"G"の為に面倒なやつをグッチャグチャにしようとしている殺人鬼と、殺人鬼をぐちゃぐちゃ()にしたい女の子の物語   作:虚憂

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異常だが日常

「どう?」

 

「ちったぁマシになったんでねぇの」

 

 

 少なくとも前の格好よりかは。

 奴隷のボロ布に比べりゃ全てが良い服に見えるってのはまぁそうだが。

 

 

「帽子を被れば、もう別人」

 

「……ま、初対面で性別バレはしないなぁ」

 

 

 どこかから深めの帽子(キャップ)を持ち出してきたこいつは、それに髪をまとめる様にして被り、髪を短く見える様にしていた。

 服装も相まってぱっと見の容姿は少年にも見える、頭が回る奴だよほんと。

 

 

「これなら見つかる心配もない」

 

「ん、お前ブタのとこに顔覚えられてるのか?」

 

「……そうかもしれないけど、ちょっと違う」

 

「ハ?」

 

「スキルのことで、奴隷の売り場の人に」

 

「あー……」

 

 

 手足の枷と奴隷の指輪は叩っ切ったが、情報までは俺には切れねぇ。

 売った筈のレアスキル持ちが行方不明でしかも買い主が死んだと来た、そりゃあ目を付けないはずがない。

 

 

「また面倒なのが増えたなぁ……」

 

「……捨てる?」

 

「それも良いが、そいつらに関しちゃそれで終わる気がしねぇ」

 

 

 『レアスキル持ち奴隷』なんてものを売る奴隷商だぞ、さぞかし強いのが中に居るんだろう。

 このガキを回収した後、俺に目を付けないとも限らない。

 

 どうするべきか。

 

 

「……予定変更だ、レイ」

 

「?」

 

「お前を釣り餌にその奴隷商を誘き出す、だからお前は俺んとこに居ろ」

 

「え」

 

「奴らを潰しゃあちったあ箔も付くだろ」

 

「……潰すの?」

 

「ああ、今決めた」

 

「それまで、居てもいいの」

 

「残念ながら殺しちゃやれねぇが」

 

 

 いつまでも澄ました面してたガキが、今回は若干目を見開いてる……様に見えなくもない

 表情変わんねぇなこいつ。

 

 

「泣いて叫んでもそれまでは逃さねぇ、それでもお前は俺んとこに居ようと思うか?」

 

「……」

 

 

 一応、最終確認。

 これでこいつが俺のところから離れようって思うんならそれはそれで構わない。

 むしろ途中で逃げられる方が変なミスにつながって良くない。

 

 

「うん」

 

「ハ、死は救済とか言ってなかったか?」

 

「それは今も変わらないよ、死にたいし、死は私の最後の助け舟」

 

 

 そう真顔でさらっと言ってのけるレイ。

 相変わらず価値観がキマってやがる。

 

 

「でも、ヴェンは信頼できそうだから」

 

「あ?」

 

「これが最後、人を信じてみたいって思ったから」

 

「殺人鬼に対して思うことじゃねぇなぁ」

 

 

 辛いくらいなら死へ逃げる、だが俺のことは信頼できそうだと直感したから最後の最後に信じてみようと思った……ねぇ。

 そう思われるほど良いこととかした覚えねぇんだけど。

 

 もしくはこいつが賢しい癖に理論じゃなくて感覚で行動するタイプだったか。

 

 

「酔狂な奴、後悔しても知らねーからな」

 

「うん、私の決めた道だから」

 

 

 そう言ってこいつは、俺の方をまっすぐ見つめていた。

 ……こいつの琴線に触れる様なことしちまってんのかぁ俺。

 ズレた奴の感性はわからん。

 

 

 

 

 

「人、沢山いるね」

 

「チッ、面倒な」

 

 

 家を出てさっきの通りまで戻って来たのだから、やけに人が多い。

 行きの時の10倍はくだらないな。

 

 スラム近くの通りだから元が少ないのはそうなんだが、それにしても異常だな。

 

 

「おい」

 

「離れないよ」

 

「ならいい」

 

 

 レイは俺にしっかりとくっ付いていた。

 妙に好感度高えんだよな。

 

 

「人がすし詰め、どうするの」

 

「路地の方に俺らが()けるか、人の波が落ち着くまでスラムの方で暇潰すか……正面突破か、だなぁ」

 

「……」

 

 

 それを聞いてレイは押し黙ってしまった。

 気持ちは分からんでもない。

 

 

