|暗殺する魔法《ザバーニーヤ》   作:ヒゲホモ男爵

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FGOのfakeコラボで脳を焼かれてプロット練り直してたら時間が流れていました。
そしてつい最近のガチャ更新で無事モードレッドの宝具5を逃しました。


幼魔法使いの執着

 

 

「ナイオン様、魔法の修行に付き合ってください」

 

 

 交易都市ヴァルムから離れて3日目の夜、焚き火のそばで私はナイオン様に言いました。

 

「えー…魔法〜?明日からでいいじゃんかぁもう夜だよ寝ようよぉ」

「じゃあ明日からでいいので、約束ですよ」

「えぇー……」

 

 気怠げな猫のように毛布にもぐるナイオン様は、まったく乗り気ではありませんでした。

 ですがナイオン様がなんと言おうと私はナイオン様に魔法を教えて欲しいんです。

 なのにナイオン様ときたらこの2,3日……

 

 

『あ、リリィ、おかわりちょうだい』

 

『りりぃ〜服に穴あいたぁ〜縫って〜』

 

『りりぃ〜、髪結んで〜』

 

 

 あまりにも情けなさすぎる……

 つい3日前のヴァルムで騒ぎを起こした人とは思えません。ちゃんとしてるんだかしてないんだか、私と付かず離れずなのは心配性なのか単に自堕落なのか。

 

「お空をご覧よリリィ、お星様が寝ろって言ってる。寒い動きたくない寝る」

「前半の建前が息をしていない……!?」

 

 これ自堕落なほうだ……

 ま、まぁでも、とりあえず明日からという言質がとれたのは僥倖です。

 家に住んでいた頃は、どんな魔法も生活魔法以外は「危ないからだめ」と言われて取り付く島もなかったのに、これは大きな変化です。

 ナイオン様が、私が戦える必要性を少しでも理解してくれたという事なんですから。

 つまり、もうわくわくが止まりません。

 やっとカッコいい魔法が使えるんです!

 光ったり!飛んだり!

 ド派手な魔法!

 そんなの絶対楽しいに決まってます!

 

「ナイオン様、明日ですよ、絶対明日ですからね!」

「わかったからもう寝なよぉ……あでも明日は明日でも午後からね、午後から雨が降りそうだから午前中は歩くよ」

「うぐ……」

 

 ま、まぁそのくらいなら……

 

「あと杖まだ出来てないでしょ」

「ぐっ…」

「少しでも杖に慣れさせたいから、今後の魔法練習は完成した杖をもってやるからね」

「そ、そんな……」

 

 そんな、そんな。

 杖が完成するまで魔法がおあずけ……?

 ひどい、ひどすぎます、魔法の楽しさを奪うだなんて然るべきところに出てやります。

 

「出るってどこに?」

「……魔法を管理してるところ?」

「言ってごらん?」

「忘れました」

「ダメじゃん」

「でもあるにはあるはずです」

「あるにはあるね」

「ナイオン様はご存知なんですか?」

「今のは知らないな、数十年先のなら」

「なんですかそれ……まぁ、今はちゃんと魔法使うなら試験受けないといけないんですから──ナイオン様も資格持ってるんですよね?」

 

 ほら、ナイオン様は実力者ですし。

 魔法もすごいのが使えますし!

 

 

「あのねぇ……私は魔族だよ?人間の作った枠組みでバカ正直に資格なんか取ってるわけないじゃない」

 

 

 ……それはナイオン様から初めて向けられた憐れみの目でした。マジかこいつ……っていう。

 いや、そんな目で見ないでくださいよ、自分でも分かってますから……恥ずかしい。

 

「…じゃ、じゃあナイオン様は無資格の違法闇魔法使いってことですか?」

「何その闇医者みたいな……どちらかというと闇魔族だけどね」

「闇なんですね」

「少なくとも光じゃないよね──って、もう寝なさい」

 

 

 話が雑談に逸れ始めたところで、ナイオン様が早く寝るように促してきました。

 なので、私は人差し指をひとつだけ立てて、何とかお願いしますと軽く会釈をしました。あと1時間だけ起きていたいのです。

 ナイオン様は少し渋い顔をしましたけど、「朝起こさないからね」と言い残して私に背中を向けて、眠りました。

 夜更かしにお許しが出ました。

 でも毎朝起こしてるの私ですけどね?

