破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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第七十三話 世界一最も無駄な争い

 

 

 

 

 要塞メサイアの司令室には、もはや絶望に近い報告だけが響き渡っていた。

 

 

 

「ウィラード隊壊滅!第3防衛線突破されました! 友軍機、次々と戦闘を停止しています!ジュール隊離反!更にホーキンス隊も投降を表明しています!!!」

 

 

 

「広域放送の影響です! 指揮系統が混乱、……いえ、兵士たちが戦う意志を失っています!」

 

 

 

 悲鳴のようなオペレーターの声を聞きながら、ギルバート・デュランダルは静かに椅子に深く身を沈めていた。

 

 

 

 

 プランは完璧だったはずだ。人類を不毛な争いから解き放ち、誰もが身の丈に合った幸福を享受できる世界。自分はその「神官」として、導き手としての役割を全うするつもりだった。

 

 だが、あの男――ユウナ・ロマ・セイランの、あまりにも泥臭く、知性のかけらもない「叫び」が史実以上に鉄の団結を誇っていたザフトの士気を根こそぎ奪い去ってしまった。

 

 

 議長の脳裏に、ユウナの声が呪詛のようにリフレインする。

 

 

 

『それでもだ! その大会のために、反吐が出るほど練習したり、チームメイトと一緒にどうすれば勝てるか、夜遅くまで作戦を相談したり……。結果は無様な敗北だったかもしれないけど、あの瞬間、あの時間は確かに楽しかったろ!?』

 

 

 

 

「……無駄なこと、だと……?」

 

 

 

 

 

デュランダルは無意識に顔を歪めた。その表情は、冷徹な指導者の仮面が剥がれ落ち、一人の男としての「痛み」が滲み出たものだった。

 

 

 

『でも、議長の言うデスティニープランだと、それ全部……『適性ないのに無駄なことしたね。才能がないんだから、最初からやらなきゃよかったのに。バカじゃないの?』の一言で片付けられちまうんだぜ!?』

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

その言葉は、デュランダルが心の奥底に封印していた「過去」を、容赦なく抉り出していく。

 

 

 

 遺伝子的に結ばれることが許されなかった、タリア・グラディスとの日々。二人で悩み、苦しみ、別れを選ばざるを得なかったあの葛藤の時間。

 

 

 

 デスティニープランが正解だというのなら、あのタリアと過ごした愛おしくも苦しい日々は、最初から「適性のない無駄な時間」として切り捨てられるべきものだったのか?

 

 

 才能がないから、不利益だから、遺伝子が不適合だからという理由で、あの熱量を「リソースの無駄遣い」と断じなければならないのか?

 

 

 

「私は……私自身の手で、私の過去すらも否定していたというのか……?」

 

 

 

 デュランダルは、己の指先が微かに震えていることに気づいた。神官として、この世界に永劫の平和をもたらす導き手として、いかなる犠牲を払ってでもデスティニープランを完遂させると、かつてその魂に誓ったはずだった。事実『史実』に於いて彼は自身が撃たれるその瞬間まで自身の考えを曲げずに信念を貫き通していた。

 

 

 

 

 だが、ユウナ・ロマ・セイランという「イレギュラー」が投げつけた言葉の刃は、デュランダルの心の奥底に眠っていた「人間としての未練」を無残に引きずり出してしまったのだ。彼との対話が、彼との演説が。『神官』であろうとした男の心を揺さぶっていく。

 

 

 その瞬間、司令室の床が、いや、彼がこれまで積み上げてきた論理のすべてが、音を立てて崩壊していくような凄まじい衝撃にデュランダルは襲われていた。これこそが唯一の道だと信じて突き進んだというのに、自身の過去を全て否定するという目を背けてきた矛盾に気づいた。気づいてしまったのだから。

 

 

 

 

「デュランダル議長! ミネルバ、戦闘を停止しました! グラディス艦長より入電……『これ以上の抗戦は無意味』と!」

 

 

 

「……インパルス、デスティニーも沈黙! 動力は生きていますが、パイロットが操作を拒絶しているようです!」

 

 

 次々と突きつけられる敗北の報告。そして、決定的な一言がオペレーターの口から放たれた。

 

 

 

 

「――レジェンド、大破! 反応消失……いえ、発信信号のみ健在です!」

 

 

 

 その報告を聞いた瞬間、デュランダルの心臓が跳ね上がった。

 

 

 

「レイは……レイはどうなった!? レイは無事なのかッ!!」

 

 

 

 恐らくデュランダルにとっても無意識の反応だったのだろう。冷徹な指導者としての冷静さは微塵もなく、裏返ったその声に、周囲のオペレーター達が一瞬たじろぐ。

 

