破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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第七十一話 君の中の英雄

 

 

 

 

 メサイア周辺の宙域は、爆炎とビームの奔流が渦巻く地獄絵図と化していた。しかし、その中心部では、反デスティニープラン同盟の艦艇が包囲網を完成させつつあり、メールシュトローム作戦はいよいよ最終局面を迎えている。

 

 

 その喧騒から切り離されたかのような一角で、二機の高性能機が激突していた。

 

 

 

 

 

 

「シン! もうやめるんだ! 議長の示す言葉に未来はない!」

 

 

 

 アスラン・ザラの叫びが通信波を震わせる。インフィニットジャスティスは、その圧倒的な武装を一切使っていなかった。ビームサーベルも、脚部のカッターも。ただ、両腕に装備したビームシールドひとつで、獣のように荒ぶるデスティニーの猛攻を受け流し続けている。

 

 

 史実とは異なり、この世界のシン・アスカにとって、アスランは「自分を否定し続けた裏切り者」ではなかった。むしろ、悩み迷っていた自分に最後まで寄り添い、導こうとしてくれた、兄のような、師のような存在。口にはしないものの内心では今も深く尊敬している男だ。

 

 

 だからこそ、シンの攻撃には迷いがあった。焦りは精彩を鈍らせ、剣先は届かない。

 

 

 

 

「分かってる……分かってるんだよ、アスラン!でも、俺は……俺はもう、ここで!ザフトで戦うしかないんだ!」

 

 

 

 

 

 デスティニーのアロンダイトが振り下ろされる。だが、アスランはそれを最小限の動きでいなす。がむしゃらに、しかしどこか縋るようなシンの剣筋を、アスランはすべて受け止めていた。

 

 

 

 

「議長のデスティニープランは未来を奪うだけだ! 決められた役割をこなすだけの世界で、お前は本当に笑えるのか!? シン、お前とルナマリアが遺伝子適性の有無によって引き裂かれる可能性だってあるんだぞ!」

 

 

 

 アスランの言葉は、鋭い楔となってシンの胸に打ち込まれた。

 

 

 

「……っ! ルナと……!?」

 

 

 

 シンの脳裏を、あの日、ミネルバのベッドで自分を抱きしめてくれたルナマリアの体温がよぎる。謎の狙撃によってステラを喪い、守れなかった絶望で心が完全に砕け散っていた自分。その廃人同然だった日々の中常に寄り添い、共に涙を流し、再び立ち上がる理由をくれたのは、紛れもなく恋人である彼女だった。

 

 

 

 もし、デスティニープランが施行されれば。

 

 

 

 

 

 自分と彼女が「遺伝子的に不適合」と断じられたら。

彼女は自分の隣から消え、プランが選んだ「適合する見知らぬ誰か」に微笑み、その腕に抱かれるのだろうか。

 

 

 自分以外の男と結ばれるルナマリア。

 

 

 

 その残酷な未来を幻視した瞬間、シンの全身から力が抜け、デスティニーのアロンダイトを支える腕がわずかに震え、攻撃が途切れた。

 

 

 

 

「シン!」

 

 

 

 

 アスランがその隙を見逃さず、機体を肉薄させる。だが、その呼びかけに呼応するように、シンの心の内側で逆流するような怒りと悲しみが爆発した。

 

 

 

 

 

「それでも……! たとえそうだとしても、デスティニープランで戦争を終わらせるんだ! 戦争のない世界以上に幸せな世界なんて……あるはずがないっ!!」

 

 

 

 

 

 シンの瞳が、涙を湛えながらも昏い決意に染まる。背中の光の翼がかつてないほど激しく明滅し、デスティニーが再加速した。

 

 

 

 

「幸せも、苦しみも、恋も……全部遺伝子の役割で!運命で上書きしていい! もう誰かが理不尽に死ぬのを見たくないんだ! ステラみたいに、死体も残さず、消え去るような思いを誰にもさせたくないんだよ!!」

 

 

 

