破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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第十話 ふふっ…偶然だよ。

 

 

 

 

 

「セイラン副総裁はじめましてまずは貴公が主導したドッズ技術におけるプラズマの収束率と回転慣性の相関関係についてですがあれは熱核反応サイクルから導き出される出力としては極めて単純かつ野蛮と言わざるを得ませんがその実エネルギーの指向性を一点に固定し穿孔力を最大化するという一点においてのみ異常なまでに合理的であり私はメサイア攻防戦において既存の装甲概念が物理的にかつ概念的に否定された事実に深い興味を抱くと同時にこれを解明し得ない現状を看過できません!」

 

 

 

「ストップ! ストップ!! 待て! 待ってくれ!」

 

 

 

 

 

 俺は反射的に立ち上がり、デスクに身を乗り出して手をバッテンに掲げて降伏する。

 

 

 

 

 というか、誰だよこいつ!?

 

 

 

 

 一応、コノエ艦長からは聞いていたよ?「プラントから技術顧問が派遣される」らしく、新造艦の運用に関わる優秀な男だと。だが、ドアを開けるなり挨拶も握手もすっ飛ばして、鼓膜を物理的に削るような勢いで何をまくし立ててやがるんだ。

 

 

 

「……申し遅れましたザフト技術局所属コンパス派遣のアルバート・ハインライン大尉です挨拶などという非効率な儀礼はデータの送受信速度において何ら寄与しませんので省略しましたが貴公の理解力に合わせたプロトコルが必要だと言うのなら今この瞬間をもって修正しますので話を戻しますが!」

 

 

 

 名乗った! 名乗ったけど、コンマ一秒も休まずに続きを始めやがったぞ。しかも、なんだこの男。眼鏡の奥の目が、獲物を解剖しようとする獣みたいにギラついてやがる。瞳孔が開いてる。

 

 

 完全に興奮状態で、俺の顔を見てるんじゃなくて、俺の脳ミソの中に書き込まれた設計図を透視しようとしてるだろ。

 

 

 

「オーブが公開したドッズ基礎理論は既に精査済みですがあれはプラズマを螺旋状に回転させることで貫通力を得るという極めて原始的かつ蛮族的な発想に過ぎずしかしその単純さ故にジャミングや電磁的干渉を受けにくいという副次的な堅牢性を備えており既存のビーム兵器が飽和しつつある戦場において防御側の想定を上回るエネルギー密度を一点に集中させ螺旋のエネルギーで突き破るというドッズ・ショックは既存の装甲技術に対する致命的な回答であり技術の陳腐化を一段階飛ばして加速させたと言わざるを得ず一体どのような思考回路を構築すれば政治屋の頭からあのような特異な発想が……!」

 

 

 

 ノンストップ。まさに言葉のマシンガンだ。それに、なんだこの既視感のある声は。自信に満ち溢れ、どこか世界を冷徹に俯瞰しているようなこの響き……。

 

 

 どっかの皇子様か、仮面を被った反逆者か? これで突然「全力で俺を見逃せ」だの「世界を壊す」だの言い出したら、俺はもう逃げ出す自信があるぞ。

 

 

 

「……あの、ハインライン大尉。早口なのはわかりましたから、一度肺に酸素を取り込みません?はい!深呼吸、深呼吸!落ち着きましょう!貴重な考察ならゆっくり後で聞くから!」

 

 

 

 俺は引きつった笑みを浮かべ、必死に自分のペースを取り戻そうとする。やべぇ…今のコイツにはババと同じ空気を感じる。いや頭ババなんて罵倒は人として最低だと思うから絶対に言わんけどね!

 

 

(……やべぇな。プラントからとんでもない劇薬が送られてきやがった。優秀なのは確かなんだろうが、性格の癖が強すぎるだろ、こいつ……!)

 

 コーディネイターはプライドが高い人物が多いが、合間合間に解読できる彼の言葉に耳を傾ければ、要するに『なんであんな事考えられたの?ちょっと色々聞いていい?』なんて友好的に質問をしているだけ。

 

 だと言うのに知的好奇心と産まれて初めて見る珍獣に興奮を隠せない様子で、明らかに目がヤバい。エリカさんと言いこの世界の技術者は一定のラインを超えると早口で捲し立てるようになるのだろうか?

