破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》 作:kiakia
世界に衝撃を与えたドッズ・ショック。その中で特に深刻な打撃を受けたのは、大西洋連邦である事は間違い無いだろう。
ドッズライフルの「螺旋」が陽電子リフレクターをただの光の幕に変えてしまったことで、軍が誇った巨大MA群――ユークリッド、ザムザザー、ゲルズゲーといった「リフレクター頼み」の兵器群は、一夜にして高価なだけの巨大な標的へと成り下がったのだ。
これらの兵器を開発したのは主にユーラシア連邦ではあるものの、最も配備を優先で(コーディネイターが開発したMSよりも、メビウスと同じくナチュラルが開発したMAを重視)していた大西洋連邦は、一夜にして主力兵器であったMAが旧式と化してしまう憂き目に遭ってしまったのだ。
「こんな紙装甲の巨大風船を維持する予算など、一セントも出せん!」
大西洋連邦政府は、既存のMA部隊の維持を断念。それらの多くは「用途廃止」の名目で処分、あるいは二線級の部隊へと払い下げられた。
しかし、それが最悪の結果を招く事に成ろうとは彼らも予想出来なかったはずだ。処分の過程で管理から漏れたこれらの巨大MAは、ミケール大佐率いるブルーコスモス系の過激派テロリスト達に『史実』とは比べ物にならない程に渡ってしまったのだ。
正規軍が「ドッズの前では無力」と見捨てた紙風船であっても、その装備を持たない一般市民や途上国の軍隊にとっては、依然として絶望的な暴力の象徴である。捨てられた「盾」が、テロリストの「矛」となり、世界各地で血の雨を降らせる皮肉な連鎖が始まったのである。
さらに、軍需産業界にも凄まじい衝撃が走った。
特に、陽電子リフレクター技術の独占で莫大な利益を上げていたユーラシアのアドゥカーフ・メカノインダストリーは、ドッズの普及によって屋台骨を揺るがす打撃を受けてしまった。昨日まで「無敵の盾」として売り込んでいた看板商品が、オーブ製の一挺のライフルで否定されたのだ。
「オーブの若造が、我々の数十年分の投資を灰にしたというのか……!」
アドゥカーフ社は、ドッズ・ショックによる受注の白紙撤回に加え、先のデストロイ供給にまつわる人道上の醜聞やロゴスとの癒着疑惑なども重なり、一時は倒産必至とまで囁かれた。
しかし、ここで奇妙な事態が起こる。新興の「とある国家」が、莫大な資金援助と技術投資を表明し、同社を間一髪で支えたのだ。その国家の意図は不明だが、それ以来アドゥカーフからは消えない黒い霧のような疑惑が絶えなくなったという。
だが、ドッズ・ショックの波紋は軍需産業の枠を超え、国家の在り方そのものをも変えようとしていた。
かつての「ブレイク・ザ・ワールド」の後、オーブ連合首長国が行った徹底的な被災地支援活動。それはただの物資提供に留まらず、キオウ家の主導のもと復興のための技術協力や教育支援にまで及んでいた。その種が、今になって劇的な形で芽吹き始めたのである。
特に東アジア共和国においては、その影響は顕著だった。上海や北京、東京やソウルといった大都市圏を中心に、オーブの支援によって生活を立て直した、国民の間で爆発的な「親オーブ感情」が広まっていく。
これに呼応するように、議会でも親オーブ派の議員たちが急速に発言力を強めていくのは必然であったと言えるだろう。
東アジア共和国は、これまで地球連合の理事国として、大西洋連邦やユーラシア連邦と歩調を合わせ、ストライクダガーやダガーLといったダガー系列の機体を主力として運用してきた。しかし、その実態は「理事国」とは名ばかりの、先端技術におけるフォロワーに過ぎなかったのだ。
MS開発技術は大西洋連邦が先を行き、高度な光学兵器や装甲技術は常に他二国に後塵を拝する日々。そんな折に起きたロゴス崩壊の余波は、共和国の経済と軍需産業を直撃し、社会的な混乱に拍車をかけた。
「……もう、大西洋連邦の『お下がり』を待つ時代は終わったのではないか?」
議会の閉鎖された会議室で、一人の親オーブ派議員が声を上げる。その手元には、ドッズライフルの驚異的な貫通力を示すデータを示したタブレットが握られていた。
「ロゴスは潰れ、連合の技術体系は今やドッズライフル一挺の前に瓦解した。ならば、いつまでも性能の頭打ちが見えたダガー系列にしがみつく必要がどこにある!?いっそオーブの機体や技術を正式にライセンス導入し、我が国独自のアストレイを生産すべきだ!」
その発言が投げ込まれた瞬間、会議室は蜂の巣をつついたような騒ぎになる。
「正気か! 他国の、それも小国の技術を主力機に据えるなど、軍事的主権の放棄に等しい! 明らかな売国行為だ!」
「大西洋連邦への背信、その政治的リスクをどう考えている!? 補給ラインをオーブに握られれば、我々は彼らの言いなりになるぞ!」
保守派の議員たちが机を叩いて詰め寄り、怒号と罵声が飛び交う中、出席者たちの脳裏には、ある「拭い去れない疑問」が共通の恐怖として渦巻いていた。
――なぜ、オーブはこれほどの技術をオープンソースとして世界に公開したのか?