 家族を奪ったオーブの戦火。ステラを消し去った連合の銃弾。それらすべての根源を「個人の意志」や「自由」という不確定な要素だと断じたシンは、平和という名の檻を自ら選び取ろうとしていた。

 

 

 

 慟哭。

 

 

 

 それは世界に対する絶望であり、救いを求める子供の叫びだった。シンは頬を伝う熱い涙を振り払い、アスランのインフィニットジャスティスに向けて、文字通り命を削るような一撃を一発、また一発と叩き込んでいく。

 

 

 

 

「シン! 役割をこなすだけの人生で、お前は本当に笑えるのか! デスティニープランの歯車となって、決められた敵を討つだけの尖兵となり果てて、それがお前の望んだ『強さ』なのか!」

 

 

 

 

 アスランの声には、一切の迷いがない。彼はもはや攻撃のための武装をすべてパージし、ビームシールドのみ。防戦一方、しかしその姿は、史実の迷いの中でシンの言葉に揺れていたアスラン・ザラとは全く違う、迷いのない別人のような力強さに満ちていた。

 

 

 

 

「俺はもう選んだんだ、この道を! 選んでしまったんだ! なら、行くしかないじゃないか! 戻れる場所なんて、もうどこにもないんだよ!」

 

 

 

 

 シンの瞳から大粒の涙が溢れ、ヘルメットの中を濡らしていく。自分を支えてくれたルナマリアへの愛情。ステラを救えなかった悔恨、そして平和への渇望。それらすべてを無理やり「議長の示す正解」という型に押し込もうとするシンの精神は、今にもはち切れそうだった。

 

 

 

「あんたが正しいって言うなら……! 俺が間違っているって言うなら! 言葉じゃなく、俺に勝ってみせろッ!! 力で示して見せろよ、アスラン!!」

 

 

 

 

 咆哮と共に、デスティニーのアロンダイトが最大出力で振り下ろされる。空間を焼き切るような巨大な光の刃。だが、アスランはそれを「勝つため」ではなく、ただ「シンの心に触れるため」にいなした。

 

 

 

 

「違う、シン! 俺はお前に勝つつもりなどない!」

 

 

 

 

 インフィニットジャスティスが残像を置き去りにする機動で、シンの放つ渾身の連撃を紙一重で回避し続ける。盾を構え、どこまでもシンの懐へと踏み込んでいく。

 

 

 

 

「俺は勝つのではなく……お前を、止めてみせる。悲しみの連鎖の中に自分を閉じ込めるお前を!!俺が止める!」

 

 

 

 殺意を向けず、ただ「止める」という意志だけを持って迫りくる紅き機体。その揺るぎない眼差しを前に、シンのアロンダイトは空を切り、黄金の火花を散らすばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その傍ら、メサイアの最終防衛線を舞台に、もうひとつの宿命が激突していた。

 

 

 

 

 無数のドラグーンが空間を網の目のように切り裂き、その中心でレイが駆るレジェンドが、キラのストライクフリーダムを包囲する。

 

 

 

「分かるだろ? お前には。……俺は、ラウ・ル・クルーゼだ!」

 

 

 

 全周囲から降り注ぐビームの嵐。その向こう側から届くレイの声は、かつてヤキン・ドゥーエでキラを追い詰めた亡霊のそれと重なり、冷たく響く。

 

 

 

 

 

「人の夢、人の未来、その素晴らしき結果……キラ・ヤマト! 議長の示すデスティニープランこそが、過ちを繰り返す人類に残された唯一の救済。ならばお前も、今度こそ消えなくてはならない!」

 

 

 

 

 レイの瞳には、狂信的なまでの使命感が宿っていた。自分という存在の空虚さを埋めるための、デュランダルへの心酔。彼は、自分をラウの写し鏡として、この世界を「正解」へと導くための歯車にしようとしていた。

 

 

 

「俺たちと一緒に……! 生まれ変わるこの世界のためにッ!!」

 

 

 

 レジェンドのドラグーンが一点に収束し、キラを貫かんと一斉掃射を放つ。だが、キラはマルチロックオンでそのすべてを撃墜、あるいは回避し、最短距離でレイの懐へと飛び込んだ。