 

 

 ハインラインは大げさに鼻を鳴らし、眼鏡をクイと指で押し上げた。そのレンズの奥で、知性の獣が狂乱気味に光っていて正直めちゃ怖い…!

 

 

 

「酸素の供給は自律神経が自動で行っていますので問題ありませんそれよりも副総裁、貴公がドッズの着想を得た際、プラズマの磁気流体力学的な不安定性を敢えて『回転』という物理的な力で強引に抑え込もうとしたその非論理的かつ天才的な直感の根拠を提示していただきたいのです!! さあ早く! 答えを!!」

 

 

 

 

「だから早いって言ってるだろうがよぉぉ!!!話聞けや!!?」

 

 

 

 俺の叫びが執務室の壁に跳ね返る。ハインライン大尉とかいうこの歩く演算機は、俺の怒声に一瞬だけ肩を揺らしたが、それでも視線は一ミリも逸らさない。

 

 

 俺はゼェゼェと肩で息をしながら、半ば強引に彼の細い肩を掴んで応接用のソファーに押し込んだ。

 

 

 

「座れ! いいから座れ! そして、これを飲め!」

 

 

 

 

 淹れたての茶をソーサーごと押し付ける。彼は「液体による水分補給は三十分後に予定していましたが……」とブツブツ言っていたが、俺の気迫に押されたのか、ようやく大人しくカップを口に運んだ。

 

 

 

 

 その隙に、俺は自分のデスクに背中を預けて大きく溜息をつく。

 

 

 

 

(……なんなんだよ、一体。誰だよこいつ!? アスランの周りとかオーブの現場に、こんな濃すぎるキャラいたか? コノエ艦長もそうだが、俺が死んだ後の歴史で……いや、外伝展開か何かで追加された新キャラか何かか!? どっちにしろ、キャラが立ちすぎてて胃が痛ぇよ!)

 

 

 

 

 カップを置いたハインラインが、ようやく少しだけ視線の温度を下げ……いや、下げてねぇな。好奇心の炎が「爛々」どころか「ギラギラ」と音を立てて燃え盛っている。

 

 

 

「……失礼。未知の理論を前に思考のリソースを最適化しきれず、少々興奮が表層に出すぎたようです。先ほどの非礼は、論理的解決への熱意ゆえとご理解いただきたい」

 

 

 

 

 一応、頭は下げた。だが、その目は隠せていない。「さっさと吐け、その脳内にある真実をすべて曝け出せ」と物理的に訴えかけてきている。

 

 

 

「……はぁ。そんなに複雑な話じゃないんだ。回転に関しての着想は、ほら、復興用MSの『リビルド』ってのがあるだろ? あの重機アタッチメントのドリル装備を見ててな。物理的なドリルが岩盤を穿つなら、ビームも回転させれば貫通力が増すんじゃないか、って閃いたんだ。それを試しにモルゲンレーテのエリカ女史に相談したら、実用化できちゃったんだよ」

 

 

 

 

 俺がそう言い切るか言い切らないかのうちに、ハインラインの体がバネ仕掛けのように跳ね上がる。マリオかテメェは!?

 

 

 

「ドリル! 確かに物理的穿孔における回転運動は摩擦軽減と排土効率において合理的ですがそれを殆ど質量を持たないプラズマの流動体に応用しようという発想はあまりに飛躍しており、つまり貴公はマクロな土木工事の視点をミクロな高エネルギー物理学へ無理やり接合したということですかそれはもはや科学的アプローチというよりは概念的直感による既存理論の蹂躙であり、その際の磁場による収縮率の変動をどう制御したのかエリカ・シモンズが頭を抱えたであろうことは想像に難くありませんが、その解決策として提示されたパラメーターの――」

 

 

 

 

「ステイ! ステイ!! 落ち着けってんだろ!!」

 

 

 

 

 

 また始まった。俺は再び立ち上がり、今度はハインラインの口を物理的に塞ぎたくなる衝動を必死に抑える。

 

 

 

 

 俺の声に、ハインラインは「……失礼、少々興奮して急ぎすぎました」と、口角を微かに痙攣させながらも、ようやく椅子に深く背中を預けた。

 

 

 

 だが、その眼鏡の奥の眼光は一切死んでいない。むしろ、俺という人間を「未解明の超常現象」として再定義し、さらに解析を進めようとしているのがわかる。

 

