目が覚めたら悪の女幹部の妹だった ~破滅ルートしかないけど、何としても回避します!~   作:菜麻沙

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異能力学園バトル物って最近なくない?


目が覚めたら悪の女幹部の妹だった

『本日未明に発生した、異能力による爆発事件について、警察は未登録の異能力者が関与したとみて捜査を進めており――』

 

 テレビから流れてくるニュースを聞きながら、俺はぼんやりと考えていた。

 本当に転生したんだなぁ。

 

 口に運んだ料理をもぐもぐと咀嚼する。

 うん、美味しい。

 いや、そんな場合じゃないんだけどね?

 何を隠そう、俺は転生者である。

 前世では、ごく普通の日本人として暮らしていた。少なくとも、異能力者がニュースに登場して爆発事件を起こすような世界ではなかった。

 

 そんな俺の人生は、信号無視の車に撥ねられるという、実にあっけない形で幕を閉じた。

 そして、気がつけば別人になっていた。

 しかも、ただの異世界転生ではない。

 なんと、俺が生前大好きだったゲーム『エクストリーム・ファンタジー』の世界に転生していたのである!

 

『エクストリーム・ファンタジー』

 

 それは主人公である結城彼方(ゆうきかなた)が世界を救う物語だ。

 少しの鬱要素と王道の異能力バトル、主人公の成長、そして個性豊かなヒロインたちとの掛け合いが人気を博した作品で、俺も例に漏れずドハマりしていた。

 何周したか覚えていないくらいには遊んだし、関連グッズだって買い漁った。

 そんなゲームの世界に転生したと知ったとき、俺が何を思ったか。

 決まっている。

 

 ヒャッフー!! 転生じゃー!!!

 である。

 

 いや、だってそうでしょ?

 大好きだったゲームの世界だよ?

 憧れのキャラクターたちが実際に生きていて、あの世界を自分の足で歩けるんだよ?

 そりゃあ興奮するって!

 しかも異能力まで存在する。

 男の子なら一度は憧れる世界じゃないか。

 転生最高! 神様ありがとう!

 そんなことを考えていた時期が、俺にもありました。

 ……ええ。

 

 喜び勇んで鏡を覗き込むまでは。

 鏡の中に映っていたのは、前世の俺とは似ても似つかない、とびきり可愛らしい少女だった。

 大きくてくりっとした瞳。

 整った顔立ち。

 きめ細かな肌。

 人形のように愛らしい、どこからどう見ても美少女である。

 おお、なんだこの美少女は!

 めっちゃ可愛いじゃん!

 ……って、俺じゃねえか!!

 

 いや、待て待て待て。

 落ち着こう。

 性別が変わっていることについては、まあ、百歩譲って受け入れよう。

 転生なんてものを経験している時点で、多少のことには目を瞑るべきだ。たぶん。

 問題はそこじゃない。

 この顔。

 俺は、この顔を知っている。

 それも、嫌になるくらいよく知っている。

 何せ、ゲーム中で何度も見た顔なのだから。

 そう。

 

 俺はどうやら、ゲームの登場人物に憑依転生してしまったらしい。

 なるほど、なるほど。

 つまり俺は、これから主人公の彼方君と出会い、共に戦い、世界を救うことになるわけだ!

 ……なんて、都合のいい話ならよかったんだけどね。

 残念ながら、俺が転生したのは味方側のヒロインではない。

 何なら敵まである。

 俺の転生先。

 その名は、天麗唯月(てんれいゆづき)。

 

 世界を裏から支配する秘密組織『統制機構』。

 その最高幹部の一人である天麗夜月(てんれいよづき)の、実の妹である。

 ……。

 …………。

 

 はわわわわ!!

 どうしてこうなった!?

 お目々がくりっとしてて可愛いね!

 じゃないんだよ!!

 

 よりによって天麗唯月!?

 誰だよ、この転生先を決めた奴!!

 ちょっと出てこい!!

 

 ここで少し、この世界について説明しておこう。

 エクファンには、当然ながら敵が存在する。

 それが先ほど名前を挙げた『統制機構』だ。

 世界を裏から支配する巨大な秘密組織であり、その影響力は国家、企業、軍事組織にまで及ぶ。

 しかも厄介なことに、こいつらは世界征服を企む悪の組織ではない。

 すでに世界征服を完了している悪の組織なのだ。

 

 ゲーム本編が始まった時点で、世界のあらゆる場所に統制機構の目が存在している。

 敵の本拠地を探して潜入しようとしたら、そもそも街そのものが敵の支配下だった、なんてことも珍しくない。

 激やばクソやばのやばやば組織である。

 主人公の彼方君たちは、そんな連中を相手に世界を救うべく戦っていく。

 熱いよね。

 王道だよね。

 プレイヤーとしては最高に燃える展開だ。

 ただし、実際にその世界で生きるとなると話は別。

 

 こちとら、彼方君たちに倒される予定の関係者なんですよ!!

