崩壊する平和
漆黒の宇宙にキラリと輝く一欠片があった。
その正体は太陽の光を受け反射したキャノピーのガラスが輝いたものであり建造物の影から飛び出した物体は青を基調とし白い二対の翼を持つ戦闘機のそれであった。
その戦闘機の操縦桿を握る人物は赤いパイロットスーツを着用しヘルメットに映るコンソールと計測器を確認しながら機体を操る。
ヘルメットの奥にあるのは栗色のツインウルフの髪型にその瞳は同じく栗色を覗かせる元の柔和な目付きなのだが全体的にきかん気の強そうな幼さを見せる。
目の前の視界に広がる人工の大地…”アーモリーワン”の新造コロニーの青い空と大地を見て少女は機体を翻し回り込むと視界に入る母なる青い星が視界に入ると一瞬だけ操縦桿に力が入った。
◆ ◆ ◆
鳴るサイレンと断続的に続く爆音が響く。
”オーブ連合首長国”…赤道直下付近の群島で構成されたこの国は”コーディネイター”と”ナチュラル”が共存する国家であり”コーディネイター”のある意味で最後の楽園でもあった。
”クリス・アマネ”はピアノ奏者の父と歌手である母との間に生まれた第二世代のコーディネイターだ。
オーブで生まれた彼女はこの国が好きであり父の勧めでピアノを習ったり母と一緒に歌うのが好きなどこにでもいる優しい少女だった。明日はどんな歌を歌おうか。そんな曲を弾こうか、と毎日が楽しかった。
しかし。それは一変してしまう。
C.E71…中立を掲げていた前大戦末期に地球連合の不興を買ってしまい侵略を受けることになり平和で穏やかな楽園は一転して地獄と化した。
「慌てなくて良い…!手を離すんじゃないクリス!」
「もう少しよ!頑張って!」
手を痛いぐらいに握り必死に走らせようとする父の声と頑張ってと声を掛ける母の声を描き消すように上空を飛翔する六枚の羽を持つ濃蒼のモビルスーツが飛び回り放たれるミサイルとビームを撃墜するためにそれぞれの砲門から必殺の炎を迸らせるとその光にクリスは思わず目を細めてしまう。
クリスは元々”オーブ”のヤラフェス島に住んでいたが父と母のコンサートの巡業に一緒に着いてきていた最中に【オーブ解放戦】に巻き込まれてしまったのだ。
既に攻撃目標である軍本部とモルゲンレーテの工廠、モビルスーツ、ビームやミサイルは空を飛び交いそれぞれは既に黒煙を立ち上らせその戦闘の苛烈さを物語る。
麓の港にはオーブの避難艇が”2隻”横付けされ軍の人間が誘導しているがパニックと動揺によって長い列を作っているのがクリスの視界に入るがここから離れられる!と安堵した。
麓の港に到着し避難挺に家族全員で乗り込もうとしたその時に父の抱えていた楽譜の入ったバックが入り口に当たり搭乗口の外に投げ出されてしまう。
「あっ…!パパとママの楽譜…!」
きっとパパとママは無くしたら困るだろう。きっとお仕事で使う道具だもの、とその気持ちがクリスを動かし船の外の通路へ落ちてしまったバックへ伸ばした手がキャッチしたその時。
世界が一瞬にして深い碧に染まった。
「ガボッ!?ガボボボボッ…!!?」
一体何が起こったのか分からなかったが気がついた時には自分が吹き飛ばされ船の外、海に投げ出されて沈んでいる事に気がつき気泡を吐き出しながら水面へ戻り必死にブロックに捕まり這い上がると光景は一変していた。
脱出艇が停泊していた港の一部が抉れ赤熱化しているのはビーム攻撃を受けたからだろうというのをその時のクリスは知りもしなかった。
「げほっ?!ゲホゲホッ…!」
飲み込んだ海水を吐き出して息を整えようとしていた彼女は爆発と海に投げ込まれた衝撃で周囲の音が聞き取れていなかった。
『…………避難中です。オーブ、連合の…………戦闘を停止して……闘員の保護を………!繰り返します…』
「お、おいっ君大丈夫か…!」
呆然としていたクリスは肩を抱き抱えられその場を後にしようとするがハッと我に返る。
パパとママは…!?
自分が乗っていた避難挺がある後ろを振り返るが言葉を失ってしまう。
自分が搭乗していた避難挺があった場所の埠頭と護岸は大きく吹き飛び波立っており余波で崩れているコンクリートが積み重なり船の一部が浮いているのが視界に入る。
クリスは一気に血の気が引いて軍人の手を振りほどき”避難挺があった場所”へよろよろと駆け寄ると破片と残骸の間に浮かぶ見慣れた衣装を確認し声を掛ける。
「パパ!ママ!」
大好きな両親の姿を確認し大きく窪んだコンクリートのなかに滑り込み駆け寄る、しかしソコでクリスの動きが止まってしまう。
残骸の影に隠れていたのは
爆発の衝撃に巻き込まれた両親…父の体は瓦礫と爆発によって引き潰されており母も身体が本来であれば曲がらない方向にネジ曲がり白い衣装は血染めで汚れている。
直視すら躊躇われる惨状のそれが家族の変わり果てた姿であることにクリスはその場で崩れ落ち父と母の手へ伸ばそうとすると自分が父と母の楽譜入ったバックを大切に持っていたことに気がつく。
「パパ…ママ……イヤァアアアアアアアアアアッ!!」
その時にクリスの中に込み上げる悲しみと怒り、そして寂しさ…その発露が彼女の小さな身体を食い破りそうになるほどの激情を込めた天を衝く叫びが木霊する。
上空を飛び交っていた死の天使達は散るように去っていくのをその栗色の瞳に焼き付ける。
どうして?何故パパとママが死ななくちゃならないの?