 

 

 

(……やべぇな。こいつ、めちゃくちゃ賢い。会話の節々から知性が溢れ出ているどころか、もはや濁流のように氾濫してるじゃん……あれだ、人間はIQが20近く違うと、会話が成立せずにストレスを感じるっていう説を聞いたことがあるが、まさにそれで俺の口から出た適当な「閃き」を、こいつは勝手に量子力学レベルの高度な数式に翻訳して、一人で納得したり憤慨したりしてやがる)

 

 

 

 まるで異文化交流でもしてるようだと溜息を吐く。悪いやつではない、好意的なまである。ただ熱意が空回りしてるし、まずは落ち着いてもらおう。そうするしかない。

 

 

 

 

 俺はふぅ、と長く息を吐き、少しでもハインラインの「熱」を下げるべく、努めて静かなトーンで切り出した。

 

 

 

 

「いいか、ハインライン大尉。ドッズライフルに関しては、貴方が期待しているような高尚な計算式が最初からあったわけじゃない。それは、言うなれば純粋な『偶然』の産物なんだ」

 

 

 

「……偶然、ですか? そんな非論理的な言葉でこの技術的特異点を片付けるおつもりか」

 

 

 

 ハインラインが不満げに眉をひそめる。俺は苦笑して首を振った。同時に前世の教科書に出てきたエピソードを引用する。まさにその偶然によって世界を変えたとある男のエピソードを。

 

 

 

「例えば、旧世紀のエピソードにグッドイヤーのゴムと硫黄の話があるだろ? 偶然ストーブの上に落としたゴムと硫黄が混ざり合って、図らずも加硫ゴムという世紀の発見に繋がった。あれと同じだよ。俺が『ドリルみたいに回せばいいんじゃない?』と適当に言ったアイディアを、エリカ女史が試行錯誤の中でたまたま成立させてしまった。……科学の進歩なんて、案外そんな泥臭い偶然の積み重ねじゃないのか?」

 

 

 

 

 ハインラインは数秒間、彫像のように固まった。

 

 

 

 彼の超高速演算回路が、俺の提示した「偶然」という不確定要素をどう処理すべきか迷っているようだ。

 

 

 

「……ちなみにハインライン大尉。知ってる前提で話したけど、チャールズ・グッドイヤーのゴムの加硫法のエピソードについては当然知っているな?」

 

 

 

 俺がそう問いかけると、ハインラインは当然だと言わんばかりに頷きつつも、眼鏡の奥で高速回転していた知性の嵐が、一瞬だけ凪(なぎ)になる。

 

 

 それもそうだろう。科学を志すものなら彼のエピソードは知ってて当然と言えるのだから。

 

 

 

 

「……当然です。西暦1839年、実験中の事故によってストーブに触れた天然ゴムと硫黄の混合物が、意図せずして耐熱性と弾性を獲得した。熱力学的な偶然が、現代の素材工学の基盤を築いた極めて稀有な事例です。ですが、あれはあくまで……」

 

 

 

「そう、あくまで偶然だ」

 

 

 

 俺は彼の言葉を遮るように、だが落ち着かせるために静かに頷いた。

 

 

 

 

「グッドイヤーだって、最初から完璧な分子構造の変化を計算して硫黄を混ぜたわけじゃない。理想の素材を求めて必死に足掻いていた中で、偶然が微笑んだんだ。……ドッズライフルも同じだよ。リビルドのドリルを見た俺の閃きと、それに応えようとしたモルゲンレーテの執念が、ある一点で噛み合った。貴方が今、計算が合わないと憤慨しているその『野蛮な合理性』は、理屈を超えた現場の熱量から生まれたものなんだよ」

 

 

 

 ハインラインは、手に持っていたカップを見つめたまま黙り込んだ。彼の中で、整然とした数式と、俺の語る泥臭い歴史の断片が激しく衝突しているのが手に取るようにわかる。

 

 

 

「……しかし」

 

 

 

 ハインラインはゆっくりと顔を上げ、再び俺を射抜くような視線を向けた。その瞳からは先ほどまでの狂乱じみた興奮が消え、代わりに深く、冷徹なまでの知性が宿っている。

 

 

 

 驚いたことに、次に彼の口から出た言葉は、耳を劈くマシンガンではなく、静かに、だが重みのある一言だった。

 

