景色が元に戻った。
が、巴マミはいまだに変身を解いておらず、マスケット銃を構えたままだ。
つまり、今なおこの場は緊張した空気が張り詰めて……るわけがない。
「とりあえず、飯と寝床の確保が最優先だな」
食う必要も寝る必要もない人外が何を言っているんだ?とでも、ここに討也の相棒がいたなら即座にツッコんだだろう。
「忘れてない?貴方の命は私が握ってるのよ?」
苛立ち気味に巴マミがマスケット銃の銃口を討也に向けたが。
「あー…うん。何にしようかな、寿司…ピザ…つーか住所無いから出前取れなくね?仕方ない普通にファミレスにするかぁ」
銃口を向けられている者の考える事とは到底思えないことを延々と考えている。
「私が撃たないとでも思っているの?」
ストレスMaxな表情で引き金を今にも引きそうな巴マミ。
それを見て暁美ほむらは何かした方が良いかと考えたが、討也もさすがにこの状況が理解できなくはないだろうと思い、しばらくは傍観者に徹することにする。
「くはははッ!そんな玩具で?」
「あ、理解してなかったこの人」
討也の返事に思わずガックリするほむら。
仕方ないと、変身しようとする直前に、声が割って入った。
『まあまあ、落ち着くんだマミ。ここは穏便に。そこの君、君はいったい何者なんだい?』
みんな大好き!マスコットのキュウべえ君が場を収めて討也に話しかけた。
「なあ、ほむほむ。この近くでどこかレストラン知らない?」
スルー。
「ほむほむって…私の事よねソレ?その呼び方はやめてほしいのだけど……」
と言いつつ一応携帯で地図を呼び出し見せてやる。
討也は、ポケットからスマホを出すと地図の部分だけをカメラで撮った。
この世界にはまだ携帯電話しかないのでほむら達はキョトンとする。
一人、いや一匹、納得いかないのがキュウべえだ。
『あれ?僕の姿見えてない?よし、見えるようにしたよ!おーい!君はいったい何者なんだい?』
「よし、もうここに用は無いかな、じゃあね」
フォルダに写真が記録されていることを確認すと、病院の敷地外に向かって歩き出す討也。
哀れ小動物。またもスルー。
「待ちなさいよ!あの魔女をどうするつもりよアンタ!?」
キュウべえが討也に無視されているのはスルーして、美樹さやかが討也に食って掛かる。
しかし、討也は残念な子を見るような目で美樹さやかを眺めつつ。
「は?ペットにするってさっき言っただろ?」
「えーとゴメン。私多分その時いなかった」
「ちゃんと人の話聞けよな…これだから最近の若い者は」
「ヤバい、会話にならない」
唖然とする美樹さやかの呟きを無視して敷地外に歩いて行ってしまう討也。
『ねえ、待ってよ。見えてるよね?聞こえてるよね?ねぇってば』
そう言いながら討也の肩に這い上がったキュウべえもそのまま一緒に敷地外に消えて行ってしまうのだった。
ちなみに断固として討也は小動物には無反応である。
「いらっしゃいませ~。おひとり様ですね?お席は禁煙席と喫煙席どちらがよろしいでしょうか?」
「禁煙席で」
「かしこまりました一名様ご案内で~す」
「こちらへどうぞ」
と、レジカウンターに居るのとは別のウエイトレスが席まで案内してくれる。窓際の席だ。
席に着くと討也はすぐにメニューを見始めた。
夕食時にはまだ早く、昼の時間は完全に過ぎているためか客の姿もほとんどいない。
肩に乗っかっていた小動物が、テーブルの上に降りるとチョコンと向かい側の端に座った。
『ねえ、君は僕を無視して楽しいのかい?』
すっごく楽しい。
とりあえず無反応のままメニューを流し見、呼び出しボタンを押す。
「はい、ご注文お決まりでしたら御伺いします」
すぐにウエイトレスが来たので注文を開始する。
「えーと、このページの全部」
「」
『』
「は、冗談で、ミックスグリル二つに、タンドリーチキン&ピラフ二つ、野菜たっぷりタンメン二つにキャラメルバナナのパンケーキ、あと、おこさまランチ、ドリンクバーも」
訂正したのにいろいろ突っ込みどころ満載である。
「は、はい…かしこまりました…」
戸惑いつつも席を離れていくウエイトレス。
さっさとスープとオレンジジュースを席まで持って戻ってくる。
席についてすぐさまスープを飲み干し。
「さて…」
と呟く。
目の前に座る小動物はその呟きの意味を勘違いした。
『お?やっと話す気になってくれたのかい』
「今のうちにデーザトも決めておくか」
『あれだけ注文したのにまだ食べるのかい?しかもデザートっぽいの注文してたよね?』
その言葉もスルーしつつ待っていると、しばらくして注文したものが運ばれてきた。
「さてと…」
『うん、さすがに期待しないよ?これから食べるんだろう?』
「座れば?」
と討也が横を見ると、暁美ほむらが立っていた。まあ先ほど地図を討也に見せたのはほむらなのだから行き先を知っていても不思議ではない。
「ええ」
と短く答え討也の向かい側に座る。仕方なくキュウべえはテーブルの端に移った。
「食べるかい?」
と、討也はおこさまランチを差し出して言う。
「なぜおこさまランチなのかしら?」
めちゃくちゃ嫌そうな顔でほむらが言う。
「そのために注文したからね」
『なんて無駄な事を、僕が食べるよ』
「そちらの方が良いわ」
と、討也もほむらもきゅうべえを無視し、ほむらはパンケーキを指さした。
「全く……仕方ないなぁ」
苦笑しながらも、討也はほむらの前にパンケーキとおこさまランチをおいてやる。
「………おこさまランチは食べないといけないのね?」
「うん」
溜息をつくほむらと対照的に、楽しげな笑みを浮かべ討也はうなずいた。
『ねえ?僕のは無いの?』
アドレナク『さて、討也はどこのレストランに来たのだろうね?』
※おこさまランチ以外がヒントです。