 しかも天麗唯月は、単なる悪役の身内というだけではない。

 この少女には、ゲームをプレイした人間なら誰もが知っている、とある特徴がある。

 それは。

 どのルートでも必ず死亡すること。

 …………。

 

 終わった。

 俺の第二の人生、始まる前から終わってる。

 エクファンは全七ルートから構成されるゲームだ。

 選択肢や攻略するヒロインによって物語が大きく分岐し、当然ながら登場人物たちの運命も変化する。

 敵だった人物が仲間になったり、死ぬはずだった人物が生存したり。

 そういった分岐も、本作の魅力の一つだった。

 ところがどっこい。

 この天麗唯月という少女。

 全七ルート、どこをどう進んでも死ぬのである。

 しかも、ただ死ぬだけじゃない。

 やけに死亡パターンが豊富なのだ。

 確か、一つのルートにつき最低四種類は死亡シーンが存在していたはず。

 

 戦闘で死亡。

 事故で死亡。

 能力が暴走して死亡。

 その他、諸々の悲惨な死に方。

 しかも、死亡シーンのほぼ全てに専用の一枚絵が用意されていた。

 気合い入りすぎだろ。

 他のキャラクターなら生存ルートが用意されていたり、死亡シーンがあっさり流されたりすることもあるのに、この子だけ妙に力が入っている。

 もはや運営に一番愛されていたキャラクターと言っても過言ではない。

 愛情表現が歪んでませんかね!?

 

 せめて一つくらい生存ルートを用意してくれてもよかったじゃん!

 ハッピーエンドのDLCないんですか!?

 言い値で買いますけど!?

 ……とまあ、そんな具合に絶望的な状況である。

 そして、さらに厄介なのが、この少女の異能力だ。

 実は天麗唯月、ゲーム中でも屈指のチート能力を保有している。

 それこそ、まともに扱えれば作中最強クラスと呼んでも差し支えないほどの能力だ。

 普通なら大喜びするところだろう。

 俺だって、喜びたかった。

 しかし、残念なお知らせがあります。

 天麗唯月は、その能力をまともに扱う才能がない。

 いや、本当に。

 笑えないくらいない。

 

 強大すぎる力を制御できず、常に暴走の危険を抱えているのである。

 そして、その暴走によって引き起こされる悲劇は数知れず。

 死亡ルートの半分くらいは能力が原因だった気がする。

 チート能力を持って生まれたのに、そのチート能力に殺される。

 何だよそれ。

 呪いじゃん。

 だったら最初から普通の能力をくれよ!

 炎を出すとか、水を操るとか、そういう普通にかっちょいいのでよかったんだよ!

 俺は平穏に暮らしたいだけなんだ!!

 ……詰み詰みの詰みである。

 

 転生特典が死刑宣告って、そんなことある?

 神様、返品は可能でしょうか。

 できればクーリングオフでお願いします。

 

 

 ■

 

 

「…………」

 

 そんなことを考えながら夕食を食べていると、ふと視線を感じた。

 顔を上げる。

 すると、向かい側に座る女性と目が合った。

 艶やかな黒髪。

 血を思わせる鮮やかな赤い瞳。

 彫刻のように整った顔立ちと、誰もが羨むような抜群のスタイル。

 長身の彼女は、優雅にワイングラスを傾けながら、無表情でこちらを見つめていた。

 

「なんだ?」

 

「ううん、なんでもないよ」

 

「そうか」

 

 短く答えた彼女は、不快そうに鼻を鳴らしてワインを口に運ぶ。

 怖い。

 めっちゃ怖い。

 何もしていないのに怒られた気分になる。

 だが、この女性こそが俺の姉である天麗夜月。

 

 世界を支配する『統制機構』の幹部にして、天麗グループを率いる女傑。

 そして、俺の破滅が約束された人生における、最大級の危険人物の一人である。

 いやぁ……。

 実物を見ると、ゲームで見ていたときとは迫力が違うなぁ。

 姉さんは常に無表情だ。

 しかも、何を考えているのか全く分からない。

 黙って座っているだけで、周囲の空気が重く感じられるほどの威圧感を放っている。

 せっかくの美貌が台無しである。

 もう少し笑えばいいのに。

 

