瞬撃のクールストライカー(表向き)   作:K19

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どっちだ?

 つい声を掛けてしまった……でも、泣きそうな子供を放っておく訳にはいかない、人として。ましてや、ガジェットに関わることならバトラーとして見過ごせない。

 ガジェット・バトルから距離を置こうと決意してはや数か月、いやたった数か月かもしれない。どちらにせよ一年にも満たずに再びガジェット・バトルに関わろうとしている。それも自分の方から。

 どうやら僕は口先だけの男だったらしい。

 自分の意思の弱さに辟易しながらも泣いている子に近寄り、ガジェットを見せてもらう。警戒されるかと思ったが、案外素直に渡してくれた。良い子ではあるが、悪い大人に付いて行かないか心配になる。

 動かなくなったガジェットを見てみる。目立った外傷は無い。それどころかパーツが真新しい。ほぼ新品のガジェットだ。

 

「最新型か……」

 

 思っていたことがつい口から出てしまう。最初に買ったガジェット一筋でガジェット・バトルをやり続けてきた。最新型に興味が無い訳ではない。寧ろ、バトラーとしては興味津々だ。ただ、他のガジェットに手を出すのはまるで浮気しているような後ろめたさを覚えてしまい、中々触れられずにいた。こういう所も我ながら気持ちが悪いと思う。

 

「出来が良いな……」

 

 はしたないとは分かっていても最新型のガジェットのあちこちを触ってしまう。

 浮気じゃない、浮気じゃないんだ。ただ原因を調べているだけなんだ! と今は亡き相棒へ心の中で言い訳を叫ぶ。それでも触る手は止められないが。

 あー、ガジェットの重さが心地良い──前の相棒よりも軽いけど。

 散々触ったが目立った損傷は無し。使っていた状況から予測して間接部分を触ってみる。

 指先に付着する感触。それを拭い、指の腹で擦るとざらついた。

 予測していた通り動かなくなった原因は間接部分に溜まった砂。外で遊んでいると起こる故障の原因だ。間接部分にはギアの動きを良くするオイルが差してあるが、外で遊んでいると舞った砂煙がそのオイルと混ざって泥に近い状態になり、最終的にギアの間に挟まって動かなくなる。

 特に珍しいことはない初心者がよくやるあるあるなトラブルの一つだ。

 きっと装甲とかに付いている砂埃は拭いたりして綺麗にしているんだろう。ただ、こういう間接部分の汚れは気付かない。まあ、まだ小学生ぐらいだからメンテナンスの大切さなんてあんまり実感無いだろうから仕方がない。

 判別するのは簡単だが、直すとなると少々時間と道具が必要になる。一度ガジェットを分解して間接部分などを綺麗に掃除し、オイルを差し直さないと。

 メンテナンス用の道具なら家にある。ガジェット・バトルから離れるつもりの癖に何でメンテナンス用の道具を持っているのは──偏に僕の意思が弱いからです。

 あの火事のせいで思い出の品々は燃え尽きてしまい、僕の手元に残ったのは相棒のガジェットの僅かな予備パーツとメンテナンス用の道具のみ。思い出深い物なので引っ越す際に持って来てしまった。これでもギリギリまで迷ってはいた。ガジェット無き今持っていても仕方がないので予備パーツは友達に餞別としてあげたし、なるべく未練を減らそうとした。減らそうとした妥協の結果、何年も愛用してきた道具だけは持ってきた。

 グダグダと言い訳をしましたが、結局のところはガジェット・バトルと関わりある物を手元に置いておきたかっただけです。僕はどうしようもないガジェットバカです。

 直すのには道具が必要なのことを告げ、家まで付いて来てくれるか訊ねる。

 初対面の相手に無茶な要求をしているが、了承してくれた。本当に素直で良い子だ。ますます変な人に付いて行かないか心配になる。

 診ていたガジェットを返し、自宅へと戻る。

 その道中、僕は初歩的な事を見落としていることに気付いた。

 ……どっちだ? この子の性別は? 

