「ふうん、あれがこの街の新しい魔法少女ねぇ」
佐倉杏子は、望遠鏡で病院の屋上にいる美樹さやかの事を覗きながら言った。
『本当に、彼女と事を構える気かい?』
後ろにいるキュウべえが表情を変えぬままで言う。
「だってチョロそうじゃん。瞬殺っスよ。あんな奴」
その言葉とほぼ同時に望遠鏡を杏子は片付けると、キュウべえに向き直る。
「それとも何?文句あるってのアンタ?」
『すべて君の思い通りに行くとは限らないよ?前も言ったけどこの街には…』
自分に向かって歩いてくる佐倉杏子に、キュウべえは忠告をしようとする。
「分かってるわよ、そのことは」
しかし、それは途中で遮られた。
「上等じゃないの、退屈すぎてもなんだしさ、ちょっとは面白味もないとねぇ」
そう言う杏子を無言で眺めながら、キュウべえは思う。
『(暁美ほむらはまだしも…あの少年は手におえない…関わらないのが得策なのだけれど…)』
しかし、そうは言ってもアレが何もしてこないとは思えない。
まず、正体が分からない。
そして、実力も分からない。
何より、目的が分からない。
「黒い」と表現するのがピッタリと思える、赤い目の少年の姿を思い浮かべつつ、キュウべえはただ神無討也が何もしてこないことを祈るしかできない。
そして、もう一つ。
『(君はアレを見ていないからそうやって平然としていられるのさ…佐倉杏子)』
目の前の、赤い髪の少女に腹の内で言ったのだった。
「ここだ」
『この結界は、たぶん魔女じゃなくて使い魔の物だね』
美樹さやかと、鹿目まどかと、キュウべえは、裏路地の前で立ち止まった。
まあ、キュウべえはずっと美樹さやかの肩の上に乗っていただけだが。
「楽に越したことは無いよ、こちとらまだ初心者なんだし」
青いソウルジェムを手に乗せたさやかは言った。ソウルジェムが青く光って魔力に反応している事が覗える。
『油断は禁物だよ』
「分かってる」
そんな会話をしながら路地を進む。鹿目まどかはそのあとをついて行った。
少し進むとすぐに使い魔が現れる。
すぐさま魔法少女に変身した美樹さやかは大量の剣を断続的に使い魔に向けて投げつける。
しかし、命中コースの物は全て黒いナイフに断ち切られる。
文字通り、刃の部分がどこからともなく飛んできた黒いナイフにバターのように切断されていくのだ。
「「『!?』」」
攻撃が阻まれた隙をついて使い魔が逃げていく。
その先に、赤い魔法少女がいた。
「アンタがやったの!?今のは!?」
「いや…、あたしじゃないけどさ…まあいいや、どうせ同じようにするつもりだったんだし」
少し周りを見回したが、肝心のナイフを投げてきた人物は見つかりそうにない。
今は気にしても仕方ないと、赤い魔法少女―――佐倉杏子は美樹さやかに向き直る。
「見てわかんないの?あれは魔女じゃなくてただの使い魔じゃん?」
槍を突き出しつつ、挑発的にそう言った。
「何の真似よ!?貴方どういうつもりなの?」
マスケット銃を構えた巴マミは、先ほど美樹さやかの使い魔退治を妨害した下手人、神無討也にものすごい剣幕で食って掛かった。
一方、討也は平然としているどころか、眼下で始まった美樹さやかと、佐倉杏子の戦いをただ眺めている。
1ミリたりとも貴女には興味ありません、と言うオーラを全開で、銃を向けられているのにマミの方を見ようともしない。むしろ怯えているのは討也に隠れるようにしてそんな間にの様子をうかがうなぎさの方である。
まったくもって気の毒だ。
「まあ、ただの確認作業さ」
なんでもない、当たり前のことをしたかのように討也は言う。まあ、討也からしてみれば魔法少女の武器ってどんなもんの強度なんだろう?と疑問に思って、第二の特典のダークマターで作ったナイフを投げてみただけだ。
ちなみに、先ほど逃げたはずの使い魔は、いつの間にやら討也が鷲掴みにしていて、握りつぶされて苦しそうにもがいている。
自分は一瞬たりとて目を放していないはずなのだが、いったいどうやって捕まえたのだろうかとマミは内心でものすごく疑問に思っていた。が、そんな事よりも今は討也の態度が気に食わない。正直、すぐにでもさやかに加勢したいのだが、今討也を放っておくほうが危険なようにマミには思えたのだ。もっとも、さやかの相手が杏子だというのがものすごく不安ではあるのだが。
「貴方…私の質問に答える気がないの?何故あんなことをしたか聞いてるのよ!?」
「頭の悪い娘だなぁ…ただの確認作業と言っただろう?」
自分に一ミリたりとて視線は寄越さずに淡々と言う討也にマミの我慢は限界だった。
「真面目に答えなさい!!貴方、前これが玩具だと言ったわよね?実際に分からせてあげましょうか!?」
マスケット銃の標準を目測で少年の頭部に合わせる。
危険を知らせるためか、なぎさが討也をゆすったが討也はマミに視線をやったりはしない。今現在討也は、暁美ほむらの登場を待っているのだ。それでも、一応と、ビルの屋上の縁に立ち、裏路地を見おろしながら討也はマミの言葉に半ばめんどくさくなりながら反応する。
「いや?君が持ってるその銃が本物だってくらいわかってるよ?」
何故、巴マミがここに居るんだろう?とか思いながら、討也はそう返した。
「だったら…」
「はぁ…」
マミの言葉は討也がついた溜息で中断される。
そして初めて討也はマミの方に首を向けた。
さっさと話しを終わりにしてしまおうと思っただけだ。
「悪いけどさ、そもそも君と俺は同じ次元で話しているわけじゃ無いのさ。そんなちゃちな武器で俺を傷つける事なんてできないよ、「ティロ・フィナーレ」?だっけ?あれでも無理」
まさか、一度も見せていない自分の必殺技の名前を言い当ててくるとはマミも思っていなかった。平然を装ってはいても内心では動揺している。
「そうだな…核兵器を持って来ればひょっとすればダメージを与えられるかもしれないね。まあ、保証はしないし、それは俺が防御しなければの話だけどね」
視線を再び裏路地に向ける。
「そんこと…やってみなければ!」
「ああ、別にいいけどまた後でにして、ほら、もうすぐほむらちゃんが登場するし?」
まるで未来を予言するかのような討也の言葉に、マミも裏路地に視線を落とす。
ほどなくして、討也の言葉通り、暁美ほむらが現れた。
「くはははッ…さぁて、俺も混ぜてもらいますかね」
楽しげに笑みをうかべた討也が、なぎさを肩車して飛び降りる。
マミも、後を追うように飛び降りた。