ARMORED CORE VERDICT DAY“BREAK” 作:KM_ACVDミグラント
『――聞こえるか? これよりブリーフィングを始める』
モニターの中で、くたびれた髪の、長いひげを蓄えた男が言う。ZEBRAの幹部を務める一人だ。気だるそうな顔と目つきをしているが、目の奥の光は異様に鋭い。
暗いコックピットの中、明かりが灯るのはモニターのみ。ダンは静かに、男の声に耳を傾ける。
『複数の敵対組織による俺達ZEBRAの掃討作戦が行われようとしている。主導しているのは涎掛けがべったべたの“LYCAON”の連中だ。奴ら、狂犬病に罹った犬畜生の割には理性があるらしい。小賢しいことに、ここ、VICTORIA CITYを囲むように拠点を設置してやがる。諜報班が気付いたのは、つい12時間前だ』
モニターに、あるポイントの画像が映し出される。そこはVICTORIA CITYの南東、深く広い谷が通った峡谷地帯であった。
『担当のやつがミスってなけりゃ、それぞれの攻撃目標地点が配られたはずだ。そこは、奴等が設営中の拠点に物資を運ぶためのルートだ。お前らにはこれから通る輸送隊を伏撃して、物資の補給路を断ち切ってもらう』
そこまで言うと、幹部の男はけらけらと笑い始めた。
『――奴ら、こんな砂漠のど真ん中に拠点立ててんだ。補給が無けりゃ、あっという間に野垂れ死ぬだろうなぁ。けけけ、今から笑いが止まんないな。だろ?』
そして、こう締めくくる。
『さぁ、始めるか。奴等に地獄を見せてやろう』
―― ―― ――
砂で霞んだ砂漠の空に、風を切り裂く一つの影。
一台の大型武装ヘリが、はるか上空を飛んでいた。その下には、一機のACが懸架アームで吊られている。暗い緑のカラーリングの、白い頭のAC。ダンの、クレイニアムだ。
『――目標地点付近に到達、これ以上の接近は発見のリスクがある。――投下するぞ』
「わかった。投下してくれ、ゴンザレス」
『行ってこい兄弟、死ぬんじゃねぇぞ』
ヘリのパイロット、ゴンザレスがレバーを引くと、懸架アームが解放される。投下されたクレイニアムは、ブースターを点火し、落下の速度を殺しながら降下していく。
着地したクレイニアム。どすん。と重い音が響き、砂が大きく舞い上がる。ダンはペダルを軽く踏んで、地面の感触を確かめる様に少し歩く。
そして、ブースターを軽く吹かして、砂の大地を滑るように進んでいった。
少し進んだダンは、すぐに目標地点に辿り着いた。目の前には深い谷。下を覗き込めば、タイヤやキャタピラの跡が刻まれていることが分かる。ここを通ったなにかが居たことは、疑いようもない。
「目標地点に到達した。このまま待機する」
『了解。俺も上空にリコン装置を飛ばしておく』
「わかった。少しでも反応があれば教えてくれ」
そして、暫しの静寂が訪れる。
『――なぁ、ダン』
「どうした?」
『ずっと、気になっていた事がある』
「言ってみろ」
『コックスが裏切った時、お前は、奴が爆弾を仕掛けたことに気付いていたな? いや、気付いていたとは違うか……マシンに乗り込むあいつらを、お前は止めようとしていたもんな。だが、お前は確実に分かっていた。あのまま乗り込んだら、死ぬってことを』
ゴンザレスは、少し間を置いた。そして、ハッキリと問う。
『兄弟。アレはなんだ?』
「分からない。あの時は――機体の中からとにかく“嫌な感じ”がしたんだ。それが何なのかは、俺にも説明できねぇ」
『――そうか』
そうとだけ返すと、ゴンザレスは小さく嘆息し、運転席のシートに背中を預けた。そして、腕を組み、目を閉じる。
『ま、今の質問に大した意味はねぇよ。別にお前が裏切り者とか疑ってるわけじゃねぇ。ただ、本当に気になっただけだ』
「はっ、だろうな」
その時、ヘリの放った広域リコンから敵反応が。モニターに表示された反応とその座標を見て、ゴンザレスは言う。
『おっと、おしゃべりはここまでみたいだな。9時方向3キロメートル、敵反応複数! そっちに向かってるぞ。装甲トラックと通常兵器の混成部隊だ。見た所ACはいない』
「分かってる」
『ギリギリまで引き付けて奇襲しろ。一機も撤退はさせるなよ』
「あぁ、了解」
ダンはクレイニアムをしゃがませ、じっと、息を潜めた。クレイニアムは薄いが砂嵐の中。対して峡谷の下の視界はクリア。地の利はダンにある。ここから奇襲を仕掛ければ、対処は困難。
徐々に近づいてくる敵反応。