 パッと見ての服装はハーフパンツにシャツという男の子寄りの格好だが、この年齢の子は果たして男女の服装の差があるのか分からなくなる。本人の趣味でそういう格好をしている可能性もある。

 顔立ちは少女寄りで睫毛は長く、瞳が大きい可愛いらしい顔をしている、髪型はショートなので判断材料になり難い。

 性別が分からない以上下手なことは言えない。慎重に探る必要がある。

 チラリと後方を確認する。一定の距離間はあるものの付いて来ている。このまま何も言わずに歩き続けるのも互いに気まずいだけ。ここらで確認の為に自己紹介をしておこう。

 

「そういえば名乗っていなかった。帝氷真だ」

 

 自分のことながら中々に大層な苗字だと思う。正直、名前負けしていないかと思ってしまう。名の方も冷たい印象を与えるかもしれない。特に意味がある名ではないけどね。昔名前の由来を訊いたら父と母の親、つまりは僕の祖父母から名前を貰ったとのこと。

 自分の方から名乗ったが、相手はどう反応するのか? 

 

「一ノ瀬……(すい)

 

 ……どっちだ? 

 自己紹介して貰ったが、名前の方も中性的というかどっちでもありそうな名前だったので判別が付かない。

 問題が解決するかと思ったが、結局謎のままだ。取り敢えず一ノ瀬翠君とフルネームで呼ぼう。男子でも女子でも君を付けて呼ぶ場合もある。

 

「そうかい。よろしく」

「よ、よろしく……」

 

 話が終わってしまった。後に残るのは沈黙。噓だろ……もっとここから話を広げられるだろう? 黙って無駄に相手を委縮させてどうするんだ僕。ただでさえ身長が大きいから威圧感を与えるというのに……でも、背丈は僕の数少ない文字通り長所だから否定したくない……。

 ガジェット・バトルを会話の切っ掛けにするしかない。共通の話題はそれしか思いつかないし、それしか出来ない。気持ち悪いぐらい饒舌になるかもしれないが、沈黙よりかはましだ。

 

「いつもああやって遊んでいるのかい?」

「え? ああ、その……まだ一緒にガジェットで遊ぶ友達がいない……」

 

 これは……この子のデリケートな部分に降れたかもしれない。ここは過疎が進んでいるから子供が少ないんだよなー。小学校と中学校が一纏めになっているとは聞いている。僕も高校へ行くのにバスと電車を利用して一時間ぐらい掛けて登校しているぐらいだ。

 ガジェット・バトル事態子供に絶大な人気はあるが、こういう過疎地域だと中々入手するのは困難だろうし。

 あれ? そういえば入手困難なのにこの子のガジェットは最新型だったな。

 

「君のガジェットは最新型だったな。この辺りではまず手に入らない」

 

 この話題でどうだ? 

 

「父さんが……買ってくれた……」

 

 ダメだ。声のトーンからしてあんまり触れて欲しくない話題だ。踏み込むにはそれなりに仲を進展させないと無理だ。出会って数分の名前しか知らない相手とするような話題じゃない。

 

「そうなんだ」

 

 空気を読んだ感じで話題をここで止めたが、そもそも自分から振っておいて話を打ち切るのはどうなのか。不審がられていないだろうか。不安になってくる。

 様子を確認してみよう……ダメだ、俯いて表情が見えない。やはりこの話題は地雷だった。

 どうにかしてこの冷たい空気を変えなければ。どうする? どうする? 

