|暗殺する魔法《ザバーニーヤ》   作:ヒゲホモ男爵

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最近は超かぐや姫を見ました。良い。
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逃げときどき宝具とティータイム

 

 

 中央諸国、南の森林。

 ナイオン様と暮らした家から北へ30分の位置。

 

 

 

「……ナイオン様、これどうするんですか」

「うーん、どうしようねぇ」

 

「いつまでも隠れられると思わないでね〜!」

 

 

 旅に出て早々、私とナイオン様はソリテールと名乗る魔族に襲われていました。

 事は遡ることピッタリ30分前。

 

 

 

 

 

「なんだ、この森を出るのね?」

 

 

 ナイオン様に荷袋達を持たせて、それから手を繋いで歩き出した時のこと。家を囲む木々の影から進み出てくるモノがありました。

 それはひと目見て、あぁこれはダメだと分かるほどに死臭の染みついた魔族でした。

 

 ……私には"死の臭い"それ自体は分かりません、死体の山から拾い上げられた孤児とは言っても赤子の頃のこと。私がその魔族に染み付いた臭いが死臭だと分かった理由はひとつ。

 過去にたった一度、たった数秒だけ。森に迷い込み好き勝手した挙句に私を攫おうとした荒くれ者を()()()ナイオン様の影、『ジュワン』と呼ばれた人と同じ臭いだったからです。

 

 あの時は一緒に殺されるかと思いました、でもナイオン様はあの時も私を救ってくれました。

 ……だから、目の前の魔族が怖くて、ナイオン様の袖をめいっぱい握りしめるんです。

 震える声は、どうしようもなくて。

 

 

「…ナイオン様、あの、お知り合い…ですか」

「あぁ、旧い知り合いだよ」

 

「まぁ、ふふ。長い付き合いなんだから"知り合い"だなんて、そんな遠い言い方しなくてもいいのよ?その子が赤ん坊だった頃にも会ったじゃない」

 

 

 その子。と私を指して笑う魔族と目が合いました。

 魔族は私を見ていました。

 人と同じ形の目で、ナイオン様とは全く別の目で、明確に私を値踏みしていました。

 それがどういう意味で見られているのか分かってしまって、怖くてたまらなくなりました。さっきまでナイオン様といつもみたいなやり取りをして、何だかんだ旅を楽しみにしていたはずの自分が足元で死んでいました。

 今立っているのは、全身に脂汗をいっぱいにかいた、いつおもらししてもおかしくない震えた子供。魔族のまばたきひとつで死んでしまう食べ物だったのです。

 

 

「リリィ」

 

 

 ──ナイオン様の手が、私の手を、強く。

 姿が、大きく。

 

 

「へぇ…その姿、何年ぶりかしら?初めて会った時以来だから、ざっと5─」

「ソリテール」

 

 ナイオン様が、ソリテールと呼ぶ魔族の言葉を遮りました。それと同じ時に大きくなった身を屈めて、荷袋と一緒に私を抱っこして。

 両手が塞がった状態で、魔族の前に立ちました。

 

 ナイオン様の顔は、もうありませんでした。

 そこにあるのは白面の髑髏と暗い眼孔の奥でぼんやりとある青火のような光だけ。全身を硬い鎧で覆い、黒い外套を背負い、一組の角を持ったナイオン様の形は、ソリテールという魔族よりもずっと人から離れた魔族のものでした。

 

 でも私はむしろ、ずっと安心したんです。

 ナイオン様は始めの頃、この『初代様』と呼ぶ姿でした。でもある日一言「怖いよね」と言って、それからは私と同じくらいの女の子になりました。

 私はそのナイオン様の優しさを、知っています。

 

 だから私は、目を閉じました。

 離れないように鎧を掴んで、ナイオン様に全てを委ねました。ナイオン様ならきっと怖い魔族を倒してくれるんですから。

 

 

「ソリテール、汝の存在は子供の教育によくない。よって失礼する」

「逃げるのかしら?」

「…左様」

 

 えっ。

 

「じゃあ、追いかけっこね♪」

 

 

 えっ。

 

 