 

 

 

 

「違う! 君は、クルーゼじゃない!!」

 

 

 

 キラの声が、レイの閉ざされた心象風景を真っ向から否定する。

 

 

 

「命は、誰かに与えられる役割じゃない……生まれてくるものなんだ! 君は君だ! クルーゼの身代わりでも、議長の道具でもないんだよ!!」

 

 

 

 魂を揺さぶるようなキラの叫び。しかし、レイはその言葉を拒絶するように、血を吐くような咆哮を上げた。

 

 

 

「黙れッ!! その言葉が、その傲慢さが、また世界を戦火に沈めるんだ!!」

 

 

 

 

 レイの咆哮は、憎悪というよりは悲痛な拒絶だった。レジェンドのドラグーンが、キラの言葉を物理的にかき消すかのように、狂ったような軌道でストライクフリーダムを包囲し直す。

 

 

 

「キラ・ヤマト!!お前はロゴスが崩壊したあの時の光景を見ていなかったのか!? 議長が正体を暴いた瞬間、昨日まで怯えていた人々が、今度は嬉々として私刑に興じる姿を! ジブリールが処刑される際の、広場を埋め尽くしたあの醜い熱狂を!!」

 

 

 

 レイの脳裏に焼き付いているのは、正義という大義名分を得た途端に、際限なく残酷になれる人間の本性だった。

 

 

 

「人は変わらない! 自由を与えれば奪い合い、正義を与えれば誰かを吊るし上げる! 議長は、そんな救いようのない業から、世界を……人を解き放とうとしているんだ。強引に役割を与え、分を弁えさせることでしか!運命を定めることでしかこの憎しみの連鎖は断ち切れない!!」

 

 

 ドラグーンの斉射が、キラのシールドを激しく叩く。レイにとって、デスティニープランは単なる統治システムではなく、不確定で残酷な「明日」という絶望から逃れるための唯一の檻だった。

 

 

「お前のように、力を持つ者が『未来』を語るのは傲慢だ! 誰もがお前のように強くはない! お前のように選ばれた存在じゃないんだ! だから、この世界には導きが必要なんだッ!!」

 

 

 

 レイの叫びと共に、レジェンドの背後から射出された全ドラグーンが、意思を持つ生き物のようにストライクフリーダムを包囲した。多次元的な角度から放たれるビームの雨。キラは、ストライクフリーダムの驚異的な機動力を全開にし、残光を置き去りにしながらその弾幕を縫うように駆ける。

 

 

 

 

「君は君だと言ったな……! ならば教えてくれ! 役割を否定された俺に、何が残るというんだ!? 遺伝子の残りカスで、誰かの身代わりに過ぎないこの命に、どんな価値があるというんだッ!!」

 

 

 

 存在そのものを否定されたかのようなレイの絶叫。レジェンドはドラグーンを盾のように自身の周囲に旋回させながら、高エネルギービームライフルを連射する。キラはそれらを紙一重で回避し、腰部のレール砲を応射。黄金のフレームが軋みを上げ、白銀と黄金の火花が真空の宇宙に飛び散る。

 

 

 

 レイはドラグーンの半分をキラの進路上に固定し、網目状のトラップを形成。逃げ場を失ったキラへ、レジェンド本体がビーム重斬刀を構えて突撃する。

 

 

 

「ギルは俺を……こんな俺を認めてくれた! 役割という名の救いを与えてくれたんだ! その正しさを否定するお前を、俺は絶対に許さないッ!!」

 

 

 

 衝突。

 

 

 

 激突した両機の衝撃が、メサイアの外殻を震わせる。切り結ぶビームの刃が、互いの装甲を焼き、火花を散らす。ドラグーンが死神の鎌のようにキラの背後から肉薄するが、キラは背中の翼を羽ばたかせ、スーパードラグーンを射出してそれらを迎撃した。

 

 

 

