破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》 作:kiakia
「……あ、それとキラ君! ついでだ、この際だから言っておくけどさ」
通信を切る直前、ユウナは思い出したように指を立てた。ラクスをマジ凹みさせた罪悪感を霧散させるように、彼はとっておきの「爆弾」を投げつけることにした。
「君、実はお兄さんがいるからね。カナード・パルスっていうんだけど」
『……えっ!?』
キラの思考が完全に停止した。隣にいたラクスも、沈痛な面持ちから一転、驚愕で固まっている。
『にい……さん? 兄さんって……。そ、それにユウナさん、どうして貴方がメンデルのことを……!』
自分の出生、あの忌まわしい研究所の場所まで知っているユウナに、キラは激しい動揺を見せる。だが、ユウナはその困惑を強引にスルーし、少しだけ言い辛そうに声を低めた。
「……キラ君。実は、パリ郊外でデストロイを撃墜したあの機体……。あれに乗っていたのが、君の兄さんだ」
『っ……!』
キラの表情がみるみるうちに強張っていった。ベルリン、あの地獄のような戦場。黒い殺戮機械のパイロットを殺そうとした記憶。そして何より自分より先に彼女を撃った衝撃。
「俺が雇い主でね。彼は今、ちょうどオーブにいる。……正直に言うぞ。彼は君と同じ場所から生まれたが、『失敗作』と呼ばれて非人道的な扱いを受けていた過去がある。一時期は君を殺して自分が本物になろうとしていた時期もあった……。だが、今はもう大丈夫だ。俺の下で、彼なりの居場所がちゃんとできてる」
「……」
キラは言葉を失い、隣で心配そうに自分を見つめるラクスの手を強く握りしめた。ユウナは、あえて「打算」ではなく、一人の男としての真剣な眼差しをモニターに向けた。
「キラ君。君が会いたいのなら、場所は俺が用意する。彼も、君のことをずっと意識して生きてきた。……どうする?」
ラクスが、震えるキラの肩にそっと手を添える。キラは深い溜息と共に、迷いの混じった、けれど確かな光を宿した瞳でユウナを見返した。
『……会わせてください。ユウナさん。僕の兄さんに……。僕が、どう向き合えばいいのかはまだ分からないけど……でも、会わなきゃいけない気がするんだ』
「分かった。場は俺が整えておく。……なんなら、カガリも呼ぼうか?」
ユウナがさらりと付け加えたその提案に、キラはさらに目を丸くした。
『カガリ……。ああ、そうか、彼女にとっても兄さんになるんだね……。でも、彼女が聞いたらパニックになりませんか…?』
「今更だろ。双子だったって知らされた時だって、あいつはあいつなりに乗り越えたんだ。それに、カガリなら案外『そうか、兄貴がいたのか! 賑やかでいいな!』くらいに受け止めるかもしれんぞ。……まぁ、あの猪突猛進な性格だ、新しい家族が増えると知れば、泣きながら抱きつきに行ってカナードに投げ飛ばされる未来が見えるがね」
ユウナの軽口に、キラの表情がようやく少しだけ和らいだ。実の兄が、自分を殺そうとしていた「失敗作」と呼ばれる存在。重すぎる真実ではあるが、そこにカガリという「太陽」のような存在が加わることで、何かが救われるような気がしたのだ。
『……お願いします。僕たち三人で、ちゃんと会いたいです。……ラクス、いいかな?』
『ええ、キラ。あなたが望むのなら、どこへでも。……ユウナさん、様々に心を砕いていただき、本当にありがとうございます』
ラクスが静かに、しかし先ほどまでの「偶像」としての礼ではなく、一人の友人に向けるような柔らかな眼差しで会釈する。
通信が切れる。
モニターの光が消えた執務室で、ユウナは背もたれに深く体を預け、大きく息を吐いた。
「……ふぅ。これでラクスも、自分が教祖に見えるなんて悩みより、キラの親族問題とカガリの爆発をどう抑えるかで頭がいっぱいになるだろ。打算通り、ヨシ!」
ユウナはデスクの端に置いてある胃薬を手に取り、水なしで飲み込んだ。
平和の歌姫、最強のコーディネイター、そして制御不能なオーブの獅子。この三人と「失敗作」の傭兵を引き合わせるという、世界で一番カオスな家族会議のセッティング。
「……さて、カナードになんて説明したもんかな。『弟と妹に会え』……あいつ、キレて俺を殴らなきゃいいけど」
ユウナ・ロマ・セイラン。
打算で動く彼の日常は、気づけば「宇宙一厄介な家族の仲裁役」という、最も割に合わない仕事に侵食されつつあった。
オーブ某所の秘密ドックに併設された会議室。そこには、コズミック・イラの歴史が凝縮されたような、あまりにも「濃すぎる」面々が顔を揃えていた。
