ARMORED CORE VERDICT DAY“BREAK” 作:KM_ACVDミグラント
001 ZEBRAのダン・G・バロー
旧EGF支配圏、FORT DENNISから北に三キロ。砂にまみれた大地に一つ、巨大な山岳が。その中腹の広い台地、硬い岩の地面の上に、コンクリート造りの要塞が。
そこは、広域犯罪組織“ZEBRA”の施設、薬物栽培拠点の一つであった。
ヴァーディクト・ウォーの渦中、急速な成長を遂げたZEBRAは、こういった拠点が世界中にあるのだ。
ZEBRAの基地内には、ジムがあった。意外と充実しているもので、各種トレーニング器具からトレーニング設備があり、中にはやや特殊な用途のものもあった。
個室に備え付けられた椅子とモニター。そして、左右に配置された操縦桿と足元のペダル。
しかし、この設備を利用する者はほとんどいない。この拠点のAC乗りは少ない上、その少数のAC乗りもアウトローらしく、全く真面目でも勤勉でもない。彼らにとって、ACとは最低限動かせればいいものなのだ。故に、利用者はほとんどいない。そう、“ほとんど”。
4つあるシミュレーター室のうち、一番奥にある部屋。そこで、一人の男がシミュレーションに興じていた。
金髪の、どちらかと言えばハンサムに分類されるであろう若い男。
左右の手で操縦桿を握りながら、画面上に映されている仮想の敵ACに喰らいつくように、強くペダルを踏み込む。目の前の敵を噛み殺さんと向かって行く。
彼の名はダン・G・バロー。ただの、ZEBRA構成員だ。
画面の中の戦闘領域は、曇り空の廃ビル街。敵は、軽量逆関節型。
地面を這うように動くダンに対し、画面の中の敵はビル壁を蹴って高く跳び、巧みな三次元軌道で彼を翻弄する。照準が追いつかないままに弾をばら撒くが当然当たらず、向こうの狙撃だけがこちらに当たる。
ついには右腕が吹き飛び、右腕の武器が撃てなくなる。仮想の警告音が鳴り響き、ダンの頬を汗が伝う。
しかし、ダンもやられっぱなしではなかった。敵に照準を追いつかせようとするのを止め、むしろ、逆向きに旋回。丁度半回転ほどしたところで――回り込もうと動いていた、敵ACが照準に重なった。
そのまま、トリガーを引き絞るダン。左手に装備されたバトルライフルが火を噴く。敵の装甲表面で、炸裂弾が何度も爆ぜる。
敵機はまたも壁を蹴って跳躍し、逃げようとするが――ダンは照準を外さずに、そのまま、ロックオン。ダンのACの左肩が開き、3発の近接信管ミサイルが放たれる。
ミサイルは勢いよく敵機に近づいて行き、その周囲で次々と炸裂。猛烈な爆風が、敵機を地面に叩き落とした。
地面に横たわった敵機。立ち上がろうとするが悪戦苦闘。
「逃がすかよ……!」
ダンはブースターを全開で吹かせて敵ACに接近。しながら、左手の武器をハンガーに格納してあったショットガンに換装。
そして、敵機にのしかかり、コアにショットガンの銃口を押し付ける。
「くたばれッ!」
至近距離で次々と放たれる散弾。敵は当然抵抗するが、獲物はスナイパーライフル。どうしようもない。そのまま散弾がじわじわとコアを削り――コックピットまで貫通した。
沈黙する敵機。
少し間を置いて、モニターにCLEARの文字が表示される。
ダンは体の力を抜いて、コックピットシートにぐったりと背を預けた。
「これじゃダメだ。もっと……」
ダンはそう呟くと、もう一度、シミュレーターを起動した。
―― ―― ――
訓練が終わった後、ダンは砂に塗れた外廊下を歩いていた。何時間も続けて訓練したため、訓練中に腹の虫が鳴ったのだ。
「よぅ、ダン」
ダンの肩に手が置かれた。振り返ると、そこには浅黒い肌の筋肉質な男。ややボロボロのツナギを身にまとっている。背の高いダンと比べても、かなりの巨躯だ。
「ゴンザレス」
「疲れてるみたいだな、またシミュレーターに熱中してたのか?」
「あぁ、成績はあんましだったがな」
「あんましってお前、パイロット共の成績抜かしといてよく言うよ」
「――だが、俺はAC乗りになれてねぇ。なれてねェんだよ!」
ダンが苦々しそうにそう吐き出すと、ゴンザレスはヤレヤレと言った様子で言う。
「落ち着けよ兄弟。腹減ってんだろ? とりあえず飯でも食って落ち着こうぜ?」
「……すまん。――そうだな、そうするか」
そうして、ダンとゴンザレスは二人で食堂へと向かった。
ZEBRAの食堂は、基本的にどれだけ食べても構成員から金はとらない。ZEBRAは犯罪組織ではあるし、決して善とは言えない、むしろ極悪非道な組織である。だが、くいっぱぐれたものを食わせる、はぐれものの受け皿的な側面もあるのだ。
席に着いたダンは、粉っぽいチーズが絡まったマカロニを口に運ぶ。
「しっかし、お前もある意味殊勝なやつよな。ZEBRAの役にたつためにAC乗りになりたいなんてさ。分かってんのか? 俺達は所詮クズの集まり、そんな恩義を感じるようなもんでもねぇぞ?」
「ンな事分かってるよ。……それでも、俺にとっちゃ……」
「ま、お前はそういう奴だよな。ガキの頃から変わんねぇ」