 

「……はぁ、魔法の修行をするのに杖を完成させないといけないなら、なおのこと早く完成させないと」

 

 横たわるナイオン様の影に手を伸ばすと、水底の泥から魚が顔を出すみたいに、ずもも…と木の棒が出てきました。

 その太さは棒と言うよりも棍棒のそれでしたが、木の幹のような太さだったのを、2日と少しの間で抱えられる大きさまで削ったのは自分でもよくやったほうだと思います。

 

 

「完成形をイメージしながら作る、完成系を…って言ったって……」

 

 

 口から出たのは、ナイオン様の言葉の反芻。

 初めて木を削り始めた日、ナイオン様は言いました。『魔法はイメージの世界、イメージ出来ないことは実現出来ない、イメージ出来ない物は完成しない。要らない所を削ったら、後は常に自分の欲しい形、完成形をイメージしながら作るんだよ』と。

 

 なので、昨日まではひたすら魔力の通りが悪い(いらない)所を削り落としました。

 

 触れば分かるんです。

 ──同じ木でも、部位によって魔力の通りが違う。

 

 作業の間中ずっと木材に魔力を流しながら魔力の通りが良い部位を見極めて、そこを削り出していく。

 その繰り返しでした。

 

 けれどそれだけでは歪な、扱いにくい形になってしまうので、あえて要らない所を一回り残して、ここからは完成像をイメージしながら、それでいて扱い易い形に留めつつ、魔力の通りが良くない部位をなるべく削る。

 魔力を常に消費し続ける時間制限付きの消耗戦の中で、足し算引き算を同時に進めなければならない、根気のいる作業です。

 当たり前に10歳の子供がやる事じゃありません。

 専門の技術者が、それだけで商売をやっていけるほどの高等技術です。

 

 まぁでも?嫌ではないです。

 子供なら普通は出来ない事を、ナイオン様は出来て当たり前みたいに私に任せたんです。

 好意的に見れば、私にそれだけの事が出来ると信じて疑っていないということです。魔法もなにも、今までだってナイオン様が出来ると言った事は出来たんですから。

 

 

「……さて、やりますか」

 

 

 丸2日。

 幹のように太い枝を、10歳の私でも何とか抱えられる大きさの、でこぼこした杖もどきにするまでで、丸2日。

 ここからは予め整形用に一回り残しておいた要らないところを、より小さい短刀で削っていく。

 

「ここからが1番つらいですね……」

 

 短刀でザクザク削り出せていたこれまでと違って、ここからはひたすらチクチクチクチク。

 進捗が目に見えて進む…なんて事はもうありません、ひたすらにチクチクです。

 魔力を絶えず流して、短刀を握って、完成形をイメージしながら、完成形を、完成形を……

 

 

「イメージできれば苦労はしない……!」

 

 

 ここまでの作業は、魔力の通りが悪い部位を削るという明確な基準があったから、私でも深く考えずにできました。

 でも"自分の欲しい形をイメージ"っていうのが、まったく思い浮かびません。

 

「…あの、ナイオン様……?」

「スピーゴロゴロゴロ、スピーー…」

 

 くっ、頼ろうと思ったのに寝てやがる。

 相変わらず寝息がうるさいですね……

 人に難題押し付けておいて自分は気持ちよさそうに熟睡とかギルティだと思いませんか?実はギルティなんですよ。

 

 

 スパァン!!

 

 

「フゴッ、いたいよぉぅ……むにゃ」

 

 うん、子供姿のナイオン様のほっぺたは柔らかくて、叩くと良い音が鳴りますね。気分が良い。

 ──うん?

 

「…………ふむ」

 

 欲しい形……その基準は、そういえばナイオン様は言っていませんでした。私は"魔法杖らしい形"とか"使いやすさ重視"とか"素材の性能を1番引き出せる形"とばかり考えていましたが。

 ひょっとして、本当に『好みの形』でいいのではないでしょうか?