「……は、はい。四肢を無力化されましたが、コックピットブロックは無傷です。パイロットのレイ・ザ・バレルは健在です!」

 

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、デュランダルは崩れ落ちるように椅子に深く背を預けた。

 

 

 胸の奥から溢れ出したのは、計画が破綻したことへの絶望ではなく、紛れもないレイが生きてきた事への「安堵」であった。

 

 

「……そうか、無事か。よかった……っ…!」

 

 

 

 

 そう漏らした自分の言葉に、デュランダルは思わず戦慄した。

 

 

 

 合理的で効率的な未来のために、不適合者を切り捨てるプランを掲げながら、自分は今、不適合者として戦場に散るはずだった「息子」の無事に、魂を撫で下ろしている。

 

 

 

 自分の中に残っていた、あまりにも人間的な、あまりにも非合理な愛情。

 

 

 それを自覚した瞬間、ギルバート・デュランダルは、とうとう、自身が最早「神官」ではいられないことを悟ってしまった。

 

 

 

 メインモニターには、こちらへ急速に接近する二つの光点――「Gタイプ」と識別されたストライクフリーダムとドレッドノートイータが映し出されている。本来であれば、迎撃の指示を飛ばし、最後までプランの正当性を叫ぶべき場面だ。

 

 

 しかし、デュランダルが司令室を見渡すと、そこにいるオペレーターや将校たちの瞳には、もはや戦う意志は宿っていなかった。誰もが、あのユウナ・ロマ・セイランの生の感情を剥き出しにした演説を経て、自らの内にある「物語」と、それを否定する「プラン」の矛盾に迷い、立ち止まっていた。

 

 

 もはや、この場所に自分を「神官」として支える信徒は一人もいない。そして、デュランダルでさえも「神官」であり続ける事は不可能だと悟ってしまった。

 

 

 誰がどう見てもゲームセット。チェックメイトだ。

 

 

「……皆、苦労をかけた。だが、もういい」

 

 

 

 

 デュランダルは静かに、しかし司令室の隅々にまで届く声で告げる。

 

 

「この戦いは……我々の負けだ。これ以上の流血は、プランが目指した平和さえも汚すことになる。全軍へ通達……戦闘を停止し、降伏せよ」

 

 

 

「議長!? しかし……!」

 

 

 

 

 驚愕に目を見開く部下たちを、デュランダルは慈愛に満ちた、しかし、ひどく疲れ切った眼差しで制した。

 

 

 

「後のことは私がすべて引き受ける。……速やかに、私を拘束してほしい。それが、この物語の幕引きとして最も相応しいはずだ」

 

 

 

 かつて運命を操ろうとした男は、自らその座を下りることを選んだ。皮肉にも、彼を敗北に追いやったのは、冷徹な戦略でも圧倒的な武力でもなく、一人の「生き残ろうとする男」が漏らしながら叫んだ、人間としての当たり前の明日を求めようとする感情の発露であったのだ。

 

 

 

 

『……特にレイのことだ。あの子はあんたのことを、本当の父親だと思ってる。それを忘れるな』

 

 

「……ユウナ君。私は……」

 

 

 

 

 要塞メサイアを揺らしていた爆音は止み、戦場には不自然なほどの静寂が訪れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦域に停戦信号が虚しく響き渡る中、俺はアカツキの複座シートで、もはや魂が口から出かかった状態でぐったりとしていた。

 

 

 演説で喉は枯れ、極限の恐怖による脱水症状と、股間の不快感。それらすべてが重なり合って、俺の意識は朦朧としている。

 

 

 

 

「……あ、終わった……。よし、ババ、帰るぞ……。オーブに帰って、俺は二度とコックピットには乗らねぇ……トダカの野郎、絶対殴る、殴ってやる……!」

 

 

 

 魂の抜け殻状態で呟いた直後、機体が凄まじい衝撃と共に急加速してぇぇぇぇ!?

 

 

「ぬぉわぁぁぁぁぁ!? 何だ、何が起きたぁぁ!?」

 

 

 視界が歪むほどのGが、疲弊しきった俺の体をシートに叩きつける。吐き気が喉元までせり上がる中、モニターにはこちらを殺す気満々で加速するオレンジ色の機影が映し出されている。

 

 

 

「――決着をつけるぞ、オーブの騎士!!」

 

 

 外部スピーカーから漏れ聞こえるのは、ハイネの狂おしいほどの戦意。デスティニーが背部のスラスターから光の翼を撒き散らし、巨大なアロンダイトを振りかざして突撃してくる。

 

 

 

「相手にとって不足はない!!ユウナ様申し訳ありません!今だけは主君への忠誠ではなく……一人の戦士としての物語を紡がせてもらいます!!!行くぞザフトの強者よ!!!」

 

 

 

 ちょ、待てババ。お前今、俺のことを「主君」って言ってたよな!? その主君が今、シートでシェイクされて内臓がちぎれそうになってるのが見えないのか!?

