瞬撃のクールストライカー(表向き)   作:K19

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前作主人公というイメージで書いています


一旦離れよう

 この世界には誰もが夢中にあるホビーがある。

 その名もガジェット・バトル。大人の掌サイズのフィギュアのような見た目をしているが、胴体部分には小型の動力源──コアエンジンを有し、それに連動して手足も人間のように自由自在に動く。

 操縦者──バトラーのテクニック次第で玩具の範疇を超えた動きも可能。

 そして、ガジェット・バトルという名前が示す通りこの玩具の最大の目玉は対戦にある。

 自分に合ったカスタマイズをガジェットに施す。四肢、胴体、頭部、背部と多数の部位の外装をカスタムが可能。パーツによって統一することで別形態へと変形を可能とする。売りである自由からやや離れてしまうが、変形機構に心掴まれた人たちも少なくはない。

 レギュレーションで徒手空拳か武器で戦うかも選択が可能。そこからバトルロワイアル形式やタイマン戦などバトル方式も様々。

 老若男女問わず幅広く好まれている人気ナンバー1ホビー。数多のバトラーの中の一人が僕であった。

 幼い頃から物静かで大人びていると両親や周りの大人たちに言われて来た僕だが、実際の所は自己主張が苦手なだけに過ぎない。言うべきことを言わずに黙っているのが我慢強く、大人っぽいと勘違いされているのかもしれないが、僕からすればそのせいで後悔を何度もしてきた。

 そんな僕が初めて両親に我儘を言ったのは、僕が小学生の時であった。

 率直に言えば一目惚れであった。

 ショウケースの中に収められ、ポーズを決めるガジェット。それを見た瞬間から心奪われた。

 甲冑のような銀色の装甲。丸みを帯びた部分もあれば肩や腕には鋭利なパーツが付けられている。照らしているライトが反射し、装甲が冷たい光を放つ。

 子供の頃に見ていた様々なヒーロー。それらのカッコ良い部分だけを集めたような外見に子供心が鷲掴みにされた。

 いつの間にか姿を消していた僕を心配し、探して見つけた時には僕はそのガジェットに釘付けになっていた。両親が声を掛けて来るまで気付かないぐらいに。

 両親に声を掛けられ、開口一番──

 

「これを買って!」

 

 ──とショウケースのガジェットを指差してねだった。

 あれだけ大きな声を出して我儘を言ったのは恐らく初めてだと思う。両親も僕が急に大きな声を出したので目を丸くしていた。

 でも、両親は僕の我儘を快く許してくれた。今思うとあの頃のガシャットは子供が遊ぶには少々高価な玩具であった。でも、両親は値段に渋ることなく僕に買い与えてくれた。あの時のことは今でも感謝している。

 ショウケースにあったガジェットが箱に収められた状態で僕の所へ来た。

 箱の中のガシェット。兜のような形をした頭部には目に当たる部分に横一文字のスリットが入っている。

 そのスリットの奥にある目を見つめながら僕は言った。

 

「よろしく! 僕のガジェット!」

 

 あの時の僕は年相応に目を煌かせていたと思う。

 その日以降、僕の世界は一変した。新しく手に入れた相棒を中心とした生活が始まった。

 説明書を読んで操作方法を学び、歩かせたり走らせたり跳ねさせたりして動作を一つ一つ学び、覚えていく。

 ある程度自由に動かせるようになったら、専属のゴーグルを付けてガジェットの視界を共有する。

 小さくなった僕が見た世界は広大であった。

 ガジェットの視点から見た僕の部屋。ベッドはまるで立ち塞がる壁であり、机は聳え立つ城のようで圧倒された。

 今まで当たり前のように見ていたものが、ガジェットを通じることで未知なるものへと変わる。

 小さな部屋の大きな世界で僕は相棒のガジェットを思い切り動かしていた。本を積み重ねれば荒野の岩山のようになり、それを足場にして次々と飛び移らせて遊び、鉛筆やビー玉を地面に転がせば行く手を阻むトラップとなる。