 宇宙を埋め尽くす光の幾何学模様。それは、かつてヤキン・ドゥーエで繰り広げられた地獄の再演でありながら、中身は決定的に異なっていた。ラウ・ル・クルーゼのような全人類への呪いではなく、レイ・ザ・バレルという少年が、自分の存在価値を守るために振り絞る「祈り」に似た殺意。

 

 

 

「俺は……俺は議長の望む俺になるんだ! 誰の身代わりでもない、救世主ギルバート・デュランダルの守り手に!!人類救済の為の最後のプランの守護者に!!」

 

 

 

 レジェンドが放つ大型ドラグーンのビームが、ストライクフリーダムの肩部装甲を掠める。キラは衝撃に耐えながら、真っ直ぐにレイの瞳――その奥にある孤独を見据え、スロットルを押し込んだ。

 

 

 

「違う! それは守護なんかじゃない! ただの……ただの、自分を捨てることだッ!!」

 

 

 

 爆発的な加速。キラはドラグーンの猛火の中を、死を恐れぬ最短距離で突き進む。すべてを焼き尽くさんとするレイの殺意を、その身を挺して受け止めるかのように、ストライクフリーダムはレジェンドの懐深くへと踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、凄まじい「信念の激突」が繰り広げられる戦域の片隅では、別の意味で極限状態に達している場所があった。

 

 

 

 

 薄紫のアカツキと、オレンジ色のデスティニー。現時点においてデスティニーを最大限に使いこなす事が可能なパイロットは二人だけ、そのうちの一人であるハイネは笑いながらアロンダイトを豪快に振り回し、その巨剣が描く光の軌跡で宇宙を切り裂く。

 

 

 

 だが、それだけではない。剣撃の合間に、左腕のシールドに隠し持っていた「スレイヤーウィップ」をしなやかに繰り出し、変幻自在の打撃でアカツキの四肢を絡め取ろうと迫る。

 

 

 

「ははっ、いいぜオーブの騎士サマ! 期待以上だ!」

 

 

 

 対するババ一尉も、狂気じみた集中力でそれに応戦していた。スレイヤーウィップの変則的な軌道を、同じく雷蛇で弾き返し、電流の奔流を火花に変えて散らす。

 

 

 

 もはや二人には、プランの是非も政治の行方も関係なかった。ただ目の前の好敵手を屠り、さらなる武の高みへと至る。戦士としての純粋な闘争本能だけが、二機を加速させていた。

 

 

 

「ババー! 下がれババー!! ハイネは不味い、マジでやばいって!! アロンダイトとウィップの同時攻撃なんて初見殺しだろ!! 戻れ! 逃げろ! 補給の為に戻れってぇぇ!!!」

 

 

 

 

 複座シートで強烈なGに押し潰されながら、ユウナは喉が裂けんばかりに絶叫していた。

 

 

 

 モニターの端を掠めていくオレンジ色の残光。スレイヤーウィップが真空を打つたびに、機体表面のヤタノカガミが悲鳴のような音を立てる。そのたびにユウナの脳裏には、自分が真っ二つにされる走馬灯がフルハイビジョンで再生されていた。

 

 

 だが、後席の狂犬は違った。

 

 

 

「……補給? この戦域の只中で、私に『一度退いて命を繋げ』と……? ユウナ様、貴方はそこまで、そこまでこのババを死なせたくないと仰るのですかッ!!」

 

 

 

「えっ、いや、そうじゃなくて!俺も巻き込ま」

 

 

 

 

「これほどの激戦! 私の疲弊を見抜き、なおかつ再起の機会を与えようとするその深い慈愛! 恐れ入った、流石はオーブの真なる獅子ッ!! 貴方様こそが私の、真なる忠義の行先です!!!」

 

 

 

 

 ババの瞳には、もはや戦火よりも熱い「勘違いの涙」が溢れていた。補給に戻れというユウナの必死の撤退指示は、ババの脳内で「お前の命はここで散らすには惜しい、万全を期して再び武を振るえ」という超訳に変換されたのだ。

 

 

 

