破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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第四十八話 アスラン隔離

 

 

 

 狂気とカオスを詰め込んだあの日から数日後、俺は自分の執務室で頭を抱え、文字通り机に突っ伏していた。

 

 

 目の前には、うずたかく積まれた「報告書」の山。それも、ただの報告書ではない。あのアスラン・ザラが、オーブ軍の各部署を一日中練り歩き、重箱の隅を突っつくような指摘を全て言語化した、狂気のアドバイス集だ。

 

 

 

「ユウナ、顔色が悪いぞ。低血糖か? 具体的には15分間の仮眠と、糖分20グラムの摂取を推奨する。これは友人としての『相談』であり、組織のナンバー2としての『進捗管理』だ」

 

 

 

 耳元で、あの涼やかな、しかし逃げ場のない低音が響く。顔を上げると、そこには一点の曇りもない瞳をしたアスランが立っていた。

 

 

「アスラン……お前、本当に大丈夫か?」

 

 

 

 俺は震える手で、山のような報告書を一旦脇へ押しやった。視界に入るだけで胃がキリキリと鳴り始め、もはや体調にすら影響を与えている。

 

 

 他の皆は大丈夫だろうか?特にラクスは、あの日アスランが現れて以降、怖いくらい無言だったが、お嬢様としてはショックの余り寝込んでいるんじゃないか?と本気で思うレベルだ。本当にすまん…

 

 

 

 確かに言った。報連相は大切だ、組織の根幹だと。カガリと俺のタッグでこいつに色々指摘した結果、やり過ぎなくらいには一度は「自分はなんて駄目な奴なんだ……」といつものネガティブモードに入りかけたアスラン。正直、あの時は言いすぎたとと後悔もしたさ!

 

 

 だが、その後のミネルバ隊での働きは耳に入っていた。隊長として少しずつメンタルも回復し、部下を思いやる良き上司になっていったと聞いて安心していたんだ。

 

 

 なのに、今目の前にいるこいつは何だ。最早「概念」だ。報連相というシステムの化身だ。あまりにも人間味が無さすぎる。

 

 

 

 

「アスラン……お前、正直に答えろ。今の自分をどう思ってる?」

 

 

 

 

 

 俺が真面目な顔で、本気で心配して問いかけると、アスランは一瞬だけ、その氷のような無機質な表情を崩した。わずかに眉を寄せ、視線を彷徨わせる。そこには、俺の知っている「悩めるアスラン・ザラ」の欠片が、かろうじて残っていた。

 

 

 

 

 

「……分からないんだ、ユウナ」

 

 

 

 

ようやく口にした言葉は微かな人間性を削り取り、絞り出すような声だ。

 

 

 

「議長を信じていた。正義のために戦っていると思っていた。……だが、あのデスティニープランのデータを見た瞬間、頭の中で何かが弾けた。信頼していた上司からの、最大級の『秘匿』。組織人として、それだけは許せなかった。……そこからの記憶が、自分でも酷く混濁しているんだ」

 

 

 

「混濁してる……? どういうことだ」

 

 

 

 

「気づけば議長の部屋で説教をしていた。気づけばメイリンと挨拶回りをしていた。……自分でも、なぜあんなに堂々と、あんな恐ろしい真似ができたのか分からない。ただ、『報告せねば』『筋を通さねば』という強迫観念だけが、俺を突き動かしていたんだ」

 

 

 

 俺は椅子から転げ落ちそうになった。お前マジか…マジかよ…!?

 

 

 

「お前……マジで二重人格になってないか!?」

 

 

 

 ストレスだ。間違いなく、過剰なストレスによる精神の防衛本能だ。それも重度で肉体にすら悪影響を与えるレベルの、

 

 

 

 

 生真面目すぎるアスランの心が、議長の裏切りと俺たちの説教の板挟みに遭い、ついに「完璧な報連相モンスター」という第二の人格を作り出して逃避したんじゃないのか?

