|暗殺する魔法《ザバーニーヤ》   作:ヒゲホモ男爵

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シリアスは続かないんじゃ
アウラ、筆を取れ。




交易都市ヴァルムの平和な1日

 

 

 

 時間はちょっぴり遡って、フリーレンとフェルンの2人が腐敗の賢老クヴァールを倒す前。

 

 勇者ヒンメルの死から27年後。

 中央諸国ヴァルム。

 

 

 

 私とフリーレン様は久々の大きな街に入って、宿をとって、明るいうちに買い出しを済ませてしまおうと道を歩いていました。

 

「じゃあ手分けして旅の物資を補充しようか」

「手分けって……必需品、ほぼ私ですよね。食料・水・日用品、他にフリーレン様は何を買うんですか」

「…………薬草とかだよ」

 

 フリーレン様は、なんとも言えない微妙な顔でそう言いました。

 ……私になにか隠している時の顔でした。

 フリーレン様との付き合いは長いですが、こういう時はロクな事がありません。決まって余計なものを買ってくるんです。

 何に使うかも分からない動物?の頭骨とか、服だけを溶かす薬とか。

 ……まぁ、たまに魔法史の本とか、まともな物を買ってきてくれることもありますが。

 

「それじゃ、後で宿でね」

 

 足早に去っていくフリーレン様。

 あっけなく1人にされてしまいました。

 

 

「よし、追いかけよう」

 

 

 

 

 

 

 

 〜同時刻〜

 

 白髪で腰の曲がった老婆と、果実色の髪の快活な少女が手を繋いで同じヴァルムの街を歩いていました。

 歳にして見ればおよそ、90歳と20歳ほど。

 きっと祖母と孫娘なのでしょう、とても仲が良さそうに並んで歩いていて、手彫りの立派な杖を支えに歩く老婆を少女がエスコートしている様は、よき親孝行そのものでした。

 

 

「この街に来るのも久しぶりですね、母さん」

「そうだね、80年振りくらいかな」

「なんだか懐かしいですね、あの日喧嘩したのが昨日のように思い出せます」

「その話何回目か覚えてる?」

「大事な話ですもの、あの日を境にもっと仲良くなれたんですから」

 

 

 シワだらけの頬をほころばせて昔話をする老婆に、少女は苦い顔ひとつせずに耳を傾けていました。

 老婆の何度目かも分からない昔話に辟易しているような様子は欠片もなく、むしろとても幸せそうに老婆と話をするのです。

 

 

「歩きましょうか、少し見ていきたいんです」

「そうだね、久しぶりだものね」

 

 

 陽気な日差しに見守られながら、老婆と少女は街の中を歩いていきました。

 ゆっくり、ゆっくりと、噛みしめるように。

 

 

 

 

 

 

 フリーレン様の後をつけて少しのこと。

 アクセサリーショップの前で立ち止まっているフリーレン様の姿が、建物の角からこっそり覗く私の目に映っていました。

 

(頻繁に髪も乾かさず寝るような人なのに、おしゃれに興味あったんだ……?)

 

 建物の角からでは後ろ姿しか見えなかったので、そそくさと近くの噴水まで移動して。

 これでちょうど横顔が……え。

 な、なんですかあの顔、すごい悩んでる……!?

 あんな頻繁に表情筋が動いて、ぐぬぬ…とかうぇぇ…とか、あんなフリーレン様の顔見た事ないんですけど……?!

 

 

「……おばちゃん、これちょうだい」

「まいどあり」

 

 

 30分近く悩んで買いましたね……

 何を買ったか手元はよく見えなかったですけど、まぁ……アクセサリーならよしとしましょう。変な薬とか買われるよりははるかにマシです。

 

 それでまた移動するフリーレン様。

 今度は何を買うのかと思えば、飲食店の並ぶ通りに入りました。でもお昼はとっくに過ぎていますし、夕食まであまり無い時間です。

 ただ通りかかっただけでしょう。

 

 

 ……うーん、少し疑い深すぎたでしょうか。

 警戒心が強すぎたというか。

 フリーレン様は私のお師匠なんですから、もうちょっと信じてあげるべきでした。そろそろ買い出しに戻らないと後でフリーレン様に聞かれた時が面倒──

 

(……あれ飲食店の傍で何か人に聞いて──)

 

 

「この辺で美味しいスイーツのお店ってある?」

「あぁ、それなら近くに酒場あるから、そこで聞くといいよ」

「ありがと」

 

 

(さすがにそれはズルすぎるでしょ……っ!私だって何ヶ月も我慢して食べてないのに……っ!!)