「返してよ…パパとママを…返してよぉおおおおおおおおおーーーーーーーっ!!!」
理不尽な理由とその力に幼いクリスは叫ぶしか出来ず。ただただ、無力でしかなかった。
◆ ◆ ◆
<クリス、そろそろ帰投時間です。>
オペレーターの声で我に返る。
「……っとそろそろ時間か…了解、帰投する」
訓練の規定時間が来たことに気がついたクリスは機体を翻す。
あの日、理不尽に全てを失った少女は”プラント”へ渡りパイロットとして生きていくことにした。
そう容易くなく文字通り”血反吐を吐きながら”の努力を行った。その結実が今の機体であるのだ。
もうアタシは弱く無い。
彼女は強くなった。大切なものを代償としてーーーー。
◆ ◆ ◆
C.E70…地球連合が”プラント”の農業コロニーである”ユニウスセブン”へ核を放った【血のバレンタイン】を発端として開戦した【連合・プラント大戦】は甚大な被害と損失を生み出しながら両者の垣根を越えて平和を望む者達の活躍によってその争いは漸くの終結を見せた。
しかし…そこに至るまでの道筋は険しく戦火の傷跡は両陣営、そして第三国に深く刻まれた。
特に顕著なのがC.E71年…連合・プラント大戦の最中の出来事である”プラント”の保有する軍事組織”ザフト”が地球連合のパナマ基地侵攻の際連合が唯一保有していたマスドライバーを破壊。
それにより地球連合は宇宙への道を閉ざされることとなり彼らは焦り唯一マスドライバーを保有する地球国家である”オーブ連合首長国”に侵攻する。
【オーブ解放戦】と呼ばれる戦いは”平和と技術の国”を蹂躙し地球連合の膨大な物量を前に”中立”と言う立場を貫くため徹底抗戦の後にオーブであったが敗戦濃厚となり彼らの目的であるマスドライバーとモルゲンレーテを巻き込み自爆する。
舞台は宇宙へ移る。
そこでは”プラント”と地球連合…”ブルーコスモス”の戦いは泥沼化しお互いの種族を滅ぼす絶滅戦争への一途を辿ろうとするが”連合””オーブ””プラント”の志を同じくする者達の活躍によって阻止され終わりを告げる。
しかしオーブは敗戦国として地球連合の統治下に置かれ様々な搾取され屈辱の日々を過ごすことになるがC.E73年地球連合とプラントは悲劇の地である”ユニウスセブン”にてナチュラルとコーディネイター…平和と相互理解努力を誓い結ばれた”ユニウス条約”によってオーブは国家としての主権を取り戻した。
世界は平和になった。
しかし、それは外見だけであり積み重なった怒りと嘆き…そして憎悪はそう簡単に消せるものではない。
”運命”は静かに緩やかだが確実に動き出そうとしていた。
◆ ◆ ◆
「アーモリーコントロール。こちら【B.L.U.E.M.】所属”ベルヴェルク”。船舶番号を送る。入港許可されたし」
<こちらアーモリーコントロール…船舶番号照合確認した。ようこそ、”ベルヴェルク”入港を許可する>
二年後。C.E73年十月某日。
砂時計型のコロニーの宇宙港に八つの花弁のマーキングをつけた一隻のシャトルが入港し数名の男女が降り立ち二名の少年が周囲を見渡すが少年の方が”警戒してます”という雰囲気を出しておりもう一人のサングラスを着用した少年はその場の空気に紛れているのは”経験の差”があるからだろう。
降り立った宇宙港は人でごった返しており軍事工廠を兼ねているこのコロニーに家族連れや民間人が多いのはザフト最新鋭艦進水式典が予定されているからだ。
その光景になんとも言えない感想を抱いていたのは黒縁のメガネを着用した女性…エアリス・A・レインズブーケであった。
(まさか自分がここに来るとは…)
”プラント”に自分が降り立った経緯はある意味で複雑だ。
【B.L.U.E.M.】は戦後も地球連合軍として活動し地球各地で大戦後に発生している形骸化した…とは言えまだまだ力がある”ブルーコスモス”のシンパが起こすテロに即応する部隊となっており”プラント”もといクライン派の現政権と”大西洋連邦”そして”オーブ連合首長国”とは協力関係を結んでいるのだった。地球連合ではあるが外部組織となっている【B.L.U.E.M.】は”プラント”では認知されており当然コーディネイター…そして”ハーフコーディネイター”も部隊員も所属しているのは総帥となったアズラエルが『使えるものは使わなきゃ。あの戦いでだだでさえ人がいないんだ。コーディネイターだからナチュラルだからと躊躇っているようではプロのビジネスマンとは言えませんネ』とのことらしい。その事には賛同できる。
”アーモリーワン”へ渡る前日。
『エアリス。貴女は”プラント”に向かってください。』
『はい?私が”プラント”ですか?殺されません?』