 そうやって工夫しながらガジェットを楽しみ、遊び時間が溶けるように消えていった。夢中になり過ぎて妹に構わなくなり、怒った妹に泣きながら噛み付かれたのは今となっては良い思い出である──今の妹に言ったら刺すような目で睨まれるだろうが。

 説明書を読むこともなくなり箱の中に仕舞われ、操縦の際の指捌きもそれなりに出来るようになったと自負し、一人でも出来るイメージをゴーグルに投影させたCPU戦で負けなくなった辺りで遂に僕はデビューを果たした。

 ガジェット・バトルの醍醐味である対人戦に。

 どちらかと言えば人見知りな方の僕には対人戦は中々にハードルが高かった。ガジェット・バトルをやっている友達を知らない。そもそもあまり友達がいない。僕は友達作りが下手であった。数少ない友達もガジェット・バトルをやっていなかったので、僕は初対面の相手とバトルするしかなかった。

 でも、そんな内気な僕でもバトルが出来る素敵な場所がある。

 ガジェット・バトル専用ショップGADGET BATTLE OFFICIAL BASE通称G-ベースである。

 専用ショップとあってガジェット・バトルの様々な部品やカスタムパーツ、専門雑誌やメンテナンス用のツールなどが置かれてある。

 G-ベースで最も注目すべきはガジェット・バトル専用バトルフィールドである。一対一のバトルの為の正方形型のフィールドやその数倍大きいバトルロワイアルの為のフィールドなど色々と用意されている。

 そこで対戦相手に声を掛け、バトルする。これがガジェット・バトルの基本ルール。あまり大きい声では言えないが、カスタムパーツを賭けてバトルするという非公式のルールもある。当事者同士の間で話し合いが済んでいれば騒がれることはないが、たまーに悪い取引を持ち掛けてバトルする輩も存在する。

 僕はパーツを賭けて戦うのはあまり好きではないのでこの手の賭けバトルはしない──せいぜい片手で数えられるぐらいには抑えている。

 とにもかくにも対戦相手とちゃんと話し合って事前にルールを確認しておく。これがガジェット・バトルで揉めない為の安全策だ。

 初めて人とバトルした記憶は今でも鮮明に覚えている。いつもだったら並んでいるバトルフィールドだが、その日だけは僕のことを待っていたかのように空いていた。

 バトルフィールドを確保すると同時に知らない子が僕に話し掛けてくれた。

 バトルしない? という言葉に僕は鼓動を早めながら力強く頷いた。

 フィールドにガジェットをセットし、ゴーグルで視界を共有。ガジェットの目が僕の目になる。

 視線の先には対戦相手。戦う前はあれこれと考えていたが、フィールドから開始の合図が鳴った瞬間に全て消し飛んでしまった。

 どう戦ったのかは緊張のせいで殆ど覚えていない。良い思い出なのだが、これだけは残念だ。

 どう戦ったのか覚えていないので結果だけ言うと──勝った。フィールドに勝者として僕の名が浮かんでいるのを見て僕が勝ったことを知った。

 最初は呆然としていたが、徐々に勝った喜びを噛み締める。対戦相手の子が強かった、と褒めてくれた。同い年ぐらいなのに勝者を讃えるなど人間が出来ている。僕なら負けたら悔しいので何も言えない。

 まあ、このように僕の初バトルは初勝利という百パーセントのできで終わった。

 振り返ると何もかもが上出来な日。気さくなあの子、あの日の戦い、あの時の勝利。それが僕のバトラーとしての輝きに満ちた第一歩であった。

 そこからは僕の順風満帆なガジェット・バトルの日々が始まった……というのは少し嘘。楽しい日々だったと胸を張って言えるが、ちょっと山あり谷ありなこともあった。人生というのはそういうものだと割り切ったので、そこまで尾を引いてはいない。

 多少は思い通りに行かないこともあったが、ガジェット・バトルを通じて友人・ライバルという存在も出来た。

 これは僕の人生に於いて思い出深いイベントだ。

 僕よりも個性とキャラが強いライバルたち。そんな彼らと切磋琢磨して腕を磨く。バトラー人生の中でとても楽しく、面白く、そして煌めく思い出である。

 ライバルたちと腕を競い、ある程度腕に自信がついたらガジェット・バトルの公式が用意した全国規模の大会。血が湧き立ち、熱くなるバトルが好きだった。

 全国大会も良いがG-ベースでの小規模な大会で周りとあれこれ喋りながらセッティングを調整したりするなどの和気藹々とした交流も好きだった。

 プライベートでライバルとコミュニケーション代わりにガジェット・バトルするのが好きだった。

 とにかくガジェット・バトルに関わるもの全てが僕は好きだった。

 僕のバトラー人生はこれからもずっと光り輝いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に火を点けられました。

 こーんなことってある? そーんなことってある? 