 ……直後、私は風に攫われました。

 

 

 

 

 そして、30分後の今。

 

 ナイオン様は私を抱えたまま茂みに潜んでいます。

 ここまでの30分は全く生きた心地がしませんでした、ナイオン様の風のような移動速度もそうですが、何度も近くに突き刺さってくる()が何より怖かったんです。

 ザクザクザクザク、木も草もいっしょくたに斬ってしまう大きな剣が雨みたいに降ってきたんです。そんなのを縫うように避けるナイオン様に揺られて……うっ吐きそう。

 

「……ナイオン様、これどうするんですか」

「うーん、どうしようねぇ」

「どうしようじゃないですよ!このままじゃ死んじゃいますって!旅立ち早々に"ぼうけんのしょ"がパーですよッ!」

「お、元気出てきたね」

「から元気ですよ!!」

 

 私は声を押し殺してナイオン様に詰め寄りました。

 もう30分も逃げ回ってるばっかり、全く生きてる心地がしないんです!ナイオン様に何とかしてもらうしかないのに!

 

「ていうかお知り合いなら何とか言ってくださいよ!」

「ムリだねー、だって…」

 

「いつまでも隠れられると思わないでね〜!」

 

「…ほら、このイカれ具合」

 

 遠くから聞こえてきたのはさっきの魔族の声。

 なんという説得力でしょう、この無責任クソ師匠ぶん殴りたいです。

 

「……でもそうだね、リリィの言う通り何とか言ってくるとしよう」

「…ナイオン様?」

 

 木を背にして、ナイオン様は立ち上がりました。

 ──意外でした、てっきりもう永遠に逃げ続けるものだとばかり。

 

 

「うん、逃げるよ」

 

 

 ナイオン様が、不意に荷袋を自分の影に向かって放り投げました。

 地面に投げ打たれ、大きな音を立てて中身を吐き散らす……なんて事が全く起こらないままに、荷袋達は音もなく影の中へ消えてしまいました。

 

「えっ……」

 

 そんな便利な収納魔法あるなら言ってくださいよ。

 

「"荷袋要らなかったじゃないですか"って?……そういうと思って言わなかったんだよぉ〜、それにこれは収納魔法じゃなくて()()の応用だからね」

「ほうぐ?」

「私がそう呼んでるだけ。どうせソリテール相手じゃ魔法の勉強にもならなそうだから、いい機会だしちゃんと見せておこうかと思って」

 

 ナイオン様がそう言うと、荷袋が呑み込まれて波紋が広がっていたナイオン様の影から、浮かび出てくるものが沢山。そのどれもが異なる人の形をしていて、唯一白い髑髏面が共通していました。

 

 

「ナイオン様、これって……」

「どうせ逃げるなら、全力で逃げようと思う。すぅ───我ら群にして個、個にして群。百の(かお)持つ千変万化(せんぺんばんか)の影の群

 

 

 あまりにも逃げ腰な台詞に続く、力を持った言の葉、それを合図に膨れ上がる魔力の波。未熟な私には、それが魔法だと認識できませんでした。

 家を離れる直前、ナイオン様が留守番を置いていくと言った後に影から現れた髑髏の人は、この奇跡の一端でしかなかったのです。

 

 

 

妄想幻像(ザバーニーヤ)

 

 

 

 

 

 

 初めて会ったのは、さて何百年前だっただろうか。

 

 正直な事を言えば、初めてがいつだったかなんて事はさして記憶に留めていない。時間などという数字よりも、あの日起こった出来事の方がずっと記憶に残す価値があったのだから。

 

 

 ナイオン……今はそう名乗っている魔族は当時その行いから人間だと思われていた。

 ナイオンがいた所では魔族が死んでいたからだ。

 魔力が行使された形跡もなく、現場には魔族が死んだ痕跡だけが魔力の痕となって残されるだけ。殺した側も殺された側すら一切魔法を使う間もなく魔族が殺される、そんな事が出来るのは手練の戦士だと当然に思われた。

 

 だから私は、最近魔族の噂が途絶えた土地を訪れた。それで()()()()()()()()()()()()()

