ARMORED CORE VERDICT DAY“BREAK”   作:KM_ACVDミグラント

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002 紅い紅い炎の中で

 SOUTH ISLANDSの夜は静かだ。月明かりに照らされた砂の大地は、ぞっとするほどに冷たくて、音も無く吹き付ける乾いた風は、ほのかに死の匂いを孕んでいて。ZEBRAの薬物栽培拠点は、パトロールを残した皆が寝静まっていた。

 ダン・G・バローも自室のベッドに体を横たえて、寝息を立てていた。ベッドの傍らには拳銃。いつでも撃てるように、セーフティは掛かっていない。

 カーテンの隙間から覗く月明かりが、部屋の中を照らす。仄かに揺らめくカーテンは――徐々に、激しく揺れ始めて。

「ん……?」

 遠くから響いてくる、地鳴りのような音。微かに揺れる世界。違和感に気付いたダンは、目をこすりながら起き上がる。

「なんだ……? ――いや」

 ダンは、その音に、そして、そのリズムに聞き覚えがあった。

「――AC(アーマード・コア)

 直後、なり響く警報。けたたましいベルの音に、ダンは眠気が吹き飛んだ。拳銃を手に取り、部屋から飛び出す。他の部屋からも仲間が次々と飛び出してきて、その手には、銃が握られている。

 その時、放送が聞こえてきた。

『敵襲! ACだ! ACが襲撃してき――おぁーっ!?』

 爆音と共に消える放送の声。ダンの頭を、焦燥がちらつく。

「おいお前ら!」

 駆けてきたのは、ゴンザレスだった。

「ドックに急げ! マシンを出す!」

「わ、わかった!」

 他のメンバーも、ゴンザレスの号令に従いドックへと駆けていく。

 ダンも急ぎ駆けながら、ドックへと向かって行く。その道中――

 背後で、爆音がした。振り返ると、吹き飛んだ壁と、バラバラになった仲間たち。同時に焦げ臭い血の匂いが、爆風に流れて辺りを満たす。

 ダンは、廊下の窓から見た。目が合った。ぎらぎらと黄金に輝くモノアイ。深紅のフレームの中量二脚型。今回の襲撃者であろう、ACと。左手には、拳銃型のレーザーライフル。その銃口からは、青白い煙が立ち昇っている。

「あ、あああああああああああああああああああああっ!」

「ダン! 振り向くな!」

「……くそっ、畜生!」

 ダンは、前を向いて走り続けた。その間にも、背後からは何かが吹き飛ぶ音。音になってないはずの仲間たちの悲鳴が、ダンの鼓膜を揺らす。

 

 ドックに辿り着けたのは、たった数名だった、その事実に、ダンの顔から血の気が引いていく。

「整備しているヒマはない、乗りこめ!」

 ゴンザレスの号令で、次々と乗り込んでいくパイロットたち、しかし、ダンは――とても、嫌な予感に襲われていた。

「ま、待ってくれ、皆――」

「ぐずぐずしてんなよダン! おら行くぞ――」

 声の主、ダンの同期のパイロット。彼は、防衛型のコックピットに乗り込もうとしていた。だが――“コックピットの中から”吹き上がった爆炎に吹き飛ばされた。

 他の通常兵器も、さらにはACも、次々と爆発が起きて炎を噴き上げる。

「な、なっ」

 地面にへたり込み、呆然とするダン。

 そんなダンの前にぽとりと、吹き飛ばされた男が落ちる。顔の皮がべろりと剥がれ、肉と白い骨が見えている。

「あ、熱い……熱い……」

 男は、そう言ってダンに手を伸ばし――ぱたり、とコト切れた。

 呆然とするダン。ゴンザレスは、「クソがッ!」と荒々しく叫び、壁に拳を叩きつける。

「仕掛けられてやがった。……誰がッ!」

 その時だった。基地の放送から、ノイズが走る。

『ハロー、ハローハロー! アイ・セイ・ハロー! 皆、聞こえとる? みんな大好き“ワイズ(狡猾な)”コックス君やでー! 皆、元気しとる? それとも息の根止まっとる? まーどっちでもえーか。……みぃんな、これから死ぬんやからなぁ』

「……コックス? まさか、お前……!」

『おー! その声はダンやんか、生きとったんやな。で、どーだった? 俺のサプライズ』

「……爆弾を仕掛けたのは、お前か?」

 ゴンザレスの問いに――コックスは、無線越しに大笑いをした。

「――あーっはっはっは! せやで!』

「コックス……コックス! テメェ、ずっと裏切ってやがったのか!」

 ダンは、叫んだ。喉が裂けそうなほどの声で、叫んだ。

『……騙して悪いが、これが俺の使命なんや。死んでもらうで、皆には」

「テメェ、何処に居やがる! 出てきやがれ! ぶっ殺してやる!」

『赤いACの中や』

 その言葉を最後に、放送が途切れた。ダンは立ち上がると、ゴンザレスの方を見た。

「ゴンザレス……残ってる、機体はあるか」

「……あぁ、ある。ACが一機だけな。だが、あれはチューンも何もしてないシロモノだ。あれで挑むなんざ、自殺行為だぞ」

「分かってる。けどよ――!」

「あぁ、それでもお前は乗るんだろ? 急いで起動できるようにしてやる。――殺ってこい。あの狐野郎を」

 

 ―― ―― ――

 