 

 

 

 

「いいかアスラン、それは『円満退職』じゃない! 無意識下の暴走だ! そもそも!メイリンと一緒にセイバーで飛んでくる間の記憶はあるのか?」

 

 

 

「……メイリンに将来カガリとの家族計画について論理的にレクチャーした記憶は断片的にあるが……なぜそんな話を彼女に……?あれ…?」

 

 

 

 

 アスランが青ざめた顔で自分の手を見つめる。

 

 

 

 

 

「……休め! もういい、アスラン。一言も喋るな、お前は休め!!」

 

 

 

 俺は机を叩き、叫んだ。

 

 

 

 

 こいつ……!あまりにも「報連相」に囚われすぎて、自分の精神が崩壊していることにすら気づいていねぇ…!

 

 

 メイリンに将来のカガリとの家族計画を論理的にレクチャーした? どんな地獄だそれは!?聞かされた女の子の身にもなってみろ!!

 

 

「今すぐカガリを呼ぶ!お前はもう仕事のことは忘れろ! いいからあいつとデートにでも行って、海でも眺めて、人間らしい感情を取り戻してこい! これは代表代行としての……いや、お前の友人としての命令だ!」

 

 

 

 

 だが、アスランは幽霊のような顔で、しかし断固として首を振った。

 

 

 

「……できない。ユウナ、今の情勢を『報告』させてくれ。休んでいる暇など、俺たちにはないはずだ」

 

 

 

 

 アスランの指が、震えながらもホログラムディスプレイを操作する。映し出されたのは、アイスランドの巨大軍事拠点——ヘブンズベース。

 

 

 

 

「議長の演説を受け、世界中でロゴス関係者への襲撃が相次いでいる。民衆の怒りはもはや制御不能だ。そして追い詰められたジブリールらロゴス幹部は、自分たちの私兵集団と連合の残存戦力をかき集め、このヘブンズベースに立て籠もった……」

 

 

 

 アスランの瞳に、冷徹な軍人の光が戻る。いや、それは「正しい状況把握」に執着する病的な輝きだ。

 

 

 

 

「ここが落ちれば、ロゴスは完全に崩壊する。だが、それは平和の訪れではない。ロゴスという既存の経済・物流システムを力ずくで破壊すれば、世界は未曾有の混乱に陥る……。物資は滞り、飢えと暴動が各地で頻発するだろう。……ユウナ、これが今、我々が共有すべき現実だ」

 

 

 

「……分かってる。分かってるよ、そんなことは!」

 

 

 

 

 俺は頭を掻きむしった。確かに情勢は最悪だ。デュランダルが焚きつけた「魔女狩り」の炎は、ロゴスという悪を焼き尽くすだけでなく、世界そのものを焼き払おうとしている。

 

 

 

 だが、それ以上に俺が恐ろしいのは、目の前で「世界が壊れる報告」を淡々としているこの男だ。もう既にロゴス崩壊は間違いない、だがギリギリのギリギリまで他に何かすべきことはないか?とアスランは思考を回転させ、その度にガリガリと精神と心を削っている。

 

 

 

 

「情勢は理解した。だが、だからこそお前は休めと言ってるんだ! お前のような壊れかけの高性能爆弾をこの状況で戦場に出せるか! 二重人格のままセイバーに乗って、もし戦闘中に『第2人格の報連相モンスター』が覚醒してみろ! 敵の通信回線に割り込んで『貴殿の今の回避運動はどうとか!』とか説教し始めるぞ!絶対!」

 

 

 

「……俺は、正気だ」

 

 

 

「正気な奴は、自分の上司に挨拶回りをして脱走なんてしないんだよ!!」

 

 

 アスランは最早フラフラと立っていられない様子で、急いで付近の護衛に休ませる事にした。抵抗はない、しかし、その目は現実を受け入れられないかのような怯えと狂気が悪魔合体していて最早正気を失う一歩手前だ。

 

 

