瞬撃のクールストライカー(表向き) 作:K19
自分よりも年上のスタッフに気遣われながら大会の段取りの最終確認する青年──サノケンこと
(ああ……帰りてぇ)
特別ゲストとして呼ばれた立場だが、サノケンは正直積極的ではなかった。そもそもの話ゲストとして呼ばれた理由が、ここのGーベースの責任者とサノケンの父親が友人関係だったことが切っ掛けである。
友人である二人はある日飲んでいた。その酒の席でガジェット・バトルの大会を開くという話が出て何か目玉になるようなものが欲しいと愚痴っていた。そこでサノケンの父親が言ったのだ。
「うちの息子、全国大会に出たことがあるよ」
そこからとんとん拍子で話が進み、当人の意思など聞かないまま決定し、サノケン本人がゲストとして呼ばれたことを知った時には既に断れるタイミングではなかった。
(ちくしょう……俺を無視して決めやがって……)
胸中で父に対する恨み言を吐く。確かにサノケンは全国大会に出場したことがある。しかし、そこで運悪く強豪と対戦してしまい一回戦で敗北という苦い経験をした。そこでサノケンは自分の限界を知ってしまい、それ以降ガジェットに触れる回数は減っていき、今回の大会で久しぶりにガジェットを持ち出した。
(やだなぁ、肩書きだけ前面に押し出されて。そこまで大層な成績じゃないのにさぁ)
謙遜していると思われるかもしれないが、それがサノケンにとっての自己評価であった。これといって特徴のある容姿ではなく頭の出来も普通。全てが人並みであったが、それでもガジェット・バトルだけは人並みよりも上だった──と思っていたが、全国大会に出たのは実力ではなく運が良かっただけ。予選大会でその運が尽き、遥か格上と戦う羽目になった。
(そりゃ三強に──いや、今は四強か──勝てる訳ないだろ。最強に限りなく近い人たちだし)
四強とは無敗にして最強である帝氷真の戦績に傷を付ける可能性が最も高いバトラーたちに付けられた呼称。本人らは名乗っておらず、専ら一般バトラーが呼んでいる。サノケンが全国大会一回戦で戦い、惨敗した相手がその四強の一人であった。
トラウマになるぐらい叩きのめされ、ガジェット・バトルへの情熱もすっかり弱火になってしまった。それでも完全に断ちきれない自分を優柔不断と自嘲する。
(一回戦負けの俺が何をしろってんだよぉ。優勝者とバトルするだけで良いって言っていたけど、そんな魅せるようなバトル出来ないぞ俺)
今からプレッシャーを感じて吐き気を覚える。地方レベルでこのような小さな大会ならたかが知れているだろうが、久しぶりに大勢の前でバトルをするのが嫌で嫌で仕方がない。
(……ガッカリさせたらどうしよう)
肩書きだけ大仰に宣伝しているせいで周りの期待値も上がっている。肩書きに見合うバトルをする自信は無く、考えがネガティブになっていく。
そもそも人前に出るのも嫌であった。紹介された時に「誰?」という視線を一斉に浴びると思うと体が震えそうになる。
スタッフの話に曖昧な返事をしながら横目で受付をしている大会出場者を見る。殆どが小学生ぐらいの年齢であった。誰も彼もが目をキラキラさせて自分のガジェットをスタッフに渡している。
大会出場者はガジェットがレギュレーション違反していないかスタッフによりチェックをされる。フィギュアケースに似た形をした機械に入れられ、全身をスキャン。異常が見つからなければ大会出場者として登録される。仮に規定以外のモーターやパーツを使用されていたら即座に交換を求められる。
殆どの子供たちはチェックをクリアしていくが、中に規定を見ていなかった子もおり焦った様子でパーツ交換している姿もあった。
(俺もあんな頃があった……のかな?)