 奇跡的に薄皮一枚が残った。

 ほんの一瞬、違和感に気をとられて身を逸らしていなければ首が落ちていた。

 常軌を逸するほどに卓越した剣筋でなければ、首が斬られた事を早くに知覚してしまって治癒が出来なくなっていた。

 

 

 私は逃げた。

 全力で逃げた。

 逃げの最中、一瞬見えた姿でようやく犯人が魔族だったと知った。

 追われれば確実に死んでいた、追われもしなかったのは気まぐれか、その魔族が持つ独特なルールに救われでもしたのか。今でも全くわからない。

 

 そんな出会いとも呼べないものが、私とナイオンの初めてだった。

 

 

 それから二度目の出会いは、人間の子供を育てている魔族がいるという噂を聞いてのこと。

 人間も魔族も共存も闘争も好きにすればいい、でも人間と魔族が相容れる事なんて所詮夢物語。それでも人間と魔族が、どちらが発端にせよ歩み寄ろうとする動きは昔から何度もあった。そして最後には必ずどちらかの破滅があった。

 そんな中で聞こえた、子供を育てる魔族の話。

 

 ……興味が湧かないはずがなかった。

 

 

 それで大陸の南まで足を運んで、目を疑った。

 街道の外れで岩に腰掛けて、子供を抱いている人間の女が、私の首を斬った魔族だったのだから。

 私の首に残された微かな残滓と、眼下の人間の女から感じ取れる並以下の魔力にある癖が、全く一緒だったのだから。

 

 私の手は無意識に首を抑えていた。

 首を斬られた感触を思いだした。でもどうして子供を抱いているのか聞く方が大事で、一歩前へ。

 そこで私は手招きされた。

 見向きもせず、それでいて歯牙にもかけられず、私は隣に座らせられた。

 そこで私はついに眼球の異常を疑った。

 

 魔族が、赤ん坊に乳を吸わせていたのだ。

 髪の毛も生え揃っていない赤ん坊に。

 それで視線を赤ん坊に注いだまま、まるで日常会話みたいにこう言った。

 

 

「すまないが、何か隠せるものをくれないか。恥ずかしいんだ」

 

 

 魔族はまるで生娘のような言葉を吐いた。

 しかし表情は平坦だった。本物の生娘のように、言葉通りに赤面しているということもなかった。所詮はやはり人間の真似事のように思えた。

 けれどこれは私が"本物"を知っているからだろう……私にはそれが、自分がこれまでに重ねてきたどんな真似事よりも本物に近く見えた。

 だから、興味が湧いた。

 湧かないはずがなかった。

 

 

「……私、貴方の事が知りたいわ。お話ししましょ?」

「後にしろ、見ての通り忙しいんだ」

「…ふふ、うふふ。そうね、そうなのよね」

 

 

 私は魔法で剣を出して、ぐるっと一周囲うように剣の壁を刺し立てた。

 嬉しくって、魔法を振るう指が踊っていたのをよく覚えている。

 

「雑だな」

「見えなければいいんでしょう?」

「……それはそうだ」

 

 これまで実験と研究のために人間とお話しする事は沢山あった、上手にお話する技術もたくさん学んできた。だから私とナイオンが交わした会話がとても簡素で無情なものなことくらい分かっていた。

 とても互いを知る事が出来るお話ではなかった。

 でも、それでも十分よかった、十分すぎるくらいよかった。なぜってそもそも会話できる存在だと思っていなかったのだから。"概念的な死が手足を持って在る"だった認識が、その時には人間に近づく魔族(異端者仲間)になっていたのだから。

 

 

 私のナイオンに対する好奇心は爆発した。

 

 

「ねぇ、私の事は覚えている?昔あなたに首を斬られたのだけれど」

「覚えていない」

「じゃあ、はじめましてね?私はソリテール、あなたは?名前くらい聞かせてちょうだい?」

「……また今度にしろ」

「今度?次があるのね?ふふ、嬉しいわ」

 

 

