"G"の為に面倒なやつをグッチャグチャにしようとしている殺人鬼と、殺人鬼をぐちゃぐちゃ()にしたい女の子の物語 作:虚憂
「なぁんてさっきは相手を純粋な吸血鬼扱いしては見たが、意外とそうじゃない可能性だってある」
「そうなの?」
「ああ」
暗闇も更けかけた様な深い夜に、俺とレイは例の吸血鬼現場……ではなく全く別の、もっと深い
「ダストって知ってるか?」
「うん、違法な奴」
「そうそう」
ダスト、通称『外道の粉』
何かしらの方法で体内に取り込むとバカになる粉。
要するに元の世界でもあったやっばーい粉よな、違法になるにはそりゃそれ相応の理由があるわけだ。
「そいつの副作用って知ってるか」
「廃人になる……よね」
「それは副作用だと真ん中くらいだ、そのあとは?」
「え? えっと……」
「知らないだろ」
知ってたらおかしい側なんだなこれが、スラムの住人でも一部のヘドロみたいな奴以外は徹底的に処理するんだから。
使う奴の末路なんてものはな。
「ダストの使用者は、貴族平民の差別なく即刻死刑とされている。それは何故か」
「?」
「依存してるだけなら牢屋に繋げば良いだろ、粉に溺れる奴への代償としての殺すことは罰にすらなっちゃいない」
思考の大半を粉を吸うことに支配されるからな。
命尽きるその瞬間まで粉のことで頭がいっぱいだろうさ、少なくともこの世界の粉はそういうもんだから
「それでも殺さなきゃいけない理由がある」
「……」
「何だと思う?」
立ち止まってゆっくりと考えさせる。
この世界で生きるにしろ生きないにしろ、考えることは重要になってくるし今からさせておくに越したことはない。
「んー……」
想像がつかないのかたまに唸り声が漏れ出ている。
まあ俺も一から想像しろなんて言われたら一生唸ってる自信があるわこれに関しちゃ。
「あ」
「お、どうだ」
「ん……牢屋の中じゃ、手に負えなくなる。とか」
「ハハ、やっぱ地頭良いんだなお前」
はえーよ理解力どうなってんだ。
まぁそんなとこだよな、牢屋に閉じ込めてもそっちの方が困ることになるんなら、わざわざ閉じ込めたりしない。
「答えはバケモノに変わる、だ」
「……え?」
「ま、この先は口で語るより目で聞いた方がよっぽど分かりやすい 臭えな、こっちだ」
「え、あ……」
戸惑ってる戸惑ってる、理解が及ばないって声が伝えてくる。
初めてはみんなそんなもんだ、このやべー粉に関してはなぁ。
「人間ってのは、この世界で数ある亜人やその他の種族の中で一番特徴がなくて脆い種族だ」
「……」
「だからなのか、別の要因があるのか……
……この布切れの先から聞こえるうめき声、多分居るな。
この辺りならまだ処理されてない奴か、あわよくば成り立てが居てもおかしくないってあたりを付けたが間違っちゃいない。
「ストップ、そこから前には来ない方がいい」
「?」
「慣れてない奴は、この量でも若干バカになる」
この辺は体質とかにも寄るんだろうが。
ちゃんと回る頭でこの状況を処理してもらわなきゃ困る、リスクは避けるべきだ。
「これが、ダストに溺れた者が例外なく辿る末路だ」
そうして俺は、布切れを取る。
その先に映ったのは……ああ、大当たりだ。
「う、ゔぅうァ……あ」
「き、ひひヒヒヒぃ、ぐるぐる、ぐるぐる、ぐーるぐる」
「ぁ、え?」
そこに居たのは、人間。
確かにヒトの形をしては、居るのだが……
「手が」
「生えてるな」
黒く鋭い爪を生やした、この人間の両腕のものより二回りは大きい手。
それが三つ、彼のお腹から生えていた。
各々別の方向を向いて。
「え、これどういう……え」
「気持ちは分からんでもないが、こいつが現実だ」
外道の粉の名の通りまさに外道の代物ってこと。
これに手を出したらこうなる可能性が生えてくるんだよ。