 

 男の人が指さして案内した通りに進んでいくフリーレン様を、私は迷わず追いかけました。

 まさか本当に1人だけスイーツを食べるつもりなのでしょうか、そんなの許せない、許せません。

 

 でも気づかれないようにこっそりと、間を開けて後をつけます。もしもの時はガツンと怒って、許してあげません。

 

 

 階段をいくつか下がって、突き当たりを曲がって、薄暗い道を抜けて、また階段を下がって──

 フリーレン様が入っていったのは、店主がムキムキの強面おじさんで、客もやたら顔が怖くて防具がトゲトゲしている人ばかりの、いかにもな人達が集っている地下の酒場でした。

 サッと入口の角から様子を伺っているだけでも、近寄り難い空気が充満しているのが分かります。

 

 こんな所でスイーツの話って、えぇ?

 明らかにスイーツについて聞ける場所じゃないですよ……!

 

 

「ここら辺に美味しいスイーツの店ってある?」

 

 

 あぁお店の中央で堂々と聞いちゃった……!

 気付いてくださいフリーレン様、絶対にスイーツの話なんか聞ける場所じゃありませんって、きっとさっきの男の人にカモられたんですって、ほらもうケヒケヒ笑ってる人が舌なめずりまで始めちゃいましたって!

 

 

「スイーツの店だァ?舐めてんのか」

「へっへっへっ……」

 

 

 まっさきに反応したのはフリーレン様の隣のテーブルに座っている2人組の男達、あぁ……!

 モヒカンで、肩パットで、スキンヘッドで…!

 ゴクリ……っ!

 

 

「この街にはンまいスイーツが山のようにあるぜい」

「へっへっへっ、どんな店でも教えてやるよ……」

 

(聞ける場所なんだ……!?)

 

「荒くれ者のくせに詳しいんだ」

「スイーツはオレたち冒険者の活力だからな、頑張った自分へのご褒美として食べるスイーツの美味さたるや」

 

(その見た目で冒険者なんだ……!?荒くれってレベルを超えた見た目してますけど……!?怖すぎだよ……!)

 

 

 ……っあぁ、いけない、フリーレン様が店を出る前に私も出ておかないと。

 この場所じゃあフリーレン様が店を出ようとする時に見られてしまいます。

 

 そそくさそそくさと……って、もう日が傾いてきてる。もうちょっとしたら買い出しに戻らないとですね……

 

 

 でももうちょっと、もうちょっとだけ……

 

 

 

 

 

 

 〜同時刻〜

 

「そういえば、昔もこんなふうに、噴水のそばに出店が出ていましたね」

 

 

 まだ日が高かった時に交易都市ヴァルムに入った老婆と少女でしたが、そう遠くない噴水広場につく頃には日が傾き始めていました。

 そしてそこでもまた、昔話が始まるのです。

 

「全然一緒に買い物をしてくれないからって、私が拗ねたんでしたっけね」

「その節はほんとごめんよ……」

「うふふ、いいんですよ。あの後、こんなふうに2人で手を繋いで来て、髪飾りを買ってもらった私はすっかり上機嫌になりましたから」

 

 老婆が自分の首裏をそっと撫でるとおり、そこには銀細工の髪留めがありました。

 小さな傷や欠けこそあるものの、長く丁寧に使い込まれた年代物の髪飾り。

 古い記憶のままにある広場を見たからか、老婆は小走りで少女を引っ張って、少し前に銀髪のエルフが買っていったのと同じ出店の前で立ち止まると、子供のように弾んだ声で言いました。

 

 

「じゃあ、今日は私が買ってあげる番ですね」

 

 

 少女は耳まで真っ赤にして、老婆に寄り添うのでした。

 

 

 

 

 

「……遅い」

「すみませんでした」

 

 

 酒場から出てくるフリーレン様をこっそり見ていましたが、てっきりそのままスイーツの店に行くものだと思っていたのにフリーレン様は宿の方へ帰ってしまいました。

 なので変に勘ぐられまいと私も急ぎで買い出しを終わらせて、宿に帰ったら……フリーレン様が先に帰ってきていました。

 一言始めたら二言三言に収まらないフリーレン様の事なので、てっきりあれこれ言われるものだとばかり思っていましたが、フリーレン様は私に出かける支度をするように言い出したのです。

 

 そして次には、信じられないことに。

 本当に、本当に、信じられないことに。

 