「その信頼、死を以て……いや、生を以てお応えするッ!! 補給など不要! この一撃に、ユウナ様から頂いた慈悲のすべてを込めて、道を切り拓くのみッ!!」

 

 

 

 

「話を聞けぇぇぇ!! 不要じゃない! 必要だ! 補給は超必要だ! 今すぐ母艦に帰れぇぇ!!」

 

 

 ユウナの悲鳴を推進力に変えるかのように、アカツキはビームサーベルを抜き放ち、あろうことかデスティニーのアロンダイトの真っ芯へと正面から突撃した。

 

 

 真空の宇宙で、黄金と橙色の閃光が激しく火花を散らしあう。ババが操るアカツキは、ユウナの撤退命令を「愛の鞭」と超解釈し、リミッターを解除したかのような猛加速を見せた。

 

 

 ハイネが振り下ろした対艦刀「アロンダイト」の巨大な光刃が空間を断ち割るが、ババは最小限の機首転換でこれを回避。即座にビームサーベルを抜き放ち、デスティニーのコックピット――ハイネの喉元を貫かんと最短距離で突きを放った。

 

 

 

 

「ははっ! 狙いはいいが、直線的すぎるぜ!」

 

 

 

 

 ハイネは驚異的な反応速度で機体をスライドさせ、その突きを紙一重でかわす。すれ違いざま、ハイネは左腕のシールドから「スレイヤーウィップ」を射出。しなやかにしなるロッドがアカツキの四肢を絡め取ろうと襲いかかる。

 

 

 

「見破った!!その様な装備既に敵ではないッ!!」

 

 

 

 ババが叫び、アカツキの腕部からも同型の武装である「雷蛇」を放った。真空の闇の中で、オレンジと黄金の金属の鞭が蛇のように互いを締め付け、弾き合い、物理的な衝撃と共に強烈な火花を散らす。

 

 

 金属同士が激突し、絡み合うたびに、機体全体に凄まじい振動が走り、ユウナの三半規管を無慈悲に破壊していく。ハイネはさらに、光の翼を最大出力で展開。

 

 

 

 残像を伴う超高速移動で「雷蛇」の拘束を紙一重で強引に引き裂き、アロンダイトを構え直してアカツキの懐へ飛び込もうとしており、最早この二人はユウナの声では戦いを止めることはないだろう。

 

 

 

 

(ダメだ……このままババのテンションに付き合ってたら死ぬ…確実に死ぬ…)

 

 

 

 

 キラやアスランたちが、それぞれの信念を背負って宿命の対決を繰り広げている中、ここにあるのは「死にたくない男」と「勘違いした狂犬」、そして「死ぬはずだったのに生き残ってしまったグフ乗りのエース」による、生と死の狭間で飛び交う命のやり取りだ。

 

 

 

 

(あぁ…ここまできて俺は死ぬのかぁ…)

 

 

 

 

 極限の恐怖が限界点を超えた瞬間、ユウナの瞳に絶望ゆえの「据わった光」が宿った。またの名を自暴自棄で「もうどうにでもなーれ!」とヤケになってしまったのだ。

 

 

 

 

 彼は震える手で、本来は国家元首や司令官が使用する「広域全周囲・全軍優先放送」のコンソールを、文字通り叩きつけた。

 

 

 

 

「ああ、もうどうにでもなれ! 誰も俺を助けないなら、こっちだってザフトの士気を根こそぎ叩き折ってやるよ!!」

 

 

 

 

 ユウナは半ば自暴自棄に、マイクをひったくるように掴み、喉が裂けんばかりの大音量で演説スイッチを入れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あー、聞こえるかザフトの諸君! 今まさに君たちに殺されかけているオーブのユウナ・ロマ・セイランだ! 黙って聞いてくれ、いや聞け! じゃないと俺の心臓が恐怖で止まる!」

 

 

 

 コックピット内には、すでに自身の情けない失態による異臭が漂っている。股間の温もりは絶望的に情けないが、そんな恥をかなぐり捨てるほど、眼前に迫るオレンジ色の死神と、後ろで「ユウナ様ァ!」と咆哮しながら鞭を振り回すバカの組み合わせは致命的だった。