「ねぇ、その子は拾ってきたの?」

「この先に魔物に荒らされた村がある、その生き残りだ」

「魔物はどうしたの?」

「……お前ならどうした」

「?……放っておくけれど?」

「なるほど、魔族らしい」

 

 

「ねぇねぇ、その乳は機能しているの?人間って何もなしに乳は出せないでしょう?」

「いくつかの魔法の組み合わせだ、この身を母親に適した体に変えた」

「へぇ…私も飲んでみていい?」

「………………何故だ」

「人間って、死ぬ前によくその場に居ない母親を呼ぶの、不思議でしょう?きっと目に見えない親子の繋がりってものなのでしょうけれど、まだ私には分からない物なの。それで一度誰かの子供になってみようかと思っていたの、いいでしょう?」

「……断る。そんな趣味はない」

「趣味?…ふふ、そうね、趣味ね、うふふ」

 

 

 

 いくつかお話を繰り返している間に、ナイオンの腕の中で赤ん坊は満腹になったようで、ナイオンに促されてげっぷを吐いたあと、落ちるように眠った。

 

 ナイオンの手つきはとても柔らかくて、その目には人間の母親が子供に向ける母性とそっくりなものがあった、私の知る限り一番人間に近い魔族だった。

 

 

 だから興味が湧いたの。

 この赤ん坊を殺したら、この魔族はどんな反応をするんだろうって。

 

 当然、魔族に拾われた赤ん坊を殺すのはもったいないとも思った、でもこの魔族なら同じ状況に置かれた時必ず再び子供を救う確信があった。親を失った子供なんて珍しくもない、"魔族と子供"はいつでも再現出来ると思った。

 だからこの赤ん坊は今ここで殺してみて、次は私が赤ん坊を拾ってきてこの魔族に預けてみよう。この魔族は必ず受け取る、そしたら今度はもうちょっと、10歳くらいになったら殺そう。次は20歳、その次は30歳、気を変えて100歳でも。

 

 長い時を生きる魔族が、私よりも人間に近い……こんなに嬉しいことは無かったわ。だって何年でも何百年でも劣化しない研究対象に出来るってことだもの。

 

 だから私は帰る素振りで立ち上がって、何歩か離れて、振り返りざまに魔法を放った。

 

 

 そしたら、今度は魔法ごと斬られた。

 

 

 目の前には真っ二つになった魔法の剣と、二の腕から先がない左腕。もう誰もいない岩場。

 驚きはしなかった。納得の方が大きかった。

 今度もまた気まぐれか、それとも本当に母性に目覚めて血を嫌ったのか。

 

「なんてこと、ある訳ないのにね?私達は魔族だもの、そうでしょう?」

 

 なら、次は私の得意でやろう。

 観察して、お話しよう。

 武力や殺しでは欲しい答えが得られない、いや……むしろナイオンが同族を斬ってまで赤ん坊を守ったという事実、その方がもっと良かった。

 あの魔族が赤ん坊を外敵から守るというなら、赤ん坊の死因は必ず老衰になる。つまりそれまで数十年、魔族と人間の生活を観察できるということ。

 自分が研究目的で人を欺いて招くのとは全く違う、本当の意味での共生がそこにある。

 

 その先には破滅がある、なぜって魔族だもの、そこは変えられない、抗えない。

 でも最後がどうであれ、途中にこそ価値がある。

 

 

 

 

 そして5年後、南の森で二人を見つけた。

 そこから5年、ずっと身を潜めて観察し続けた。

 

 それが不意に森を離れると言い出した。

 だから私は二人を妨害するみたいに身を出した。

 

 理由は二つ。

 一つは本当に妨害したかった。良くも悪くも寿命が短い人間を子供の頃から定点で観察し続けられる環境を手放したくなかった。次に見つけた頃には子供が死んでいた、なんて意味がない。

 もう一つは、魔族が子供を守る姿をもう一度見たくなった。あれからたった5年しか経っていないから魔族は必ず子供を守るだろうけれど、どう守るのかが見たかった。

 子供は既に知恵をつけている、魔族が何であるのかを知っているはず。自分の親が魔族だと知ったらどんな反応をするのかが見たくなった。

 

