「その二人の安全は保障するわ」
「信用すると思って?……って……」
「うわぁ……ここからかよ」
どうやら、暁美ほむらがこの結界内に入ったすぐ後を追うような形になってしまったらしい。
暁美ほむらがちょうど巴マミに拘束される直前で、後ろから来た討也を見つけたのである。
「誰よ、貴方?」
警戒心を隠そうともせずに巴マミが聞いてきた。暁美ほむらと鹿目まどかは驚いた様子で神無討也を見ている。
「怪しい者です」
「それは知ってるわ」
「あれ?知ってたよ?」
「貴方…ふざけているの?」
「え?君ぼっちなの?」
ひくッと、巴マミの笑みが引き攣った。
「喧嘩を売ってるわけね?そうなのね?」
それに対して神無討也は楽しげな笑みを浮かべたままである。
「いや、何もお前に喧嘩売りに来たわけないだろう?少しは頭使えよ?な?」
「じゃあ何をしに来たの?目的は何?」
イラついてるのを隠そうとせずにまたも巴マミが聞いてきた。
と言うかさっきから質問されてばかりじゃね?とか神無討也は心の中で思っていたりする。
「えーとぉ…そうだなあ…………………………………………………………………」
「早く答えなさい!」
「魔女で遊びに来ました。是非捕獲してペットにしたいです!先生!」
「帰りなさい」
「いやでしゅ!」
魔女「で」遊ぶと言うあたり実に神無討也らしいのだがこの場にいるものには伝わらない。
「…はぁ…何コイツ?相手にするの物凄く疲れるわね」
「若者のくせに情けない」
「貴方とそんなに変わらないわよ、それよりもう黙って頂戴」
そんなに変わらないも何も、巴マミは中学3年生。それに対して神無討也は既に軽く数万年近く生きている人外である。
「うん、それ無理♪」
どこぞの宇宙人強硬派の学級委員長の様に言ってみる。
「……」
「わー」
もうめんどくさくなったのか、無言で暁美ほむらと共に神無討也も拘束された。
「ぐッ…今回の魔女はこれまでのとはわけが違うのよ!?」
暁美ほむらが言うも巴マミは聞く耳を持たない。
「そこでおとなしくしていなさい、帰りには解放してあげるわ」
戸惑ったように鹿目まどかが二人の事を見ていた。
「いってらっしゃーい」
場の空気をぶち壊すように右手を振ってバイバイとする神無討也。それを見た巴マミはまたも引き攣った笑みを浮かべた。
「おかしいわね?たとえ片手でも抜け出せないくらいキツく拘束しているはずなのだけど?」
「早くいけよ」
と言いつつ今度は両手を振る。
巴マミはニッコリと笑顔になり。
「お?」
神無討也の両腕を拘束した。
「そこを動かないで頂戴ね?分かったかしら?」
「え?なんだって?」
「……もう良いわ、行きましょう鹿目さん」
「あ……ハイ」
そう言って巴マミと鹿目まどかは奥へと消えて行った。
「よし!行ったみたいだな、あの二人」
「あなたね、「アドレナク」と名乗ったのが言っていたイレギュラーって」
「あれ?アイツと会ったことあるの?」
アドレナクをアイツ呼ばわりするあたり、少なくとも付き合いが長いかあるいはアドレナクと同じくらいにとんでもない存在なのだろう。もしかしたら両方かもしれないと暁美ほむらは考える。
と、ぶちぶちと何かを引きちぎる音が聞こえてきた。
「?……あなたまさか!?」
「うん?どうかした?」
拘束を解いた少年が自分の前に回り込んでくる。
「力技であれを解いたというの?」
「まあ、いくつも方法あるけど一番手っ取り早いし?」
ちぎれるのが当たり前だ、とでもいうような少年。
どう考えてもこれをちぎれるようには思えないのだが…と自分も力を込めてみるがやっぱりびくともしない。
「ああ、いいよ無理しなくて。俺が解いてやる」
そう言いながら少年は自分の影に手を突っ込むと、そこから大ぶりの片刃剣を出してあっさりと暁美ほむらの拘束を断ってしまった。どうやって剣を出したかは知らないが、自分の盾と同じような物だろうと予想する。
着地して改めて暁美ほむらは少年を見る。
髪の色は自分と同じ黒。目は焔のように紅く、顔立ちが整っているためか、今は黒いコートに黒いズボンを身に着けているが、服装が違えば若干長めにした髪も相まって女に見えないこともない。
逆に言えば、姿が特別おかしいわけではない。しかし、それ故に目の前の存在が暁美ほむらには計り知れない。「アドレナク」が「ワルプルギスの夜」程度はどうとでもなると言っていたが、確かに、少なくとも先ほどまでのやり取りで見た目通りの存在ではないということはハッキリした。
「うん?魔女が孵化したのかな?」
先ほど巴マミと鹿目まどかが進んでいった方を見ながら少年は楽しげな笑みを浮かべ言った。
「何故わかるの?」
不思議に思いつつ聞いてみる。
「まあ、長年の経験上、とでも言っておこうかね」
「?」
暁美ほむらには知る由もないが、神無討也は気配を探る事にも優れている。以前転生したことが有る世界でも、何キロも先の相手の視線を感じ取ったり、自分以外に向けられた敵意を感じ取ったりなどという事を可能としている。この世界でもそれは変わらない。もっとも、気配を探ったりする事については、今この場に姿を見せていない相棒の方がチート級だったりする。
「さて、死なれても困るし、俺も行こうかな」
そう言いながら足元をトントンと軽くたたく少年。
「タイム・オブ・ゼロ」
そしてそう一言。
次の瞬間。
世界の「刻」が動きを止めた。