちだけの閉じた世界を確実に構築していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミネルバの廊下は、いつも通りの静寂に包まれていた。だが、その静寂の質が変わったことにレイ・ザ・バレルだけは気づいている。

 

 

 

 シンの自室のドアが開き、着替えを終えたシンとルナマリアが並んで出てくる。二人の間には、もはや隠そうともしない親密さと、生活の匂いが漂っていた。すれ違いざま、ルナマリアがシンの肩に付いた糸屑を自然な動作で払う。シンもまた、それを当たり前のように受け入れている。

 

 

 

 

レイは、そんな二人を無機質な瞳で見送った。

 

 

 

 手元に残る、備品管理の記録。本来なら医療班から支給されるべきものを、レイが私的に手配してシンに渡した。ゴムとピル。それを渡した時のシンの申し訳なさそうな顔を思い出す。

 

 

 

 

「……親友、か」

 

 

 

 

 レイは独りごちた。

 

 

 

 自分は、二人の関係を「トップエースの戦力維持と精神安定のための必要経費」として処理している。ギルバート・デュランダルの描く未来のために、シン・アスカという剣は常に研ぎ澄まされていなければならない。そのための鞘としてルナマリアが必要なら、それを補佐するのも自分の役目だと割り切っていた。

 

 

 

 だが、ふとした瞬間に、胸の奥を刺すような感覚が走る。

 

 

 

 シンとルナマリアが二人だけの世界を構築し、実質的な「恋人」……あるいはそれ以上の、分かちがたい関係になっていくのを目の当たりにするたび、レイは自分一人が取り残されていることに気づいてしまう。

 

 

 

 あの中には、自分は入れない。

 

 

 

 

 

 二人の間に流れる温かな空気は、血の繋がりのない「兄弟」のような関係だった自分とシンの距離を、決定的なものに変えつつあった。

 

 

 

 

 

(寂しい、か。……俺としたことが)

 

 

 

 

 レイは自嘲気味に口角を上げた。

 

 

 

 

 

 自分には、彼らと同じように未来を語る資格はない。調整された命、短すぎる寿命。自分の時間は、もうすぐ底を突く。だからこそ、自分はこの手に残されたわずかな時間で、二人の「居場所」を作らなければならないのだ。

 

 

 

 シンが笑い、ルナマリアが寄り添える、平和で管理された世界。

 

 

 

 

 

 戦いに怯えることもなく、失うことに絶望することもない未来。

 

 

 

 

 

 

 二人が幸せになれるのなら、自分の一人きりの寂しさなど、払うべき安い代償に過ぎない。

 

 

 

 

(……そうだ。ギルの作るデスティニープランこそが、彼らの幸福を保証する唯一の道だ。だから俺は戦う。彼らの居場所を守るために)

 

 

 

 

 

 レイは、デスティニープランの行き着く先――個人の意志が管理され、役割のみが与えられるその世界が、本当にシンやルナマリアの「幸福」と合致するのかという問いを、無意識のうちに思考の外へと追いやった。

 

 

 

 

 彼らにとっての幸福とは何か。自由とは何か。

 

 

 

 

 それを深く考えることは、今のレイにとっては自分の存在意義を揺るがす猛毒でしかなかった。

 

 

 

 

「……シン。ルナマリア。お前達は何も心配せず笑っていてほしい」

 

 

 

 

 レイは背筋を伸ばし、冷徹な戦士の顔に戻って歩き出す。

 

 

 

 

 愛し合う二人の背中を見つめながら、彼は自分を「孤独な守護者」という役割に閉じ込め、より一層、議長の描く「理想郷」へと傾倒していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界が、一人の男の言葉によって塗り替えられていく。プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルによる対ロゴス演説。それは、これまで混迷を極めていた情勢に「明確な敵」を指し示す福音だった。

 

 

 この世界では「エンジェルダウン作戦」は行われていない。フリーダムは撃墜されず、アークエンジェルは「オーブ公認の国際救援隊」として白眼視されるどころか、人道支援の英雄としてユーラシアや東アジアで名を馳せている。

 

 

 

 

 

 だが、それでも。

 

 

 

 

 

「これは過日、ユーラシアの都市へ向け、連合の新型巨大兵器が侵攻したときの様子です」

 

 

