人間になる魔法 作:まぞーく
人間になる魔法
目の前で人間の女性と10歳くらいの子供が涙を浮かべながらわたしを非難している。わたしは初めて魔族を殺したことを後悔した。
あいつはどこまでいっても魔族だったはずだ。身体を変化させる魔法で人を欺き、食らう隙を虎視眈々と窺うことを目的としていたのだと思う。だけど、あいつは天才だった。天才だったから、
人間を欺き、同族を欺き、世界を欺き、自分さえも欺いてしまった。あいつは自分の正体さえ忘れ、人間として生きていたんだ。奥さんと子供まで作って、人間として…。あぁ、これだから魔族が大嫌いだ。この心の中で言いようのない感情が一生私を蝕むと思うと…。
「ヒンメルだったらどうしてたかな?ねぇ、教えてよ。ヒンメル」
僕は平穏が欲しかった。痛いのは嫌だし、戦いたくないけれど、美味しいものは食べていたいと思っていた。だけど、人間を沢山食べると人間に見つかって、人間の魔法使いや戦士を相手にする必要が駆られる。だから警戒されないように、魔族の被害であると知られないように、「人間になる魔法」を作った。
最初はただ角を隠す程度の擬態しかできなかったけど、なにも苦労はしなかった。まだ身体が成長しきっていない僕を、何も訓練をしていない人間は迷子になった人間の子供だと勘違いしてくれる。だけど油断はできなかった。誰もが僕を人間だと思えるように。優れた戦士や魔法使いをも騙せるように。この魔法はきっと、無限の可能性を秘めている。僕は魔法の研鑽を行える拠点として、ある山に小屋を建てた。この山は魔物があまり生息しておらず、その代わり大型の野生動物が沢山いる。その野生動物の素材欲しさに近隣の村の狩人や冒険者がたまに来るぐらいだ。なんて素晴らしいところだろう。僕が人間を殺しても、全て野生動物のせいになってくれる。そして、人間は魔族や魔物の被害でもない限り、強力な戦士や魔法使いを派遣しようとしないのだから。
ある日の夕方のことである。僕が住む小屋にお客さんが来た。遭難したという人間の女だ。人間になる魔法を使って招き入れ、暖かいお茶を振舞った。長い間彷徨っていたのだろう。テーブルを挟んで正面に座る女は小汚く、痩せていて、弱々しかった。これじゃ骨をしゃぶることはできてもお肉は満足に食えないじゃないかと、不満を募らせていた。そこで、女に提案した。
「よかったら、元気になるまでここにいませんか?水や食料には困っていません。1人増えても大丈夫です。」
そう言葉を発した直後、「あ、」と声がでてしまい、直ぐに「なんでもありません。」と誤魔化した。今まで5分も持続させる必要がなかったが、既に女を家に上げて2時間が経とうとしている。そして、女が回復するまで魔法を持続させるとなると、さらに長い期間人間のままで生活しないといけない。でも大丈夫だろう。この女は戦士でも魔法使いでもない。気を抜かなければ、この女性が僕を魔族だと気がつくこともないだろう。
あぁ、楽しみだ。と1ヶ月先に思いを馳せた。肉付きが戻った彼女の姿を。