「路地もスラムも大体アホが1人は居るし、この人混みはこの人混みで面倒なことこの上ない」

 

「ここら辺で時間、潰すのは」

 

「……無しじゃない、近くにリンゴのおっさんも居るだろうしな」

 

 

 それはそれであんまりおすすめしない。

 

 

「だがちょっと……()()()()()、今のここは」

 

「?」

 

 

 俺は別にあんなの気にしないんだが、周りの奴の中にはそれを騒ぎ立てたりする奴も多い。

 そして騒ぎってのはどんな時でもめんどくさいものだ。

 

 だから俺はおすすめしない。

 

 

「何も、匂わないけど」

 

「鼻は割と良い方なんだよ、あと血の匂いは嗅ぎ慣れてる」

 

「そっか」

 

 

 そしてレイは、俺を掴む力を強めた。

 ……まあ間違っちゃいない、逃げる時に困らんからむしろ助かる。

 

 

「何が出るの」

 

「見てればわかる、と言いたいところだが……今回は見せるつもりもない」

 

 

 ちょっと流石に人が多過ぎる。

 ……血の匂いが強まって来たな。

 

 場所はこの人混みのど真ん中、(やっこ)さん大量のエサに食欲が抑えられなくなったな。

 

 

「しっかり掴まってろ」

 

「うん」

 

「説明は飛びながらしてやるよ」

 

 

     来た

 

 目の前で、赤色が跳ねた。

 

 

    血を"、吸わ"せ"ろ"お"ォォォッ!!!」

 

 

 血に酔い、夜を駆ける黒い脅威。

 

 吸血鬼だ。

 

 

「飛ぶぞ」

 

「ん」

 

 

 それの爆発を目視した俺の行動は早かった。

 飛び散る血と叫びをよそに、最短最少のルートで通りを抜ける。

 

 要するに、壁を走ってる。

 

 

「ヴェン、器用っ」

 

「喋んな素人は舌噛むぞ」

 

 

 喧騒の合間を縫って、バレない様に跳ね飛んで行く。

 大体の奴らの目線は血飛沫とその主犯に向いている、だから事が起きるのを待ったんだ。

 

 こんな中で黒い影が飛び回ったって、案外人は気付かないもんだ。

 少なくともこの世界の人間はそう。

 

 

「グルアアァッ!」

 

 

 人に酔った吸血鬼は手当たり次第に人を襲っている様だ、悲鳴が加速度的に増えている。

 ……全く、こりゃしばらくこの通りは近付けねぇな。

 

 

 

 

「帰宅、ほらもう喋った舌噛まねぇぞ」

 

「……酔った……」

 

 

 そりゃそうか。

 あんだけのスピードに加えて跳ね回ったからな、視界はもうぐっちゃぐちゃでしょうよと。

 

 

「ふう……うぐ」

 

「大丈夫かよ」

 

「ん……さっきのは、なに?」

 

 

 気が早えよ自分の体調もう少し治してからにしろ。

 これだからガキってのは……。

 

 

「吸血鬼、デミス共だよ」

 

「吸血鬼」

 

 

 デミスというのはこの世界における、人間側が亜人達を呼ぶ時の総称だ。

 混血(デミ)()って感じかね。

 

 

「……彼らは人間を襲うの」

 

「まさか、ありゃ下等も下等、しかも若い奴だろうぜ、人混みに入ったくらいで人に酔う様なレベルだからな」

 

 

 吸血鬼は血が大好物だ。

 だからその袋、血袋とも呼べる人間なんて格好のエサだからな。

 

 

「あれは小さい子供が大好物のご馳走を目の前にしてむしゃぶりついた、みてぇなもんだよ」

 

「そうなんだ」

 

 

 おそらく普段は、人の集まりが少ないあの通りやスラム側で暮らしていたんだろう。

 それが今日のあの謎の大混雑で爆発した。

 

 

「不幸な事故だな、加害者付きの」

 

「……」

 

 

 にしてもなんであんな人が集まってたんだ。

 人酔いする吸血鬼は人が集まる場所には行かない様に教育されてるらしいんだがな。

 

 

「兵士みたいな人達がいたよ」

 

「兵士ぃ? 何でまたスラムなんかに」

 

「わからない」

 

 

 スラムってのはある意味で別の国の様なもの、兵士が滅多に近寄らない治外法権の世界だぞ。

 何てったってそこで死んだら兵士だって罪には問われないんだからな。

 

 

「……きな臭くなって来たなぁこりゃあ」

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