「……不気味すぎる。あのユウナ・ロマ・セイランという男が、タダで手の内を晒すはずがない」
東アジア共和国の技術高官が、震える声で指摘する。かつての第二次オーブ解放戦。大西洋連邦が誇る水中侵攻部隊を、ヴォーテクスを筆頭に影も形も残さず抹殺した「謎の機体」のデータは、今なおオーブが厳重に秘匿し、一ミリも外部に漏らしていない。
なお散々な言われ様であるが、ユウナの評判は最早、悪逆非道な汚ねぇドラえもんで固定されてしまったそうな。それに伴いカガリや復興支援に多角的に関わっていたミヤビの評価が高まったのだから問題ないだろう。恐らく、きっと、多分。
「つまりこういうことだ。オーブにとって『ドッズライフル』は、もはや全世界に公開してしまっても構わない程度の、いわば『枯れた旧世代』の技術に過ぎないということだ。彼らはすでに、ドッズの螺旋すら容易く弾き返す対抗策か、あるいはこれ以上の破壊をもたらす最先端技術を完成させているに違いない」
この推測は、出席者たちにさらなる絶望を与えた。自分たちが喉から手が出るほど欲しい「螺旋の矛」ですら、オーブにとっては「他国に配っても脅威ではない玩具」であるという事実に気づいてしまったのだ。
「だからこそだ!大西洋連邦やユーラシアの後塵を拝し、お下がりを押し付けられ続ける現状よりはマシだ! オーブに追いつくことは叶わなくとも、せめて彼らと同じ土俵に登らねば、我が国は三番手を走り続ける事になるのだぞ!?」
議論は平行線を辿り、結論は出ない。それどころか、この動きを察知した大西洋連邦の「利権」に巣食う連中からは、水面下から圧力がかかり始めていたのである。
東アジア共和国という巨大な市場がオーブ規格に乗り換えることは、大西洋連邦の軍需産業にとって、致命的な損失を意味するからだ。会議は踊る、されど決まらず。今東アジア共和国において生まれた火種は少しずつ他国も巻き込んで肥大化していく……。
一方、その「元凶」であるオーブの執務室では、ユウナ・ロマ・セイランが机に突っ伏して絶叫していたという。
「……コンパス設立前に、何やってんだコイツらはよぉ!!」
ユウナの手元にあるのは、東アジア共和国の親オーブ派議員から内密に届いた「技術提携および安全保障に関する条約案」だ。中身を読めば読むほど、胃がキリキリと痛む。
東アジア側は、ドッズ先端技術やオーブ製MSのライセンス供与と引き換えに、オーブ製MSの共同開発、さらには緊急時における相互技術支援という、事実上の「準軍事同盟」に近い譲歩を提示してきている。
中には明らかにハニートラップと思わしき美女まで使者の中には参加していたが、彼女達には丁重にお帰りして頂いたそうな。
ユウナはこの世界に転生してからというもの、暗殺に常に過剰なまでに怯えており、食事は市販品かファーストフードで出来れば自作。コーヒーやココアばかりを飲んでいるのは粉を自身が金庫で保管している為比較的安心できるから、などという切実な事情まで存在している。
ちなみにザフトで暗躍中の虎にケバブの趣味を聞かれたことがあったのだが、彼は『個人店では絶対に食わん』『チェーン店であれば市販品の、安心できるケチャップとマヨネーズを組み合わせたオーロラソース』と真顔で答えており、虎を心底同情させたという。
更に女性関係に関しては間違いなく自身の破滅に繋がると遠ざけて距離を置いており、曰くスカンジナビアの更に田舎くらいしか安心できる女性は居ないと断言している程度には警戒している。
なお、一時期はカナードやキラと男色の噂(本当に一時期であり、いつのまにか消えたらしい。恐らくカナードのせい)まで立っていたのだが、それはさておき。
(これ、オーブの理念的にどうなんだ……?)