 

 

 

 

「グッドイヤーの発見は、人類史を変えたと言えるでしょう。天然ゴムという不安定な素材を、社会の基盤を支える工業製品へと昇華させた。それは文明の進歩そのものです」

 

 

 

 

 落ち着いたトーン。これなら俺の脳でも処理できると俺は少しだけ安堵して、ソファーに深く座り直した。

 

 

 

「そう言ってもらえると助かるよ。ただ、俺のドリル云々の話は、そのグッドイヤーの偉業と比べれば、本当に些細な思いつきだ。ちょっとした偶然と、現場のエンジニアたちの苦労が形になっただけの代物さ」

 

 

 

 とは言うが……俺はそう言いながら、心の片隅でチクリとした痛みを感じている。そんな科学にその身を捧げたグッドイヤーも含めた科学者たちと比べられるわけもない。

 

 なんせ俺の知識の大半は前世のロボットアニメを丸パクリしたモノを、モルゲンレーテのスタッフに無理やり形にしてもらっているものなのだから。

 

 

 

(……まあ、実際には思いつきっていうか、前世で見たAGEのパクリなんだけどな。フリット達の血と汗の結晶を、俺が『閃き』なんてツラして横取りしてるようなもんだ。……もしフリットと出会えるのなら真っ先に土下座して謝罪するしかねぇな)

 

 

 

 

 そんな俺の内心の懺悔を知る由もないハインラインは、眼鏡のブリッジを押し上げ、深く頷いた。

 

 

 

 

「些細な発見、ですか。……貴公は謙遜しているのか、あるいは本質を理解していない。科学の世界において、最も困難なのは『ゼロをイチにする』ことです。後続の我々がどれほど高度な数式で補強しようとも、最初の『回転させればいい』という一歩がなければ、ドッズはこの世に存在しなかった。その一歩を、既存の理論に縛られがちな技術者ではなく、貴公のような政治の場にいる人間が踏み出したことに、歴史的な価値があるのです」

 

 

 ハインラインの言葉には、確かな敬意が含まれていた。先ほどまでの「解剖対象」を見るような目ではなく、一人の「開拓者」を評価するような、知的で穏やかな眼差しだ。

 

 

 

(……やばいな。真面目なトーンで褒められると、余計にパクリの罪悪感が募るな。でも、こいつを納得させるにはこの路線で行くしかないか)

 

 

 嘘を嘘で塗り固めてそれっぽくするのは政治家ではよくある事。しかし、やはり最も大好きなガンダム作品の技術を自身の手柄にする事には抵抗はある。

 

 

 それでも嘘を突き貫くしかない。最早俺の秘密は墓まで持って行くと決めたんだ。説得力を肉付けしていき、それっぽく振る舞うしか道はないのだから。

 

 

 

 

 

「……そうかい。まあ、その『一歩』が人類にとってプラスになるなら、俺が適当に言ってみた甲斐もあったってことだな」

 

 

 

「ええ。偶然を掴み取れるかどうかは、常にその者の資質に依存します。貴公がその時、リビルドのドリルを見て閃いたその瞬間に、ドッズ・ショックは約束されていたのですから」

 

 

 

 ハインラインはそう締めくくると、手つかずだった茶を一口、今度は味わうように飲み干した。

 

 

 

「……さて。偶然が必然へと変わるプロセス、その理論の補強は私の仕事です。副総裁、貴公の提示した『偶然』という変数を踏まえ、改めてデータと照合したい。……案内を。そして先ほどのご無礼を謝罪しましょう」

 

 

 

 

 色々あった様だがどうやら、この天才との間に、奇妙な信頼関係のようなものが芽生え始めたらしい。……相変わらず目はギラついてるけどな。

 

 

 

 だが、俺はドックへ向かう前に、どうしてもこの男に頼んでおきたいことがあった。密かにモルゲンレーテも巻き込み計画していた最後のピース。それがハインラインであると理解したからだ。

 

 

 イケる。この男であればヤレる。コンパスを最強の部隊にする為に進めてきた計画に彼を巻き込む事が、少しでも俺の生存率を上げる事に繋がるという直感に付き従って。

 

 

 

 