 

「……っ、たまには!甘い物でも食べに行こうか」

 

 

 フリーレン様が私を甘い物に誘ってくれたのです。

 

(……なんだ、そういうことだったんですね)

 

 フリーレン様を疑っていたのがなんだか申し訳ない気分です。ろくでもない物を買うのは事実なので信用するには程遠いですけれど。

 

 けれど、けれど、

 ええ、はい。

 

 

「すぐ行きます!」

 

 

 私の足取りは、とても軽いものでした。

 

 

 

 

 

 〜ちょっぴり先の時間〜

 

 

「ここは良い眺めね、母さん」

「そうだね、夕日が綺麗だ」

 

 老婆と少女は、この街で1番おすすめだと道すがらに聞いたお店に来ていました。

 テーブル席が全て屋外に出ていて、街の中でも高い立地にあるために眼科に一望できる夕日に照らされた街並みを存分に楽しめるその店は、老婆にとって思い入れのある店でした。

 

「あの時のパフェ、ここの店のなんですよね?」

「そうだよ、もう随分昔の話だから、味は変わってしまっているかもしれないけれど」

「それなら、きっと昔より美味しくなっていますよ。ふふ、楽しみ」

「今日は好きに食べていいからね」

「はい、好きにさせてもらいますね、うふふ」

 

 メニュー表を見るまでもなく、思い出のパフェをもう一度食べると決めた老婆はまるで童心にかえったように楽しげでした。

 

 

「──好きなの選んでいいよ」

「お金は大丈夫なのですか?」

「へそくりがあるからね」

 

 

 そんなおり、少し離れた席にいた2人組の会話が老婆と少女の耳に入りました。

 なんとも不器用なエルフが、不器用なりに親代わりをしている光景が老婆の目に入ったのです。

 

「言おうとしたこと、先に言われてしまったわ?」

「"好きなの選んでいいよ"って?」

「えぇ、そうですよ。好きなの選んでくださいな」

「それは、私の言葉だった気もするけどね」

「昔は昔です。今は貴方に好きなものを選べるようになってほしいんですよ、母さん」

「……まったく、人間は成長が早くていいね(嫌になる)。もう少しくらい子供でいてくれて良かったのに、すっかり私より母親顔が上手くなって」

 

「私は、もうあんまり長くないですからね」

 

 

 少女は閉口して、じゃあ好きなのを選ぶと言いつつメニュー表で顔を隠しました。

 とても見られたくはない顔が出てしまっていたので、好きな物の話に逃げたのです。

 

 老婆にはお見通しでしたが、老婆はむしろ感情の機微が激しい少女の様子に喜んで、安心したようで、それ以上は何も言わずに待つことにしたようです。

 

「じゃあ……「メルクーアプリン」」

 

 それから少しの間をおいたあと、()()に少女と老婆の声が重なりました。

 

「……わかるんだ」

「もちろん。長い付き合いですから」

「……そっか、そうだね」

 

 少女の表情が、柔らかく綻んでいました。

 年相応よりは少し幼く見える少女の笑顔は、老婆の見える笑みとよく似た、とても自然で花のような笑顔でした。

 

 

 それから注文を終えて品を待っている間に、先ほど話声が聞こえた2人組もまた一通り話し終えたらしいことに、老婆が気づきました。

 少女からしては背中の方にいる別の客なのであまり興味を持たないようにしていたのですが、老婆にしてみればとても興味を引かれる2人だったようです。

 

「盗み聞きみたいではしたないけれど、なんだか昔の私達に似てて放っておけないんですよ〜♪」

 

 指を立てて上機嫌に振る老婆は、まるで子供でした。

 それどころか軽快に席を立って、件の2人組に寄っていって、そして帰ってきたかと思えば、なんと相席の許可をとってきてしまったではありませんか。

 

「マジ?」

「マジですよ♪」

 

 これには少女も驚きを隠せませんでした。

 

 

 

 

 

 

 それは、私がフリーレン様に自分の気持ちをはっきりと伝えたあとのこと。

 私の誕生日のために髪飾りを贈ってくれて、スイーツのお店に連れてきてくれて、それでも私が喜んでいるか分からないなんていう鈍いフリーレン様のために、はっきり嬉しいですよって言ってあげた後のこと。

 

 スイーツを待ちつつ、さっそく付けてみた髪飾りを指で撫でていたら、私とフリーレン様の席に腰の曲がったおばあちゃんがやって来たんです。

 

 

「よかったら、相席してもいいかしら?」

 