 本当の職人さんが作るような物は機能性重視でしょうけれど、自分だけのための杖なら少しくらい遊んでも。

 

「………ふむ」

 

 私の手には、まだナイオン様の柔らかい感触が残っていました。これはそこから産まれたイメージ。

 私がこれまでで最も手触りが良いと感じた物を杖に落とし込めれば、手に馴染みやすいうえにストレスフリーなのでは?

 ふふん、私ってば天才──!

 そうと決まれば、もう私の中で最も手触りが良かった物は分かりきっています。物心ついた時から傍にあって、今も目の前にある物。

 

「さささ……」

 

 そっとナイオン様の耳元に近寄って、

 

 

「ママ……」

「んひっ!」

 

 

 耳の穴の中に声を注ぎ入れると、体をビクつかせて、みるみるうちにママの姿に変わるナイオン様。

 ナイオン様はですね、起きないんですよ……1回寝ると本当に何があっても……!

 そしてこれ(耳打ち)は私がナイオン様にも知られず甘えたい時にしてきた秘密の方法、朝起きた時には元通りになるナイオン様から見れば寝床に私が入り込んでいただけ……!

 ふっふっふ、誰かにバレたら恥ずか死んでやる。

 

「さて、これで下準備は完了です」

 

 眼科にあるのは、将来自分のものが同じレベルまで成長する可能性があるとは到底思えない乳袋、くびれた腰、締まった臀部、すらっと伸びた足にちょっぴりの駄肉。

 あえて情報を追加するなら乳と同じ柔らかさの二の腕、ちょっぴりコリコリしてる耳たぶ、薄桃色の唇とほくろ。

 ……件の本のおかげでしょうか、やたら扇情的な表現が得意になった気がします。こっそり荷物袋に忍ばせて毎夜ちまちま読んできた成果ですね。

 

 

「……ではさっそく」

 

 

 私は一切の遠慮なく、仰向け横たわるナイオン様の、重力に従って崩れた乳袋に指を沈めました。

 

「ほほぉ……こういうのでいいんですよ、こういうので」

 

 夜には気分が外れやすい*1とはいいますが、今の私はまさにそれ。

 気分はまさに料理の品評家。

 今までナイオン様の手作り品で、やれ「人をダメにする椅子」だの「2つの山で手首を支える敷物」だの「体の形に合わせて沈むベット」だの、あらかた心地の良い感触は触ってきましたが、こんな脂肪の塊が1番良い。

 ナイオン様は私の睡眠の質を良くするために色々としてきてくれましたが、たとえ石パンのように硬いベッドの上でも、その身体を差し出してくれさえすればそこはもう極上のスイーツの上。

 

 沈み込む指の先、掌に伝わる温かさ、それでいて指を僅かに押し返してくる弾力。

 こういうので良いんですよ、こういうので。

 

 

「しかし……これを杖に落とし込むのは無理ですね、柔らかすぎます」

 

 

 でもまぁはい、結果は分かっていました。

 乳と同じくらい柔らかいとか、それもう杖としての体裁保てないですよ。へにゃんへにゃんに曲がりまくりです。

 

 しかし思い立ってしまったものは簡単には諦められません、杖の持ち手に少しの柔らかさを持たせることが出来れば、より強く握りこんでも滑りにくくなるという割と真面目にちゃんとした利点が生まれるはずなんです!

 武器の柄に革を巻くとかと一緒!

 決して!いつでもどこでもナイオン様の柔らかさをにぎにぎしたいとかではなく!

 

 これは真面目な魔道具拡張性の研究の一環!

 

 

「やるぞー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁぁあ、よく寝た……うわっ」

「……ぁ、おはようございますナイオン様」

 

 

 杖作りに没頭して、起こすの忘れてました。

 もう正午直前、ナイオン様ってば本当に何もしないと寝続けるんだから……

 

「1時間だけって言ったよね?」

「ふへへへへへへへ」

「えっ怖い」

 

 起きて早々、私が徹夜した事にナイオン様は少々ご立腹のようでした。でもそれがすぐに困惑一色に。

 なぜって当然、私の様子がおかしいからでしょう、そうに決まっています。だって私は今こんなに嬉しいんですから。

 望んだ物が、今私の手の中にあるんですから。

 

