破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》 作:kiakia
数日後。執務室のテーブルには、吐き気がするほど濃いコーヒーと、それ以上に重苦しい空気が満ちていた。
プラントからの参戦要請に対し、オーブがどう答えるべきか。俺は閣僚、軍の上層部、そして現場の代表を集め、連日連夜の談義を続けていた。カガリはどうしたって?アイツなら海が見える別荘でアスランをケアしつつゆっくり休暇を取ってるよ。
「やはり、参戦すべきではありませんか? ここで拒めば、世界はオーブを『ロゴスの隠れ蓑』と見なす。対ロゴス連合軍の怒りの矛先が、この国に向くリスクが高すぎます」
一人の閣僚が悲痛な声を上げる。その意見は、今この国が抱える恐怖を代弁していた。
「だが、一度でもこの『踏み絵』に乗ってみろ。オーブの理念は形骸化し、次はドッズライフルの技術供与、その次はリヴァイアサンの供出と、議長の要求はエスカレートする一方だ。そうなれば、この国はプラントの属国に成り下がるぞ!」
軍部側からは猛烈な反発が出る。議論は平行線のまま、時間だけが過ぎていった。はっきり言って議長は不確定要素の塊であってデスティニープランの障害となるオーブを潰そうとするのは確定だ。最終的にはアズラエルのように到底飲む事も不可能な要求をしてくるに違いない。
何が飲む事も出来ないだうっすい精○の癖によぉと、俺は、何度も空になった胃薬の瓶を握りしめ、内心での汚い言葉を耐えつつも彼らの言葉を一つ一つ飲み込んでいった。
「……結論を出す。参戦は拒否だ。……ただし、完全な拒絶ではない。人道支援の名目で、最新の『ホスピタルアストレイ』3機と医療チームを派遣する。戦うための力は貸さないが、倒れた負傷兵のケアはオーブが引き受ける。これが、我々が示せる限界の譲歩だ」
沈黙が流れた。
納得しきれない顔の者もいれば、安堵のため息を漏らす者もいる。だが、これが何度も話し合い、ぶつかり合った末に導き出した、今のオーブの「正解」だ。
確か前世の日本も似た様なことをしていたはずだ。直接の派兵はできなくても間接的に条例、条約、思想の穴をついてやりくりする事に関してはオーブにもその血筋が……これ以上はやめよう、うん。
「……わかりました。すぐに使者を立て、プラントへ回答を届けさせます」
トダカが静かに席を立った。俺はその背中を見送りながら、手元の書類にサインする。それが正解だと信じるしかない。
「……ふう。これで決まりだ。だが、これで終わったなんて思っちゃいない」
戦争に参加せず、治療だけを申し出る。
この回答が、血気盛んな対ロゴス連合軍や、世界を塗り替えようとする議長にとって、どれほど「不十分」で「鼻につく」ものか、想像するだけで胃が痛い。
「『戦わないオーブ』を世界がどう見るか……。ロゴスへの憎悪で燃え上がっている今の連中には、この不殺の姿勢は火に油を注ぐようなものかもしれないな」
それでも、俺は決めたんだ。エースの武力でも、議長の甘言でもなく、自分たちで話し合って決めたこの道を行く。
たとえ、その先にさらなる苦難が待ち受けていたとしてもだ。
それから数日後。世界の視線が北欧に注がれる中、ヘブンズベース攻略戦は幕を閉じた。
結果から言えば、戦況は概ね「史実」の通りに進んだと言っていい。ジブリールは土壇場でシャトルを奪って脱出。ヘブンズベースは陥落した。
史実ではジブリールはオーブへ逃げ込んだはずだが、リヴァイアサンとドッズライフルで完全武装した今のオーブは、連合の敗残兵にとって「敵地」も同然の場所だ。流石にここへ来るわけがないだろう……俺もそう判断していた。
だが、オーブ政府が受け取った戦果報告書の内容は、あまりに凄惨なものだった。
「……ひどいな。これは……あまりにも」
「はい。対ロゴス連合軍の損害は、予測を遥かに上回っています」
トダカの声も、報告を忌むかのように沈んでいる。俺も内心、唖然としながら手元の数字を「原作」の知識と比較していた。
(……おかしい。原作じゃデストロイは5機だったはずだ。それが……8機だと!?)