純粋だった頃の記憶はもう殆ど覚えていない。楽しかった記憶は薄れ、悔しかった時の記憶だけは褪せることなく思い出せてしまう。苦しく、辛い記憶だけは簡単に蘇って来るので、頭を抱えて「ああああああっ!」と呻きたくなる。
「佐野君?」
「え? あ、はい!」
自分の世界に入っていたサノケンは、スタッフに名前を呼ばれて我に返る。
「決勝戦が終わったら、エキシビションマッチということで優勝した子とバトルしてもらうけど、準備はいいよね?」
「──はい。バッチリです」
嫌だ、面倒だ、と思ってはいても今言ったことは噓ではない。サノケンは引っ張り出した相棒をしっかりとメンテナンスしていた。間隔が空いても体はメンテナンスの方法をちゃんと覚えている。念入り且つ丁寧に整備してある。
「そっか。じゃあ、そろそろ始めようか」
「……はい」
◇
受付も一通り終わったなー。その様子を僕はG―ベースの隅っこから見ている。大会に出ている子たちは大なり小なり緊張しているからね。僕は無駄にでかいので変に威圧感や緊張感を与えないように隅っこで縮こまって大人しくしていた。
年配の男性スタッフがマイクを持ってバトルフィールド前に立つ。
「バトラーの皆! 今日は来てくれてありがとう!」
マイクで増幅された男性スタッフの声がG―ベース内に響き渡る。ハキハキとした喋り方。人前に出ることに慣れている。僕だったら途中で噛みそう。
挨拶はそこそこに今回の大会のルールを説明。大会はトーナメント方式で1ラウンド形式。試合時間は五分で五分内に決着がつかなかった場合はダメージ量の少ない方が勝利となる。
至ってシンプルなスタンダードなルール。そこそこの人数がいるので参加者が待ち草臥れないように1ラウンド形式なんだろう。進行が早い分一回勝負なのでプレッシャーの掛かり方は半端ないだろうね。特に初めて大会に参加する子だったら猶更。一ノ瀬翠君は大丈夫だろうか……。
心配になったのでどんな様子か見てみる。滅茶苦茶顔が強張っている。今から緊張しているなー。大丈夫か、あれ?
ルールを説明し終えると男性スタッフが横に立っている青年を紹介する。
「そして今日は特別ゲストとして全国大会出場経験のある彼に来てもらいました! 佐野健君です!」
「あー、どうも……佐野健です」
紹介された佐野君がぎこちない笑みを浮かべながら挨拶をする。反応はというと……微妙であった。全国大会出場者という肩書きには「おおっ」となっているが、佐野君自身には「誰?」という眼差しを向けながら男性スタッフに合わせて拍手を送っている。
いや、まあ、その反応は仕方がないかもしれないけどさ……もっとこう……やめておこう。フォローしようとすればするほど彼を惨めな存在にしてしまう。せめて僕だけはこの大会に出てくれた彼に感謝の念を送ろう。
どうもありがとうね。
それが通じたのかどうかは知らないが、一瞬こっちを見たような気がする。
あれー? やっぱり見覚えがあるな……ああ、思い出した。二年前の大会で
「佐野君にはこの大会優勝者とバトルをしてもらいます! 全国大会クラスの実力を知る良いチャンスだよー! 佐野君! 意気込みを!」
男性スタッフに急にマイクを突き付けられて話を振られ、慌てた様子で何か言おうとする。
「えー、あのー……頑張ってください! 待ってます!」
取り敢えず気の利いたセリフを思いつかなかったらしく、声を大きくして誤魔化している。仕方ない、仕方ない。打ち合わせにない事をされたんだろうね。そんなに俯いて恥ずかしそうにしなくてもいいから。
挨拶と紹介が終わったので早速一回戦が始まろうとしている。最初のバトルに選ばれた二人が名前を呼ばれ、ガチガチに緊張した様子でバトルフィールドの方へ歩いていく。どっちも大会初心者だなー、あの硬い感じからして。
一ノ瀬翠君は……三番目か。初っ端じゃない分ましな順番だ。まあ、それでも緊張はするだろうけど。