「大尉、案内する前にもう一つ、個人的な……いや、公的な依頼があるんだ。貴方のその並外れた知識を使って、とある『ゲーム』を作ってくれないか?」

 

 

 

「……ゲーム? 副総裁、私のリソースを娯楽プログラムの構築という非生産的な作業に割けと??」

 

 

 

 

 流石のハインラインも、これには素で困惑した表情を見せた。俺は苦笑しながら、その「ゲーム」の真の目的――パイロットの限界反応を引き出し、同時に過去の戦闘データを「正しく」継承するための、超高精度シミュレーターの構想をぼかしつつ伝えた。

 

 

 

 ……数分後。

 

 

 

「成程。過去の戦闘ログを単なる数字ではなく、経験則として神経系にフィードバックさせるためのアルゴリズム構築……。面白い、既存の訓練用OSの冗長なコードを排除すれば、私の手で『真の戦場』を再現することは可能です」

 

 

 

 納得したハインラインの口角が吊り上がった。それは、新たな玩具を見つけた子供のような、あるいは世界を支配する法則を見つけた学者のような、恐ろしくも頼もしい笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、二ヶ月後。

 

 

 

 

 ハインライン謹製の新型MSシミュレーターは、オーブのみならず、技術協力の一環として大西洋連邦やプラントの各軍拠点にも送られた。各地では「コンパス」への出向を希望する選りすぐりのパイロットたちが、一人、また一人とこのシミュレーターの試験を受けていた。

 

 

 

 そんな試験が行われるのを知って、プラントのある拠点でも、一人の女性パイロットが意気揚々とシートに収まっていたのだ。

 

 

 

 アグネス・ギーベンラート。ザフト内でも「月光のワルキューレ」という二つ名で知られ、同期の中でも飛び抜けて優秀な成績を収めているエースパイロットだ。

 

 

 

「……何よこれ。最新型シミュレーターっていうから期待してたけど、やってることは結局は過去のログの使い回し?」

 

 

 

 アグネスは鼻で笑い、画面を起動させる。彼女のようなエリートからすれば、ただの「記録の追体験」など退屈な作業に過ぎないはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが絶叫に変わるのは僅か一分後だ。

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんなのよこれぇぇぇ!! おかしいでしょ! 欠陥品よ、こんなの!!」

 

 

 

 

 

 密閉されたシミュレーターのコクピット内に、アグネスの絶叫が虚しく響き渡る。周囲には誰もいない。閉鎖された環境だからこそ、彼女は剥き出しの怒りを拳に乗せ、メインモニターを力任せに殴りつけた。

 

 

 

 

「イカサマよ! こんなの、ただの嫌がらせじゃない! 誰よ、こんな出鱈目な設定にしたのは!!」

 

 

 

 

 

 彼女が挑んでいたのは『ステージ1:アーモリーワン防衛戦』。だが、その中身はあまりにも「ふざけて」いた。それはもうふざけ倒していた。

 

 

 

 

 まず、戦場のど真ん中に殴り込んだ直後、カオスにミサイルをぶち込んで牽制。そこから即座に、あの狂気じみた空中ドッキング作業を行わなければならない。

 

 

 

 だが、このドッキングが曲者だった。カオスやアビスの有効射程外にコンマ数秒で離脱しながら作業を完遂しなければ、合体中に撃墜されるという無理ゲー仕様なのだ。

 

 

 

 おまけに、どうにかドッキングに成功したところで、周囲に頼れる友軍は皆無。実質一人で、三機の新型のうち一機を撤退にまで追い込まなければクリアと認められない。これまでのザフトのシミュレーターのような「教本通り」の演習とは根本から違う、血の匂いがするような鬼畜難易度である。

 

 

 

 

 

(……よし、これでいい。新設されるコンパスのパイロットたちは、精鋭だろうが、機種による慣れが仇になることもある。シン・アスカという稀代のパイロットが潜り抜けたあの凄まじい逆境を、データとして追体験させることができれば、組織全体のボトムアップに繋がるはずだ。……シン本人に事後承諾を取らないとな。「君の凄さをみんなに分からせるためだ」って言えば、あいつも悪い気はしないだろ)

 

 

 

 などとハインラインを巻き込んでどこぞの汚ねぇドラえもんが主導したこのシミュレーターは、多くのパイロットの心をへし折り続けたのだ。

 

 

 