 そんなことを考えていたら家に着きました。何にも思い付きませんでした。僕は人と打ち解けるセンスが無いみたいです。

 父と住んでいるのはかなり年季の入った平屋の借家。父の勤め先や僕が登校するのに丁度良い立地なのでここが選ばれた。

 外身はボロいが中身はそこそこ綺麗だ。庭もかなり広い、手入れは大変だが。

 居間まで案内し、少し待ってもらう。その間に仕舞っておいたメンテナンス道具を探しに行く。

 道具は箱ごと僕の部屋の押入れの中にある。前の家から持って来たのはこれぐらいしかないので数か月放置していてもすぐに見つけられた。

 中身を確認する。使い慣れた道具がキチンと並べられている。こういう風に整頓されている道具を見ると気分が良い。ごちゃごちゃしていると探す手間が発生する。尤も、こういった整頓の仕方は自主的にではなく友達を倣ったものだが。

 道具箱を持って居間へ戻る。そこでは一ノ瀬翠君がそわそわしながら待っている。

 ──しまった。茶の一つぐらい出せばよかった。こういう細かいところの気が利かないなぁ僕は。

 小さなミスを心の中で引き摺りながら僕は一ノ瀬翠君の前で道具箱から取り出したメンテナンス用の道具を並べる。初めて見る物らしく好奇心で目を輝かせている。その気持ちは分かる。僕も使い方が全く分からない道具に惹かれた経験がある。

 並べ終わると一ノ瀬翠君に頼んでもう一度ガジェットを渡してもらう。道具を手に取り、外装を固定する部品を外す。

 外した装甲や部品を失くさないように丁寧に並べておく。こうしておくと戻す時に楽だ。

 チラリと一ノ瀬翠君を見る。分解されている自分のガジェットにハラハラしている。

 気持ちはとても分かる。僕も初めてガジェットを分解した時には、戻るのこれ? と思った。

 外装を全て外すと灰色の骨格標本のような本体が剥き出しになる。

 特殊なプラスチックで製造されたガジェットの基礎となる骨組み。摩耗に強く、また柔軟性もあるので激しい動きにも耐えられる。

 今回運悪く間接部分に砂利が溜まってしまい、それが挟まって動かなくなってしまったが、綺麗にすればまた普通に使える。

 僕は毛先が細くやや硬めのブラシを取り、間接部分を磨いて細かな砂利を塗ってあるオイルごと除去する。ブラシは歯ブラシでも代用出来る。僕も昔は歯ブラシを使っていたが、先に述べた友達の影響で専用のブラシを買った。

 丁寧に砂利を除去した後は間接部分を軽く動かす。砂利を噛む感触や音が無いかを確認する。手足を動かし、取り残しが無いことが分かると間接部分に改めてオイルを塗る。

 オイルは摩耗防止と間接の動きを良くする為のもので、そのオイルは目薬のケースに似た器に入っており、そこから一滴垂らして間接に馴染ませる。

 なるべく余計なオイルは拭い取る。ベタベタとガジェットが汚れるのはあまり気分が良くないし、オイルが劣化して際に固まって間接の動きを阻害する可能性もあるからだ。

 念の為に他にもメンテナンスする箇所がないか確認し、問題が見つからないなら外したパーツを元に戻していく。

 適切な箇所に適切なパーツを付け、適切な道具で止める。作業が詰まらず、淀みなく進むのは個人的にも気持ちが良い。久しぶりのメンテ作業だが体が覚えていると嬉しくなる。

 全ての作業を終え、ガジェットを返す。受け取る際の一ノ瀬翠君の目は妙に輝いているように見えた。まあ、自分で言うのは何だけど難しそうな作業を手慣れた感じでやるとカッコ良く見えるよね。その気持ちも分かるよ。

 

「動かしてみてくれ」

 

 僕に言われるがままガジェットを起動する。そして──

 

「動いた!」

 

 ──嬉しそうに顔を輝かせた。

 うん、良かった。無事に直って。これでまた問題無くガジェットで遊べるね。ガジェット・バトルをもっと多くの人に楽しんで貰いたい、という夢を抱いていた身としてはちょっとした躓きでガジェット・バトルから離れるのは勿体無いと思っている。ガジェット・バトルは奥深いので存分に楽しんで欲しい。

 

「あの……」

 

 直ったガジェットを動かしていた一ノ瀬翠君が話し掛けてきた。

 

「お兄さんは、ガジェット・バトルに詳しいの?」

「それなりに、かな」

 

 ──謙遜してしまった。割とベテランだと思うけど、ベテランアピールが恥ずかしくて妙に匂わせる感じになってしまった。この方が何かカッコつけていない? 