「ナイオン様、見てください」

 

 私は、あまり物に執着しない人間です。

 だってナイオン様以外は何でも替えがききます。

 でも今日この時この瞬間、ナイオン様に献上する自らの成果物には自分でも言語化できないくらいの執着が込められています。初めに木の太枝まる1本渡された時には辟易していたのに、今は愛着すらあります。

 それをナイオン様に見てほしい、知ってほしい、褒めてほしい。

 

 ナイオン様が私の杖を握った瞬間の顔を、見たい。

 

 

「これは──っ!?」

 

 

 私が差し出す杖をナイオン様がとった瞬間、その五指がわずかに、半分ほど沈み込みました。

 ちょうどナイオン様の太ももと同じくらいの、柔らかさと中にある硬さが共存しているように。

 

 でも柄の柔らかさには当然気付くことが出来ても、それがナイオン様由来だと、ナイオン様自身がそれに気付くことはありません。

 だってそれは我が家で私だけが知っているものなんですから。

 

 

「──うん、良い発想だね、握りやすい」

「そうですよね、私もそう思います!」

「へぇ……持ち手の近くだけ一回り余分に太くして、中層の魔力の通りがいい部分以外の、外層に細工をしたんだね。私の娘って天才……?」

「えへへへへ」

 

 

 全く気付いていないナイオン様が、繰り返し杖の柔らかさを確かめる。

 むにむに、むにむにと。

 何も知らないナイオン様の指が私の杖に沈む度に、言い表せないゾクゾクを感じます。

 

「この柔らかさは何のイメージからとったの?」

「ひ・み・つ、です!」

 

 聞かれたって当然、答えません。

「え〜なんだろう〜?」と、ナイオン様は自分の記憶の中から答えを探そうとして、何度も杖を握って近いものを探す。

 その姿が、今までは魔法という舞台で見上げる事すら出来なかったナイオン様を一瞬だけ越えられたような気がして、嬉しい。

 私だって頑張ればナイオン様にも出来ないことが出来るとわかって、子供のように掲げた夢が、ナイオン様に守られるままでいないことが。

 

 ナイオン様の隣に行く夢が、ちょっと現実になった気がして。

 

 

 

 

 

 それから10分もしないうち、雨が降り始めました。

 昨日の夜にナイオン様が言っていた通りです。なので私達はそう動くことなく、大きな木の下で雨宿りをしました。

 

 ナイオン様が天気をあてたのは、勘だそうで。

 ひょっとして「明日の天気がわかる魔法」なんてあったりするのかと気になりましたが、魔法を行使した形跡はなかったので本当に勘なのでしょう。

 でも"鳥の飛ぶ高さ"だのなんだの聞いてもいないうんちくを自慢げに語るナイオン様はババ臭かったです。

 

「リリィ?リリィ?君の若くて聡明なお母様は娘の考えてることくらい筒抜けってこと忘れてない?」

「いいんです、聞かせてるんですから」

「泣いていい?」

「涙をかけられる地面がかわいそうです」

「よしわかった泣くからね?みっともなく泣くからね?数千年の間で誰も収める事ができなかった泣き方するからね?」

 

 ちょっとどうでもいい事なので「えっ普通につらい」私の興味は完成ほやほやの杖に移りました。

 形や手元の機能性は10分前から何も変わっていない、けれどナイオン様の仕上げによって別物に生まれ変わった私の杖に。

 

 上から下へ向けて少し細くなる円錐形。

 そして原木から削り出したままに中間少し上あたりで浅く角度のついたシルエット。

 そしてここからがナイオン様お手製の、杖の先に飾り具で留められた『初代様』の外套とお揃いのベール。

 ナイオン様の髪を1本触媒にしたとかで、魔力効率が引き上げられた杖の軸。

 そして、真っ黒になった見た目。

 

 んふふ、良い……

 

 

「ふふん♪リリィは杖を作るにあたって魔力の通りが良い部位を残す前提で削り出して形にした訳だ、でもつまりは性能が素材そのままだったのさ。いくら見た目を整えても性能が未加工同然、魔力の通る道が少しザラついてたから私の魔力で整理したんだ、削り出すだけなら大工でもできる。杖を作る専門職がいるのはこういう所なんだよ?どう?それができる私すごくない?自慢していいよ?」

「また聞いてもいないことを、しかも長々と自慢しましたね?()()()()()()

「ごふっ」

「お金があればこれだけの労力かけずに済んだって話していいですか?」

「許してくださいこの通りです」

「情けない……」

「でも手製だから、特別感あるから」

「それを言っていいのは作った私だけです」

 

 土下寝の姿勢でフゴフゴとうるさいですね。

 でも、まぁ、とにかく!