 

 

「……ったく、何なんだよあいつは……!」

 

 

 

 俺はアスランを部屋から追い出し、乱暴に通信端末を操作してカガリを緊急で呼び出した。

 

 

 

「カガリ! 今すぐ執務室に来い、いや、来なくていいからアスランを捕まえろ! そのままどっか連れてって休ませろ、いいな?お前の仕事は俺が代わってやるからい・ま・す・ぐ!!休暇をとって恋人らしいことをするんだぞ!?わかったな!!!」

 

 

 

 

 怒鳴るように通信を切った後、俺はガクンと膝をついて、そのまま床に座り込んだ。

 

 

 

 

 

 ……正直、凹んでいた。

 

 

 

 あのアスランへの、ヤケクソ気味な「報連相」のアドバイス。あの時は確かに、優柔不断で煮え切らないこいつの背中を押すつもりだったんだ。それが、まさかこんな「概念の怪物」を生み出す結果になるなんて、誰が想像できる?

 

 

 

「……あぁ、クソ。俺が余計なことを言ったばっかりに」

 

 

 

 俺はデスクに突っ伏したまま、自分の頭を拳で小突いた。アスラン・ザラ。あいつは元々、呆れるほどクソ真面目な男だった。だがその内面は、ガラス細工みたいに繊細で、いつだって「自分はこれでいいのか?」「この道は正しいのか?」と、暗闇の中で足掻き、迷い続けていた。

 

 

 

 そこへ俺が、「迷う暇があったら報連相しろ!」だの「組織人としての自覚を持て!」だの、劇薬みたいな正論を無理やり流し込んだんだ。

 

 

 

 

 あいつはあいつで、それを馬鹿正直に、それこそスポンジが水を吸い込むみたいに全力で受け止めてしまった。つい二年前、暴走した父親が憎悪に塗れて目の前で死んで『ザラ』の名前に悩み続けてたアイツに。

 

 

 

 

 

「……あいつ、俺のアドバイスを杖にして、なんとか立ってたんだなぁ…」

 

 

 

 

 そんな、ギリギリの精神状態でザフトに戻り、信じていた議長があの「デスティニープラン」なんて代物を隠し持っていたことを知ったんだ。

 

 

 

 迷いの霧を晴らしてくれたはずの「報連相」という杖が、信じていた上司の手によってへし折られた瞬間――。

 

 

 

 

 あのアスランの繊細な心は、きっと耐えきれずに悲鳴を上げたんだ。そして、崩壊する寸前で、心が勝手に防衛本能を働かせたんだろう。

 

 

 

 

『迷うな、感情を殺せ。ただシステムに従い、報告と連絡と相談を繰り返せば、これ以上傷つかずに済む。心を殺して機械の様になれ、それこそが『正義』なんだ』

 

 

 

 

 

 

「……お前、そこまでして自分を保とうとしてたのかよ」

 

 

 

 

 

 

 今のあいつにとって、報連相は仕事のツールじゃない。自分の心がバラバラにならないように繋ぎ止めている、唯一の「鎖」なんだ。

 

 

 

 だからこそ、あんなに必死で、あんなに異常に、情報を共有することに執着している。

 

 

 

 

「……すまん。本当に、すまん……」

 

 

 

 俺は誰もいない執務室で、絞り出すように呟いた。後悔なんてもんじゃない、後一歩で一人の男を廃人にしかけた元凶は間違いなく俺だ。

 

 

 

 

 

 軽率だった。あいつの「真面目さ」というガソリンに、俺は「組織論」という火を投げ込んだんだ。爆発して粉々になるかと思ったら、あいつは爆発のエネルギーを全部閉じ込めて、歪な形の装甲に変えてしまった。

 

 

 

 今のあいつにとって、報連相はもはや仕事のツールじゃない。あんなに必死で異常なほど情報を共有したがるのは、そうしていないと自分が「アスラン・ザラ」という自我を保てないからなんだろう。