 

 予想外の申し出でした。

 相席が必要なくらいに賑わって来たのかと思って周りを見てみても、夕暮れ時というのもあってむしろ席は空いています。

 じゃあ何故かと思ったら、どうやらおばあちゃんが私達とお話したいみたいでした。

 

「いいですよ、隣にどうぞ」

「あら、ありがとう♪」

 

 私がokを出すと、おばあちゃんは顔をパァっと明るくさせて、多分付き添いらしいお姉さんを迎えに戻っていきました。

 その少しの間に、フリーレン様が「いいの?」と私に聞きました。

 普段ならこういう判断はフリーレン様でしたが、今日は私の誕生日なので、私に委ねるらしいです。

 なので、私が許可しました。

 

「いいんです、悪い人じゃなさそうですから。フリーレン様はとっくに分かってましたよね」

「それはまぁ…うん」

 

 おばあちゃんの姿を最初に見たとき、あぁこの人はとても強い魔法使いだなと思いました。それと一緒に、とても優しい人なんだとも思ったんです。

 だっておばあちゃんに見えた魔力が、フリーレン様と同じくらいに制御(制限)されていてなお、お日様みたいに柔らかい魔力をしていたんです。

 抽象的な言い方になりますけど、とにかく心地良い人だったので、いいんです。

 

 それに今の私は、とっても機嫌がいいので

 

 

「お邪魔しちゃってごめんなさいね?」

「お邪魔します……」

「どうぞ」

 

 

 フリーレン様が「フェルンがそう言うなら」と言って納得するのと同じくらいのタイミングで、おばあちゃんが付き添いのお姉さんを連れて来ました。

 私が手で促すと、おばあちゃんがフリーレン様の隣に、お姉さんが私の隣に座ります。

 元々広いテーブル席だったので、狭いこともなく丁度いいくらいになりました。

 

 そこでふと、お姉さんの髪に光るものが見えて、思わず声がでました。

 

 

「……あれ、それって」

 

(私と同じ……)

「そう、貴女と同じ髪飾りなのよ♪」

 

 

 おばあちゃんが私の心を読んだみたいに答えて、孫への贈り物と同じものを身につけた子が目に入ったから声をかけた。と続けて語りました。

 

(……なるほど、お孫さんだったんですね)

 

 お姉さんの長い髪をまとめていた髪飾りが、私がフリーレン様から貰った物とよく似ていました。

 私のより少し小さいですが、やっぱり綺麗です。

 フリーレン様がくれた物のほうが綺麗ですけどね!

 

(……でも、この人も綺麗な人だな)

 

 銀の髪飾りがよく映える果実色の髪。

 少し日に焼けているけれど、艶のある肌。

 横顔だけでもフリーレン様並みに整った顔立ちをしていて……あれ、耳が尖ってる?

 

 

「自己紹介が遅くなっちゃったわね、私はリリィ、しわしわのおばあちゃんよ、よろしくね」

「ん、あっはい、フェルンです、はじめまして。こちらは私の師匠のフリーレン様です」

「よろしくね」

「ご紹介ありがとう、じゃあこっちもご紹介ね♪その子は私の孫で、エインズワースというの。貴女が思っている通りエルフよ」

「……エインズワースだ、よろしく」

 

 

 お姉さんに見とれていたら、自己紹介に遅れてしまっていました。

 なんというか終始上機嫌なおばあちゃんです。

 ていうかやっぱりエルフだったんだ……

 

「エルフを見るのは久しぶりだよ」

「……私もだ」

 

 早速フリーレン様とのエルフ談議が始まるかと思いましたが、どうやらエインズワース様は会話があまり得意ではない……んでしょうか。

 フリーレン様と視線を合わせようとしませんね。

 まぁ……なんとなくこの年以上に活気あるおばあちゃんに連れられてきたんだろうな、ていうのは察せます。きっと自由奔放で仕方ないおばあちゃんに振り回されてきたんでしょう。

 

 なんだか、親近感が湧きます……

 

 

「お待たせいたしました、メルクーアプリン2つとショルティアラパフェ2つでございます」

 

 

 自己紹介も終わったところで、ちょうど頼んでいたスイーツが届きました。

 プリンがフリーレン様とエインズワース様に、パフェが私とリリィ様のところに。

 

 この時私と、きっとフリーレン様も確信しました。

 リリィ様とエインズワース様も目を見合わせて、私と同じことを考えているようでした。

 

 

((((同志(甘党)か……!!!!))))

