ARMORED CORE VERDICT DAY“BREAK” 作:KM_ACVDミグラント
SOUTH ISLANDSの夜は静かだ。月明かりに照らされた砂の大地は、ぞっとするほどに冷たくて、音も無く吹き付ける乾いた風は、ほのかに死の匂いを孕んでいて。ZEBRAの薬物栽培拠点は、パトロールを残した皆が寝静まっていた。
ダン・G・バローも自室のベッドに体を横たえて、寝息を立てていた。ベッドの傍らには拳銃。いつでも撃てるように、セーフティは掛かっていない。
カーテンの隙間から覗く月明かりが、部屋の中を照らす。仄かに揺らめくカーテンは――徐々に、激しく揺れ始めて。
「ん……?」
遠くから響いてくる、地鳴りのような音。微かに揺れる世界。違和感に気付いたダンは、目をこすりながら起き上がる。
「なんだ……? ――いや」
ダンは、その音に、そして、そのリズムに聞き覚えがあった。
「――
直後、なり響く警報。けたたましいベルの音に、ダンは眠気が吹き飛んだ。拳銃を手に取り、部屋から飛び出す。他の部屋からも仲間が次々と飛び出してきて、その手には、銃が握られている。
その時、放送が聞こえてきた。
『敵襲! ACだ! ACが襲撃してき――おぁーっ!?』
爆音と共に消える放送の声。ダンの頭を、焦燥がちらつく。
「おいお前ら!」
駆けてきたのは、ゴンザレスだった。
「ドックに急げ! マシンを出す!」
「わ、わかった!」
他のメンバーも、ゴンザレスの号令に従いドックへと駆けていく。
ダンも急ぎ駆けながら、ドックへと向かって行く。その道中――
背後で、爆音がした。振り返ると、吹き飛んだ壁と、バラバラになった仲間たち。同時に焦げ臭い血の匂いが、爆風に流れて辺りを満たす。
ダンは、廊下の窓から見た。目が合った。ぎらぎらと黄金に輝くモノアイ。深紅のフレームの中量二脚型。今回の襲撃者であろう、ACと。左手には、拳銃型のレーザーライフル。その銃口からは、青白い煙が立ち昇っている。
「あ、あああああああああああああああああああああっ!」
「ダン! 振り向くな!」
「……くそっ、畜生!」
ダンは、前を向いて走り続けた。その間にも、背後からは何かが吹き飛ぶ音。音になってないはずの仲間たちの悲鳴が、ダンの鼓膜を揺らす。
ドックに辿り着けたのは、たった数名だった、その事実に、ダンの顔から血の気が引いていく。
「整備しているヒマはない、乗りこめ!」
ゴンザレスの号令で、次々と乗り込んでいくパイロットたち、しかし、ダンは――とても、嫌な予感に襲われていた。
「ま、待ってくれ、皆――」
「ぐずぐずしてんなよダン! おら行くぞ――」
声の主、ダンの同期のパイロット。彼は、防衛型のコックピットに乗り込もうとしていた。だが――“コックピットの中から”吹き上がった爆炎に吹き飛ばされた。
他の通常兵器も、さらにはACも、次々と爆発が起きて炎を噴き上げる。
「な、なっ」
地面にへたり込み、呆然とするダン。
そんなダンの前にぽとりと、吹き飛ばされた男が落ちる。顔の皮がべろりと剥がれ、肉と白い骨が見えている。
「あ、熱い……熱い……」
男は、そう言ってダンに手を伸ばし――ぱたり、とコト切れた。
呆然とするダン。ゴンザレスは、「クソがッ!」と荒々しく叫び、壁に拳を叩きつける。
「仕掛けられてやがった。……誰がッ!」
その時だった。基地の放送から、ノイズが走る。
『ハロー、ハローハロー! アイ・セイ・ハロー! 皆、聞こえとる? みんな大好き“
「……コックス? まさか、お前……!」
『おー! その声はダンやんか、生きとったんやな。で、どーだった? 俺のサプライズ』
「……爆弾を仕掛けたのは、お前か?」
ゴンザレスの問いに――コックスは、無線越しに大笑いをした。
「――あーっはっはっは! せやで!』
「コックス……コックス! テメェ、ずっと裏切ってやがったのか!」
ダンは、叫んだ。喉が裂けそうなほどの声で、叫んだ。
『……騙して悪いが、これが俺の使命なんや。死んでもらうで、皆には」
「テメェ、何処に居やがる! 出てきやがれ! ぶっ殺してやる!」
『赤いACの中や』
その言葉を最後に、放送が途切れた。ダンは立ち上がると、ゴンザレスの方を見た。
「ゴンザレス……残ってる、機体はあるか」
「……あぁ、ある。ACが一機だけな。だが、あれはチューンも何もしてないシロモノだ。あれで挑むなんざ、自殺行為だぞ」
「分かってる。けどよ――!」
「あぁ、それでもお前は乗るんだろ? 急いで起動できるようにしてやる。――殺ってこい。あの狐野郎を」
―― ―― ――
ドックの奥。たった一機、置かれたAC・
緑色のフレームに、灰色の装甲が施された、中量二脚型。頭部は丸みを帯びていて、前方の細いスリットからは、光の灯っていない複数のカメラアイが覗く。
右手にはバトルライフル。左手にはライフル。左の肩部ハンガーにはショットガン。左肩には、白いZEBRAの文字。
コックピットの中、ダンは小さく息を吐く。外からは、ずっとうるさいほどの破壊音。コックスのACが、皆の家を壊していく音。今こうしている間にも、仲間たちの命が潰えている。命の灯が消えている。それを考えると、ダンの心は冷たく、されど、地獄のように熱く燃え上っていく。