 

 

 

 

「ちょ、ババ……ッ!? お前、俺の言葉聞いてたぁ!!? 降伏したんだよ! あいつら、もう敵じゃないんだよ!!」

 

 

 ババは俺の絶叫など一切耳に入っていない。トランス状態に入った忠臣は、狂ったように操縦桿を捌き、アカツキを極限の機動で踊らせる。

 

 

 

 

「墜ちろぉぉ!!」

 

 

 ハイネが放った対艦刀の一撃が、アカツキの頭部スレスレをかすめる。ヤタノカガミの装甲にビームの余波が弾け、火花がコックピットを照らす。

 

 

 

 

「おいテメェ! ババ今すぐ撤退しろよ!! なに男の対決オーラ出してんだよテメェ!! 降伏した相手とやり合って勝っても、それただの私戦だろぉ!!」

 

 

 

 俺はマイクにかじりつきながら思わず叫ぶ。だがババは、回避と同時にビームサーベルを抜き放ち、デスティニーの懐へと強引に踏み込んだ。

 

 

 

 黄金の輝きとオレンジの残像が至近距離で交差する。

デスティニーの掌から放たれるパルマフィオキーナを、アカツキは機体を捻りながら回避し、逆にビームサーベルでデスティニーの装甲を削らんとばかりに降りあげる。

 

 

 

 こいつら……本当にバカなんじゃねぇの!? さっき俺が『無駄なことにも価値がある』とか言ったのを、全力で悪い方向に解釈してやがるだろ!!

 

 

 

 

 目の前には、デスティニーの瞳の奥に狂気を宿したハイネ。背後には、俺の命を無視して「勝利」のために命を燃やす脳筋。

 

 

 

 上下左右、天地すらわからなくなる超機動の連続に、俺の三半規管はとっくに限界を迎えていた。

 

 

 

 

「やめろぉぉ! 決着とかいいから! 頼むから俺を降ろしてくれぇぇぇ!! もしくは止めろ! 誰かこのバカ二人を止めてくれぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 俺の絶叫は、加速する二機のガンダムが放つ金属音と爆発音の中にかき消されていく。

 

 

 

 

 俺の二度目の人生のクライマックスは、感動の演説でも平和の握手でもなく、制御不能の脳筋二人に振り回される、宇宙で一番贅沢で最悪な「地獄の絶叫マシーン」だよ畜生がぁぁぁ!!!

 

 

 

 

 

「てめぇらいい加減にしろや!! 戦闘が終わったっつってんだろ! 停戦だ! 終戦だ! ピースだよ、ピース!!」

 

 

 

 もはや胃の中のものが逆流するのを必死に堪えながら、俺は通信機に噛みついた。だが、モニターの向こうで火花を散らす二人は、もはや別の次元に突入していた。

 

 

 既に射撃兵装は互いに使い果たし、あるいは斬り落とされて全損。残っているのは、魂を削り合うための熱いビームサーベルと、あまりにも暑苦しい「男の意地」だけ。

 

 

 

 

「「外野はだまってろ!!」」

 

 

 

 

「当事者だよぉぉぉ!!!」

 

 

 

 双子のような完璧なハモリで、ハイネとババの怒声がコックピットに響き渡る。俺は涙目で複座の天井に向かって絶叫するしかねぇよ!!お前等仲良いだろ絶対!!?

 

 

 

「外野!? 誰が外野だ!! 俺はこのアカツキの主だぞ! 出撃リストにちゃんと俺の名前が書いてあるんだぞ! ?なんなら今、ババの前で絶叫マシーンの客席に縛り付けられてるナマの被害者だよ!!」

 

 

 

 しかし、俺の悲痛な訴えも、男の戦いに酔いしれる脳筋どもには届かない。

 

 

「ははっ、いいぜオーブの騎士! 弾切れになってからが本番だ! 魂で語り合おうじゃねぇか!」

 

 

 

「左様! ユウナ様が繋いだこの未来、私の剣で証明してみせる!!」

 

 

 

「証明しなくていい! 繋いだ未来を今まさに叩き壊そうとしてんのはお前らだろうがよぉぉ!!!」

 

 

 

 