 

 

「……あいつは、もう出撃させちゃダメだ」

 

 

 

 あんな壊れかけの、しかも出力だけは最大級の高性能爆弾を戦場に出してみろ。敵軍にまで「貴軍の布陣は事前の連絡不足だ!」と詰め寄って、戦場ごと精神汚染しかねない。それ以上に、あいつ自身が戦いの中で決定的に壊れて、二度と戻ってこられなくなるのが一番怖い。

 

 

 

「カガリ……頼むぞ。しばらくは仕事のことなんて忘れさせて、あいつの横にいてやってくれ。メンタルを回復させられるのは、もうお前しかいないんだからな」

 

 

 

 

 

 責任は取る。俺が軽率に放った言葉の責任は、俺が取るしかない。

 

 

 

 カガリをアスランに付き添わせる分、あいつが放り出す公務は全部俺が引き受ける。ただでさえロゴス崩壊の影響で、世界中の物流が止まり、備えていたが為傷は浅いはずのオーブでさえ、悲鳴のような報告が山ほど届いているっていうのに。

 

 

 

 

「……睡眠時間が、四時間から二時間になるだけだ。今の俺にとっちゃ、もはや誤差だよ誤差」

 

 

 

 

 俺は自嘲気味に笑い、空になった胃薬の瓶をゴミ箱へ叩き込んだ。だが、現実は甘くない。

 

 

 

 俺がどれだけ書類の山に埋もれて時間を稼ごうと、外の世界はアスランを、そしてオーブを待ってはくれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よりによって、このタイミングかよ」

 

 

 

 

 

 俺の手元に届いたのは、プラントからの公式文書。一言で言えば「ヘブンズベース攻略戦に、オーブも連合軍の一員として参加しろ」という招待状――いや、実質的な踏み絵だ。

 

 

 

 

 俺はこめかみを押さえ、思考をフル回転させた。

 

 

 

 正直、迷う。

 

 

 

 

 戦力的に言えば、今のオーブ軍は強い。ムラサメにドッズライフルを持たせて参戦させれば、ジブリールを捕らえる確率は跳ね上がるだろう。原作の知識をなぞれば、ここでシンたちがロゴスを打ち破るのは分かっている。だが、「万全」を期すなら、オーブもその輪に加わるべきだ。

 

 

 

「だが、一度これに乗れば……オーブの理念は死ぬ」

 

 

 

 

 オーブは他国を侵さず、他国の侵略を許さず。その看板を掲げながら、世界規模の「魔女狩り」に参加してみろ。それはプラント、ひいてはデュランダルの軍門に降ったも同然だ。

 

 

 

 一度「共通の敵を叩く」という共同体に参加してみろ。議長からの要求はさらに加速するだろう。その先にあるのは、あのデスティニープランだ。

 

 

 

 

 

「かといって、ここで『不参加』を貫けばどうなる……?」

 

 

 

 

 答えは明白だ。デュランダルなら、こう扇動するだろう。

 

 

 

 

『ロゴスを匿っているのは。あるいはロゴスと繋がっているのは、オーブではないか?』と。

 

 

 

 

 

 今、世界はロゴスという悪を叩くことで溜飲を下げている。その熱狂の矛先がオーブに向かえば、今度はこの国が「世界共通の敵」に仕立て上げられる。

 

 

 

 

「参加すれば理念が死に、参加しなければ国が焼かれる、か……。相変わらず、議長の詰将棋は性格が悪いな」

 

 

 

 

 いや、アイツの場合はチェスか?チェスのルールは知らんがと俺はペンを回しながら、思考をさらに深めた。

 

 

 

 今のアスランの状態を考えれば、あいつを出すのは論外。無理に戦場に送り出せば、アスランの「報連相モンスター人格」が爆発して、戦場を混乱の極致に叩き込みかねない。

 

 

 