尤もな話だ。前大戦で地球連合の兵士として多くのザフト兵士とエースパイロットを葬ってきたエアリスは”プラント”で畏怖と憎悪の対象となっている。しかし、対面にいる男はあっけらかんに告げる。
『大丈夫ですよ。一応現政権とは友好関係ですしそんなことになれば戦争待った無し、ですから。それに向こうから招かれているのですから問題ありませんよ。貴女は私と先生の名代として行くのですからね?』
『分かりましたよ…これが終わったら休暇を貰いますかね…』
『勿論です。それと一人護衛を付けましょうか?』
【B.L.U.E.M.】の総帥となったアズラエルと戦後に繰り上がり当選し大西洋連邦大統領となった父マクシミリアンの名代として仕事を押し付けられたことにげんなりしてしまう。ついでに階級も組織に属する人間は殆ど繰り上げさせられた…私もナタルも二階級特進だ。
ある意味での上司であるアズラエルより押し付けられた?仕事をこなすために今回訪れた理由は”プラント”が戦後初の新造戦艦の進水式典に【B.L.U.E.M.】の最高指揮官として招かれていた。
本来であれば地球連合がこの進水式に呼ばれるのは有り得ないのだがこれもまた世界が平和になったのとまともな大人が生きている結果だろうかと、少しだけ感傷に浸りそうになる。度重なる戦闘に失った人々と放たれた砲火は未だに傷跡として残っている…戦後のこの催しはある意味で平和への宣誓なのかもしれない。
そして自分以外にも”アーモリワン”に招かれた名だたるVIPが勢揃いしていた。
(それにしても…アーモリーワン、ね。武器庫って…隠すつもりあるんだろうか…)
エアリスは招かれた場所の名前に苦笑する。
中立のコロニー群かあるこの場所につける名前ではないからだ。
「……」
それよりも端から見ても緊張している少年に声を掛けた。
「シン、緊張してるの?」
エアリスは外交用のスーツに身を包み煌びやかな亜麻色の髪は大戦時に腰まであったが今は髪型をハーフアップにして編み込んでいる(某騎士王のスタイル)
身長は165から172までまた伸びておりそのために隣にいる少年より身長が高く声色は弟へ語り掛けるように優しいものでありその雰囲気は更に大人びていた。
「あ、はい…俺こういう場所に来るの初めてで…」
気まずそうにする少年はそう…”シン・アスカ”であった。
「…そっか。でも変に緊張しすぎると動けなくなるから程程にね。かといってリラックスしすぎるのも良くないよ。君は私”たち”の護衛なんだからね?」
「は、はいっ」
そう告げると先程までの強張った表情が少しだけ和らぐのを見て女性はゆったりと微笑むとシンの顔が少しだけ朱を帯びていたのを横目に見ていた少女が呆れていた。
その少女は濃紺の儀礼服…オーブ連合首長国の議員の一人となったカガリである。
「私たちはともかくとしてお前にいるのか…?」
「??ナニか言った?カガリ?こんなか弱い女の子一人異邦の地へ送ると?ひどい人だね」
(………)
その言葉にカガリを護衛するサングラスを着けた少年…アレックス・ディノ、もといアスラン・ザラは視線を向けられ視線を逸らす。同様に薮蛇か、とカガリは感じとると話題を変える。
女性の耳元で隣にいるシンへ聞こえないように配慮したのはカガリもある意味で成長していた。
「いや、思いっきり聞いてるじゃないか…!なんでも…それよりどうして今回シンを同行させたんだ?緊急性の高い任務じゃないが…」
「ああ。そのこと…」
何故、シンがここにいるのか。
それは少しだけ遡る。
【連合・プラント大戦】の後、地球連合の統治下にあったオーブはウズミが健在であったと言えその支配を逃れることは出来なかった。
統治される…オーブ市民は不安と怒りを滲ませていたが統治下を管理するために送られたのは地球連合軍特務部隊【B.L.E.U.M.】であった。
かの部隊は大戦を終わらせた”聖女”が所属する部隊でありオーブ国民は彼女らに信頼を覚える。
実際に彼女が行ったのは占領ではなく支援…国家としての尊厳を取り戻す手伝いを行った。
軍事再編に伴う新モビルスーツの開発と新型に適応するためのアグレッサーとしての立場としてその際にカガリと個人的な繋がりがありモルゲンレーテに出入りすることが出来た【B.L.E.U.M】の指揮官として派遣された私は任務の最中、謎の武装勢力によって攻撃を受け腕利きのメンバーは私を除いて全滅した。
その時は”ディスペアー”は既に前大戦で大破し戦後に連合の主力となっていた”ダガーL”をチューンしたものに搭乗していたが最新鋭の機体を持つ敵部隊に一対多数で分が悪くあわや撃墜され掛ける危機にモルゲンレーテに入り浸っていた少年シン・アスカが【B.L.E.U.M.】が受けとる筈の最新鋭機に搭乗し起動させ撃退した事で危機を脱することになる。その際の襲撃に用いられた機体は
あれは…一体…?