そう、ヘブンズベースの防衛網は、物語よりも遥かに強固に、そして凶悪にアップデートされていた。
本来なら月面に温存されているはずの機体が、ジブリールの執念によって強引に降ろされたのだろうか?その追加された3機の火力が、ザフトや各国の一般兵たちを「原作」以上の地獄へ叩き落としたのだ。
名もなき兵士たちが、巨大な熱線の網に絡め取られ、なす術なく塵へと変えられていく。その惨状のど真ん中に、オーブが送り出した3機のホスピタルアストレイは決死の治療を続けていた。
届く報告は、もはや戦果ではなく悲鳴だ。医療チームは不眠不休で治療に当たっているが、持ち込んだ大量の医療物資は一瞬で底を突き、現場は阿鼻叫喚の地獄だという。
「……ユウナ様、現場のスタッフが、生き残った兵士たちから激しい罵倒を浴びているそうです。『なぜ治療だけなんだ』『オーブが一緒に戦ってくれれば、仲間は死なずに済んだのに!』と……」
トダカの報告に、俺は胃の奥が焼けるような痛みを感じた。ふざけんなと怒鳴りたくもなるが、前線で腕や戦友を失った対ロゴス連合の兵士達にかけるべき言葉も見つからない。
参戦は拒否し、人道支援の医療だけを提供する。それがオーブの誠実さだと思っていた。だが、デストロイ8機という地獄を生き延びた当事者からすれば、そんなものは安全圏からの傲慢な偽善にしか映らないのもまた事実だ。
「不十分どころじゃない。恨みの火に油を注ぎに行ったようなもんだ。……ジブリールを取り逃がし、これだけの死傷者を出した。この巨大な怨嗟の行き先は、今やジブリールと同じくらい、オーブに向けられ始めているぞ」
(畜生…!良かれと思ってやったことが、全部裏目に出ている……!)
内心では激しい後悔が渦巻いている。
人道支援という「誠意」を見せれば、少なくとも中立としての筋は通ると思っていた。だが、デストロイ8機という凄惨な殺戮の現場において、傷口に絆創膏を貼って回るような行為は、かえって遺族や生存者の神経を逆撫でしてしまった。
これなら、いっそ最初から一切の支援すら断絶していた方が、まだマシだったんじゃないか?「第三の道」を提示したつもりが、実際には「どっちつかずの道」で迷走し、結果としてオーブを世界からのヘイトが集まる巨大な避雷針にしてしまった。ロウでもカオスでもないどっちつかずのニュートラル野郎は嫌われるに決まってるというのに。
「デストロイの増援、そしてジブリールの逃亡。そのすべての結果として残ったのは、甚大な被害を出して憔悴した世界と、戦わずにいたオーブへの憎悪だ……」
失態の矛先を相手になすりつけている様な気もするが、今回は戦場の裏に、あの男の影が見える。
ギルバート・デュランダル。
彼なら、ヘブンズベースの被害が拡大することも、ジブリールを取り逃がすことも、すべて「計算」の内に入れていたのではないか?
そして、その悲劇を演出するための「最高のスパイス」として、オーブの不徹底な人道支援を利用した。実際の所断定できないが報告が上がる程ここまで不満が溜まっているのはなんらかの意図を感じられずにはいられない。
「議長は……最初からこの絵を描いていたんだろうな。世界に『頼りにならないオーブ』と『自分勝手なロゴス』を同時に印象付ける事を…クソっ…」
感情的に燃え上がる世界の中で、独自論を振りかざすオーブは今、最も叩きやすい標的へと成り下がっている。
「トダカ、すぐに全軍の警戒レベルを一段階上げろ。ジブリールがどこに消えたにせよ、次に世界が牙を剥くのは、ロゴスではなくオーブかもしれんぞ」
俺は窓の外、静かに凪いだ海を睨みつけた。
その平穏の裏で、デュランダルが仕掛けた「言葉」という名の毒が、着実に世界中へ回っているのを感じていた。
……なんて、シリアスな顔で格好つけていた時期が俺にもありました。
それからわずか数時間後のことだ。
緊急入電。潜入させていた情報部と、海岸線の監視網が同時に「ありえないもの」を捉えた。
「えっ!? ちょっと待て、ジブリールがオーブにやってきたの!? なんでだよ! ここに来たら死ぬって、普通わかるだろ!?」
俺は執務室でひっくり返りそうになった。「ここへは来るわけがない」なんて、どの口が言ったんだよ!!!俺だわ!!俺の馬鹿ヤロウ!!!!