 アカツキが猛烈な勢いでバレルロールを開始する。視界が回る。宇宙が回る。俺の平衡感覚が「もう無理です」と辞表を提出した音が聞こえた。

 

 

 

 ババはデスティニーの放つパルマフィオキーナを紙一重でかわすと、そのままビームサーベルで相手のシールドを真っ二つに叩き斬る。

 

 

 

「おいババ! 今の衝撃で俺の首がグキッていったぞ! 労災だぞ! 敗訴確定だぞ!!」

 

 

 

「「うるさい!黙って見てろ!!」」

 

 

 

「だから見てる余裕なんてねぇっつってんだろぉぉぉ!!」

 

 

 

 

 

 宇宙の片隅で、和平交渉も政治的決断も一切無視して繰り広げられる、最高に熱くて最低に身勝手なタイマン。最早彼らの目には好敵手との決着しか頭にない。軍人としての責務を果たして特攻を行なった史実のババがとんでもない改変によって一人の戦士と化した瞬間だった。

 

 

 

 

 俺は悟った。こいつら、もう後に引けないんじゃない。引く気がゼロなんだ。

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ……! 落ちろ、オーブのぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

「貴殿こそ、その首置いていけぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

 もはや言葉にすらなっていない咆哮と共に、黄金とオレンジが激突する。

 

 

 デスティニーの残された対艦刀がアカツキの盾を叩き割り、同時にババが振り下ろしたビームサーベルがデスティニーの肩口を焼き切る。

 

 

 バチバチと火花が散り、コックピット内は警告音のオーケストラ。そしてついに、両機の出力が限界を迎え、互いに武装すら失った。

 

 

 

 ビームは霧散し、金属の塊となった二機が慣性でふわりと離れていく。継戦不能。事実上の相打ちだ。

 

 

 

「……ははっ。アンタ、いい腕だな。今回は引き分けって所か」

 

 

 

 ハイネが、まるで激しいスポーツを終えた後のような、清々しい声で通信を入れてくる。

 

 

 

「ふふっ……。こちらも、これほど熱き戦いは久方ぶりであった。決着はつかなかったが、次こそは勝たせてもらうぞ、ザフトの勇士よ!」

 

 

 

 ババもババで、いつの間に友情を育んだのか、モニター越しに不敵な笑みを浮かべていやがる。

 

 

 

「……ハッ。ぶつかり合うことで育まれる友情って、いいよね。青春だよね! 少年漫画の王道だよね!!」

 

 

 

 

 俺は、もう涙も出ないほど疲れ果てた顔で、マイクに向かって虚空を睨みつけた。

 

 

 

「だけど、俺と全く関係ないところで育めよ畜生ぉぉぉぉ!!! 何で俺を巻き込んだ!? 何で俺をサンドバッグ状態で最前列に座らせた!? 青春の代償に俺の三半規管は死んだんだぞ!!」

 

 

 

 

 ようやく停止した戦場。メサイアの残骸が漂う宇宙の中で、二人は何を血迷ったか、それぞれコックピットのハッチを解放した。

 

 

 

 「物語を綴る」だの「未来」だの、俺がさっき必死に絞り出した高尚な言葉を、こいつらは今、この瞬間、最高に無駄で熱い握手のために使いやがった。

 

 

 

 ノーマルスーツ越しにガシッと手を握り合い、宇宙空間で「また会おう」的な空気を出すハイネとババ。その薄紫でピッカピカな機体の複座で、髪を振り乱し、顔面蒼白で、虚空を仰ぐ俺。

 

 

 

「……おい、誰か。誰でもいいから」

 

 

 

 俺の、二度目の人生最大の見せ場が終わった。

 

 

 

 

「まず、俺のメンタルケアを誰かしてくださいぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

 

 

 

 魂の絶叫は、停戦したはずの静かな宇宙に、誰の心にも響かない虚しいエコーとして消えていった。

 

 

 

 

 






 議長は原作より「神官」として責務を果たそうとした結果、皮肉な事に自分自身が。デスティニープランを進める為の歯車の一部になることが出来ないと理解してしまい。自身の過去、そして何よりレイの存在に今更気づいてしまいました。ある意味彼に本音を投げつけられる存在が好敵手にいたからこそ、そして彼を駒ではなく好敵手と認めてしまったあの会談が議長の運命を変えてしまったと言えるでしょう。


 次回最終回。今夜二十一時に最終話を投稿させて頂きます。果たして戦い抜いたユウナの結末とは……?

どっちのアスランが見てみたいでしょうか?

  • 通常の優柔不断アスラン
  • 報連相の化身と化したアスラン
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