それよりもモルゲンレーテに入り浸る前後でシンは私があの”ディスペアー”のパイロットであることを何処かで知ったのか鍛えて貰おうと思ったその故の行動であった。
それが偶々新型機に搭乗し敵を退ける…伝統的な物語の始まりだったことに”運命”にはもう歯止めを効かせられないことを察して頭を抱えた。
その危険な行動に叱責を受けるシンだったがその赤い瞳は真っ直ぐに見据えてこう告げた。
「俺…皆を守れるようなパイロットになりたいんです!だから俺を…弟子にしてください!」
その際にカガリより民間人が戦闘行為行ってしまった為にシンを暫定的にオーブ国防軍兼【B.L.U.E.M.】の特務少尉とすることで責任追求からそらしたのだ。
そうして最初は拒んでいたが彼の熱心な”アプローチ”を受け半ば諦めながら鍛え始める。
中途半端に自分が戦えると錯覚すると危険なため最初は乗り気ではなかったが次第にモビルスーツの操縦、白兵戦…知識、と教えらえることは全てを彼に教えるとスポンジのように吸収していき成長していきシンはエアリスの判断によって運用される筈だったその最新鋭の機体のテストパイロットとなったのだ。
シンの指導を切っ掛けとして本来の歴史では死亡していた妹であるマユ・アスカも私に懐いた。
…悔しい話だけど亡くなってしまった
ともかくとしてこれがシンと私の関係である。
◆ ◆ ◆
「簡単だよ。彼に”経験”を積ませるため…と」
そこで彼女は言葉を区切り次に告げた言葉はカガリの表情を渋くさせるのと理由としても十分だった。
「私が信頼してるから、だよ。」
「お前なぁ…本当に身内と認めると甘いよなぁ…それでもお前一部隊の指揮官か?」
「カガリに言われたくないかなぁ…それと”勘”かな?」
「…お前の”勘”は良く当たるからな」
「あと今回…」
そう言い掛けてカガリが待ったを掛けた。
「…分かった、分かったから頼むから余計なこと言わんでくれ…」
「君の言葉は本当に当たるからな…」
アスランがカガリの言葉に同意しシンが激しく同意していた。む、失敬な。
コロニー内部へ向かうためエレベーターへ通路を歩くと市民の声が聞こえ護衛は顔をしかめる。
その話に意識を削がれぬように追いかけるアスランがカガリの隣に追い付き声を掛けた。
「というか二人とも服はそれで良いのか?ドレスも一応は持ってきているが…」
その言葉に二人は苦い顔を浮かべる。
「晩餐会に出るわけでもあるまいしそんなものを着て進水式に参加などするか。…まぁ持ってきているさ…侮られても困るしな…とは言え今の私はオーブの一議員だ」
エアリスがフォローに入る。
「私も要らないかな…一応武官だし。ま、そうだと思っても必要な演出ってこと。分かっているとは思うけど馬鹿に気取る必要もないけど軽く見られるのも良くない。まぁ…今回出席するあの子はドレスか…何時もの服装か…」
もう一人招かれている少女の事を思い出し皮肉混じりのそんなことをいう彼女は大きく変わった、と思う。
あの戦争が終わって二年が過ぎ様々な出来事があったがそれは人々には知られない不戦規程…そしてカガリやキラ達の中心にいた
そしてアスランもまた彼女のお陰で今があるかもしれない、と。
「…お前が言うと説得力があるな」
「でしょ?お互い面倒な立場になったねぇ…議員さま?」
「そうだな…”大佐殿”?」
シンとアスランは二人の気安い関係に感心する。
同性というのもあるが二人の間に”友情”のようなものが結び付いている事に少しだけ羨ましく思えた。
やはり、と言うか案内する随員の私に対する警戒度は高いように思える。
表情こそ変えていないが私に対する視線の度数はカガリよりも多く分からないものには分からないだろうが何時でも拳銃を引き抜けるようにしているのだろう。
分かりきっていることなので意識だけをそちらに向け視線は未だ外が見えないガラスへ向ける。
(…人の意識が分かるようになってきた)
最近、と言うかあの戦争で私の意識が更に研ぎ澄まされているような気がする。
それこそ”人の意識”を読む、と言ったようなその感じ…それはまるで…
(”
そんなことを考えているとコロニー内部へ繋がるエレベーターへ乗り込み暗闇が暫く続くとシャフトが明るい光に満ち溢れる。
シャフトの外には人が作った風景が広がりその光景をカガリとシンは不思議と目で追っていたが無表情で周囲を警戒していた。
(不確定要素はここに来る前に潰しておいた…だけどなんだろう。この胸騒ぎは…)
心の奥にぞくぞくする妙なざわつき。
私は拭いきれない妙な不確定要素を感じるしか出来なかった。
◆ ◆ ◆
<…楽隊はヒトフタマルマルより最終リハーサルを開始…>
<式典用ジンの装備を全て空砲に変えろよ!遅いぞ!>
「違う違う!”ロンド隊”の”ジン”は全て式典装備だ!第三格納庫だと言っただろう!」
「マッケランの”ガズウート”かぁ!?早く移動させろ!」
”アーモリワン”の格納庫周辺では雑多な声が飛び交う。
式典を明日に控えザフト軍事工廠は嘗て無い活気に包まれていた。
これほどまでの熱気は拠点を敵に攻め込まれた時ぐらいなものだろう。