クレイニアムの赤く輝くカメラアイが、敵の隊列先頭、低空で飛行する偵察型通常兵器、“ヘルカイト”を捉える。ダンはその機体をスキャンし、機体情報を見る。パルスマシンガン搭載型、リコンユニットの類は確認できない。
『よし、そのまま引き付けろ』
ヘルカイトを先頭に、隊列はゆっくりと進んでくる。
先頭がダンの目の前に来た瞬間――ダンはブースターを短く吹かし跳躍。そして、全開のブーストを吹かして峡谷の下へ飛び込んでいった。
今度は、落下の勢いは殺さない。バトルライフルとヒートマシンガンを連射し、炸裂弾の雨を降らせる。先頭を飛んでいたヘルカイト型一機、そして、後続のゴーレム型二機を撃墜。そのまま一番近い装甲トラックを踏みつぶし、後続に向かって弾幕を放つ。
しかし、後続の先頭は両腕にAC用の重シールドを張りつけた特殊型ゴーレム。異様にごてごてとした左腕にはヒートハウザーと、パイルバンカーが取り付けられている。
ゴーレムはクレイニアムの銃火器を真正面から受け止め、キャタピラを勢いよく回し突っ込んでいく。
ヒートハウザーが火を噴き、三発の小型榴弾が同時に放たれる。ダンが軽いブーストでそれを躱すと、背後で猛烈な爆音が響いた。
ダンは、左腕の武器をショットガンに換装、同時に、岩壁を蹴って高く跳躍し、もう一度、反対側の壁を蹴る。
高く跳躍したダンは、ゴーレムの後ろに急降下。ゼロ距離で、ショットガンを何発も撃ち込んだ。近距離で最も威力を発揮する、散弾数の多い重ショットガン。散弾の雨を背中に浴びたゴーレムは、前のめりに倒れ、爆散した。
ダンは、すかさず前を向き、残った装甲トラックを破壊しようと構える。
――“ぞくり”。
しかし、ダンは距離を取った。ブーストを全開にし、とにかく距離を。途轍もないほどの嫌な予感が、ダンの背筋を貫いたのだ。直後――もう一台の装甲トラックが大爆発を起こした。岩壁が盛大に崩れていき、砂埃が辺りを覆いつくす。
「――な、何だ⁉」
『ダン! 無事か⁉ 何が起こった!』
「……あぁ、俺は無事だ」
砂埃が少し落ち着いてくる。跡形も無く吹き取んだトラック。吹き飛んだ一帯を見て、ダンは呟く。
「……何が、起こった……?」
『――ダン、お前は運が良いな。他の地点では、爆発で吹っ飛んだ奴が出てる。罠だ、恐らく、輸送部隊は全てフェイク。踊らされたな、連中に』
その時だった。ヘリのモニターに、急に多数の敵反応が。
『これは――なんだと⁉ ACの反応を確認した! 急に現れやがった。さっきまで反応はなかったはずだぞ……!』
困惑するゴンザレス。ダンは、左腕のショットガンを、ヒートマシンガンに換装し直す。
「原因究明は後でいい。――迎撃するぞ」
『……分かった。敵の位置をマークする。死ぬなよ、兄弟!』
遠くから、低空飛行で跳んでくる暗い茜色のAC。風を切る音が辺りに響く。細かい装甲版に覆われた、重量逆関節型。
機体の左肩には、鰻が這ったようなeeLという白い文字。文字の上下にはそれぞれ涎が垂れる並んだ歯と大きなベロという、独特な雰囲気のエンブレムが。
ACは大きな音を立てて着地すると、ダンのいる谷の上に立った。頭部右側の、白く輝くスリットアイでダンを見下ろす。右手には大型のライフル。左手にはガトリングガン。両肩のハンガーには、見慣れない武装を搭載している。
その時ACのパイロットが、無線に割り込んできた。やや高い、男の声。
『私の狩り場に入りましたね? 私は消して獲物を逃がさない、喩えるなら、返しの付いた鰻罠のように。あなたも私の罠の中で、何もできずに藻搔き苦しみ死んでいくがいいでしょう』
そう言って、ACは飛び下がっていく。その姿はあっという間に砂嵐に消え、見えない。
『――SIGNSのデータベースと照合した。罠使いの傭兵“ダークスリーパー”、AC“イールトラップ”。特殊兵装を搭載した重量逆関節型だ。気を付けろ、何を仕掛けてくるか分からん。それと、またリコンが反応しなくなった。あの感じ、ジャミング装置でも積んでやがるな。気を付けろ、リコンは当てにならねぇ』
「――了解」
ダンは操縦桿を握り直すと、ペダルを強く踏み込んだ。機体は大きくターンし、ブースターを全開にして狭い峡谷を突き進んでいく。
谷の上からは、並走するブースター音。付かず離れずの並走。音の位置からして射線は通っていない。
そこで、ダンは脚で無理やりブレーキをかけ、機体を急停止させた。すると、崖の上のブースター音も、大きな衝撃音を最後に止まる。ダークスリーパーも同じく、ブレーキをかけた。そして、そこから動いていない。そう考えたダンは、壁を蹴って素早く崖上に上がる。
「――喰らえっ!」