中心に座るのは、腕を組み、隠そうともしない不快感を全身から放っているカナード・パルス。その対面に、どう声をかけるべきか分からず、拳を膝の上で握りしめたままのキラ・ヤマト。そして、その隣で「……あー、その、なんだ……」と、珍しく歯切れの悪いカガリ・ユラ・アスハ。
傍らには、慈愛と困惑の入り混じった表情でキラを支えるラクス・クライン。
そして、この地獄のような空気を作り出した張本人、ユウナ・ロマ・セイランが、一人だけ平然と(胃痛をこらえながら)書類に目を落としていた。
「……で、いつまで黙ってるんだ。俺は忙しいんだぞ、ボンボン」
カナードの低く鋭い声が室内に響く。彼はキラを一瞥し、鼻で笑った。
「これが『完成体』か。……ヘラヘラと女を連れて、オーブの温い風に吹かれて。こんな奴が、俺と同じ場所から生まれた兄弟だなんて、反吐が出るな」
「おい!口が過ぎるぞ!」
カガリが堪らず立ち上がる。だが、カナードは冷たい視線を彼女に向けた。
「……そっちが妹か。アスハの看板背負って満足してるお嬢様が。お前らに、捨てられた失敗作の痛みが分かるはずがない」
一触即発。カガリがさらに言い返そうとしたその時、キラが静かに、しかし震える声で口を開いた。
「……ごめんなさい。僕は、何も知らなかったんだ。あなたが……兄さんが、どんな思いをしてきたのかも。パリ郊外で、僕があの女の子を救えなかった時に…いや、殺そうとした時に……あなたが彼女を……」
キラの言葉に、カナードの眉がピクリと動いた。パリ郊外での「デストロイ撃墜」。あの時、カナードはユウナの命令で動いただけだったが、結果としてキラが救えなかった少女を「引導」という形で撃ち抜いた。
「……そうだ、俺はあいつの――ヒビキ博士の最高傑作であるお前を殺して、俺こそが本物だと証明するために生きてきた。お前は何もかも持っていて、俺には何一つ与えられなかった……その差を、実力で埋めるためにな」
カナードは吐き捨てるように語った。自分を「失敗作」と定義し、光の中にいる弟を憎むことでしか保てなかったアイデンティティ。その壮絶な孤独と執念の独白を、キラは逃げることなく、正面から受け止めていた。
「……そう、だったんだね。僕のせいで……いや、僕が生まれたせいで、兄さんは……」
キラが沈痛な面持ちで俯き、カガリもまた、言葉の重さに唇を噛み締める。部屋が重苦しい絶望感に包まれそうになったその時、パン、と乾いた音が響いた。
ユウナがこれ見よがしに、机の上に置かれた「特上うな重」の蓋を開けた音だった。
「はいはい、そこまで! 過去の不幸自慢大会は終了だ。暗い! 重い! 湿っぽい! カナード、お前もいつまで昔の親父の実験結果にこだわってんだ。今の雇い主は俺だぞ、俺!」
「……クソボンボン。貴様……今この空気が読めないのか?」
カナードが殺気立って睨むが、ユウナは鼻で笑ってうな重を自分の手元に引き寄せた。
「空気? 読めるから壊してんだよ。いいか、『最高傑作』だの『失敗作』だの、そんなのは死んだ親父の勝手な格付けだ。俺からすれば、キラ君は『(なんか目が死んでるけど)最強の自衛力』で、カナード、お前は『(口は悪いけど)有能な直属の部下』だ。それ以上の意味なんてねぇんだよ」
ユウナはさらに、ラクスやカガリ、キラを順番に指差した。
「そこの歌姫は『可愛い協力者』、カガリは『オーブの看板娘』だ。お前ら、血筋だの運命だのという、自分じゃどうしようもないもんに縛られすぎなんだよ。そんなもん、腹いっぱい飯食って寝ちまえば、どうでもよくなる程度の話だ」
「ユウナ……」
呆れ顔のカガリを無視し、ユウナはカナードに、余っていたもう一つのうな重を軽く放り投げた。カナードはそれを反射的に片手で受け止める。
「カナード。お前が本物かどうか証明したいなら、そんなところでウジウジしてないで、イータの整備でもしてこい。キラ君、君もだ。兄さんに『失敗作』なんて言葉を二度と使わせないくらい、幸せそうに平和な未来を歩んでみせろ。いいな?」
乱暴な言い回し。だが、そこには「運命」という呪縛を、「未来」という現実で塗りつぶそうとするユウナなりの、不器用なエールが混じっていた。
カナードはうな重の折を見つめ、少しだけ毒気を抜かれたように息を吐いた。
「……ふん。相変わらず、食い物で釣れると思っているのか。この、打算の塊め」
「釣れてるだろ。冷めないうちに食え。……キラ君もだ。食わないと家族会議は解散させないからな」
ユウナの強引な仕切りに、キラが少しだけ、本当に少しだけ、困ったような笑顔を見せた。
地獄の空気は、うな重の香ばしい匂いによって、少しずつ「面倒な親戚の集まり」のような、奇妙な平穏へと上書きされていった。
(……死ぬわ!!! 本気で死ぬわ、俺!!!)