格納庫を一台のバギーが走行していると建物の影から現れた”ジン”の脚部に危うく接触し掛け作業服を着た少年がハンドルを切って事なきを得ると後ろに座っていた青年に謝罪する。
「す、すみません…!しかし、ごちゃごちゃですね…」
ハンドルを握る幼い顔立ちの少年、ヴィーノ・デュプレは技術スタッフのツナギを着用している。
後ろの座席にいるのはザフトエースである所謂”赤服”を着用している。その身の丈にあった実力を秘めるエースパイロットである”ハイネ・ヴェステンフルス”であった。
「ん?ああ。いいって…仕方ないだろ?今回初めてって奴も多いだろうしまぁ俺もなんだが…」
「でもこれで”ミネルバ”も就役なんですよね?」
「ああ。恐らく月軌道に配属になるんだろうなぁ…」
”ミネルバ”…それは”プラント”全市が注目するザフトの最新鋭戦艦の名前でありヴィーノはそこの整備班とハイネはモビルスーツ部隊の隊長として就任することが決定しておりその声色は何処か誇らしげだ。
「モビルスーツの整備、頼んだぜ?」
「はいっ!」
「良い返事だ…っとレイ!ルナマリア!」
ハイネが周囲を見ていると配属先の部下を確認し手を挙げる。
「……」
「ヴェステンフルス隊長!」
クールな印象を与える表情に金髪の髪を首筋に流す少年のレイ・ザ・バレルと勝ち気な赤い髪色の少女のルナマリア・ホーク二名はハイネが手を挙げるとその場に立ち止まって敬礼する。
二人ともエースである”赤服”を着用している。
ヴィーノ、レイ、ルナマリアの三名は若干十七歳ではあるが”プラント”においては成人の扱いであった。
新造戦艦”ミネルバ”へ向かうハイネをのせたバギーを見送りレイ達は上空からの爆音に気がつきそちらへ歩を進め降りてきた人物を見て無表情だったレイの感情が少しだけ動いていた。
タラップから降りてきた人物は男性であり一緒に降りてきた補佐官と会話をしながら司令室へ向かっていたが他の人物よりも白を基調とした服装であり整った白い端正な顔に黒髪の長髪を靡かせる。表情は柔和だがその纏った空気は周囲を引き付ける存在感を醸し出していた。
その存在に気がついたレイとルナマリアは敬礼をすると会話の最中その存在に気がつき表情が少しだけ柔らかくなり笑みを浮かべたその人物こそ現”プラント”の最高指導者であるギルバート・デュランダルその人であった。
レイとルナマリアを視界に納めていると後ろから秘書官が駆け寄り耳打ちした。
「議長。アスハ氏とクライン様、そしてレインズブーケ氏が到着されました」
「やれやれ…今日は忙しいな」
そう告げレイ達に一瞥をくれた後に控え室となっている司令部へ随員を引き連れ歩を進めた。
◆ ◆ ◆
「エアリス!」
「ラクス」
控え室となっている司令部の一室に入ると先んじて訪れていたらしいピンクと白の陣羽織…ラクスが私を見て駆け寄って抱きつく。
それを見た随員が驚いているがアスランたちは「またか…」と生暖かい目で見ている。
「会いたかったですわ。エアリス…」
ラクスは戦後”オーブ”には戻らず”プラント”に戻った。父シーゲルと共に戦後の”プラント”を建て直すために精力的に奔走していた。
身長差がありラクスは私の胸に収まるように収まり後ろに手を回して抱き締めて少しして顔を上げる。
うーん顔が相変わらず良いな…可愛い。
ラクスは微笑み返してくれた。
「ふふっ、エアリス。思っていることが口に出ていますわよ?」
おっと、思っていたことが口に出ていたらしい
「思わず…私も会いたかったよラクス。やっぱりそっちは忙しい?」
「ええ。此方もまだまだ問題が山積みでして…目が回りそうですわ。そちらも忙しそうですわねカガリさん」
私から離れたラクスの視線がカガリへ向く。
彼女もまたカガリと親しい間柄でありその口調は砕けたものになっている。
「ああ。此方も仕事が山積みでな…私もだがキラも忙しくて今回は連れてこれなかった」
「仕方がありませんわ。キラも忙しい立場ですし…ですけど私とエアリスを放っておいてお仕事はどうかと思いますわ?ねぇエアリス?」
「まぁまぁ…貧乏暇なし、って言うし甲斐性のある男性の方が良いでしょ?」
「むぅ…」
そう。今キラはオーブにいるのだ。
本来この式典に来る予定だったのだが彼の肩書きも相まって離れることが出来ない。私とキラもなかなか会うことが出来なかったので残念だ。
まあ忙しいのは良いことだと思うからね。…たまには私たちに構ってほしいけど。
「久々だな。エアリス」
「はぁい、お久しぶりね。」
「バルトフェルド隊長にアイシャさんも…………え?」
ラクスのお付きの人物として見慣れた人物がいたのに気がつく。
バルトフェルド隊長とアイシャさんの二人と会うのは二人の結婚式以来だろう。
二人も”プラント”に戻りラクスを支えながら精力的に活動している。元気そうで何よりだ。と思っているとラクスの隣にもう一人…と言うか
え、マジ…?なんでここにいるの?
「??…ああ!エアリスには紹介していませんでした…”ミーア”。エアリスへご挨拶を」
そう告げるとラクスの隣にいた少女が前に出ると軽く頭を下げその自己紹介に思わずメガネがずり落ちそうになった。
「初めましてエアリスさん。私は”ミーア・キャンベル”です。」
は?今”お姉さま”って言った?