「この巨大破壊兵器は何の勧告もなしに突如攻撃を始め、逃げる間もない住民ごとブリュッセルを焼き払い尚もパリへと侵攻しました。我々はすぐさまこれの阻止と防衛戦を行いましたが、残念ながら多くの犠牲を出す結果となりました。侵攻したのは地球軍、されたのは地球の都市です。何故こんなことになったのか。連合側の目的はザフトの支配からの地域の解放ということですが、これが解放なのでしょうか?こうして住民を都市ごと焼き払うことが!確かに我々の軍は連合のやり方に異を唱え、その同盟国であるユーラシアからの分離、独立を果たそうとする人々を人道的な立場からも支援してきました。こんな得るもののないただ戦うばかりの日々に終わりを告げ自分たちの平和な暮らしを取り戻したいと」

 

 

「戦場になど行かず、ただ愛する者達とありたいと。そう願う人々を我々は支援しました」

 

 

「なのに和平を望む我々の手をはねのけ、我々と手を取り合い、憎しみで討ち合う世界よりも対話による平和への道を選ぼうとしたユーラシアの人々を連合は裏切りとして有無を言わさず焼き払ったのです!子供まで!」

 

 

「何故ですか?何故こんなことをするのです!平和など許さぬと!戦わねばならないと!誰が!何故言うのです!何故我々は手を取り合ってはいけないのですか!?」

 

 

 

 

 

 議長が放った「ロゴスという悪」の概念は、飢えと戦火に疲弊した大衆の心を瞬く間に掌握した。

 

 

 

「なのにどうあってもそれを邪魔しようとする者がいるのです。それも古の昔から。自分たちの利益のために戦えと、戦えと!戦わない者は臆病だ、従わない者は裏切りだ、そう叫んで常に我等に武器を持たせ敵を創り上げて、討てと指し示してきた者達。平和な世界にだけはさせまいとする者達。このブリュッセルの惨劇も彼等の仕業であることは明らかです!」

 

 

「間違った危険な存在とコーディネイターを忌み嫌うあのブルーコスモスも、彼等の創り上げたものに過ぎないことを皆さんは御存じでしょうか?」

 

 

「その背後にいる彼等、そうして常に敵を創り上げ、常に世界に戦争をもたらそうとする軍需産業複合体、死の商人、ロゴス!彼等こそが平和を望む私達全ての、真の敵です!」

 

 

「私が心から願うのはもう二度と戦争など起きない平和な世界です。よってそれを阻害せんとする者、世界の真の敵、ロゴスこそを滅ぼさんと戦うことを私はここに宣言します!」

 

 

 

 

 

 

 ミネルバの食堂で、シンはモニターに映る議長の静かな、しかし力強い姿を食い入るように見つめていた。その隣には、当然のようにルナマリアが寄り添っている。

 

 

 

 

「世界中で『魔女狩り』が始まってるわね。ロゴスと関係があったっていうだけで、軍も企業も……」

 

 

 

 

 

 ルナマリアの言葉通り、モニターの下を流れるテロップには、各地で勃発する暴動やロゴス関係者の拘束のニュースが次々と流れていた。昨日までの「隣人」が、今日は「世界の敵」として引きずり出される。

 

 

 

 

 かつてシンが守れなかったもの。奪われた家族の命。

 

 

 

 それら全ての原因がロゴスという組織にあるのだと突きつけられ、シンの瞳には、これまで向け先を失っていた鋭い怒りの色が宿り始める。

 

 

 

 

 

「……あいつらが、全部の元凶なんだ。あいつらが居なければ、ステラだって……。議長は、それを終わらせようとしてるんだ」

 

 

 

 

 

 シンの拳が震える。それを、レイは少し離れた場所から、コーヒーを啜りながら静かに見ていた。

 

 

 シンの中に宿る怒りが「正義」へと昇華され、議長という光に向かって一直線に伸びていく。それはレイにとって、計画通りであり、望んでいた光景のはずだった。

 

 

 

 

 

(そうだ、シン。お前の怒りは正しい。ロゴスを討ち、議長の描く世界が実現すれば、お前とルナマリアが怯える必要のない未来が来る)

 

 

 

 

 

 一方で、レイは冷徹に情勢を分析していた。

 

 

 

 

 

 現在、ロゴス関係者へのバッシングは狂気的なまでの盛り上がりを見せている。オーブに対しても「ロゴスを匿っているのではないか」という疑惑の目が向けられ始めているが、そこにはユウナが先手を打って放った「国際謝罪と救援活動の実績」という巨大な防波堤が立ちふさがっていた。

 

 

 

 

(ロゴスを撃て。その先にこそ、二人の幸福がある)

 

 

 

 

 

 レイは自分に言い聞かせるように、思考の蓋を閉める。

 

 

 

 

 

 「魔女狩り」の熱狂が世界を飲み込む中、ミネルバという箱舟は、いよいよロゴスの最終拠点であるヘブンズベースと、その舳先を向けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、オーブ首脳公邸の一室。