内心で絶叫しながら、俺は必死に平然を装って「うな重」を口に運んでいた。うめぇな!味しないと思ったけど、流石トダカに教えてもらった店だよ畜生!
なんだこの空間は。右を見れば「完成体」を否定し続けてきた狂犬、左を見ればその狂犬に射殺された少女のことで病んでいる最強の弟、正面には「お兄ちゃんができて嬉しい(困惑)」状態の獅子の娘。そして無言でニコニコしてるラクス!
空気の密度が重すぎて、エリカさんに特注で「耐圧服」でも作ってもらえばよかったと本気で後悔した。
だが、俺という不純物による強引な割り込みが功を奏したのか、地獄の釜の底みたいな沈黙は少しずつ崩れていった。
キラは持ち前の「素直すぎる善人性」を発揮し、カナードが何を言おうと「……ありがとう、兄さん」と呼び始めた。カナードは「その呼び方はよせ!気色が悪い!」と顔を真っ赤にしてキレ散らかしていたが、結局、最後まで「呼ぶな」とは言い切らずに、ふいっと顔を背けてうな重をガツガツ食い始めた。……受け入れたな、こいつ。チョロいな、元特務部隊長め。
カガリはカガリで、「私は……カナード、と呼ばせてもらうぞ。いきなり兄貴と呼ぶのは、その、照れくさいからな!」と、謎の青春全開な宣言をしていた。
そして話題は、なぜか俺の評価に飛び火する。
「……お前ら、このクソボンボンに騙されるなよ。こいつ、俺の艦の武装を全部ひっぺがして、ガムテープでバリア発生器を括り付けたような『光るデカい的』に仕立て上げた男だぞ。自分が安全な場所で寝るために、部下をローエングリンの射線上に立たせて高笑いする……狂ってるのはヒビキ博士じゃなくて、こいつの方だ」
「高笑いはしてねぇよ!?なんなら逃げろって言ったよな俺!?」
カナードが、あの恐怖の「オオヤマツミ(盾艦)」実証テストのエピソードを披露すると、会議室は再び静まり返った。
キラは箸を止め、悲しいものを見るような目で俺を見つめる。
カガリは「ユウナ……お前、兄貴にそんなことをさせたのか……」と引きつった笑いを浮かべる。
そしてラクスに至っては、これまで見たこともないような、底知れない、慈愛と戦慄が混じった微笑を深くしていた。
(……やめろカナード! あれはオーブの未来のための研究だろ!? 誰一人死なせてないだろ! 全員ドン引きしてるのだけは分かるが、俺は部下を愛してるんだよ!というか逃げなかったのお前の方だろうが!!)
いや、よく考えたらコンピュータ上でテストはやってたが、初手にあの実験はやべぇよ。誰か止めろと言わなかったのか?なんかもう色々と俺もCEに染まってきてるな…。
そんな中、カガリが意を決したようにカナードに手を差し出した。
「カナード。お前のような力、傭兵ではなく……オーブ正規軍として、私と一緒に振るってみないか?」
「断る。反吐が出るな」
カナードは一秒の迷いもなく即答し、カガリの手を払いのけた。
「俺はボンボンの私兵だ。この男の『打算』という名の、分かりやすい欲望と心中する方が、お前の言うふわふわした『正義』よりよっぽどマシだ。……それに、俺が軍なんぞに入ってみろ。お前の周りにいる、あの青臭いアスランだか何だかっていう奴と、初日に殺し合いになるぞ」
「それは……否定できんな……」
カガリが肩を落とす。
結局、カナードは俺の部下であることを選び、キラはそんな兄を眩しそうに見つめていた。
会議(家族の集い)が解散した後、俺は執務室に戻るなり、胃薬を箱ごと机に叩きつけた。
「……もう家族会議なんて二度とごめんだ。次からは、ジブリールの死体でも囲んでる方がまだ精神衛生上マシだぞ、これ……」
ユウナ・ロマ・セイラン。
最強の三兄弟(仮)を結びつけた男は、明日への不安と増え続ける胃の穴を抱えながら、ようやく訪れた「嵐の前の静けさ」に目を閉じるのでしたとさ。
「なんか無言だったけど大丈夫?」
「えぇ、将来の義兄様と会えて光栄でした」
ラクスはラクスでなんか決意固めてるけどヨシ!ヨシ!!
その数分後。
「失礼します!!前職を円満退職し、本日付でオーブ国防軍に復職いたしました。アスラン・ザラです!退職祝いのセイバー及び、同時に円満退職をさせて頂いた元ザフト軍所属のメイリン・ホークと共に、ただいま報告に参りました!」
完璧な姿勢で敬礼するアスランを見て、俺は最早取り返しのつかない未来を幻視するしかなかった。
次回。アスラン 錯乱。
どっちのアスランが見てみたいでしょうか?
-
通常の優柔不断アスラン
-
報連相の化身と化したアスラン