「……良し、メンテナンス完了!」
ゴンザレスの声が、耳に入る。それと同時にダンは上部のレバーを引き、ハッチを閉じる。
コックピット内が一瞬の暗闇に包まれた後、モニターが外の景色を映す。目の前には、武骨な厚いシャッター。
起動したACのカメラアイが、ダンの心を映し出したような赤に輝く。
ゴンザレスがACから離れて、手を振ってGOサインを送る。
「――行くぞ!」
ダンはACを囲んでいた足場を弾き飛ばし、ブースターを吹かした勢いのまま、シャッターを突き破った。目の前には、ごうごうと炎を上げる基地と、炎の中に立つ、深紅のAC。
コックスのAC。
ダンは操縦桿を強く握り、動かす。
ACの両腕の武器が、反対を向いているコックスのACを射線に捉える。そのまま、トリガーを引き搾るダン。次々と放たれるバトルライフルの炸裂弾とライフルの大口径弾が、コックスのACの表面で爆ぜ、弾ける。
コックスのACはすぐに振り向くと、ブースターを吹かして滑るように右へ回避し、ライフルを撃ち返してくる。
ダンはジグザグに動いてそれを躱しながら、基地を囲むコンクリートの壁に向かって跳躍。壁を蹴って高く跳び、コックスのACの上を取る。そのまま、撃ち下ろそうとするが――コックスのACの両肩が開き、ミサイルが放たれた。左右三発ずつ、計六発のハイスピードミサイル。
ダンはそれを躱そうとブーストを吹かすが、ミサイルの追尾力が高く、全弾直撃。コンピューターがエラーを吐き、機体が硬直する。
コックスは左腕の拳銃型レーザーライフルをチャージし、それを三連射。ダンのACの装甲に、大きな焼けた弾痕が三つ。
揺れるコックピットの中、ダンは叫ぶ。
「クソッ! 何だあの武器……!」
地面に墜落した機体を、ダンは立て直そうとする。しかし、近づいて追撃をしかけてくるコックスの機体。ダンは舌打ちをしながらも、左手の武器をハンガーのものと持ち変える。
ショットガン。
近づいてくるコックスを、ダンは散弾で迎撃しようとする。しかし、コックスはそれを斜め前向きにブーストを吹かせて軽く躱し、いつの間に持ち変えたか、ライフルから換装したレーザーブレードを振り上げる。
金属のフレームを囲むように、青白く輝くエネルギーの刀身。それは、触れる空気が燃え上がるほどに、異常な熱を纏っていた。
「レーザーブレード……!」
素人であるダンから見ても、明らかに危険だと分かる。
ダンは地面を蹴って躱そうとするが――振り下ろされたブレードの轟々と燃え盛る光刃は、ダンの機体の左腕を、まるでバターのように溶かし斬る。
溶け落ちた左腕の、赤熱した断面を見て、ダンは心底ぞっとした。あとすこし回避が遅ければ、バターになっていたのは自分だったのだから。
しかし、同時にダンは気が付いた。ブレードを縦に振り切った事で、コックスのACの体制が崩れていることに。
「へっ」
ダンの口から、乾いた笑みが零れる。
ダンのACの左肩が開き、六つの弾頭が現れる。炸裂弾頭、ショートレンジミサイル。次々と放たれたそれが、コックスのACを直撃する。コックスのACがさらに体勢を崩し、距離が開いた。それにより、バトルライフルを構えて撃つだけの余裕ができる。
次々と放たれる炸裂弾が、コックスのACの装甲表面で爆ぜる。装甲を、削っていく。
「くたばれ……ッ! くたばれ、くたばれッ!」
『……まだまだやな』
無線越しにそんな声が響いたと同時に――コックスは、両肩からハイスピードミサイルを発射した。この距離で防ぐことは、迎撃装置や弾幕武器がなければ不可能。
全弾のハイスピードミサイルを受け、硬直したダンの機体。コックスは、ブースターを全開で吹かして――
『“しまい”や』
コックスのACの左脚。取り付けられた大きな盾形の装甲版が突き出される。それは、ダンの機体のコアを蹴り上げ――コンピューターを叩き潰した。
コックピットの中、割れて火花を上げるモニター。歪んだ内部。ダンの左目に突き刺さった金属片。肋骨を圧迫する、凹んだ計器類。もう、操縦は不能。何かすることも、脱出することも、一矢報いることも、何もできない。
「く、そった、れ……」
ダンの意識は、どす黒い闇へと沈んでいく。視界は霞み、呼吸も徐々に浅くなっていく。
コックスは左手のレーザーライフルを構え、機能が停止しランプの消えたACへと向ける。そのまま、チャージを開始して――止めた。
「……やめとこ。ほっといてもそのうち死ぬやろ」
そう呟いて、コックスは踵を返し、去って行く。
血まみれのコックピットの中、薄れゆく意識の中、ダンは誓う。
「ころ、して、や、る」
ACピクチャ&フレーバーテキスト
ダン・G・バロー/ZEBRA試作型AC
マルコ・ゴンザレス,Jr.
“ワイズ”コックス
https://www.pixiv.net/artworks/140695232
ACVD対戦DISCODE鯖「ミグラントの集い」
https://disboard.org/ja/server/1465729386073297006