 

 

 

 

 ユウナ・ロマ・セイランは、実に三日三晩という「代表代行にあるまじき期間」を寝込んで過ごし、ようやく人間らしい血色を取り戻したところだった。

 

 

 

 

 あの「現場猫」の祭典のような通信のあと、彼は精神的な過負荷で文字通り倒れたのだ。カガリの「????」という顔、マリューのドン引き、そして自分自身の「アスラン以下」という自己評価。それらが頭の中でメリーゴーランドのように回り続け、胃壁を内側から削り取っていた。

 

 

 

 

 だが、運命という名の悪魔は、彼が回復するのを今か今かと待ち構えていたらしい。

 

 

 

 

「……はは、笑える。三日休んだだけで世界が別の地獄にアップデートされてやがる……」

 

 

 

 

 大型モニターに映し出されるギルバート・デュランダルの穏やかな顔。そして、それに応呼するように各地で沸き起こるロゴス関係者への凄惨な「魔女狩り」。

 

 

 

 

 画面の中で燃え上がる邸宅や、引きずり出される人々を眺めながら、ユウナは乾いた笑いを漏らした。

 

 

 

 

 

 そこへ、ノックと共に迷いのない足音を響かせ、トダカ一佐が執務室へと入ってきた。彼もまた自身の行いを恥じ、後悔と屈辱の海を渡っていたのだが現在その表情は、いつになく険しく、かつ実戦の最中にあるような緊張感に満ちている。

 

 

 

 

 

「ユウナ様、体調はいかがですか。……と言いたいところですが、悠長に寝台で休んでいられる時間は、もはや一秒も残っておりませんぞ」

 

 

 

 

「……トダカ。見ての通りだ。ようやく胃の中のものが落ち着いたと思ったら、今度は世界がひっくり返ってやがる」

 

 

 

 

 

 ユウナはフラフラと立ち上がり、乱れたタイを締め直した。その様子を見て、トダカは力強く頷く。

 

 

 

 

 

「よろしい。ならば今すぐ、国民の不安を和らげるための対策に乗り出しましょう。これより不眠不休で働いていただきます。まずは公式声明の発信、各シェルターの点検、そして国防軍の警戒レベルの引き上げ……やることは山積みです」

 

 

 

 

「分かってる、分かってるよ……。それで、今のところウチ……オーブ国内では、あんな暴動は起きてないんだな?」

 

 

 

 

 

 ユウナが懸念を込めて尋ねると、トダカは手元の端末のデータを一瞥して答えた。

 

 

 

 

「今のところは、ですな。アークエンジェル隊による人道的支援を全面的に広げた成果もあり、国民の間には『正義のオーブ』という自負が根付いております。おかげで他国のように感情のままに火を放つような事態には至っておりません。……ですが、疑心暗鬼にはなっております」

 

 

 

 

「だろうな……。隣にいる奴がロゴスに関係してるんじゃないか、なんて一度疑い出せばキリがねぇ」

 

 

 

「左様。ネット上では既に『どの企業がロゴスと繋がっているか』という根拠のないリストが出回り始めております。これを放置すれば、いずれはオーブも火の海。……さあ、ユウナ様。眠気など吹き飛ぶほどの激務が、貴方を待っておりますぞ」

 

 

 

 

「……はは、最悪だ。死ぬ気で生き残るために動いた結果が、死ぬまで働けってか。トダカ、付き合えよ」

 

 

 

「この命に変えても」

 

 

 

 ユウナ・ロマ・セイランは、重い足取りでデスクへと向かった。

 

 

 

 

 デュランダルが焚き付けた「正義」という名の猛火。それがオーブの国境を越える前に、彼は言葉と手続きという名の防火壁を築かなければならない。

 

 

 

 

 

 病み上がりの体にムチを打ち、ユウナは再び、政治家という名の終わりのない戦場へと身を投じるのであった。

 

 

 





 前回のお話は割とこれ下手すると叩かれるのでは?と思ってたので皆様に受け入れて貰えて安心してします。後一つだけ特大の爆弾を抱えてるけどそれも受け入れていただけると嬉しいな…

 ロゴスに関しては常に備えて備蓄関係はきっちりと備えてましたのでその部分(物流やATMの停止や薬品不足)は安心ですよ!なお比喩抜きでオーブ上層部関係者が別の意味で寝込みまくってましたが。

どっちのアスランが見てみたいでしょうか?

  • 通常の優柔不断アスラン
  • 報連相の化身と化したアスラン
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