「人間が吸血鬼になるって話やら、東の方じゃ人が修羅の道にうんたらかんたらって話、聞いたことあるか」
「何それ」
「ふとした拍子に、人間は人間じゃなくなってしまうってことだ」
なんて言うべきなのかな、染まりやすいってか。
「……えっと」
「ダストは、亜人種どもの身体を粉にした代物だ」
「!」
「だから一纏めにデミスなんて呼ばれてんのさ」
人間を異形混じりの不純物に変えてしまう混血種共め、ってな。
実際デミスって一纏めにして呼ぶことを嫌う亜人達の中にはこれがきっかけだったりする奴らだっている。
「どうして、隠されてるの」
「知らせるメリットより知らないメリットが勝るから、だ。高い視点から見るとな」
「?」
「……そりゃ知ってすぐはどいつもこいつもやべぇやべぇと嫌厭するだろうが、時間が経てばろくなこと考えんアホが湧いて来るんだろ」
エスカレートしたイジメの道具とか、研究対象だとか。
果てには他種族との軋轢になりかねない。
「世の中には知らなければ良いってことは沢山ある、こいつも大衆が知らなければ良い事柄ってことだわな」
「……どうして私に、知らせたの?」
「ん?」
レイが不思議そうな目で問いかけて来る。
何でって……んー。
「どうせ知るなら、早い方がいい」
「……」
この世界でほのぼのとしているのは
どうせどこかで知るんなら、安全なうちに教えとけってな。
「ヴェンは平気なの」
「ハ?」
「ここ、粉が結構舞ってる」
ああ。
確かにこの空間、意識しなくても目に見えてしまうレベルでホコリのようなものが舞っている。
散乱した粉入りの袋やらキセルやらを見るに直吸いかよこいつら、救えねー。
「俺ぁ若干混ざってんの」
「?」
「俺の親もこれ」
廃人と化した異形の人間を指差す。
「こいつらはもはや純粋な人じゃねぇ、血の中にも若干他のもんが混ざってる」
そのせいで、その子供には亜人種族の特徴を持って生まれて来る奴も少なくない。
……まあまだ幸運な方だがこっちの奴らは。
「母親、最後は四肢が別々のバケモンに成り果てて死んださ」
「……知られてない、んじゃ」
「公にはな」
こんな副作用万人が知らないわけもなく、国が見捨てた無法地帯スラムなら尚のこと。
まあそういうのはもっとディープなところまで行かなきゃだが。
「奴隷だったんならお仲間にも居たんじゃねぇの。獣の耳が生えてたりエルフだったりが」
「うん。……可愛がられてたよ」
「あっそ。ま、そいつらも9割くらいは偽物だろうぜ」
本物が奴隷として出回ることもなくは無いし、ブタ野郎やらレアスキル奴隷を扱う店ならそれなりの頻度で出入りしてるだろうけど。
それ以上に、奴隷になりやすく便利な商品として扱われるのさ。
「ヴェンも、生えてるの?」
「ほれ」
口に指をひっかけて歯を見せる。
「尖ってんだろ」
「……吸血鬼?」
「知らん、ただ人より歯が鋭く丈夫に生まれて来たんだ俺は」
今までの人生でそういう衝動に駆られたことはないが、まあ鋭いよな犬歯。
「鼻も効くし今んとこ便利だぜ」
「……吸う?」
「吸うかよ」
首元をちらつかせてくる。
だからそう言う衝動に駆られたことねぇっつってんだろガキ。
「お前もそういう生まれなら平気だと思うぜ。そう言う奴、つーか純粋じゃない人間ならマシだからな」
「……」
亜人の血が混ざって生まれた正真正銘のハーフとかならもっと強い筈だ。
俺も強い方だけど。
「だからあの吸血鬼もそういうのかも知れない」
「そうなの」
「じゃなきゃスラムにまで兵士が出てくる意味がわからん」
国がスラムに兵を動かす理由はそれくらい、犯罪者だってスラムの外の街中にいないか探すだけだし。
「だから気を付けな。ヘドロみたいな奴らってのはスラムでこそよく暴れるからよ」