 

「だったら……教えて」

 

 メンテナンスのやり方かな? 

 

「ガジェット・バトルを教えて!」

 

 ──父さん、僕はこの地で初めてガジェ友が出来そうです。

 

 

 ◇

 

 

 一ノ瀬翠の人生の大半は孤独であった。

 母は翠を生んで間もなく病死している。父は仕事一筋で殆ど家庭を省みない人であり、翠の人格形成の土台が出来るまでの間は母方の祖父母によって育てられた。そのせいで翠は五歳を過ぎるまで実の父をほぼ他人という認識でいた。

 父の愛情を殆ど感じない日々を送り続けたある日、翠は誕生日に唐突に父から誕生日プレゼントを貰った。

 それがガジェット・バトル。曲線的なボディが特徴で飛行機やF1カーを彷彿とさせるスピードを出す為の形になっている。後にストリームシリーズと呼ばれるモデルの最新型だと知った。

 前から欲しかったのと父からの誕生日プレゼントであったこともあり、翠は二重で喜んだ。

 そして、喜んでいる時に父から告げられた。

 

「暫くの間、離れて暮らそう」

 

 翠に拒否権など無かった。

 あっという間に転校や引っ越しの手続きが済まされ、母方の祖父母が暮らす田舎へ送られた。

 翠はこの間のことを殆ど覚えていない。仕事一筋であった父がとうとう育児に嫌気が差し、自分を切り捨てたのが分かった。

 ガジェット・バトルをプレゼントしたのは最低限の御機嫌取りとそれを誤魔化す為である。

 既に十歳を超えている翠がそれに気付かないと本気で思っている。翠の父は我が子と接する機会が殆どないので頭の中の子の情報が更新されておらず、悪く言えば翠のことを舐め切っていた。

 しかし、翠が父の意図を見抜いていたとしても所詮は子供。親の庇護の下でしか生活出来ない。

 不満を押し込め、心を殺し、相手の都合に従うしかなかった。

 新天地に移った翠だが、やはりそこでも浮いていた。過疎地なので同年代の子供が少なく、また居たとしても既にグループが出来上がってしまっていた余所者の翠の入る余地は無かった。

 そんな孤独を癒す唯一の方法が皮肉にも父から与えられたガジェット。

 時間があればガジェットを動かし、ガジェットから見える世界に浸る。その時間だけが孤独を忘れさせてくれた。

 友達が出来ないまま日々が過ぎ、夏休みに入る。この長期間の休みは翠にとって有り難かった。クラスで一人過ごすことがなくなる。

 ガジェットと共に遊び、その日を過ごす。それが当たり前でこれからも続くと諦めのように半ば受け入れていた。

 しかし、ある日それが急転する。

 壊れたと思ったガジェット。それを直してくれた帝氷真という青年。

 氷真は翠の見ている前で手慣れた手付きでガジェットを分解し、瞬く間に故障の原因を直してくれた。最初から最後まで手が止まることなく全てが滑らかに動いていく。その繊細で丁寧な所作に見惚れた。

 絶望を感じていたガジェットの故障も彼に出会ってすぐに解消された。

 これで終わり? という言葉が頭の中に浮かぶ。

 直感的に感じる。これは切っ掛けだと。今までの日常を変えてくれる最後のチャンスのような気がした。

 だから、精一杯の勇気を振り絞る。

 

「ガジェット・バトルを教えて!」

 

 一ノ瀬翠が本当の意味でガジェット・バトルの世界へ踏み込んだ瞬間であった。

 




次くらいにバトル描写を入れたい
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