 魔族は子供に自らをナイオンと呼ばせて、魔法の師匠紛いのこともして、私が見ていなかった5年も含めて10年間子供の親をし続けた。

 欺いた時間が長ければ長いほど、それを知った人間の反応はとても良いものになる、これは私の実体験。

 でもそれが育ての親だったら?こればかりは私の経験には無いこと、だから興味が湧いた。

 

 

 だからこれみよがしに子供へ殺意をあてた。

 

 そしたら子供は産まれたての子鹿みたいに震えて、ナイオンに縋った。その光景があまりに本物で、同時にナイオンが自らの正体を明かしていないことを確信した。

 人間の子供が、魔族を魔族と知った上で親と縋るなんて、ありえない事だから。

 

 

「あら、逃げるのね」

 

 

 ナイオンは相変わらず風のように消えた。

 でも、初めてよりも()()()()()()()

 

 速いのは速い、けれど人間の範疇。

 強いて言うなら人間の戦士の上澄み手前くらい、縦横無尽に動いているけれど草木に擦れる音や地面を踏みしめる音が丸聞こえ。魔力探知にも引っかかるし、まるで別人のよう。

 現に今、既に30分は追う事が出来ている。

 

「……弱くなった?」

 

 空に上がってナイオンを追いかけ、魔力探知を頼りに攻撃魔法を撃っていた時に、そんな疑問が口をついて出た。

 でもその疑問もすぐに解けた。

 

「…あぁ、子供か」

 

 ナイオンは、抱いた子供に負担をかけないよう逃げていた。だから極端な加速をしないし、上下左右の揺れを極限まで抑えて走っているから足音が大きくなっている。

 二度も私を斬った時の、あの理不尽なまでの気配遮断を使っていないのは魔物避け。並大抵の魔物では気配を絶ったナイオンには気付けない、でも残された子供には、むしろヨダレを垂らせて襲いかかるだろう。

 

 どこまでも子供を守るために、弱体化している。

 魔力を、何より強さを重んじる魔族が、たかだか子供一匹のために多くのリソースを払っている。それほどまでに執着している。

 そこに至るまで何があったのか、何がナイオンを変えたのか。知りたい、聞きたい、分かりたい(解剖したい)

 

 不意に、ナイオンの気配が薄まった。

 

 

 ……足を止めたのね。でも魔力探知には引っかかりっぱなし、それで隠れられていない事なんて分かっているでしょうに。

 

 なら子供の方をもっと怖がらせてみよう。

 

 

「いつまでも隠れられると思わないでね〜!」

 

 

 森の上から遠くまで聞こえるように、大声で。

 …こんなところかしら。

 

 次は何をしようかしら。

 私の得意の魔法は強いけれど、どこまでも物理なせいで命中しない。破壊力のために重さも付与したせいで空気抵抗ももろに受けるし、何よりとっくに見切られている。

 

 

 なら、こういうのはどうかしら。

 

 

 ──思い描くイメージは人間の魔法。

竜巻を起こす魔法(ヴァルドゴーゼ)

風を業火に変える魔法(ダオスドルグ)

 

 

 眼下にあるのは一面の森。

 

「火の竜巻なんて起こったら、さぞ大変よね?」

 

 魔族も人間も、基本的な身体構造は同じ。

 火で火傷はするし、酸素が減れば気を失う、でも魔族はそんなもの当たり前に防ぐ術を持っている。

 でも人間の子供はどうかしら?

 

 精一杯苦しんでね、リリィちゃん。

 

 

「『竜巻を(ヴァルド)』──」

 

 

 

 

 ──違和感。

 

 

「──ッ!」

 

 

()()()()()()()に、私は咄嗟に飛び退いた。

 片手は勝手に首を抑えていた。

 頭で考えれば、ナイオンがその気になったら無意味な事くらい分かっている。防衛本能だった。

 魔力の()を構えても、それごと斬られるイメージしか湧かなかった。

 

 なのに、森は静かだった。

 ──否、静かに()()()

 

 

 ……まずい。

 

 そう思った時には、既に魔力探知が異常を訴えていた。

 

 

 

 ザザ──

 

 ザザ……

 

 ザザザ━━

 

 

 

 魔力探知にはもう何も反応がない、無くなってしまった。なのにナイオンのいた方向から、数十人が一斉に迫ってくる足音が聞こえる。

 

 (デコイ)かそれとも分身か、少なくともどれか一体は本物のはず。数に紛れて通り過ぎようって魂胆かしら?