 燃えている自分の部屋を見て啞然としてしまったのを今でも覚えている。火を点けられということから分かるように出火原因は放火です。しかも、出火元は僕の部屋。僕のこれまでの人生が詰め込まれた部屋が真っ黒焦げになりました。

 幸い犯人はすぐに捕まったけど、面識がない三十代の男性でした。何でこんな事をしたかというと、色々と言い訳を並べていたがまとめると「お前が気に入らない!」とのこと。

 どうすりゃ良かったの? 顔の名前も知らない人にどう気を遣えばいいの? 誰か教えて欲しい、本当に。

 まあ、結局のところ俺が楽しいと思っていることは、他の人から見たら面白くなかったということなのだろう。

 不幸中の幸いというべきか燃えたのは僕の部屋だけで全焼には至らなかった。間接的とはいえ僕が原因で起こった火事なので両親に詫びたが、両親は謝ることなど一つも無いと慰めてくれた。

 しかし、この一件以降妹とは大分仲が拗れた気がする。燃えた僕の部屋は妹の部屋と隣接しているので巻き添えで被害があったからだと思われる。そのせいで口も利いてくれなくなった。

 この事件のせいで周りが騒がしくなって引っ越す羽目になったのも理由の一つと考えられる。

 こういうこともあって僕は一つの決断をした。

 ガジェット・バトルから距離を置こう。

 僕一人の被害で済んだのならまだ我慢は出来たが、流石に家族に危険が及ぶとなると話は違ってくる。

 頭のおかしな人の脅しに屈してガジェット・バトルから逃げたと思われるかもしれないが、言い訳はしない。

 引退まで行かないことを女々しく思われるかもしれないが、そこまで縁を切りたくはない。

 それともう一つ。僕がガジェット・バトルから離れる理由がある。

 僕の部屋が全焼した際に僕が長年相棒として大切にしていたガジェットが炎により失われてしまった。原型も残らずに溶け、何も残さらないという無惨な最期。

 ガジェット・バトルへの情熱は相棒と共に燃え尽きてしまった。

 情熱というのは無限に湧き出て来るものだと僕は思っていたが、どうやらそれは思い違いであった。裡にある感情に人生を懸けるに相応しい物を触媒とすることで初めて湧いてくるらしい。

 僕はその触媒となる大切な相棒を失ってしまった。ガジェット・バトルには同じような見た目のガジェットやシリーズもある。だが、それを代替品にしてやろうとも思えない。

 人が聞けば馬鹿馬鹿しいと思うかもしれないが、これは長年付き添ってきた相棒への義理、或いは喪に服す。客観的に見て玩具相手に喪に服すなど気色悪いだろうが、人生の大半を共に過ごして来た存在なだけにふらふらと他のガジェットを相棒にする気にはなれなかった。

 僕がガジェット・バトルを一旦止める決断したタイミングで家庭内にある問題が発生する。

 父が転勤の辞令を受けたのだ。しかも年単位の。

 今暮らしている場所から遠く離れた場所へ向かう。それは僕にとって渡りに船であった。

 新しい場所ならば今回のようなことは起きない筈。それにガジェット・バトルと距離を置く良い機会である。

 父の転勤に付いて行くと伝えた時、両親は快諾はしなかった。転勤先は娯楽の少ない場所であり遊びたい盛りの僕をそんな場所に住まわせるのは酷だと思ったからだ。

 娯楽が少なくとも構わなかった。ガジェット・バトル以外の遊びには興味は無い。娯楽を断つような暮らしも望むところ。相棒の為に喪に服すと決めたときから他の娯楽に手を出すつもりはなかった。