ラクスそっくりな人物…本編であれば議長によって仕立て上げられた”影武者”であるミーア・キャンベルが目の前にいる。疑問で頭がイッパイになっていると更にバルトフェルドが追い討ちを掛けた。
「エアリスには伝えていなかったな。ラクス様とミーアは今ユニットを組んで活動しているんだよ。しっかし俺も初めて見たときは君と同じ感想を覚えたよ。世の中には似た顔の人物が三人いる、と言うが…瓜二つだがな?」
視線を向けるとミーアが補強してくる。
「整形じゃ無いわよ?元々この容姿なんだから。声もね?目の色は違うけど」
そういわれてミーアの目を見ると確かに異なっている…がそれにしても似すぎである。
二人のラクス…が仲良く歌を歌っている光景はある意味で有り得たかもしれない景色としては戦ってきた身としては少しだけ胸がすくような感覚を覚えた。差し出されたミーアの手を掴まない理由はない。差し出された手を握り返した。
「うん、よろしくね。ミーア」
◆ ◆ ◆
控え室に響く人々を惹き付ける声。
その声はまるで思考を奪うような麻薬…肉声はその甘言をもって自らの意思は溶けそうになる。
某大佐や大尉のような良い声が私の耳に入った。
「これはこれは…遠路遙々ご足労頂き感謝申し上げます」
久々の再会に女三人集まれば姦しい…とは言ったもので控え室で話に花を咲かせていると控え室に一人の男が入室してくる。その姿を見て改めて「あ、種運命に突入したな」と他人事のように思ったが体に染み付いた警戒と儀礼が発動する。ギルバート・デュランダル…その人が此方に向け声を掛けられたのを確認し挨拶する。
「こちらもお招き頂き有り難うございます。デュランダル議長。戦後初の最新鋭戦艦の船出に立ち会うことが出来て【B.L.U.E.M.】の指揮官、いや現場に立つものとして光栄です。」
彼に歩みより手を差し伸べると恭しく彼は握り返してくれる。
その後にカガリやラクスと共に握手を交わした後に「どうぞお掛けください」と促され三名はソファーへ腰を掛けギルバートが口を開く。
「前代表のお体の具合は如何ですか?体調を崩された、とお聞きしましたが…」
「激務がたたり体調を崩していたがなんとか持ち直した。ご配慮痛み入る。」
そう。前代表であるウズミは戦後国の建て直しに奔走していたが体調を崩し療養していたのだ。
今回の式典に参加する筈だったウズミの代わりにカガリが出ることになった為ここにいる。
「いや、そのお陰かもしれませんがあの戦後に目覚ましい復興を遂げたオーブを…盟友として嬉しくもあり羨ましくもあります」
「至らぬ点事も多い。手放しで、というには喜べぬ点も多いのでな…復興できたのは関係各所の協力あってこそ、だ」
そうして歓談を続ける。
その言葉の端々に政治的な思惑が乗っているような感じを受け非常に胃が痛い…正直この場は苦手だ。
逆にカガリやラクスは場数を踏んでいるからか飄々としていた…が、カガリはまだまだ場数が足りていないように思えるが感情的になっていないのはウズミさんやオーブ国防軍の将校達の教育の賜物だろうか。
「さて、式典まで時間がございますのでよろしければ…」
そういって私たちは議長に伴われ工廠へ案内された。本来であれば他国の人間…もとい他国軍事関係者が立ち入るのはあり得ない。が、友好国の人間と友好組織への”信頼の証”なのかもしれない。
周囲の格納庫にはモビルスーツが立ち並び時折地響きをたてて”ジン”や”ゲイツR”が移動している。
その光景に随員のアスランは懐かしさを覚えながら周囲を警戒しながら見回す。その懐かしい雰囲気が郷愁を誘う。
シンも周囲を警戒していたが初めて見る”ザフト”のモビルスーツを見て意識を奪われそうになっているのをアスランから小突かれていたのを見て少し吹き出しそうになる。
「先の大戦でお三方は先頭に立って戦われた勇敢なお方達だ」
ふと、格納庫におかれているモスグリーンの機体が目に入るとそれに気がついたのか得意気に説明してくれる。
ZGMF-1000”ザクウォーリア”…ザフトの次世代主力モビルスーツでありそのシルエットは私がよく知る”ザク”に酷似していた。
「…今の世界情勢です。様々な人間が奔走し平和になろうと努力している。エアリス氏もよくご存じの筈です」
突如として会話を振られて驚いたが私は淀みなく答えた。
「ええ。世界は平和になろうとしている。だがそれを”武器を持たずに”というのは不可能だ。強い武器をもって相手を牽制する…嘗て旧暦であった”抑止論”という言葉もあるように…軍備を整えるのは国として当然のことです」
その言葉にデュランダルが満足するように頷く。
前大戦で”プラント”も甚大な被害を受けているため軍備を回復、拡大するのは国として当然の事だ。
あったがその事にカガリは小さく呟く。
「しかし、強すぎる力は争いを呼ぶぞ…」
その言葉を聞いていたデュランダルは緩やかにふりかぶる。
「いいえ。アスハ議員。争いがなくならぬからこそ力が必要なのですよ」
ばつが悪そうにするカガリにラクスが助け船を出す。
「しかし、アスハ議員の言うことも尤もです。その力だけでは争いを引き起こす…平和への想いと協力があればこそ、ですわ。そのためにわたくし達前大戦を知る若輩者達が活動しているのですわ。その事をお忘れなきよう…デュランダル議長」
恭しい中に確かな強さを持ったその言葉にデュランダルはやりづらそうな雰囲気を漂わせているのはラクスは”プラント”においては尋常な影響力を持っている。父シーゲルと共に戦後”プラント”をまとめることが出来たのは彼女達の力が大きい事を彼は知っているからだ。
「ええ。無論ですラクス様。その事を忘れてしまえば前大戦で失われた命に対して申し訳が立たなくなりますから」
そして会話を続けながら式典会場へ向かう道中を行く最中だった。
突如として警報が鳴り響いたのだ。
「ッ!?危ないっ!」
次の瞬間ハンガーから緑色の粒子ビームが扉を貫き反対側のハンガーが貫かれ駐機していた機体が撃ち抜かれ爆発すると奮迅と突風が舞い上がるとラクスをエアリスが押し倒し物陰に隠れると同時にカガリもアスランに庇われ難を逃れていた。
(まさか…!?)