 これで魔法を教えてもらう条件は揃いました、わくわくはとっくに最高潮です。

 

「ナイオン様、寝てないで起きてください」

「これはひとえにリリィのために──」

「さっそく魔法を教えてください」

「えっ無視なの?」

 

 家で何度もやったようなやり取りもそこそこに。

 ナイオン様は身を起こし、胡座とはいえ背を伸ばし、いよいよという厳格な雰囲気を纏いました。

 初めて教えてもらうれっきとした魔法がどんなものか期待して、私は生唾を呑み込んで待ちます。

 

 きっと、きっと。

 えぇきっと、良い魔法に決まってます。

 派手でなくていい、強くなくていい。

 けれど生活魔法とは明確に違うもの。

 炎でも雷でも水でも、なんでもいい。

 一体どれほどこの日を待っていたことか。

 私は今日ようやく、ちゃんとした魔法使いに──!

 

 

 

「じゃあ確定遅延コンボを教えてあげよう」

「遅延ですか?攻撃魔法じゃなくて?」

「あぁ私、攻撃魔法からっきしだからね」

 

 

 

 

 

 

 

「……へ?」

 

 

 いま、なんて?

 

 

「いやだから、攻撃魔法は無理」

「まほうが……?」

「そう」

「ほのうは…?」

「無理」

「かみなりは…?」

「無理」

「な、なんで……」

「だって魔法って遅いから、斬った方がはやくて」

 

 こいつは、何を、言っているんだろう。

 

「……ナイオン様仰いましたよね?自分を攻撃してくる相手を滅ぼすという意味での身を守る術、つまり攻撃魔法を私に覚えてもらうって、そのために杖が必要だからって」

「言ったね」

「なのにナイオン様が教えられないなら誰が──まさかあの魔族ですか!?」

「お、よく覚えてたね♪」

「本気で言ってたんですか!この人でなし!」

「魔族だからね」

「ド外道!石パン食い虫!ドブカス!!」

「語彙が豊富!?」

 

 私が、ナイオン様以外の誰かに教えを乞う?

 それもあのソリテールとかいう魔族に!?

 想像しただけで寒気がします、あんな明らかに話の通じなさそうな、外見は綺麗でも体の内側が全部刃物でできてるみたいな狂人、誰が!

 

「冗談じゃない?」

「そうですよ、冗談じゃありません!」

「きらい?」

「えぇ嫌いです!ナイオン様も言ってやってください!…………あれ?」

 

 ナイオン様は、喋っていない。

 私は後ろからする声と話して……あれ?誰が後ろに……??なんでしょうすごく嫌な予感が

 

 

「久しぶりね、()()()()()

 

 

 振り返るとそこには、雨にずぶ濡れているのに気味の悪い笑みだけは変わりようのない──大魔族ソリテールがいました。

 それはそれは楽しそうに笑って、私を見ていました。

 

「キャ────ーッ!?!?!?なななナイオン様ぁっ!!!!」

「あらあら、ナイオンの陰に隠れたりして、私のお姉ちゃんはとってもかわいらしいわね」

 

 なんでソリテールがここに!?

『ジュワン』さんとあの森に残っていたはずでは!?ていうかなんでこの場所が分かったんですか!?

 

「リリィ、杖作りに夜通し魔力使ってたでしょ」

「……え…あ」

「探知されたんだよ」

 

 私のせいか──ー!!!