『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない』
ウズミ・ナラ・アスハが掲げたその理念は尊いが、現実は非情だ。かつて、オーブ五大氏族の一つ、サハク家が他国と秘密裏に軍事協定を結び、G兵器を開発したことが露見した際、オーブは荒れに荒れた。
結果としてウズミが代表を辞任する事態にまで発展した、あの原作の泥沼劇をユウナは知っている。だからこそ、必要以上への他国の接近する事に警戒するのは仕方ないだろう。
なお、コンパスの副総裁がなぜ本国であるオーブの国政や軍事にまで裁量を押し付けられているのか?というアンサーについては最早彼は考えるのをやめている。
「今これを蹴れば、東アジアの親オーブ派は連邦に潰される。かといって全面的に受け入れれば、サハクと同じ轍を踏むことになるし、何より大西洋連邦との関係は最悪になっちまう……!コンパスを設立して『さあ平和のために手を取り合いましょう』って言う前に、コンパスに参加してない東アジアと仲良くしようね!なんてしてみろ!導火線に火が付くぞ……!」
東アジア共和国が提示している条約案は、あまりにも「オーブ寄り」だ。それは裏を返せば、彼らがそれほどまでに大西洋連邦による「時代遅れの骨董品の押し売り」に絶望し、追い詰められている証左でもある。
軽く調べてみれば、大西洋連邦は積極的に国内のダブついたビームライフルやMAを、他国に安価に売り払おうとしていた事実も加わり火種はどんどん加速していく。
「……折角育てた極東のシンパ見殺しにするか、大西洋連邦とまーた、関係悪化するかどっちを選んでも地獄じゃねえか」
ユウナは窓の外、夕日に照らされるオノゴロ島を見つめた。ドッズライフルという「パンドラの箱」を開けた代償は、想像以上に重い。軍需産業の利権、国家のプライド、そして人々の生存本能。
それらが螺旋のように絡み合い、コンパス設立という希望の裏側で、巨大な紛争の種火を育てていたのだ。
「……はぁ、結局のところ、得をしたのはユーラシアだけじゃないか」
深夜の執務室、ユウナは山積みの書類を前に力なく椅子へ沈み込んだ。
ドッズ・ショックから端を発した極東の動乱を鎮めるため、ユウナが取ったのは綱渡りの三枚舌外交であったのだ。まず、先走る東アジア共和国に対しては、ユーラシア連邦を仲介役として立てることで「急激な規格変更は国内の反発と混乱を招くだけだ」と宥め、まずは小規模な「技術試験部隊」の設立から始めるという折衷案を飲ませた。
一方で、大西洋連邦に対しては、「こっちで東アジアの手綱を握ってやったんだから、これ以上突っつくな」と釘を刺し、同時に「型落ちのビームライフルを各地にばら撒いて紛争を煽るような真似は即刻辞めろ」と半ば脅しに近い形でフォローを入れる。
その見返りとして、オーブはユーラシア連邦に対し、秘密裏に工業用MS『リビルド』の新型機――その優先配備に関する便宜を図ることを約束させられてしまったのだがコラテラルダメージだと飲み込むしかあるまい。
一応の収束は見た。だが、その代償としてユウナの睡眠時間は文字通り削り取られ、目の下のクマはもはや化粧でも隠しきれないレベルに達している。
流石のカガリも申し訳なく一定の休暇やボーナスを与えているが、最早無意識なワーカーホリックと化したユウナは休みが欲しいと叫びつつ、休暇中にタブレットを弄るという二律背反と化していた。
要はコイツは休まないのである。後にトダカが定期的に彼を休ませようと拘束する事が増えてメンタルも安定したのだが、ドッズショックの前後、外交の場以外のユウナの目はカナードですら引く様な目つきをしていたそうな。
「理念を汚さず、火種を消し、各国の顔を立てる。……言葉で言うのは簡単だけどさ、その裏でどれだけの裏工作が必要だったと思ってんだよ!二十四時間体制のトラブルシューターじゃねぇんだぞ!?」
自嘲気味に呟きながら、彼は一枚のモニターに映し出された設計案を指先でなぞる。
「……さて、こいつをどう料理してやるかな。あんまり強くしすぎると今度は大西洋連邦がまた発狂するし、弱すぎると東アジアが納得しない……」
『輸出用アストレイ・東アジア試験仕様』。
その新たな螺旋の矛先を巡り、ユウナの悩みは尽きない。深夜の静寂の中、パンドラの箱を開けた男は、、再び終わりのない論争と開発という未知の海へと潜っていくのであった。
東アジアの親オーブ派議員からすれば、ドッズショックによって現存の兵器の体系が切り替わりつつあるこの時期に先進的な技術を多数開発したオーブと手を結ぶ事を望み。反対派は今までダガーを供給していた大西洋連邦との関係悪化や小国に技術を委ねるという危険性を提示しており、どちらもどちらで言い分がありますし、大西洋連邦が水面化でキレるのは当然でしょう。
次回はそんな東アジアに向かうユウナのお話、今まで以上に独自要素や考察なども含めたお話になりそうですがお待ちくださいませ。
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