エアリスは嫌な予感が当たった、と内心で舌打ちしながら物陰から顔を出すと吹き出す煙の中から巨人のシルエットが浮かび上がる。
間違いない、あれはーーーー。
動揺にハンガー周辺にいた整備兵が浮かび上がるシルエットを見て驚愕の面持ちで呟いた。
「”カオス”、”アビス”…”ガイア”!?」
◆ ◆ ◆
「彼女達をシェルターへ!」
最初の衝撃から立ち直るとデュランダルが随員へ指示を出すとその一人がエアリス達を避難させるために動き出すのを見送り事態の収拾へ向けて動き出した。
「なんとしても押さえるんだ!”ミネルバ”にも応援を頼め!」
ラクスは”プラント”のVIPであることから別の随員が誘導する。
その事にラクスはなにか言いたそうだったがその瞬間に撃墜された機体の破片がバルトフェルド達とエアリスを分断する。先んじて声を掛けた。
「……くっ、バルトフェルド隊長!アイシャさん!ミーアを!ラクスは此方で守ります」
「わかった!そっちは任せるぞ!」
ぎょっとする随伴の兵士は他国の武官に国の象徴を任せる、というのはあり得ない話だが彼女とラクスの関係を知っていれば自然と任せるのはバルトフェルドとしては当然の事だった。
「行きましょうミーアさん」
「ええ…ラクス様エアリスさん、ご無事で…」
「こっちの台詞…そっちも気を付けて!」
そう告げて随員に誘導されて駆け出した。
瞬く間に工廠は火の海と化し、そこにいたのはたった三機の新型モビルスーツ…たった三機でこの惨状を作り出してしまっていることにエアリスは苦虫を噛み潰し、護衛として就いているシンもこの光景を見て嘗ての…故郷が焼かれる景色が再生されているのか憤るような声が漏れ出す。
「くそっ…!なんだってこんな…!」
「……まるで”へリオポリス”の再現ね…」
「…」
「おい、エアリス…!」
核心を突かれたのかサングラスを掛けたアスランのが一瞬黙ってしまうそれを一緒に逃げているカガリが噛みつくが無視して駆け抜ける。
「それにしても…!なんだってこのタイミングで強奪が…?どこの組織が…!?」
「地球連合か…それとも…」
アスランの方を見る。彼はエアリスが言いたいことが理解できたのか首を横に振る。確かに考えたくない話だ。
そんなことを考えながら先導する兵士の後を着いていっていると物陰から四足獣のモビルスーツ…”バクゥ”ではなく黒色のモビルスーツ”ガイア”が変形し飛び出し阻止しようとする”シグー”と”ゲイツR”が手にしたビームライフルによって撃ち抜かれ爆発するのを見たシンとアスランはエアリスとカガリを建物の影に引き込むと先導していた兵士は間に合わず炎に飲み込まれた。
「こっちです!アスランも!」
「ああ!」
先導する人間を失い戦闘区域から脱出しようとするが戦闘に巻き込まれなかなか前に進めない。
現に緑色の機体…”カオス”がサーベルを抜刀し取り押さえようとする”ジン”を貫き破壊して水色の機体”アビス”が肩のバインダーから放たれるビームと胸の荷電粒子砲が工廠のハンガーとモビルスーツを火の玉に変えていく。
その上空から”ディン”が狙い打つがVPS装甲を搭載しているセカンドステージ機体に通用するわけもなく弾かれた弾丸は地上にある車両にぶつかり爆発する。その近くにいたエアリス達は再び物陰に隠れてやり過ごすが衝撃が体を揺らす。降り注ぐ小さな破片が二人を庇ったシンの背中を打った。
「シンっ!」
「…大丈夫です…このくらい…それにエアリスさん達を怪我させたら俺がキラさんに怒られちゃいますよ…」
「生意気ッ…でもありがとう」
「ありがとう。シン」
そういうシンにエアリスは人差し指で額を小突く。実際に怪我はないようで何よりだったがここを抜けるまでに本当に命を落としてしまいそうだ。
現に上空から狙い撃ちしていた”ディン”はモビルアーマーへ変形した”ガイア”のビームブレイドによって両断されてハンガーに激突し格納されていた機体が倒れ、付近の車両が衝撃で浮かび上がっていた。
このままでは埒が明かない…と周囲を見渡し何か乗れる機体はないか、と探しているとそこに先ほどの”ザク”が二機…そして最後に転がる一機は見慣れた
(ッ!?なんで此処にこれが…!?)
驚くが今はそんなことを言っている場合ではない、と判断しエアリスはアスランとシンに声を掛ける。
「…あれをトーチカとして此処を脱出しよう」
「え、でもあれは…」
困惑するシンをよそにエアリスは指揮官、いや、軍人としての側面をみせた。
「じゃなきゃ此処から脱出できないよ。こっちには要人が二人いるんだ。構っていられない。シンはそっちの機体に!アスランはカガリと共にそちらへ!私は…
「はい、よしなに。後の事は心配なさらないでください。議長へは此方から特例として伝えますわ」
持つものは友達だな、と思った
しかしやりすぎでは…?!