 

「あら、招いてくれていたんじゃなかったの?あんまりにも不用心に魔力を晒していたから、居場所を教えてくれているのかと思っていたわ?」

「誰がッ、あなたなんかにッ!」

「そうなの?」

「ひっ!」

「ソリテール、その目を人に向けるな。次に私の娘を値踏みしたら、今度は私が1週間お前を殺しにいく」

「それはとても魅力的なお誘いだけれど……わかった、自重するわ」

 

 怖い、やっぱり怖い!

 私いつの間に値踏みされてたの!?今の人間殺せそうな目が値踏みのそれなの!?

 ていうかなんでナイオン様は何もしないんですか!はやく追い払うか逃げるかしましょうよぉ!

 

「リリィ」

「……はい」

「心ではそう言いつつ何となく分かってるでしょ」

「…………はい、極めて不本意ながら」

「じゃあやる事があるよね?」

「……ぐ、……ぐ、…………はい」

 

 

 私にも順序というものがあるのに、いまいち人の心が分からないナイオン様はそういう所ドライです。

 

 まぁ、その、ナイオン様に言われてしまったなら仕方がありません、渋々私はナイオン様の陰に隠れるのをやめて、ソリテールの前に立ちました。

 ソリテールは徹底して木陰の下には入ってきておらず、なので私も、一緒に雨に晒されます。

 

 ──ナイオン様の言う通り、何となく分かっていました。認めたくなかったのは言わずともその通り。

 私はナイオン様が言った言葉を覚えています。

 ナイオン様はソリテールを森に残していくとき、条件を2つ出しました。

 正確にいえば3つでしたけれど、うち1つはソリテールの魔法技術を問うものだったんだと思います。そしてそれ自体は試し始めてすぐに、魔力の盾で示された。

 

 条件は2つ。

『ジュワン』さんから逃げおおせて私達に追いつく。

 (リリィ)を守る。

 

 そしてソリテールはここにいる。

 つまり疑いようもなく『ジュワン』さんから逃げおおせて、私達に追いついたということ。2つめの条件を満たしたということ。

 

 ならソリテールは残る1つの条件を満たそうとするでしょう。何よりナイオン様のお決めになったことに、私は嫌と言いたくない。

 なにより、やっぱり不本意ながら頭では分かっているんです、魔族ソリテールが私達に同行する利点を。強力な魔法使いが旅に同行して、あまつさえ魔法を教えてくれるという大きすぎるメリットを。

 

 ──だからこれは、ソリテールがナイオン様の提示した条件を満たすためであると同時に、私が私を納得させるために必要なこと……

 

 

 覚悟を決めろリリィ・エインズワース。

 これはいつかナイオン様の隣にいくために必要なこと。認めるしかありませんが、ナイオン様には私よりもソリテールの方がずっと近い。

 だからこそ、やる事はやる!

 

 

「よろしく、おねがいします」

 

 

 私は頭を下げて、手を差し出しました。

 

 頭を下げたので、ソリテールがどんな顔をしていたのかは分かりません。

 でも、驚いていたのは分かりました。

 これまで見てきた限りずっと頭の回転が早かったソリテールが、この時は私の手をすぐには握らなかったんですから。

 

 

「よろしく、小さくて幼い魔法使いさん」

 

 

 挨拶を交わして、その手をひいて。

 ようやくソリテールの体は、雨に濡れなくなりました。私は濡れ損だった気がしなくもないですが。

 

 ……あと、顔を上げたときに見えたソリテールの顔が、初めて見るくらいに柔らかかったのは覚えておくことにしました。後でなにかに使える気がしたので。

 

 ナイオン様がやたらにこにこ顔で私とソリテールを迎えたのには言葉にできないイラつきを感じましたが、2人揃って濡れた体と服を魔法で乾かしてくれたのでよしとします。

 

「ナイオン、私はその魔法知らないわ」

「教えてほしい?」

「えぇ、とっても」

「いいよ」

(いいんだ……!?)