 デスティニーとインパルスをほぼ無傷で鹵獲したオーブが主導となり、ザフト軍との取引を経て完成したソレはシン・アスカの軌跡を体験可能な特殊なMSシミュレーターであり、彼が経験した戦闘を『一部の例外を除き』再現。その過酷な戦場と彼の行動の再現の強要は阿鼻叫喚の地獄絵図と化している。

 

 

 

 

 

 

「……ありえない! あんな山猿に、こんな高度な真似ができるわけないじゃない!!」

 

 

 

 

 アグネスは激しい息を吐きながら断言する。彼女の知るシン・アスカは、士官学校時代からずっと「ヘボパイロット」だったはずだ。座学も実技も、いつだって自分に負けていた。

 

 

 

 自分の後塵を拝していたはずの男が、実戦でこれほどまでの離れ業をやってのけたなど、到底信じられるはずがない。プライドの高い彼女は再びリトライするしかない、それがさらなる地獄への道に繋がっている事をこの時の彼女はまだ知る由もなかった。

 

 

 

「あの山猿が……自分を良く見せるためにデータを改ざんでもさせたの!? そうよ、それ以外に考えられないわ! 私が九秒で落とされるような戦場を、あいつが生き残れるはずなんてないんだから!!」

 

 

 

 アグネスは怒りに震えながら、再挑戦のレバーに手をかけた。プライドをズタズタにされた彼女の瞳は、もはや任務の達成よりも、画面の向こう側にいるはずの「山猿」への憎悪で燃え上がっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……へぇ、各地で悲鳴が上がってるみたいだね」

 

 

 

 

 俺は手元の端末に送られてくる、匿名化された各地のプレイログを眺めていた。

 

 

 

 

 プラントの拠点からは、一際激しい「台パン」の振動ログが報告されている。誰がやってるのかは知らないが、相当お怒りのようだ。

 

 

 

 

「ハインライン大尉に『100%再現しろ』とは言ったけど、まさか敵の思考ルーチンまであんなに殺意全開にするとはな。まぁ、エリート様たちが自分の無力を知るには丁度いい薬だろ。最低でもステージ3まではクリアしてくれなきゃな?」

 

 

 

 俺は久々に熱いコーヒーを飲み干し、まだ見ぬ将来の「コンパス」メンバーたちの苦闘を想像して、少しだけ口角を上げるのであった。

 

 

 

 

 

 ちなみに俺はステージ1すらクリア出来ずに投げ出したけどなぁ!!

 

 

 





・グッドイヤー
 現実世界にもその名が刻まれている偉人。詳しくはWikipediaか何かで調べて頂きたいですが、努力や閃きでもない『偶然』が時に歴史を大きく塗り替えるという一つの事例としてとても興味深い人物です。


・シミュレーター

 SEED世界にはシミュレーターがすでに存在していますが、ソレをハインラインとエリカの共同タッグで開発した特殊な神経接続ヘルメットを用いて、鹵獲したインパルスとデスティニーからデータを吸い上げ、シンの軌跡を体験させるもの。


 当然自国の最新鋭機体のデータをシミュレーターに組み込まれる事にジャガンナート国防委員長などはブチギレてましたが、あくまで戦闘データ限定+こちらも人質としてストフリや隠者をプラントに預ける+様々な『お話』によってプラントは折れる事に。コンパス希望者のエースパイロット達は今日もまた阿鼻叫喚のリトライ地獄を堪能しているそうな。

 なおその結果、ストフリの技術がどこぞの国に流れてカルなんとかさんが産まれたり、ジャガンナートがブチギレたり、どこぞの乙女座っぽい男が一人だけ参加して、最終ステージに至るまで死にまくってハイになった挙句「やはり、アスラン・ザラこそが最強か…!」と結論づけられるなど劇場版SEEDに繋がるエピソードにもなるのですが、そんな事を汚ねぇドラえもんは知らないそうな。


 次回はそんなアグネスのド級のリトライ集。デスゲーム主催者ムーブまでして良い格好して、最近ユウナが叫んでないので……近々ババくんにスタンバって貰いますか。

 戦後のコンパスに参加するシンとルナマリアについて。

  • 原作通り二人参加
  • 婿養子になりシン・ホークとなって参加
  • ルナマリアが妊娠して除隊しハイネが参加
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