「……なら、どうする? 代わりに行くのはキラか? いや、あいつに『ロゴス討伐』なんていう一方的な私怨に近い戦いを強いるのも酷だ。カナードなら喜んで行くかもしれんが、あいつが暴れすぎてオーブの評判が地に落ちるのも困る」

 

 

 

 

 カナードは強い。しかし、彼の本来の戦い方は相当荒々しいものでこれを派遣軍に見せるのは色々な意味で問題があるだろう。もっといえばアイツは傭兵なのだからオーブが傭兵を雇って派遣して正規軍は出さないというのも問題になりかねない。

 

 

 俺は、真っ白なメモ帳に「参戦」「拒否」「第三の道」と殴り書きした。

 

 

 

 今のオーブに必要なのは、議長のプランを崩しつつ、世界の不信感を拭うための、極めて高度な「政治的立ち回り」だ。

 

 

「参戦」は理念に反する。「拒否」は世界を敵に回す。

「第三の道」……なんて格好いい言葉をメモに殴り書きしてみたが、現実は甘くない。そんな魔法みたいな解決策があるなら、今ごろ俺の胃に穴は開いていない。

 

 

 

 頭を抱え、デスクに突っ伏した。その時、ふと、先ほどまで俺を追い詰めていたあの「報連相モンスター」の顔が脳裏をよぎった。

 

 

 

 

 あいつは、壊れながらも言っていた。

 

 

 

『情報の共有こそが組織の盾だ』

 

 

 

『報連相が徹底されていない組織は崩壊する』……と。

 

 

 

 

「……そうだよなぁ……あのアークエンジェルの騒動だって、俺達が『相談』してなかったから起きたことだ…」

 

 

 

 

 俺は独り歩きして、自分一人で国を背負っている気になっていた。だが、この国には泥を啜ってでもオーブを守ろうとする現場のプロたちがいる。

 

「……そうだな。俺一人で背負うなんて傲慢だ」

 

 

 

 

 俺はデスクに広げた参戦要請の文書から目を離し、内線に手を伸ばした。

 

 

 

 

 まずは現場だ。俺が一番信用し、そして一番「相談」を怠っていた相手。

 

 

 

 

 

「トダカ一佐を呼んでくれ。……至急だ」

 

 

 

 

 

 

 数分後、執務室に現れたトダカは、俺が差し出した「デスティニープラン」の概要データとプラントからの要請書を交互に眺め、その彫りの深い顔をこれ以上ないほど不快そうに歪めた。

 

 

 

 

「……ユウナ様。正直に申し上げて、ドン引きしております」

 

 

 

 

「だろうな。俺も胃に穴が開く一歩手前だ」

 

 

 

 

「遺伝子で人の適性を決め、社会を管理する……。それが議長の言う『平和』ですか。そんな物のために、我がオーブの兵を、ドッズライフルを、ヘブンズベースという名の私刑場へ送り込めと?」

 

 

 

 

 トダカは吐き捨てるように言った。その瞳には、あの鋭く、しかし国を想う重い光が宿っている。

 

 

 

 

「参戦はやめるべきです。この踏み絵に乗れば、オーブは一生、デュランダル議長の飼い犬になる。ロゴスを討った後、次に『調整』されるのは、我々のような異分子だ」

 

 

「……だよな。だがトダカ、不参加を貫けば世界から『ロゴスの協力者』と指を差される。その時、オーブを盾なしで守り切れるか?」

 

 

 

 俺の問いに、トダカは短く、しかし力強く頷いた。その瞳には、一時の感情ではない、裏打ちされた確信がある。

 

 

 

 

「ユウナ様、ご安心を。国土の防衛に関しては、既に盤石と言って差し支えありません」

 

 

 

 

 トダカは手元のホログラムを操作し、オーブ近海のタクティカル・マップを展開した。そこに表示されたのは、既存の「国防」の概念を根底から覆す、俺がエリカに無茶振りして形にさせた「海竜」のデータだ。

 

 

 

 

