東方廻転界 〜幻想郷唯一の「境界術師」に関する一記録〜   作:ゆっっくりなつめん

1 / 2
拙作ですが、よろしくお願いします。


プロローグ
プロローグ壱 〜2002年8月31日〜


??週目


 

 むせ返るような鉄のにおい。服を染め、辺りに飛び散る赤。

 身体から力は抜けていく。

「がはっ…」

 吐き出す息の代わりに、口からは赤い熱が溢れていく。

「ぁあ、く、そ……ま、ただ…"また"、俺は……」

 

 また、彼女を救えなかった。

 

 目の前にいるのは、紅白の衣装――俗に言う巫女服――に身を包んだ、未だ少女と呼ぶべき歳の一人の人間…その亡骸。

 

 彼女の名前は、博麗(はくれい)霊夢(れいむ)

 この地―幻想郷(げんそうきょう)を管理する、『博麗の巫女』と呼ばれる存在。幻想郷の要ともいえる。

 しかし今、そんな彼女はもう…息をしていない。

 そう、彼女…博麗霊夢は、もう死んでいる。

 

 何度も見た光景だ。

 それなのに俺は、もうとっくの昔に涸れ果てたであろうはずの涙を、また流す。

 

「……」

 ひとしきり泣いて、おもむろに俺は、震える手で懐から懐中時計を取り出そうとし、取り落とす。

 もう、腕も言うことを聞かないのだ。

 落ちた時計は少し転がり、独りでに蓋が開いたまま止まる。金のベゼルに金のチェーン、ありふれたデザインの懐中時計だ。

 刻、また一刻と時を刻む時計…

 不意に、その輪郭が…淡く、蒼い光を纏う。

 そして―――その針が、逆向きに回りだした。

 ああ…この感覚も"また"だ。

 また、繰り返す。

 また、巻き戻る。

 また、同じ時間が始まる。

 もう何度目だろうか…彼女の死も、巻き戻る時計も、時間も。

 この絶望も、もう何度目の事だろうか。

 今となってはもう、ほとんど覚えていない。

 

 できる事なら、逃げ出したい。

 もう、彼女が死ぬ姿を見たくない。

 だがこの時計は、それを許さない。

 無情にも、また時は(まわ)り──俺の身体はまた、"一ヶ月前"の幻想郷へと戻る。

 

「"また"、始まった。」

 

 同じ森、同じ空気、同じ世界。

 あと一ヶ月もすれば、また彼女は死ぬ。

 俺はあと何度、これを繰り返すのだろう。

 あと何度繰り返せば、俺はこの牢獄から逃げ出せるだろう。

 

 懐中時計に視線を落とす。

「もう、終わらせてくれよ…」

 そう呟くも、時計はうんともすんとも言わず――また、一ヶ月(じごく)が始まる。

 

「いつから、だったかな…」

 時計を懐にしまい、ほんの少し、物思いにふける。

 だが、すぐに思い直す。

 

 そんな事、今はどうでもいい。

 今はただ、彼女を守るために、救うために、動き出すのみ。

 何度も何度も繰り返し、今や当たり前のように掴んだ、霊力(れいりょく)の感覚。

 それをまた動かし、空に足場を創り出し、彼女が住まう所、博麗神社へと駆ける。

 

 道中に俺は、彼女の顔を思い浮かべる。

 屈託のない笑顔、頬を赤く染めて怒る顔、その他にも…様々な彼女の表情を思い浮かべる。

 

 そして、俺はまた性懲りもなく、

「今度こそ…俺はお前を、

 霊夢を…助けてみせる。」

 そんな、叶うはずのない望みを呟きながら。

 


 

 何故、蒼生は終わらない戦いに身を投じることになったのか。

 全ての始まりは、彼が過ごした時間にして何年も前まで遡る。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。