「…全く。頼むぞエアリス。行くぞカガリ!」
「あ、ちょっと…!」
ここにはカガリとラクスがいる。ここで立ち止まっていればいずれ戦火に巻き込まれてしまう。その事は絶対に避けなければならないのだ。
そう告げるとアスランは頷きカガリの手を引いて機体へ走る。とエアリスの無茶振りに「ああ、もうっ!」と言いながら機体へ向かう。
エアリスもその倒れた機体へ向かいコックピット周りのボタンを押して解放させた。
正直、”ダガー”以外には乗りたくないが背に腹は代えられない。
「さぁ…ラクス。手を」
「はい、よろしくお願いします。」
この状況に置いて冷静さを保っているのは肝が座っているかそう緊張を現さないだけか。
だとしてもエアリスがやることは変わらない。生きてラクスをこの状況から脱出させるだけなのだから。
手を引いて持ち上げコックピットに滑り込む。狭いコックピットに女性とはいえ二人は手狭だが文句は言っていられないのだ。
「2人乗りをまさか私がこいつですることになるとは…」
「??エアリス?」
「いや、なんでもないよ…さぁ…行こうか!」
「はい!」
思わず呟きながらラクスを膝に乗せお姫様抱っこの状態で機体の電源を入れて動力を起こすとOSが立ち上がる。
操縦系統は連合のものは異なっているが大体の予想はつく。手慣れた手付きですぐ横のキーボードを叩きOSを書き換えていく。
『Generation
Unrestricted
Network
Drive
Assault
Module
(Weaponry)』
「(不遇機体を私が使いこなすのも一興か…)…”ダガー”じゃないのが残念だけど!」
スロットルレバーを押し上げフットペダルを倒し機体を起き上がらせ機体色が灰色から赤へ色づく。
その光景は嘗てエアリスが”へリオポリス”で行ったシーンを再生しているようだった。
◆ ◆ ◆
「くっそ…訓練じゃこんなことなかったけど…これが戦争か…」
倒れ込む”ザク”へ駆け寄りながらそんなことを呟くと二年前の景色が浮かび上がる。
鳴り響くサイレンに爆発するミサイルと破壊されるモビルスーツ…そして自分達を守る濃蒼の天使…。
軍事工廠ではあるが進水式を控えたこの場所には民間人が未だ数多く残っているそれもオノゴロ島の状況と重なり無意識に拳を握りしめる。
「…よし!」
ここに自分の愛機がないのは残念だけど仕方がない、と割りきってシンも”ザク”へ乗り込み手惑いながらも順序よく機体を立ち上げるのはエアリスのしごきの賜物だろう。
OSもコーディネイター用に調整されていたものが搭載されていたのか直ぐに起動した。
「整備済みだったからすぐ動いてくれた…【B.L.E.U.M.】の機体とは勝手が違うけどっ…量子触媒反応スタート…パワーフロー良好…全システムオールフリー…使える武装は…ってビームトマホーク?!近接武器だけかよっ!」
しかし、使える武装は一つで貧弱だった。最低限のバルカン砲もない。
向こうはフル装備でビームライフルもある。劣悪な状態だがやるしかない、と腹を括るとふと機体がある情報を示す。
それは
「こいつは…」
”ザクウォーリア”は立ち上がり落ちていた武装を拾い上げた。
「こんなところで…君を死なせてたまるか!」
一方でカガリを抱き込んで”ザクウォーリア”のコックピットに乗り込んだアスランは手慣れた手付きで機体を立ち上がらせると攻撃を続けていた”ガイア”の目に留まってしまい此方に気がつきライフルを向けるとコックピット内部にアラートが鳴り響く。
「くっ…!」
放たれるビームは直撃…することは無かった。
『アスラン!急いで!』
もう一機のモビルスーツに搭乗したシンがシールドでタックルして質量で”ガイア”を弾き飛ばす。
「シン!」
『あんまり無理しないでください!そっちはカガリさん乗せてるんですから。こっちは任せてください!こいつッ!』
アスランの”ザクウォーリア”を守るために手にしたシールドでビームを弾き立ち上がる。
シンの”ザクウォーリア”がビームトマホークを抜刀して”ガイア”へ斬りかかり、互いのシールドにビームの刃が激突した。
しかし突如として乱入した三機のモビルスーツを確認した”アビス”と”カオス”は”ガイア”を援護するために機体を操りシン達へ襲いかかる。ミレニアムシリーズである”ザク”だが、強奪された三機は”セカンドステージ”の高性能機体であり、尚且つアスランはカガリを乗せているため無茶な稼働は出来ずにいたがそれでも歴戦の戦士はセカンドシリーズをシンと共に圧倒した。
「行くぞシン!」
「はいッ!はぁああああああっ!!!」
振りかぶったビームトマホークが”ガイア”のシールドに激突しよろめくが直ぐ様フォローに入るように”カオス”がライフルを発射するがアスランの乗った”ザク”に阻まれ撃墜できない。
しかし、機体は二機だけでなくもう一機の”アビス”がその隙を狙いビームを放とうとするが突如として機体がよろめく。
「なんだ!?」
シンは驚き上空を見上げると四つの物体が高速で飛翔しているのが目に入る。
その内の一機は戦闘機ーー?
次の瞬間に四つの物体は上空で接近し姿を変える。しかしそれが”合体する”のだと気がついた”ガイア”が戦闘機にライフルを向けようとしたときシンは咄嗟にビームトマホークを投擲し向けていたライフルを切り裂いた。
「ッ今だ!いっけぇーー!」
「…誰だか知らねぇが…ありがとよ!」
危機を脱した戦闘機は機首と翼を折り畳み下部に合体した物体は脚となり上部は広げ頭部と両腕を出現させ最後に残った飛翔体は背面に接続した途端に鉄灰色の装甲色はヴェールを脱ぐように色づく。白や赤に染まりVPS装甲が起動したことを示す。それはまるで怒りを体現するかのように。
背中に背負っていた飛翔体が装備していた二本の実体剣を引き抜きながら地上へ降り立つと地面を踏み荒らしながら着地するその様は荒々しい。
二対の実体剣を合体させ身の丈以上となったそれを頭上で振りかぶった。
「人様の庭で好き勝手やりやがって…どこの組織だ?あぁ?!」
ZGMF-X56S”インパルス”…それが現れた。
そのモビルスーツのコックピットでザフトレッドのパイロットスーツを着用するクリス・アマネは舌打ちする。
何故また、このような光景が広がっている?ふざけるな! と…怒りに燃える彼女は前方に居座る敵となった同系統の機体を見据えた。
同時に”ザクウォーリア”に搭乗する”シン・アスカ”は投擲したトマホークの代わりに工廠で拾ったビームアックスファルクスG7を展開し振りかぶる。
再び目の前に立ち塞がる強奪者へ対して啖呵を切った。
「クリス・アマネ…目標を制圧する!」
「また戦争がしたいのか…あんた達は!!」
”運命”は今、動き出した。