「海は……この『アストレイ・リヴァイアサン』が支配しております」

 

 

 モニターに映し出されたのは、デストロイ級の巨躯を持つ、アストレイに似たフェイス。磁気流体制御鱗(A.S.S.)が放つ鈍い輝きは、それがただの兵器ではなく、海の物理法則そのものを書き換える存在であることを物語っている。

 

 

 

 

「既に5機をロールアウト。東西南北の要衝、およびこのオノゴロ島に各1機を配備済みです。海底に敷設した電力供給グリッドの改良も完了しており、ケーブルの届く範囲であればエネルギーは実質無限。この『海の門番』が目を光らせている限り、水中におけるオーブは文字通り無敵と言えます」

 

 

 

「よく5機もロールアウトしたな…」

 

 

 

 

「パイロット不足は深刻ですが資材は国際支援の影響で東アジアを筆頭に融通してくれましたからね」

 

 

 

 

 トダカの言葉には、確固たる自信があった。

 

 

 

「連合の水中用MAが100ノットで接近しようと、リヴァイアサンが海水の密度を鋼鉄に変えれば、敵は自重で砕け散ります。上陸部隊を乗せた輸送艦も、海水の質量による物理的圧殺からは逃れられません。……海からこの国を落とすことは、物理的に不可能です」

 

 

 

 

 俺は腕を組み、MSの形をした海獣のデータを凝視した。確かにこれなら、海からの侵攻は完全にシャットアウトできる。議長が何を仕掛けてこようと、オーブの領海内に入った瞬間に、リヴァイアサンによってスクラップとなり沈められるだろう。

 

 

 

「だが……問題は空と宇宙だ」

 

 

 

 

 俺はペン先で、モニターに映る「上空」を指した。

 

 

 

 確かに『ケイオス爆雷』や、『エタニティ』の配備は進んでいる。防衛網としては、原作のオーブとは比較にならないほど強固だ。

 

 

 

だが、それでも限界はある。

 

 

 

「……トダカ。はっきり言って、俺たちの戦略は『国土に侵犯されたら、その時点で実質的な敗北』なんだよ」

 

 

 

 俺は、ホログラムに表示されたオーブの国土を苦々しく見つめた。ロゴスを討つために狂奔する連合軍やザフトの物量は、一回や二回の侵攻で終わるような代物じゃない。あいつらは文字通り「世界」を味方につけて攻めてくる。

 

 

 

 

「どんなに水中が無敵でも、デストロイ級の広域殲滅兵器や、上空からの無差別な降下部隊をすべて防ぎきることはできない。一度でも上陸を許せば、そこは戦場だ。戦場になれば、俺たちが守りたい国民の命が真っ先に失われる。贅沢な悩みかもしれんが……俺は、この島の中で一発も銃声を鳴らさせたくないんだ」

 

 

 

 トダカは重苦しく頷く。彼にとっては釈迦に説法だろうが情報の共有は必要だ。

 

 

 

「左様ですな。物量による飽和攻撃……。議長がその気になれば、オーブという小国は文字通り『波』に飲み込まれます。リヴァイアサンで海を閉ざしても、空から降り注ぐ死をすべて叩き落とすことは、今の我々の防空能力では……」

 

 

 

 

 

 トダカの声は重い。

 

 

 

 実際、今のオーブはMSの総数で言えば史実の同時期より足りていない。

 

 

 

 連合との同盟という名の屈服を回避したおかげで、目の前のトダカをはじめとした熟練兵たちの命は守られた。だがその代わり、俺たちは「世界の信頼」を勝ち取るために、貴重なMSの多くを世界各地の復興支援・人道支援の護衛機として派遣してしまっている。

 

 

 

「今さら『自国が危ないから帰ってこい』なんて言えば、積み上げてきた信頼は一瞬で崩れるだろうしな。……かといって、この薄い防衛線で世界を相手にするのは、流石に分が悪いか」

 

 

 