あの野郎、ヘブンズベースから打ち上げたシャトルをダミーにして追手を撒きやがった!
大気圏外でカプセルを切り離して太平洋へ着水。そこから、かつての俺のクソ親父……ウナト・エマ・セイランが、表に出せない裏金を動かすために整備していた「セイラン家専用の密輸ルート」を逆流してきやがったんだ。
軍の目から隠した、沿岸部の入り組んだ岩礁地帯にある秘密のドック。そこへ、旧ウナト派の生き残りが手配した小型潜水艇で、ネズミのようにコソコソと這い上がってきたというわけだ。
ゴミ掃除は徹底したつもりだったが地下に潜ったネズミは予想以上にしぶとかった。あとでそいつらも含めて全員牢屋に投げ捨てる準備も……いやそれどころじゃねぇ!!!
「よりによって、俺の家の汚点を使いやがって……!」
だが、これは絶望している暇はない。議長に「オーブがロゴスの首魁を匿っている」と大々的に演説される前に、奴の身柄を物理的に押さえれば、こっちの勝ちだ!!!!
「よっしゃああ! 議長が『オーブはロゴスの味方だ』なんて言い始める前に、初手で直接捕まえて、そのまま縛り上げてプラントに引き渡してやる!! そうすればオーブは『ロゴスを捕らえた世界の救世主』だ!!」
俺はジャケットをひったくるように掴んで立ち上がった。高揚感で体温は熱くなる、失敗はできない。確実に着実にあの紫唇野郎を捕獲してやる…!!
「トダカーーー! !着いてこい!!皆で総出で捕獲だ! 逃がすな、一歩も動かすな!! 奴を議長の演説のネタにさせるかよ!! トダカァァァァ!!!」
「ユ、ユウナ様!? 直卒の警備隊を編成します、無茶はなさらないでください!」
「無茶してでも獲るんだよ! 鮮度が命なんだよ、あのアホの身柄は! 急げ!!」
さっきまでのセンチメンタルな気分はゴミ箱へ。俺は、歴史の因果律を強引にぶん殴るべく、全速力で執務室を飛び出した。
……だが、この時の俺は知らなかったんだ。なんであの紫唇野郎が、月面基地という安住の地を差し置いて、わざわざ今のオーブにやってきたのか。その真の理由を。
「結局、原作の強制力か何かだろ」と思い込んで、目の前の獲物に飛びつこうとしていた過去の自分の頭を、今なら全力でぶん殴ってやりたい。
結論から言えば、ジブリールの捕獲は拍子抜けするほどあっけなかった。
あの野郎、オーブに上陸するなり、かつてウナトが使っていた秘密の通信網を叩いて、必死にセイラン家へ連絡を取ろうとしていたらしい。
「セイランの息子なら、以前のように自分を匿い、プラントへの反撃の足掛かりを差し出すはずだ」と本気で信じ込んでいたわけだ。めでたい頭してやがる。
だが、残念だったな。
ウナトが隠し持っていた裏ルートも、闇通信網も、俺が政権を握った瞬間に「火種になる」と判断して、すべて物理的に切断するか、俺専用の監視回線に作り変えて処分済みなんだよ。
指定した隠れ家の扉が開き、薄汚れた身なりのジブリールが顔を出した。
「遅いぞセイラン! さあ、すぐに私を……」
あいつが何かを言いかけた瞬間だった。余計な事なんて言わせるかよ下衆野郎が…!