 

 

「ふふ、でもダメよ。『破滅の雷を放つ魔法(ジュドラジルム)』」

 

 

 見下ろす限りの広範囲。たとえ回避しても流れ()が当たるように枝分かれした紫色の雷が森を駆け抜ける、気配が特に多い範囲には重点的に、それこそ人が抜けられる隙間などひとつとして残さないように面で押し潰す。

 数十のうち必ずどれかは本物のナイオン、リリィちゃん(お荷物)を守ろうとする動きで見分けられる。魔法で編み出した雷が防がれるか消されるか、とにかく軌道が歪められたらそれが本物。それ以外は偽、物……?

 

 ──数十箇所で、同時に雷の軌道が歪められた。

 

 

「振り返るな、動けば殺す」

 

 

 ──気配すらなく、背中には死が来ていた。

 こういうのを"してやられた"というのだろう。そもそも私が知覚できた数十の気配全てが囮、それでいて全てが()()だった。

 初めから前面の軍勢に注意させて、気配も音もない暗殺者こそが本命。

 数十人規模の脅威が一斉に迫ってくる瞬間で、その方向を警戒するなというのは無理な話だ。空に上がった魔族なら尚のこと、「魔力を絶って迫り来る数十の気配」を魔族は無視できない。その"気配"すら相手の誘導だとは、気づく事なく殺される。

 

 

「雷を選んだのは悪手だった、暗器で容易に逸らせる。お前は炎を使うべきだった」

 

 

 でもまさか、全部本物だなんて。

 ちょっとズルすぎない?

 この作戦なら、囮は全部分身、偽物(走るだけの木偶)でも機能する。それが全部本物だなんて……あぁいや、偽物を作れないのね?

 これは分身を作る魔法じゃない、自分を分ける魔法。分身ではなくて──分裂。

 

 

「…聞かせてくれる?貴方()なんてお名前かしら」

「……幽弋(ゆうよく)

 

 

 

「我らは所詮、真似事の紛い物よ」

 

 

 

 

 

 

「こうさーん♪」

 

 

 ナイオン様が宝具と呼ぶ魔法を使って少し後のこと、ソリテールが沢山の影に囲まれながら現れて、そう言いました。とても楽しそうに手を上げています。

 

 

「…ナイオン様、降参って言ってますけど」

「まぁこっちが勝ったからね」

「勝ったんですか」

 

 

 それでも相手は恐ろしい魔族。

 ナイオン様の影達が走っていってから何が起こったのかは分かりませんでした、ナイオン様がどうやって勝ったのかが分からないので、魔族の言葉(降参)は信用できません。

 ナイオン様が勝ったと言うなら勝ったのでしょうが、やっぱり逃げましょうナイオン様。

 

 

「じゃあお茶にしようか、ソリテール」

 

 ……は?

 

「…ふふ、嬉しいわ。実は美味しい茶葉を持ってきておいたの、仲良くしましょ?」

 

 ……は?

 

 

「リリィ、用意をしてくれるかい?」

 

 

 はぁ〜〜〜???

 

 

 

 






気付いた時にはたくさんの感想貰えてました、ありがとうございます。
頂いた感想には全部目を通してます。
なるほどそういう解釈もアリかぁなんて思ったり、さっそくタイトルのルビ振りミスが露見してたり。ハズカシ
誤字脱字報告も感謝に咽び泣いてます。

平日は流石に投稿頻度落ちますが、読んでくれると嬉しみが深いっすよ。

ちなみに本編にちょこっと登場させた幽弋さんですが、私がfake原作未履修なのとそのイカれ性能からもうあんまり登場しません。
もうあいつ一人でいいんじゃないかな……ってなる。


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