 

 

 

「なあ君たち、何かスポーツとかしたことないかい!? スポーツに限らず、何か習い事でも、趣味でも、ガキの頃の夢でもいい! それで大会とか何かに出て……結局優勝できずに、ボロ負けして、泣くほど悔しい思いをしたこと、一度くらいあるだろ!?」

 

 

 

 一瞬、地獄のような戦域の通信波が静まる。ビームが飛び交い、モビルスーツが爆発し、人が死んでいく現場で、俺の言葉はあまりにも場違いで、バカみたいな問いかけに聞こえるだろうが構うもんか。

 

 

 

「それでもだ! その大会のために、反吐が出るほど練習したり、チームメイトと一緒にどうすれば勝てるか、夜遅くまで作戦を相談したり……。結果は無様な敗北だったかもしれないけど、あの瞬間、あの時間は確かに楽しかったろ!? 自分の意志で『勝ちたい』、『上手くなりたい』と願ったからこそ、震えるほど熱かったはずだろ!?」

 

 

 

 

 俺は脳裏に浮かんだ、あのオレンジのコートでバレーに打ち込む少年たちの姿を必死に投影する。才能に恵まれた天才も、背の低い凡人も、ただ「ボールを落とさない」ために、一秒先の未来を繋ぐために必死だった、あの無駄で尊い輝きを。

 

 

 

 

「でも、議長の言うデスティニープランだと、それ全部……『適性ないのに無駄なことしたね。才能がないんだから、最初からやらなきゃよかったのに。バカじゃないの?』の一言で片付けられちまうんだぜ!? 君たちが流した汗も、仲間と肩を組んで笑い合った時間も、全部が『効率の悪いゴミ』、リソースの無駄遣い扱いだ!」

 

 

 

 

 涙と鼻水が混ざり合い、マイクがベトベトになる。しかし、一度溢れ出した言葉は、ハイネの猛攻すら突き抜けて加速していく。

 

 

「嫌だろそんなの!? 俺はイヤだぜ!! たとえ人から『無駄だ』と笑われたって、やりたいことに向かって無様に足掻くのが、生きている人間ってやつだろ! 適性検査の結果一枚で、今日からお前は掃除当番、お前は一生この工場でネジを回してなさい、それがお前の幸福だなんて決められて……それで戦争がなくなって平和です!だなんて、そんなの、魂を抜かれた死体と一緒じゃねぇかよぉぉぉ!!」

 

 

 俺の絶叫は、メサイア周辺に展開する全MS、全艦艇のスピーカーから、なりふり構わぬ「生への執着」と「個の叫び」として叩きつけられていく。

 

 

 

 

「地位も名誉も、金も全部オーブに引き渡した……今やただの無職の俺だって、死ぬまで自分の意志で選択して、生きていたいんだよ! 君たちだってそうだろう!? 誰が『お前の価値はこれだけだ』なんて紙切れ一枚のレッテルを貼られて、はいそうですかと納得できるんだよ!! 答えろよ、ザフトォォォ!!」

 

 

 

 

 モニターの中、オレンジ色のデスティニーが、そして遠くでぶつかり合っていたストライクフリーダムとレジェンドが、一瞬、その動きを止めたかのように見えた。

 

 

 

 

 俺は、俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだ。気づいたら嫌われ者、ユウナ・ロマ・セイランに転生してた。最初は絶望したさ! でも、必死に足掻いて、歴史を変えて、カガリとの婚約を破棄して足掻いて、泣いて、喚いて、叫んで頭を下げてようやくここまで来たんだ。

 

 

 

 死にたくない……死にたくないんだよ! !

 

 

 

 せっかく手に入れた二度目の人生、こんな場所で塵になってたまるか!

 

 

 

 

 その時、極限状態の俺の脳裏に、俺が最も敬愛する、ある「救世主」の姿が浮かんだ。

 

 

 

 アスノ家の血筋を守り抜き、ヴェイガンという絶望に立ち向かい続けた男。フリット・アスノ。

 

 

 

 

(……そうだ。フリットなら、ここでなんて言うんだろうか…?)