「……やれ」
俺の合図と共に、背後から飛び出した兵士たちがジブリールを組み伏せた。喋ることすら許さない、電光石火の制圧だ。
「な、……!? ユ、ユウ……!」
ジブリールが必死に目を剥き、俺に向かって何かジェスチャーをしていた。助けを求めているのか、それとも何か取引のネタを言いたいのか。だが、俺はそれを一切無視した。ここで一言でも発言を許せば、どんな毒を吐かれるかわかったもんじゃない。一発くらいぶん殴ってやりたいがそれをする暇すら今の俺には惜しい。
「……眠らせろ」
首筋に鎮静剤を打ち込まれ、ジブリールは白目を剥いて崩れ落ちる。これでまずは一安心、なんて言える状況じゃない。こいつがオーブにいたという事実が広まる前に、公式な「捕獲」として既成事実化しなきゃならないんだ。
俺はすぐに通信機を手に取った。
「トダカ、後は頼む。俺は……あのアスランを叩き起こしてくる」
その頃、アスランはカガリに連れ出された海辺の別邸で、少しずつ「人間」を取り戻しつつあった。
毎日カガリに無理やり砂浜を歩かされ、うまい飯を食わされ、ようやく顔の土気色が抜けてきたところだ。報告書を読み返しては「……っ」と青ざめる癖はまだ抜けないが、それでもカガリの前では少しだけ笑うようにもなっていた。
そんな二人の穏やかな時間を、俺の緊急通信が容赦なくぶち壊す。
「アスラン! 休暇中に悪いが、今すぐ仕事に戻れ! お前にしかできない、最高に重要で、最高に胃の痛くなる役目だ!」
画面越しのアスランが、見たこともないような「嫌な予感」に満ちた顔をした。
「……ユウナ。……今度は何をしろって言うんだ」
「ジブリールを捕まえた。今、俺の目の前で寝てる」
「……は?」
「お前の古巣のミネルバに連絡を取れ!タリア艦長に繋げ! 『オーブ軍がロゴスの首魁を確保した。これから身柄を引き渡す、ミネルバを寄越せ』って伝えるんだ。お前の言葉なら、あいつらも罠だとは思わないはずだ」
俺の言葉に、アスランが、そして隣にいたカガリが絶句した。だが、これが議長の盤面をひっくり返す唯一の逆転劇なんだ。
議長そのものに提案すればあの野郎は適当なことを抜かして、ジブリールを匿ってるだのなんだの言い出しかねない。しかし、ミネルバ隊が相手なら話は別だ。グラディス艦長なら必ずアスランの言うことを真に受けてミネルバを此方に差し向けるに違いない。
それに、ミネルバであれば素早く。そして着実にジブリールを然るべき場所に届けてくれるだろうと信じている。
「いいか、アスラン。お前がミネルバに『相談』するんじゃない。これはオーブからの『公式な通達』だ。お前が今までミネルバで勝ち得た信頼をオーブの為に使ってくれ…!!」
一瞬の沈黙。アスランは、かつて自分をボロボロになるまで追い込んだ「責任感」とは違う、一人の男としての覚悟を宿した目で俺を見返した。
「……分かった、ユウナ。……それ以上は言うな。お前が何を懸けて、何をしようとしているかは理解した」
通信が切れ、それから数刻もしないうちに、公式な外交チャンネルが動き出した。
名目は『ヘブンズベースへ派遣されたホスピタルアストレイ3機の返却、および医療スタッフの安全な護送』。
それをザフトの精鋭たるミネルバが担うという、極めて「体裁」の整った形だ。だが、その裏に含まれる真の意味を、ミネルバ側も……そして命令を下したであろうプラント本国も察しているはずだった。
「ユウナ様、ザフト軍より入電。グラディス艦長名義で、本案件を快諾。ミネルバが本国へ向かう進路を切り替え、直接オーブ領海近傍へと派遣されることが決定しました」
トダカの報告を聞きながら、俺は大きく息を吐き出した。これでミネルバがやってくる。
議長がオーブに「ロゴスを隠している」という疑いの目を向ける前に、ザフト自身の旗艦に「ロゴスの首魁」をその手で直接回収させる。
世界中のヘイトを浴びる寸前だったオーブが、一転して「最も迅速に平和へ貢献した国」に変わる。
アスランが繋いだ信頼の糸が、ミネルバという巨大な力をオーブへと呼び寄せようとしていた。
第三の選択肢としてホスピタルアストレイを派遣する人道支援によって国内外の批判をどうにか抑えよとしたオーブ政府。だが、第三の選択肢はある意味最悪なもので現場の兵士たちからするとオーブの対応は、自分達が血を流していると言うのにアイツらは…!と八つ当たりも含めてですが、ヘイトを貯める結果に。第三の選択肢が確実に正しいわけではないのが伺えます。
どっちのアスランが見てみたいでしょうか?
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通常の優柔不断アスラン
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報連相の化身と化したアスラン