討也が(ついでにその肩に乗っかってついて行ったキュウべえも)病院の敷地外に消えて行ってからしばらく後の事である。
その場に取り残された4人はしばらくの間呆然としていた。
そもそも何をしに来たのか不明な上に、ほむら以外は討也の名前すら聞いていない。
それに手の内もわからない。
「あっれって……あれも魔法だったんですかね?」
さやかがしばらくしてから口を開くが、答えられる者はいない。まず魔法少女じゃないし、少女ですらないし。
「二度と関わりたくないわね……疲れるもの」
主に討也の相手をして精神もライフも削られたマミはうんざりした顔をしている。
「あの人…ほむらちゃんの知り合いだったの?ほむほむって言ってたし…」
この4人の中では一番友好的だったためにまどかは確認してみる。
「違うわ、魔女のところにたどり着くまでの間に名前を聞いただけよ。あとその名前は…」
「まあ、今回はある意味では命を助けてもらったって事もあるから何も言わないけど……暁美さん。…友達はちゃんと選んだほうがいいわよ?」
何故かマミに優しく諭されるほむら。
「いえ友達じゃなくて、そもそも知り合いでも…」
「行きましょう二人とも」
聞く耳持たず3人も行ってしまった。
「……はぁ」
とりあえず、討也の行き先を知っているほむらは、若干納得いかない思いを感じながらも、討也の後を追うことにした。
そして今に至る。
何故自分がおこさまランチを食べる羽目になっているのだろう?
恐らく聞いても答えてはくれないだろうと、ほむらはさっさとおこさまランチを片付けパンケーキに移る。さほど量が多くないのは助かった。
「それで?何の用?」
6人分をあっさり平らげ平然としている討也に得体のしれない何かを感じながらも、ほむらは答える。
「先ほどの魔女をどうするのか気になったのよ」
ところで、おこさまランチを自分が食べ終わるまでにすべて食べ終えているとは、一体どんな食べ方をしたのだろう。
『それは僕も気になるね。まさか本気でペットにするとは思えない』
「え?ペットにするけど?」
ノータイムで何言ってんの?と言う顔で討也がキュウべえの方を見る。
『』
やっと反応してくれたことよりも、本気でペットにする気でいた事の方にキュウべえは絶句した。
「ああそうだ、お前アドレナクとはどこであったの?「白い世界」に呼ばれた?」
「そうよ」
「ふーん。つまり俺が向こうにいるときには決まってたわけか…くははははッ!面白い…」
討也の呟きの意味が理解できなくて、ほむらは首をかしげる。「向こう」と言うのは討也が前に居た世界の事であるが、そんなことは知る由もない。
『アドレナクって誰だい?人の名前だよね?』
残念ながら「人」ではありません。
「こちらも聞いておきたいのだけれど、何故あんな存在が手を貸してくれるの?その真意は何?」
キュウべえのように、都合の良いことを言って人をだますような輩を知っているため、簡単には討也やアドレナクを信用できないというのがほむらの本音だ。
「うーん。あとで教えてやるよ」
と言っても討也も知っているわけでは無いので予想することしかできない。
だが、これまで討也が転生した世界にいた、人間が言う「神」ではなく、実際に世界を作り出した神が言う「神」はいずれもアドレナクの事を明確に敵視していたから、もしかすると自分を使って敵対する神を倒させているだけなのではないかと討也は予想している。
『ちょっと待って、さっき反応したよね?見えてるよね?なんで無視するのさ?』
「見えてても見たくない的なアレだよ。耳から耳が生えてるなんてキモいじゃん?」
『それは……僕にはどうしようもない』
「耳切ってみようぜ?」
『そんな軽いノリでナイフを近づけないでよ…しかもなんで猫耳を切ろうとしてるのさ?』
やり取りを見ていたほむらがプルプルと何かを耐えるように震えているのはこの際無視することにする。
耳を切ろうとするのを3秒で飽きた討也は、次の提案をした。
「じゃあさ、前足切り落として後ろ足で二足歩行してみようか?因みに切った前足は猫耳の間に取り付けるか?違和感ないだろう?」
『あるよ。君がそんなことをする意味に違和感しか感じないよ』
「良いじゃないか、代えの身体なんていくらでもあるだろう?減るものでもないしやってみようぜ?」
何気なく討也が言った言葉。しかしキュウべえはピクリと反応した。
『何故僕らの身体に代えがあると知っているんだい?』
得体が知れない…いや、底が知れない。とキュウべえは目の前の少年への警戒レベルを上げる。
だが、討也はなんだそんな事か、とバカにするような目でキュウべえを見た後に、すぐにさっきの表情が嘘みたいな明るい楽しげな笑みを浮かべさらりと言った。
「俺がお前に気付かれないうちにお前の記憶や完全なデータを解析する手段を持ってないとでも思うのかい?インキュベーター?」
『!?』
持っていることが当たり前だとでも言うような討也にキュウべえはまたも言葉を失い、ほむらも唖然としている。
実際にそれをしたかどうかは別として、対象の詳細を完全に把握するスキル、「パーフェクトスキャン」を使えばそれも可能という事だ。
動揺をすぐに消したキュウべえはなんでもないというように。
『感情の無い僕に恐怖を与えるとは……やるね』
「そう?この程度で恐怖を与えるとか言われてもねぇ?」
オレンジジュースを一瞬で飲み干した討也は、またも楽しげな笑みを浮かべ。
「望みとあらば今すぐこの世界を壊すことだってできるよ?」
『そんなことは!…』
今度は動揺を消すことなどできなかった。
「ああ、しないけどねぇ。例え神様に勝つ事が出来たって、面白くなくちゃあ意味がないだろ?」
逆に言えば面白ければやるのだ。
どうという事もない、と討也は立ち上がると、パンケーキをモグモグしていたほむらに言う。
「それじゃあ行こうか?さっきの魔女をどうするか気になるんだろ?」
先ほどのやり取りなどなかったかのような態度である。
いや、実際は討也とキュウべえ以外にあのやり取りを認識できたものは居ないのだ。
キュウべえは気付く事すら出来なかった。
オレンジジュースに討也が口をつけたあの瞬間。時間そのものが停止させられていたことに。
もっとも討也にとってはちょっとした悪戯程度の認識でしかない。
レストランを出ていく二人の背中を眺めつつ。
『一体なんなんだ…「アレ」は?』
と、キュウべえは呆然と呟いた。
討也とほむらは適当なビルの屋上まで登ってきていた。
「ここで?」
「うん?まあどこでもよかったんだけどね?」
場所が問題ではないらしい。おそらくわざわざビルの上に上ったのは討也の気分と言ったところか。
「さて、目を閉じたほうが良いよ?最初は吐き気がするってみんな言ってたし」
何のことだと思いながらも目を閉じるほむら。
討也は軽く自分の足元の影をトンと足で叩いた。次の瞬間には討也とほむらを討也の足元から広がった何かが呑み込んでいった。