 沈黙が流れる中、トダカがふと、核心を突くように俺を見た。

 

 

 

 

「……ユウナ様。失礼ながら、キラ様やカナード様、アレックス…いえアスラン・ザラの力は計算に入れておられないのですか? なんでしたら今裏で活動中のサーペントテールの叢雲劾……彼らを雇い、前線へ投入すれば、数などの問題は一瞬で解決するかと思われますが」

 

 

 

 

 確かにそうだ。

 

 

 

 あのアスランは今は「報連相モンスター」として隔離中だが、キラ・ヤマトとカナード・パルス、このコンビを戦場に解き放てば戦場で無双してくれるに違いない。

 

 

 さらにサーペントテールの劾まで加えれば、戦術的な勝利は約束されたも同然だ。コイツに関してはずっと前から個人的な依頼をしてもらってるので出来れば動かしたくはないが。

 

 

 

「トダカ。……確かに、エース一人が戦場を支配するのがこのコズミック・イラの常識だ。キラやカナードなら、数千の敵を相手に無傷で勝つかもしれない。……だがな」

 

 

 

 俺はガンダムシリーズを振り返る。煌びやかなエース達の活躍は見るものを圧倒し戦場で生まれるドラマは多くの興奮と感動を生んだ。だがそれじゃダメ、ダメなんだ。

 

 

 

「エースが戦線を支えなきゃダメな時点で、組織としては負けなんだよ」

 

 

 

「……負け、ですか?」

 

 

 

「そうだ。一人の天才、一人の英雄の超人的な活躍に国の運命を預けるのは、あのアスランを精神崩壊まで追い込んだ『無理な運用』と何も変わらない。キラたちが疲弊し、あるいはたった一度の不運で撃墜されたら、その瞬間にオーブは終わる。そんな綱渡りの平和に、何の価値がある?」

 

 

 

 俺はトダカを真っ直ぐに見据えた。

 

 

「俺が作りたいのは、キラがいなくても、カナードがいなくても、そして俺がいなくても、システムと連携によって国民が守られる国だ。エースで戦線を支えるんじゃなく、リヴァイアサンやドッズライフルのような最新兵器を優先的に配備し、主軸は名もなき一般パイロットたちの盤石な連携で、この国を守り抜きたいんだ」

 

 

 

 

 俺は熱を帯びた声でトダカに言い切った。この狂った世界を止めるために、一部の「超人」が全てを背負う構造そのものを壊さなきゃならない。あのアスランすら壊れてしまう辺り一人のエースに支えられる戦争はあまりにも脆過ぎる。

 

 アニメを見ろ。砂漠でキラがどれほどまでに心が死んだのかを。たった一人の人間に依存する戦場はあまりにも不確定要素が多すぎる、俺が目標とするのはAGE二部でフリットが対デシル戦で行った指揮だ。

 

 

 例え圧倒的な腕前の兵士が敵軍にいたとしても、一般兵達をぶつける事で無力化する。フリットは一般兵達を上手く使ってデシルを追い込んだ。アニメの演出としてはデシルが弱体化していた、フリットにとっては最早デシルなんぞ敵じゃないと示す様なものだったが、あの光景こそが俺が目指すオーブの未来だ。

 

 

「……ですが、ユウナ様。現実的な問題として、ザフトにはあの『ミネルバ隊』がいます。彼らのようなトップクラスのエースが本気で攻めてくれば、一般兵の連携だけでは限界がある」

 

 

 

 トダカの懸念はもっともだ。名もなき兵士たちがどれだけ努力しても、スペックと才能の暴力でねじ伏せてくるのがあの連中だ。というか、C.E.世界は他のシリーズ以上にエースの力が戦場の行方を左右するガンダム無双と言い切ってもいい戦場。それなら答えは一つしかない。

 

 

 

 

「わかってる。だからこそ、キラとカナードには悪いが、彼らには『ミネルバ隊の抑え』という特定の役割にだけ専念してもらう。……正直、あの怪物たちを止められるのは、うちの兄弟くらいしかいないからな」