 粘り強く交渉した結果、渋々ながらも両親からの了承を得られた。そして、決定と同時に妹に殴られた。

「何故?」と思ったが、何でもかんでも一人で決めた僕が許せなかったとのこと。泣きながらそんなことを言われてしまうとこっちも何も言えなくなる。

 口も利いてくれなかった妹だが、その日以降目を合わすこともなくなった。

 引っ越すことが決まってからお世話になった人たちに別れの挨拶をした。ライバル兼友達にも事情を話した──少々ごたごたがあって揉めたが──まあ、何とか無事全員に挨拶を済ませた。

 やがて、この地を離れる時が来た。寂しいことにライバル兼友人たちは見送りには来てくれなかった。そして、妹との仲直りは最後まで叶わなかった。

 こうして僕の人生は新しい土地で再スタートすることとなった。正直、これから何をしていこうか全く考えていない。

 まあ、なるようになるだろう。

 

 

 

 

 

「あ、あれ……?」

 

 急に動かなくなったガジェット。何度か操作してみるが思うように動かない。

 

「壊れちゃった……?」

 

 日に焼けた健康的な肌色をした子供はガジェットを持ち上げ、上や下など色々な角度から見てみるが動かない原因は分からない。

 

「どうしよう……」

 

 地面に思わず座り込む。土でズボンが汚れるがそんなことを気にする余裕は無かった。

 

「どうしよう……」

 

 もう一度同じ言葉を呟くが、その声は震えている。目は涙で潤み始めていた。

 何もない田舎。同年代の友達がいないこの子にとってガジェットは唯一の友達と呼べる存在。それだけでなくその子にとって色々な理由で大事なガジェットであった。

 頼れる存在も知らないので途方に暮れてしまった時、影が差した。

 

「どうかしたのかい?」

 

 高い位置から声が聞こえた。見上げると背の高い青年が見下ろしている。

 目が合うと同時に体が震えた。その子供が知っている周りの大人たちよりも遥かに背が高い。今まで出会った中でも最も長身であり、その子からすればまるで怪獣に睨まれている気分であった。

 見下ろされていることで恐れ、何も言えなくなる。

 

「ガジェット……」

 

 長身の青年は子供の手の中にある物を見て、ポツリと呟く。

 共通して知っているものがある。その事実が子供の恐怖心を僅かに緩めた。

 

「う、動かなくなっちゃった」

 

 すると、長身の青年は徐にしゃがみ込み、子供と目線を合わせようとする。それでもまだ青年の目線の方が高い。

 

「触ってもいいかな?」

 

 そう言いながら手を差し出す。長く大きな手であった。

 子供は言われるがままガジェットを恐る恐る差し出す。普段ならそのようなことをしないが、長身の青年の雰囲気に呑まれてしまっている子供は催眠術にかけられたかのように言われるがまま動いてしまっていた。

 渡されたガジェットを丁寧な手付きで調べ出す。時折「最新型か……」「出来が良いな……」とガジェットについての感想を洩らしている。

 ガジェットの間接部分を人差し指の腹で拭い、その後に親指と擦り合わせる。

 

「そういうことか」

 

 故障の原因が分かり、青年は立ち上がる。

 

「道具が要るな……」

 

 青年はガジェットと子供を交互に見た後──

 

「こいつを直したい。いいかな?」

 

 ──持ち主に修理の許可を確認する。

 

「う、うん……」

 

 初対面にも関わらず子供は頷いてしまった。青年を恐れた、というのは理由の半分。もう半分はガジェットを診ていた時の目が真剣だったからだ。

 ガジェットを扱う丁寧な手付きと怖さすら感じる真摯な目。それを見てガジェットを大切にしてくれる人だと思い、信用してみることにした。

 この出会いがこの子供──一ノ瀬(すい)の人生を大きく変えることとなる。

 一ノ瀬翠が出会った青年の名は帝氷真。

『公式戦無敗』『全国大会連続連覇』『無敵の皇帝』『王者の価値を下げた男』などの数々の異名と伝説を持つガジェット・バトル史上最強と謳われる男であった。

 

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