「言うな」
ゴンザレスは肩を竦めると、自身も食事に手をつける。スプーンでチリビーンズを掬って、口に運ぶ。
黙々と食べ続け、二人の食器が空になった時――
「うぃー、隣失礼するやでー!」
そう言ってどっかりとダンの隣に座ったのは、赤毛の男。狐のような糸目で笑うその顔を見て、ダンは「げ」と声を零す。
「“
「おいおいおいおい、ダンダンダンダン! なんやそのリアクション。まるで厄介な奴が来たみたいな反応しちゃってさ。いや、もしかして俺って厄介な奴か? じゃ、御厄介になりまーす。や、御厄介になりますはちゃうか。レッツビバ厄介者」
「何言ってんだお前?」
そんな二人の掛け合いを見て、ゴンザレスは苦笑い。ダンは助けてくれという目線をゴンザレスに送るが、ゴンザレスはわざとらしく視線を逸らした。そんなゴンザレスを、ダンは恨めし気に睨みつけてみせる。
仕方なく、ダンは食器を持って立ち上がり、笑みを作って言う。
「残念だったな“ワイズ”コックス。俺達はもう食い終わったんだ。たまには一人で静かに食うんだな」
「ちぇ、つれねぇやっちゃな」
そう言うと、コックスはヒヨコ豆をリスのごとき勢いで口に詰め込み始めた。そんなコックスを無視して、ダンは食器を片付けに行くのだった。
―― ―― ――
警備の当番が回ってきたダンは、様々な機体が格納されたハンガーにやってきていた。明かりが少なく、暗いハンガーには、鉄と油、そして埃の匂いが漂っている。
ダンはそんな匂いを特段気にする様子も見せず、防衛型通常兵器、通称“ゴーレム”のドックへと向かう。
ドックには、巨大なキャタピラが取り付けられたゴーレムが、胴体は武骨な箱のようで、腕は、太いパイプのよう。右手には大型のシールド。左手にはガトリングガンを装備している。左肩には大きな弾倉があり、そこから給弾ベルトがガトリングに繋がっている。
ダンの機体は、これのガトリングの下部にパイルバンカーを装備した改造型だ。
鉄の梯子を昇って足場に上がると、繋がった鉄の橋を渡って、開け放たれた上部からコックピットの中へ。慣れた手つきでハッチを閉めると、レバーを操作してエンジンをスタート。
目の前で開いていくシャッター。少しずつ、昼の砂漠の眩しい陽光がドック内に差し込んでくる。
ダンがペダルを踏むと、ゴーレムは前進。そのまま基地の外に出て、なだらかな山の坂道を下っていく。
キャタピラが岩を踏むたびに揺れるシートの上で、ダンはモニターを見つめる。一面の砂。台地は輝く太陽には熱され、陽炎が昇っていた。
当然、コックピット内にも徐々に熱が伝わってきて、ダンの頬を、汗が伝う。
それをタオルで拭って、ダンは周囲の警戒を続ける。
しばらくして、別のゴーレムがこちらに近づいてきているのが見えた。ダンは不審に想い、そのゴーレムに通信を繋ぐ。
「こちらはダン・G・バロー。そちらは誰だ?」
「よーよーよーよー! ハロー! また会ったな!」
「……お前かよ」
そのパイロットは、コックスであった。
「何しに来た」
「何って、警備やけど?」
「お前今日当番だったか? ロビンソンだったはずだが」
「あぁ、代わってもらったんよ。ロビンソンもサボりたかったみたいでな、快くオーケーしてくれたで!」
「あの野郎後でぶん殴ってやる」
「ま、せっかく二人きりなんや、なんか話そうや。所で人は何で喋るか知っとるか? 会話ってのはお互いの気持ちや考えを伝えるための行為やけん。つまり、分かり合うための行為や。それを、大した労力も裂かずに出来るのはお“トーク”やか――」
「お前、何でわざわざ当番に? よくサボってるお前が」
コックスの言葉をぶった切るように、ダンは言った。その声は怪訝そうで、疑いの色が滲んでいる。
「おー、こわ。そんな警戒せんとってや。暇だったからやて。マジに。それに、砂漠の風を感じたかったってゆーか……」
「……そうか」
「そいや、お前、AC乗りになりたいんやって? ZEBRAの役にたつために」
「誰から聞いた」
「ゴンザレスや」
「あの野郎……」
「否定はしないんやな」
コックスが言うと、ダンはハッキリと言った。
「否定するわけねーだろ」
「……ま、そりゃそーか。で、確か上に認めてもらうために、毎日訓練してるんだってな? あの誰も使ってないシミュレーターで」
「……悪いかよ」
「いやいや! そういう話じゃないねん。お前が認めてもらいたい、その“上”って、一体どんな奴やと思う?」
「……関係ないね、俺は、恩を返すだけだ」
「例え、それが信じらんないぐらいのクズだったとしても?」
その声は、その言葉だけは、普段のコックスからは信じられないほど冷たく、重く。ダンはその言葉に怒りを覚えたが、同時に、強い違和感に襲われた。
恐る恐る、しかし、表面にはそれを出さないように、あえてぶっきらぼうに言葉を紡ぐ。
「……何が言いたい?」
「なんやろうね。じゃ、俺もう帰るわ。ほななー!」
そう言って、コックスはゴーレムをUターンさせ、拠点の方に帰っていく。
「何なんだよ……」
ダンの呟きは、砂漠の風に消えていった。