 

 

 

 俺は苦笑いしながら、頭の中の盤面を整理する。化け物には化け物をぶつける。それしか方法がないのはいつの時代でも同じだ。

 

 

 

 エースにはエースをぶつけて封じ込める。その間に、ドッズライフル片手に一般兵たちが、数と連携で確実に勝てるように盤面を作る。地味だが、これが一番犠牲を出さない確実な方法だ。

 

 

 

「今オーブにできることは、ただひたすらに訓練して、組織としての精度を上げること。結局はそれしかないんだ」

 

 

 

「……結局、地道な積み重ねこそが勝利への近道、ということになりますな。キラ様たちが敵の足を止めている間に、我々が確実に獲る。……贅沢な望みかもしれませんが、一兵卒に至るまで無事に帰したいものです」

 

 

 

 

 トダカの言葉に、俺は深く頷いた。

 

 

 

「よし、俺は今から他の閣僚や現場の連中と、さらに具体的な詰めをしてくる。物流の寸断に対する備蓄の再確認もしなきゃならんからな」

 

 

 

 

 

 椅子を立とうとした俺に、トダカが珍しく、一人の男としての眼差しを向けてきた。

 

 

 

 

 

「ユウナ様……一つ、失礼を承知で申し上げてもよろしいでしょうか?」

 

 

「なんだ? 改まって」

 

 

 

「正直、かつての貴方の立ち振る舞いを見ていた身としては、今の貴方は別人のようです。ですが……今の貴方の背中を見ていると、どうにも放っておけないというか。支えねばならんと、そう思わせる何かがあります。……どうか、ご無理だけはなさらないように。貴方が倒れれば、この国も、そしてあの状況のアスラン殿も、今度こそ本当に行き場を失います」

 

 

 

「……老け込むにはまだ早いよ、トダカ。俺の胃が保つうちは、何があってもこの国を沈ませやしないさ」

 

 

 

 

 

 俺は照れ隠しに軽く手を振り、執務室を後にした。

 

 

 

 今から思えば、この時の返答が後の惨事に繋がるだなんて……この時の俺にはまだ理解できていなかった。

 

 

 





 Qアスランおかしくない?

 Aおかしいに決まってんだろメンタルぶっ壊れた末路だよあんなの。


 実際アスランはあまりにも真面目な性格な上、カガリにハツカネズミと例えられたりするくらいには繊細メンタルだったりするので史実以上に議長への好感度は高く、史実以上に誰かの為に尽くそうと努力していたときにデスティニープランなんて爆弾をぶつけられたらこうなってもおかしくないと思います。

・化け物には化け物をぶつける
 理想とはフリットがAGE作中で対デシル戦行った行為や鉄血のラスタルのような一人のエース相手に範囲攻撃を仕掛けて封殺する様な行動(但し後者は制限などが多過ぎる)が理想ですがコズミック・イラではそれが通じない。赤服も含めたエリート達が最新鋭の機体でキラを撃破しようとしてもストフリに乗り換えた瞬間即座に無力化されるような戦場です(アストレイ作中でもエースが戦場で無双すれば全てが終わると指摘されるお話も)

 だから結局エースにはエースを。化け物には化け物をぶつけるしかなく、頭の中ではフリットの様なことを目指そうとしても、結局は対エースはエースに任せざる得ないのが……。


・投稿スピード

 私生活の環境の変化などもあって投稿スピードはある程度確保できていましたが、アスラン周りを全部修正する必要があるので恐らく落ちます。それでも一日一話、出来れば二〜三話は投稿できるといいな……これもプロット全部書き換える必要になった報連相モンスターアスランが悪いんです。やはりアスラン・ザラこそが最強か…


どっちのアスランが見てみたいでしょうか?

  • 通常の優柔不断アスラン
  • 報連相の化身と化したアスラン
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