 ドックの奥。たった一機、置かれたAC・

 緑色のフレームに、灰色の装甲が施された、中量二脚型。頭部は丸みを帯びていて、前方の細いスリットからは、光の灯っていない複数のカメラアイが覗く。

 右手にはバトルライフル。左手にはライフル。左の肩部ハンガーにはショットガン。左肩には、白いZEBRAの文字。

 コックピットの中、ダンは小さく息を吐く。外からは、ずっとうるさいほどの破壊音。コックスのACが、皆の家を壊していく音。今こうしている間にも、仲間たちの命が潰えている。命の灯が消えている。それを考えると、ダンの心は冷たく、されど、地獄のように熱く燃え上っていく。

「……良し、メンテナンス完了!」

 ゴンザレスの声が、耳に入る。それと同時にダンは上部のレバーを引き、ハッチを閉じる。

 コックピット内が一瞬の暗闇に包まれた後、モニターが外の景色を映す。目の前には、武骨な厚いシャッター。

 起動したACのカメラアイが、ダンの心を映し出したような赤に輝く。

 ゴンザレスがACから離れて、手を振ってGOサインを送る。

「――行くぞ!」

 ダンはACを囲んでいた足場を弾き飛ばし、ブースターを吹かした勢いのまま、シャッターを突き破った。目の前には、ごうごうと炎を上げる基地と、炎の中に立つ、深紅のAC。

 コックスのAC。

 ダンは操縦桿を強く握り、動かす。

 ACの両腕の武器が、反対を向いているコックスのACを射線に捉える。そのまま、トリガーを引き搾るダン。次々と放たれるバトルライフルの炸裂弾とライフルの大口径弾が、コックスのACの表面で爆ぜ、弾ける。

 コックスのACはすぐに振り向くと、ブースターを吹かして滑るように右へ回避し、ライフルを撃ち返してくる。

 ダンはジグザグに動いてそれを躱しながら、基地を囲むコンクリートの壁に向かって跳躍。壁を蹴って高く跳び、コックスのACの上を取る。そのまま、撃ち下ろそうとするが――コックスのACの両肩が開き、ミサイルが放たれた。左右三発ずつ、計六発のハイスピードミサイル。

 ダンはそれを躱そうとブーストを吹かすが、ミサイルの追尾力が高く、全弾直撃。コンピューターがエラーを吐き、機体が硬直する。

 コックスは左腕の拳銃型レーザーライフルをチャージし、それを三連射。ダンのACの装甲に、大きな焼けた弾痕が三つ。

 揺れるコックピットの中、ダンは叫ぶ。

「クソッ! 何だあの武器……!」

 地面に墜落した機体を、ダンは立て直そうとする。しかし、近づいて追撃をしかけてくるコックスの機体。ダンは舌打ちをしながらも、左手の武器をハンガーのものと持ち変える。

 ショットガン。

 近づいてくるコックスを、ダンは散弾で迎撃しようとする。しかし、コックスはそれを斜め前向きにブーストを吹かせて軽く躱し、いつの間に持ち変えたか、ライフルから換装したレーザーブレードを振り上げる。

 金属のフレームを囲むように、青白く輝くエネルギーの刀身。それは、触れる空気が燃え上がるほどに、異常な熱を纏っていた。

「レーザーブレード……!」

 素人であるダンから見ても、明らかに危険だと分かる。

 ダンは地面を蹴って躱そうとするが――振り下ろされたブレードの轟々と燃え盛る光刃は、ダンの機体の左腕を、まるでバターのように溶かし斬る。

 溶け落ちた左腕の、赤熱した断面を見て、ダンは心底ぞっとした。あとすこし回避が遅ければ、バターになっていたのは自分だったのだから。

 しかし、同時にダンは気が付いた。ブレードを縦に振り切った事で、コックスのACの体制が崩れていることに。

「へっ」

 ダンの口から、乾いた笑みが零れる。

 ダンのACの左肩が開き、六つの弾頭が現れる。炸裂弾頭、ショートレンジミサイル。次々と放たれたそれが、コックスのACを直撃する。コックスのACがさらに体勢を崩し、距離が開いた。それにより、バトルライフルを構えて撃つだけの余裕ができる。

 次々と放たれる炸裂弾が、コックスのACの装甲表面で爆ぜる。装甲を、削っていく。

「くたばれ……ッ! くたばれ、くたばれッ!」

『……まだまだやな』

 無線越しにそんな声が響いたと同時に――コックスは、両肩からハイスピードミサイルを発射した。この距離で防ぐことは、迎撃装置や弾幕武器がなければ不可能。

 全弾のハイスピードミサイルを受け、硬直したダンの機体。コックスは、ブースターを全開で吹かして――

『“しまい”や』

 コックスのACの左脚。取り付けられた大きな盾形の装甲版が突き出される。それは、ダンの機体のコアを蹴り上げ――コンピューターを叩き潰した。

 コックピットの中、割れて火花を上げるモニター。歪んだ内部。ダンの左目に突き刺さった金属片。肋骨を圧迫する、凹んだ計器類。もう、操縦は不能。何かすることも、脱出することも、一矢報いることも、何もできない。

「く、そった、れ……」

 ダンの意識は、どす黒い闇へと沈んでいく。視界は霞み、呼吸も徐々に浅くなっていく。

 コックスは左手のレーザーライフルを構え、機能が停止しランプの消えたACへと向ける。そのまま、チャージを開始して――止めた。

「……やめとこ。ほっといてもそのうち死ぬやろ」

 そう呟いて、コックスは踵を返し、去って行く。

 血まみれのコックピットの中、薄れゆく意識の中、ダンは誓う。

「ころ、して、や、る」




ACピクチャ&フレーバーテキスト
ダン・G・バロー/ZEBRA試作型AC
マルコ・ゴンザレス,Jr.
“ワイズ”コックス
https://www.pixiv.net/artworks/140695232

ACVD対戦DISCODE鯖「ミグラントの集い」
https://disboard.org/ja/server/1465729386073297006
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