 

 

 仲良くなれました。

 

 

 

 

 お互いが甘いもの好きと分かってからは、初対面なのにも関わらずとりとめもない話ができました。

 特に自分でも驚いたくらい歳の離れたリリィ様とは特に甘い物の話で盛り上がって、北方から南下してきたらしいお2人がこれまで食べてきた、そしてこれから北上する私が食べられるかもしれない沢山の甘味について、すごく盛り上がったんです。

 

 たまに昔話が混じって、すごくまずいパンの話とかワインの話とかが出た時に、エインズワース様が苦い顔をされていました。

 多分相当まずかったんだと思います。

 

 

 そこから話がまた膨らんで、旅の目的の話になりました。好みがとても近い私達でしたが、旅の目的だけは私達とは大きく異なりました。

 

 

「終生……ですか?」

「えぇ、そうなの」

 

 

 命を終えるための旅をしている。

 そう語ったリリィ様の姿は、夕日に照らされて、さっきまで私とスイーツ談義で盛り上がっていた人とは別人みたいに、儚げでした。

 

 

「歳だから先が短くてね、ずぅっと昔に住んでいた南の家に帰る途中なの、すっごく楽しい旅よ」

「そう……ですか」

 

 

 気丈に繕っている訳でもない、嘘をついてもいない。本当に楽しんでいる事くらい、私にも分かりました。

 思い入れのある土地に骨を埋めるための旅……私やフリーレン様にそういう予定はまだないですが、長くを生きてきたフリーレン様には似たような事がきっとあったと思います。

 

 だから思うところがあったのか、フリーレン様はリリィ様と、なによりリリィ様をじっと見ていました。

 とても満足気に人生を往生しようという人と、それを見届けるエルフを。

 

「お邪魔しちゃってごめんなさいね?」

「いえ、その……またどこかで」

 

 話しているうちに、器は空になっていきました。

 傾いていた日も半分以上沈んでいて、もうすぐ夜になる時間です。

 私達は、最初よりは少し名残惜しく別れました。

 

 

 

 きっとこれも、旅の中でこれから数え切れないくらい経験する小さな出会いと別れなんだと思います。

 北に向かう私達と南に向かうリリィ様達、これから道が重なることはきっと、もうありません。

 ……でも、あの人ともう会えないのは、少し。

 

「……フェルンは長生きしてね」

「なんですか急に、気持ち悪いです」

 

「…………そういえばフェルン、こんな話を知っている?」

「どんなお話ですか?」

「80年くらい前に、この街に竜が出た話」

「えっ竜が出たんですか」

「泥みたいな竜が街の中にいきなり出たんだって」

 

 

 宿への帰り道、2人になってフリーレン様がようやく口を開いたかと思ったら、物騒な単語が飛び出してきました。

 街の中にいきなり……?

 

「あれ、でも確か80年前ってちょうど、勇者様ご一行が魔王を討伐したくらいじゃないですか?」

「そう、ちょうどその年」

「大変じゃないですか」

 

 街の中に竜が出るだけでも一大事なのに、魔王討伐直後なんて皆疲れ切ってて大変だったんじゃ……

 

「ヒンメルと私達は魔王討伐の凱旋中でね、街に着いた時には全部終わってたよ」

「お、終わってたって……」

「そんなに被害はなかったかな」

「あ、良かった」

 

 80年前の話でも、竜っていう単語は心臓に悪い。

 当時の被害が少なくて、今にもこの街が栄えている現実があるなら安心です。

 

(……でもならどうして、そんな話を?)

 

 

「フェルン、あれ見て」

 

 

 隣を歩いていたフリーレン様が立ち止まって、前より少し高いところを指さしました。

 

「実際は、竜は女の子1人攫って満足したのか帰ったらしいんだけど──」

 

 その先には、街道の中央にヒンメル様をはじめとした勇者一行の銅像があって、足元に──

 

 

 

「倒したことになっちゃってる」

 

 

 

 竜の首がありました。

 

 

 

 

 

 

 〜同時刻〜

 

 交易都市ヴァルム、外。

 

 

「──まったく嘘をつくのが上手くなったねリリィ、私が孫だなんて」

「ふふふ、初対面の相手に上手く話せないのは相変わらずですね、()()?」

 

 

 そこにはにこやかに談話しながら南へ向かう、親子の姿がありました。

 

 

 





ナイオンとリリィのお話はちょびちょび、飛び飛びで書いていきます。
若い時とか、壮年とかね。
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