そして音の止まった位置にバトルライフル、ヒートマシンガンの炸裂弾、そして、両肩に搭載した近接信管ミサイルをフルバーストする。視界に捉えるより先に、ばら撒くような制圧牽制射撃。だが――手ごたえは、ない。
ダンの目に映ったのは――地面に設置された、自律型のセントリーガンであった。
『――掛かりましたね』
ダークスリーパーの声と共に、拡散する高威力パルス弾が襲い来る。セントリーガン達が次々と放つそれが、クレイニアムの装甲を焼き溶かす。
ダンはたまらず飛び下がり、狭い崖の向こうへ飛ぶ。
着地した瞬間、何かが機体の背中で爆ぜた。一つではない、小さい爆発が、クレイニアムを打つ。衝撃で、機体のコンピューターはエラーを吐いて硬直する。
「ぐっ……⁉」
その時、カメラの視界に影が差した、見上げれば、脚を振り上げるイールトラップの姿。振り下ろされる左脚に取り付けられた重い装甲版。ダンはブーストを吹かし、寸でのところでそれを躱す。
『ほう、これを躱しますか』
「――野郎!」
ダンは噛み付くように吠え、武器を構えてイールトラップに近づいて行った。だが――そこで、違和感に気が付いてブースターを止める。
次の瞬間、機体のすぐ目の前で無数の爆発が起きた。
「――なるほど、散布型機雷か」
爆発の直後、目に入ったのはライフルとガトリングを構えたイールトラップ。しかし、ダンは細かく短く、連続でブーストを吹かし、射線から外れた。イールトラップもブースターを用いて旋回し、再び射線に捉えようとするが――この距離では、インファイト機であるクレイニアムの方が早い。
連続で叩き込まれる炸裂弾。イールトラップの機体は徐々に押されるも、重量逆関節の跳躍力を活かして離脱。空中でホバリングしながら弾をばら撒く。
そんなイールトラップに、ダンは近接信管ミサイルを放った。イールトラップの周囲で次々と爆発する六発の近接信管ミサイル。無数に張られた表面装甲が、次々と剥がれ落ちていく。
『ッ小癪な……!』
だが、まだダメージは小さい。
ダークスリーパーはブーストを全開で吹かし、低空飛行で後退する。ダンも同じくブーストを吹かして、イールトラップとの距離を縮めていく。中量二脚と重量逆関節。速度の差が如実に出る。
しかし、ダークスリーパーはコックピットの中でほくそ笑んだ。散布型機雷は本来、追いすがる敵を迎撃するための武器。今こそ、絶好のシチュエーション。
クレイニアムの放つ炸裂弾とミサイルの弾幕を受けながらも回避機動で被弾を軽減。ライフルとガトリングで応戦。徐々に近づく二機の距離。
距離がごく僅かまで近づいたタイミングで、ダークスリーパーは機雷を放った。
「――それをやると思ったぞ」
そう呟くと、ダンは左に飛び退いた。同時に、両腕の武器を換装する、短くブーストを吹かして、イールトラップの距離は極近距離に。
「しま……ッ」
ダークスリーパーは機体を跳躍させようとするが、ダンがゼロ距離で放ったショットガンにより、衝撃で墜落。地面に落ちる。
ダンは、跳躍してイールトラップのコアを右脚で踏みつけた。そして、右腕のヒートパイルを構える。二本の杭が搭載された、重火力タイプ。
「ま……っ、やめ――」
ダークスリーパーは最期に見た。白いしゃれこうべから覗く赤い目。
死神の目を。
ズガン! と凄まじい轟音を立て、ヒートパイルの杭がコアを貫く。コックピット内部にまで到達した杭は、ダークスリーパーの腹を貫いている事だろう。そして、次の瞬間、イールトラップのコアが爆ぜた。内側から、爆発するように。
ヒート・パイルバンカーはその名の通り、HEAT弾頭を搭載している。突き刺したものの内部に弾頭を撃ち込んで、内部から破壊するのだ。
複雑なように聞こえるが、その実態は純粋な暴力。純然たる殺意。
それが、対AC兵器、ヒート・パイルバンカー。
「――ゴンザレス、聞こえるか。イールトラップを撃破した」
『そこそこ名を馳せた傭兵をか――もうエースだな、兄弟』
そして、ゴンザレスは続ける。
『どうやら、拠点は全てフェイクだったらしい。ACが何機も出て本部が手薄な今、一斉に攻勢を仕掛けて来やがった。――ここからが正念場だ、兄弟』
ACピクチャ&フレーバーテキスト
ダークスリーパー/イールトラップ
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ACVD対戦DISCODE鯖「ミグラントの集い」
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