 

 

 

 

 俺はマイクをさらに強く握りしめた。もはや演説なんて高尚なもんじゃない。魂の、最後っ屁の叫びだ。

 

 

 

 

「いいか、聞け! 未来ってのはな、誰かに与えられる『プラン』じゃない! 誰の指図も受けず、自分たちの手で、子供たちのために繋いでいくものなんだ! 自分の子供に『お前には才能がないから夢を見るな』なんて言う世界を、君たちは本当に作りたいのか!? そんなものは救いじゃない、ただの停滞だ!!」

 

 

 

 俺の叫びに呼応するように、アカツキのヤタノカガミがかつてないほど激しく輝く。

 

 

 

「俺は、俺が心底尊敬するあの『救世主』のようにはなれない……! あんなに強く、あんなに気高く、三代にわたって執念を燃やすような真似なんて、無能な俺にはできっこない! でもな……!」

 

 

 

 俺の脳裏には、かつて何度も聴いたあの旋律――『君の中の英雄』のメロディが、まるでこの戦場のBGMであるかのように鳴り響いていた。そうだ、歌詞の通りだ。迷い、傷つき、それでも立ち上がろうとした奴らの歌が!

 

 

 

 

「お前達の物語は!お前達の手で今、綴るんだろ! 傷つくことを恐れて役割の中に引きこもって、ページをめくるのを止めていいのかよ! 完璧な正解なんてなくていい! 誰もが迷いながら!後悔をしながら!ボロボロになりながらでも、自分自身で選ぶ一歩にこそ価値があるんだ!!」

 

 

 

 俺は涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を上げ、全軍放送のボリュームを限界まで叩き上げる。

 

 

 

 

「いいか、ザフトの諸君! 議長のプランに従えば、確かに『失敗』はなくなるかもしれない! でもそれは!同時に『未来』を捨てることと同じなんだ! 完璧に管理された世界で、君たちは自分の子供に『お前の人生はこれだ』と決めつけ、可能性を摘み取って育てるつもりか!? そんなの……そんなの、子供たちの明日を親が殺しているのと一緒じゃねぇか!!」

 

 

 

 

 俺の絶叫は、メサイア周辺の全モニターを、全通信波を激しく震わせる。

 

 

 

 

「俺は死にたくない! そして、次の世代に、俺達の経験した悲惨な戦争や経験を!ただ、押し付けられた役割で遺したくもないんだ! だから……だから今だけは、敵も味方も関係ねぇ! お前たちの力を、俺に貸してくれ! 諦めずに想いを貫くんだ!ここで俺が要請してやる!!!決められた『運命』を壊して、子供たちが『自由』に夢を見られる世界を……俺と一緒に作ってくれよォォォ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アカツキが、宇宙の闇を切り裂く。それは一人の転生者が、己の醜態も恐怖もすべてを晒して放った、この世界で最も不格好で、しかし最も純粋な「未来への要請」であった。

 

 

 

 

 

 

「……ユウナさんに言いたい事を全部取られましたわ」

 

 

 

 

「ま、まぁまぁ…」

 

 

 

 

 なお、その裏でエターナルのラクス・クラインは頬を膨らませ、半ば空気と化していたバルドフェルドに宥められるのであった。

 

 

 





 彼の演説はラクスやデュランダルとは違い、一方的に自論叩きつけるもの。知的な言葉で飾り立てる事もできず、前世で好きだったアニメを引用したもの。ションベンを垂らして吐きそうになって演説ですらない叫び、それは果たして今ここに集う、戦士達の胸に響くのでしょうか?

 だいぶ長くなってしまいましたので、今日(18日も含めて)はここまで。
 残り3話となりますが最後までお付き合いして頂けると幸いです。

どっちのアスランが見てみたいでしょうか?

  • 通常の優柔不断アスラン
  • 報連相の化身と化したアスラン
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