 

 合流して早々、ナイオン様はソリテールと魔法談義を始めてしまいました。

 私に魔法を教えるなんたらの話はどこへいったのやら、まぁ私もさっきの魔法は気になるのでソリテールと一緒にナイオン様の隣に座って聞きます。

 1番近い場所は譲りませんけど。

 

「さっきのはなんていう魔法なの?」

「名前は無いよ、強いていうなら『濡れた衣服と体を乾かす魔法』ってところだ」

「それって、神話の時代に存在したっていう?」

「惜しいけど『服の汚れを綺麗さっぱりおとす魔法』とは別。まぁそっちの方が便利だし、雨濡れも"汚れ"と解釈すればこれと同じことが出来るから、この魔法はそっちより早く失われちゃったんだけどね」

「……この魔法の利点はあるの?」

「あるよ、消費魔力が少ない」

「「へ〜」」

 

 思わず声が重なってしまいました……

 普通にためになる話だった……

 

 ですが私は察しました。

 ソリテールの目がかなり開いて、口端が少し持ち上がって、有り体にいうなら微笑んでいます。私からすれば恐怖のそれですが、分かります。

 これこのまま放っておいたらソリテールはナイオン様の知る限りの魔法を聞き出しかねません。

 

 それ自体は別にいいですけど、そうしたら時間がいつまでかかることか。

 こっちは早く魔法を使いたくてうずうずしてるんです、話の軌道を戻さなくては。

 

「ねぇナイオン、つぎはもっと──」

「ナイオン様、そういえば先程仰っていた確定遅延コンボってなんだったんですか?」

「お、興味ある?」

「あ、ありますあります」

 

 話を遮られたソリテールがこっちを見てきて怖かったです、けど確定遅延コンボにはそれはそれで興味があったらしく、さっきの私と同じように話を聞く事にしたみたいでした。

 目線だけで漏らしそうです。

 意識をナイオン様の話で逸らさないと。

 

 ナイオン様は手のひらを上にして両手を掲げて、それぞれ片手ずつに水と石を生み出しました。

 ソリテールはピンと来ていませんでしたが、私はなんとなく察しました。

 水と石、そしてナイオン様。

 連想されるのは1つしかありません。

 

 

「『石をパンに変える魔法(アンブロシア)』」

「『水を葡萄酒に変える魔法(ネクトル)』」

 

 

 左手の上で球状になっていた水がそのままワインに。

 右手の上で石が手のひらサイズの硬いパンに。

 それぞれ変化したのを見て私は呆れ、意外なことにソリテールは驚いていました。

 

 ナイオン様はそれを気にすることなく、これからが見せたいものと言って少し先の地面を指さしました。

 そしてそのまま、同じように2つの魔法を唱えると……ぐちゃり。

 家ひとつは呑み込める広さの地面がパンとワインに置換されて、即席の底なし沼に変化したのです。

 

「確定遅延コンボって、落とし穴ですか……」

「その通り♪地面の石や砂利はパンに、含まれる水分はワインにして配列と均衡を乱してやる、すると勝手に崩れて落とし穴の完成ってわけさ」

「食べ物がもったいないです」

「君不味くて嫌いとか言ってなかった?」

「それとこれとは別です」

「ダブスタ!?」

「だぶすた?」

 

 ナイオン様は時折意味の分からない言葉を吐きますが、それはいつもの事としても私は呆れていました。

 2つの魔法自体には驚いていたソリテールも、ナイオン様が自慢げに披露して見せたコンボというものには、私と同じ事を考えていたようで、自然と言葉が重なりました。

 相性がいいとかは考えたくもありませんが。

 

「ねぇナイオン」

「ナイオン様」

「なんだい?」

 

 

「「これ、空を飛ぶ敵にはどうやって?」」

 

 

 

 

 

「…………ごめんちゃい」

 

 

 

 やっぱり使えない魔法でした。

 

 

 

*1
深夜テンション





『呪腕』さんは家のある森で家守を任されたハサンと一緒に暮らしています。
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転生したらORTだった件(作者:装甲大義相州吾郎入道正宗)(原作:転生したらスライムだった件)

転スラ世界に迷い込んだのは、型月作品最強種のORT…に転生した主人公。これなら無双出来ると思いきや、リムルやその仲間って普通にそのレベルじゃない? 敵対したら勝てるのこれ? なんて疑問を持ちつつ彼は己の無法ぶりを自覚していない。


総合評価:5150/評価:8.02/連載:4話/更新日時:2026年01月17日(土) 11:57 小説情報


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