足元から、地面の感覚が消えうせた。
そう思った次の瞬間には、また地面の感覚が戻っていた。
目を閉じえていても分かることが一つ。それは周囲から音が消えたという事だ。街の雑踏も、風の音も、何もかもがやんでいた。これは、この時間軸が始まる直前に自分が招かれたあの「白い世界」と同じだとほむらは思った。
「もう良いぞ」
討也の声に目を開ける。
それから周囲を見回したほむらは、討也からしてみれば月並みな質問をした。
「ここは…どこなの?」
まあ、最初にこう尋ねるのは当たり前と言えば当たり前なのだが、過去に転生した世界では常識はずれの存在と面識のある討也である。そんなほむらの人間らしい反応が少し面白く感じる。
「俺がずっと前に作った「空間倉庫」だ」
「整理のできてない典型的な例のようね」
言葉通り、アドレナクの「白い世界」とは少し違う灰色の空間には、さまざまなものが散乱していた。もっとも足の踏み場もないというほどではない。そもそも色が均一なためこの「空間倉庫」の広さが分からないが、かなりの広さがあるのだろう。
何となく上を見たほむらの顔がキョトンとした。
月のようなものが浮かんでいる。色がおかしいが地球から見える月とよく似ていた。大きさは距離間の問題か月の3倍はあるように見える。
「ああ、あれか、まあ大きさは月の3分の2程度だろうな。半分よりは大きいと思う」
ほむらの視線を追った討也がサラリと言う。
いや、待て。
月の3分の2程度の大きさの物体が、今自分が立っている場所からは月の約三倍の大きさに見えている?
倉庫、と言うからどれほどのサイズかと思えばめちゃくちゃ広いようである。
「まるで一つの世界を丸ごと物置に使っているようなものね」
とりあえずスケールが違いすぎるというのは瞬時に理解した。
「まあ、あの月もこの倉庫の備品の一つだけどね?」
どうやって入れたのだろう?
とりあえず色々と突っ込みたいところが多すぎる。地面に転がっている物もものすごく気になる。時代も世界観もバラバラなものが大量に転がっていた。ジャンルも全くチグハグである。可愛らしいデザインの赤いガトリング砲が転がっているかと思えば、その隣には何に使うのか全く分からないコンピューターが置かれている。その横には見たこともないドラゴンの様な生物が横たわっていた。
何このカオス空間?
ほむらが周りを見て色々な事を考えていると、討也がいつの間にか消えていた。慌てて探してみるとかなり離れたところへまっすぐに歩いて行っていた。ほむらもそのあとについていく。
討也が足を止めたのは、先ほど魔女を押し込んだコンテナの前。
さっさとコンテナから魔女を引き摺り出した討也は様子を見ていたほむらに向き直ると楽しげな笑みを浮かべ言った。
「さて、それじゃあ見せてやる。一度しかできないからよく見ておけよ?」
「ええ」
うなずく。
それを聞いた討也は、今もなお時間を停止させられているためか、ピクリとも動かない魔女にゆっくり近づきその手を伸ばす。
そして魔女に触れた。
わざわざ触れたのは、そうした方が「範囲」のコントロールがしやすくなるからだ。
当然今から行う操作の「範囲」はその魔女なのである。ちなみに「対象」は魔女そのものの魂だ。
そして、行う「操作」自体は時間の巻き戻し。
時を制するスキル「タイム・オブ・ゼロ」を発動させる。
「操作」に従って、魔女の魂が「巻き戻し」されていく。
魔女の身体が一点に集まりジュエルシードの形状に。
今度はそれが魔法少女の持つソウルジェムへと変わる。
さらに「巻き戻す」。
ソウルジェムが光を放出しながら消滅し、ほむらからは見えなくなる。
当然だ。ただの人間の魂になったのだから。
ここまでであれば、ただ単に魔女を少女の幽霊に変えただけの話。だが、討也の目的は当然ここではない。
討也の目にはしっかりと見えているその魂に、討也は対象の詳細を完璧に把握するスキル「パーフェクトスキャン」を掛け情報を読み取る。そして、最初の世界に行く前に受け取り、今なお変更されていない「二番目の特典」影や闇から形状、性質を自在にコントロールできるダークマターを制作する力、を使って少女の「魂の器」つまり肉体を作り出した。
少女がいつ魔女化したかは知らないが、既に肉体は無くなっている可能性もある。有るか無いか分からない物を探すよりはここで作ってしまった方が手っ取り早い。
討也は制作した肉体に少女の魂を重ね定着させた。
魔女を人間に戻す。これが時間操作の魔法を使えながら、効果の「対象」が自分と一定の範囲であったがゆえに暁美ほむらには不可能であったこと。
もしほむらの魔法が討也と同じ「対象」、つまり時間の概念そのもに干渉できるならば、この操作を行う対象となる人物の肉体が残っていれば、ほむらにも同じことができたかもしれない。
「そんな…方法がまさか…」
考え付きもしなかった。いや、そもそも思いついた所で結局できないのだが。
しかし、魔女をあっさりと元のただ人間に戻して見せた神無討也は、やはりどうという事もない、と言った風である。
「まあ、今回は実際に思ったと通りになるか試しただけだけどな」
と、まるでテスト返しで当たっていると確信していた問題に○がついていたときの子供の様な笑みを浮かべていた。どんな笑みだ?
少女を担いでさっさとここを出るぞ、と言い出す討也を見て、ほむらは一つの疑問がわいた。
「もしかして、普通の女の子に戻ると分かっていてペット云々と言っていたのかしら」
「当たり前じゃん?」
「………」
とりあえず通報しておこうと心に誓うほむらであった。