「それでは第一バトルを始めます!」
参加者、付き添いの大人たちがバトルフィールドを囲うように集まる。バトルフィールドの対戦の様子は別モニターにも映されるので僕はそれで観戦する。
進行役のスタッフがバトラーの名前とガジェットの名を紹介した後、バトルフィールド内にガジェットが置かれる。
「それではガジェット・バトルスタート!」
スタッフの合図と共にバトルフィールドに『BATTLE START』という字が投影された。どうでもいい話だが、ガジェット・バトルの開始合図は人によっては個性が出る。ガジェット・バトルとスタートの間を無駄に溜める人もいたり、逆に滅茶苦茶早口で言って謎言語になっていたりと、因みに僕はガジェット・バトルとスタートの間に一呼吸置くタイプだと気分が乗る。
そんなどうでもいいことを考えつつバトルの様子を見ていたが、案の定と言うべきか大分乱暴なバトルが行われている。
どっちも接近した後、足を止めた互いに武器で攻撃し合っている。どちらも武器は剣だが、まるで棍棒のように振り回して使っている。防御や回避など皆無の殴り合い。バトル前の様子から何となく察していたが、どちらもガジェット・バトルの経験がかなり浅い。
台本の無いチャンバラのような打ち合いを暫しの間続けられ、最終的に手数が多かった方が勝者となった。
「勝者! ──」
勝った方の名を呼ぶと、勝者の少年は両手を突き上げ全身で喜びを表現している。負けた方の少年は心底悔しそうな表情をして半泣き顔だ。
ああ、負けた方は子はまだガジェット・バトルを続けてくれるな。ガジェット・バトルでの初めて対人戦で負けた方は、それで熱が冷めて辞めていくこともある。そういう相手は負けた後の表情で分かった。あの子は悔しさをエネルギーにしてまたやってくれる。
続いて第二バトルが始める。こちらの内容も先のバトルと似たようなものであった。片方がリーチの長い武器を持っていたので、バトルの中で扱い方が分かって来たのでバトル後半では一方的に攻められるようになっている。
「あの……」
観戦しているといつの間にか一ノ瀬翠君が傍に来ていた。不安そうな眼差しをこちらに向けている。順番が巡って来たことで緊張が最高潮に達してしまったのかもしれない。
僕の顔を見て何か言いたげにしていたが、何を言えばいいのか分からず口を開けるだけで、言葉を発する前に閉じてしまう。
こういう時、僕に出来るのは一つしかない。
「大丈夫だ」
その背中を押す為に実力を保障する。
「君は強い」
お世辞ではない。この子にはセンスがある。後は実戦で学べばいいだけ。戦いが始まってしまえば、後は上手に動いてくれるだろう。
「……お兄さんの方がもっと強い」
「ああ。そんな僕が保証する。負けたら僕のせいにしていいが?」
すると、一ノ瀬翠君は少しだけ不満そうな表情をする。
「……そこまで弱くない」
負けた理由を誰かのせいにする程弱くないと反論した後、スッキリとした表情になった。
「じゃあ、行ってくる」
「楽しんでくればいい」
勝っても負けてもいい。楽しいという思い出になれば。それがガジェット・バトルをする上での僕の願いでもある。
◇
二試合終わった。サノケンは欠伸を嚙み殺している。予想通りの面白くないバトル内容だったからだ。
(どっちもカスタム無しのジェネラルシリーズ……テクニックも何にもない子供の喧嘩みたいなバトル……ああ、退屈……)
ジェネラルシリーズは低価格でありながら耐久性が高く、メンテナンスもし易いということでガジェット・バトルの入門機として圧倒的なシェアを誇る。ある程度ガジェット・バトルに慣れてくれば性能に物足りなさを感じるが、拡張性もあるので様々なカスタムパーツを付けて自分好みの尖った性能にすることも可能。
しかし、今大会出場者の殆どはほぼ素体の状態であり、違いがあるとしたら武器かステッカーが貼ってあるかどうかぐらい。レベルの低い間違い探しをさせられている気分になる。
