「時間を止めた…。私と同じ事が出来るのね」
「うん?んん…まぁね」
神無討也が時間を止めたのを、「私と同じ事」と表現した暁美ほむらは、実は2つばかり大きな勘違いをしている。
一つ目は、「同じ事が」できるのではなく、「同じような事も」できるということ。
先ほど神無討也が影から片刃剣を取り出したのを、暁美ほむらは自分の盾と同じようなものだと考えていた。これも勘違いの原因の一つである。
が、神無討也にできるのは何も時間を止めたりするものばかりではない。
事前に対象に対し掛けておくことで死亡時にその命を復活させるスキル「リザレクション」
歩くだけで傷ついた肉体を治癒するスキル「ヒール・ステップ」
一定時間どんなダメージもゼロにするスキル「パーフェクト・ガード」
対象をドラゴンに変えるスキル「ドラゴンインジェクション」
魂を奪い取るスキル「ソウル・ハント」
特定の武器の組み合わせでダメージが増大するスキル「リーサルウェポン」
自分の魂すべてを使い辺り一帯を破壊しつくすスキル「ソウル・オブ・ゼロ」
戦場から逃げ出すスキル「バトル・エスケープ」
対象の詳細を完璧に把握するスキル「パーフェクトスキャン」
相手の防御性を低下させるスキル「ミューテッド・ヘル」
などなど、例を挙げればきりがないほどのスキルを使う事が出来る。これらのスキルは、神無討也が最初に転生した世界、「ロード・トゥ・ドラゴン」の世界のスキルである。
つまり、神無討也は時間を止める以外にもいろいろな事が出来るのだ。
もう一つは、まず討也が時間を止めるのに使ったスキル「タイム・オブ・ゼロ」は何も時間を「止める」スキルではない。正確には時間を「制する」スキルである。
つまり、止める以外に、進めたり、戻したりもできる。
ついでに、時間を「止める」だけでも神無討也と暁美ほむらでは大きな違いがある。どう違うのかと言うと、暁美ほむらが時間の中の「自分と一定の範囲」を対象とするのに対して、神無討也は時間という「概念」を対象にしている。
神無討也はこの世界に来る前に見る事は無かったが、劇場版で止まっているはずの時間の中で巴マミが動くことが出来ていたのも魔法の対象が「自分と一定の範囲」であることが関係している。
そもそも、時間「そのもの」を止められるなら停止している時間の中で打った銃弾が相手を貫かなければおかしいのだ。
爆弾だって止まっている間に爆発させればいいだけだ。
時が止まった状況で物が動かないのは、何も物自体が持つエネルギーが消えてなくなったわけではない。時間が止まっている間にだって、止まる前と同じ分だけ同じ方向に同じ量で働いている。
時間そのものを止められるなら、時間が止まっている間に放たれてた銃弾は、時間が動いていようといまいと、そのエネルギーが尽きるまで運動を続けるはずである。
事実、神無討也が時間を止めたときには、相手の腕を切り裂けば、切り裂かれた腕は地に落ちる。
時間自体が止まっていても、止められている間に発生したエネルギーそのものは
逆に、そうならないという事は、停止しているのは時間そのものでは無いという事だ。
もっとも、そんなことを長々と話してやる気には神無討也はならなかった。
まあ、ついでに言うと先ほど述べた違いは出来る事の違いにも繋がったりするのだが、それを教えてやったからと言って暁美ほむらの魔法に何か変化があるわけでも無い。ちなみにこのことを知っているか知らないかでは、神無討也の方はできることに差が出てきたりする。
つまり、先ほど述べた違いはあくまで効果の「対象」であって「範囲」とはまた別の話だという事である。詳しいことは後で実践して見せよう。
この神無討也の考えが正しければ、アドレナクが寄越してきた三番目の特典「指定した範囲を巻き戻す能力」を使わなくても「ある事」が可能になるはずである。
とりあえず自分の名前だけを互いに紹介して(討也はほむらの事を知っているのだが)、とっとと魔女の居る結界の奥に歩いていく。
手術中、と書かれた扉を開けると、ちょうど巴マミが黒い芋虫の様な魔女に頭を齧られそうになっているところだった。かなりいいタイミングで時間を止めることができたようだ。
「よし、じゃあ捕獲しますか」
「……え?さっきのは冗談で言っていたわけではないの!?」
てっきり巴マミをおちょくっている発言だと思っていたほむらは、討也が当たり前のように言ったことに驚いた。
「うん、試したい事もあるからね」
先ほど片刃剣を出したとき同様、自分の影から魔女が入るサイズのコンテナのようなものを引き摺り出す討也。
「…………それに入れるつもりね?」
「その前に時間停止を解くけどね」
「え?でも…」
それでは巴マミが助からないのではないだろうか?
と、ほむらが思った瞬間には討也は時間停止を解除していた。
魔女が大きな口を開けた状態で巴マミを見下ろしている。だが、一向に口を閉じる様子がない。時間は既に進んでいるはずなのだが…?とほむらが思っていると、それは今まさに食べられそうになっていた巴マミやその様子を見ていた二人と一匹も同じなようで、同様に不思議そうな表情を浮かべていた。
そこでほむらは気づく。
「まさか……魔女の時間は止まったままなの!?」
驚いた声を上げたほむらの方を、討也以外の全員が振り向いた。と言うかさっきまでいなかった人間の声が聞こえたのだ、当然驚きもするのだが。
が、ほむらをみた全員はすぐにその少し前に立っている討也の方を見た。
「転校生と……誰そいつ?」
青いショートヘアーの少女、美樹さやかが敵意の籠った声で聞いてくる。まあ美樹さやかは暁美ほむらを敵視しているところがあるし、それと一緒にいる討也を敵視してもおかしい事ではない。
「貴方……あの束縛をどうやって解いたの?」
「普通に?」
とりあえず美樹さやかの疑問には誰も答えず、巴マミの質問に対しては討也が楽しげな笑みを浮かべナメきった回答をした。
まともな答えが返ってこないと分かってか、巴マミは視線をほむらへと移す。
「邪魔をするなら容赦はしないわよ?」
と威嚇。それに対してほむらは。
「分かっているわ」
と、短く答えた。
確かにほむらはまだ変身していない。一応警戒レベルを下げた巴マミはすぐに黒いコートの少年にマスケット銃を向けた。
が、すぐにキョトンとした表情になる。
先ほどまでいたはずの少年が何故かいなかった。
「こっちだよ」
と言う声の方向を見ると、動かない黒い芋虫の様な姿の魔女をぐいぐいと巨大なコンテナに押し込んでいる少年の姿があった。
「「「「「 」」」」」
キュウべえも含めた討也以外の全員の呼吸が止まった。
「いえ、まさか…普通に力技で押し込むなんて……」
影からコンテナを出したの同様クレーン車なんかを出して入れるのかと思ったら普通にそこは手でやってのける討也に呆れた声のほむら。
「え?それだと時間かかるじゃん?」
当然のように討也は言う。
「……捕獲してペットに…って冗談じゃなかったの!?」
呆然とする巴マミ。訳が分からないという顔の二人と、討也をじーっと観察する小動物が一匹。
完全にコンテナの中に魔女を押し込んだ討也は自分の影を広げてそこにソレを放り込んでしまった。
完全にコンテナが討也の影の中に消えると同時に、魔女の結界が消え去り、元の病院の自転車置き場へ景色が戻った。
『いやいやいやいや、わけがわからないよ』
さて、シャルロッテを捕獲した討也さん。いったい何をするつもりでしょうか?