おまけにバトルも低レベル。ガチャガチャした操作で適当に戦っているだけ。殴り合いだけなら子供もそこそこ盛り上がるが、一定の基準に達している者からすれば見るに堪えない。
(やっぱり失敗だったな……)
何度目か分からない後悔をしていると、三試合目が始まろうとする。
「一ノ瀬翠選手!」
紹介と共に中性的で随分とレベルの高い容姿をした子が前に出て来る。周りの子供たちと比べると残酷なぐらい差が出る。
その容姿に目を惹かれたのもあるが、この戦いでようやく別のガジェットが出て来たことにサノケンは注目していた。
(うおっ! ストリームシリーズの最新型だ! 金持ってんなー)
他の子供たちが持っているジェネラルシリーズよりも頭の二つ、三つ抜けている値がするガジェット。嫌でも見てしまう。
(あの流線型の形……カッコイイなぁ。昔はもう少し安かったけど、段々と値段が上がって手を出し難くなったシリーズだったなぁ)
過去と比べながら現実的なことを考えるサノケン。一方で冷めた目線も持っていた。
(──まあ、そんな高級機でも使えなきゃ宝の持ち腐れだけど)
値が高く、高性能機だったとしても扱うバトラーがダメダメなら高級フィギュアと変わらない。寧ろ、下手ならフィギュアとして飾っている方がまだガジェットを大切にしている。下手なバトラーが扱う性能を全く生かし切れていない高性能ガジェットなど見ていられないぐらい悲惨だ。
(……っていうか素手かよ。武器忘れたのか? それとも結構な自信家か?)
バトルフィールドにセットされた一ノ瀬翠のガジェット──フォーミュラー・エアロが無手であることに気付く。余程自信が無ければガジェットを素手で戦わせない。
(それとも
ガジェット・バトルから心離れた今も尚リスペクトとしている『無敵の皇帝』の真似だとしたら見る目も自然と厳しくなる。そう簡単に真似出来る存在ではない。
戦う前から厳しい視線を向けられる翠。ただ、本人は緊張しているのか動きがぎこちない。
(ガチガチじゃねぇか)
雰囲気からしてこちらも初心者。立派なのはガジェットだけ。早々に失望し、バトルもどうでも良くなってきた。
「ガジェット・バトルスタート!」
バトルが開始される。しかし、翠のフォーミュラー・エアロは動かない。対戦相手のジェネラルは装備している双剣を振り上げて急接近。
万歳のような構えから一気に振り下ろし──空振りする。しかし、バトルフィールド内には打撃音が響いた。
ジェネラルのバトラーは、バイザーに胴体へのダメージがあったと表示されるが、いつ当てられたのか分からずに混乱する。その間にフォーミュラー・エアロはジェネラルの背後に回り込んでおり、跳び上がってジェネラルの首を刎ねる勢いの回し蹴りを叩き込んだ。
ジェネラルは一歩、二歩前進した後に倒れ、バトルフィールド内では翠の勝利が告げられる。しかし、歓声は無かった。全員何が起こったのか把握し切れていないからだ。翠の瞬殺劇に言葉を失っていた。
Gーベース内で翠が何をしたのか正確に把握出来ていた者はたった二人。氷真と──
(……レベルが違う)
──サノケンのみ。
フォーミュラー・エアロは双剣の振り下ろしを斜め前に移動して回避すると同時に肘を胴体へ斬るように打ち込んでいた。鋭い肘打ちで相手の動きを止め、とどめの跳び回し蹴りをダメージポイントが大きい後頭部に打ち込む。フォーミュラー・エアロの性能を存分に発揮させた動きであった。
(予選大会でも上位……下手したら全国クラスじゃないか?)
低く見てもそれぐらいの実力は感じられるし、まだ余力を残している。まだバトルは残っているが、サノケンの中では誰が優勝するのか分かってしまった。
(退屈な大会だと思っていたが……)
最強の名を欲しいままにしたあの人の戦い方に似ていると感じ──
(面白くなりそうじゃないか……!)
──サノケンの口角は自然と上がっていた。