 ……いや、やっぱりいいや。

 姉さんが笑っているところを想像したら、むしろ怖くなってきた。

 ちなみに、この人は滅茶苦茶強い。

 どれくらい強いかというと、俺がうっかり怒らせてしまえば、デコピン一発で消し飛ばされてもおかしくないくらいには強い。

 いや、冗談じゃなくて。

 

 そんな人と同じ食卓を囲んでいるのだ。

 普通なら緊張で食事どころではないだろう。

 しかし、俺は知っている。

 この人には、ゲーム本編で明かされる重大な秘密が存在するのだ。

 それは。

 重度のシスコンである。

 

 そう。この人、俺(妹)のことが大好きなのである。

 どれくらい好きかというと、普段の冷酷無比な振る舞いからは想像もできないくらいに甘い。

 その溺愛ぶりは、ゲームをプレイした人間なら誰もが知っている。

 つまり、俺はこの人にとって、特別な存在なのだ。

 そう考えると安心できる。

 

 ……はずなのだが。

 

「…………」

 

「…………」

 

 姉さんは相変わらず無表情だ。

 こちらに向けられる赤い瞳が、妙に鋭い。

 ……うん。

 これでも優しいのだ。

 優しいったら優しい。

 少なくとも、俺はそう信じている。

 

「姉さん、一週間前に帰ってきたばかりだよね。忙しくないの?」

 

 気まずい沈黙に耐えかねて、俺は話題を振った。

 姉さんは基本的に忙しい人だ。

 何せ、世界規模の巨大企業グループを率いる立場であり、その裏では統制機構の幹部まで務めている。

 普段は一か月に一度帰ってくるかどうか。

 それなのに、今回は珍しく短い間隔で帰宅している。

 しかも、こうして一緒に夕食を食べているのだ。

 これはなかなか珍しいことである。

 

「暇人だとでも? 不快だな」

 

「そんなこと言ってないよ」

 

 怒られた。

 なんで!?

 ただ心配しただけじゃん!

 姉さんは眉一つ動かさず、グラスを傾けている。

 その表情から感情を読み取るのは至難の業だ。

 

 まあ、これくらいのやり取りにはもう慣れたけど。

 何せ姉妹だからね。

 血の繋がった姉妹なんだから、そう簡単に酷いことをされるはずがない。

 うん。

 ……大丈夫だよね?

 ちょっと自信がなくなってきた。

 

 俺は気を取り直して、目の前の料理に手を伸ばした。

 ちなみに、この料理は全部姉さんの手作りである。

 意外だろう?

 俺も最初は驚いた。

 あの天麗夜月が、わざわざ自分で料理を作るなんて。

 しかも、めちゃくちゃ美味しい。

 そこらの高級レストランにも負けないんじゃないだろうか。

 ただし、一つだけ問題がある。

 量が多い。

 

 どれもこれも美味しいのだが、明らかに一人で食べ切れる量ではないのだ。

 姉さん、自分が作った料理を妹に食べさせたいのは分かるけど、もう少し加減してほしい。

 この小さな身体には限界というものがある。

 

「明日から学園か」

 

 不意に姉さんが口を開いた。

 

「うん、すごく楽しみ!」

 

 俺は思わず笑顔で答えた。

 そう。明日から、俺の学園生活が始まるのである!

 その名も、ヴァルキュリア総合学園。

 日本最高峰の異能力者専門教育機関にして、エクファンの主な舞台となる学園だ。

 そして何を隠そう、主人公である彼方君もこの学園に入学するのである。

 つまり!

 とうとう本物の彼方君に会えるのだ!!

 いやぁ、楽しみだなぁ!

 ゲームで何度も見たあの主人公が、実際に目の前に現れるんだよ?

 そりゃあ興奮もするって!

 ヒロインたちだっている。

 あの子も、この子も、みんな実在しているのだ。

 ゲームで見たイベントを生で体験できるかもしれない。

 何なら、俺も仲間に入れてもらえるかもしれない。

 出来れば仲良くなりたいなぁ。

 

 ……まあ、敵組織の幹部の妹という時点で、警戒される可能性は非常に高いんだけど。

 くそう。

 なんでこんな立場なんだ。

 せめて普通のモブ生徒がよかった。

 そうすれば、何の気兼ねもなく主人公たちと青春を謳歌できたのに。

 

「天麗の名に寄って来る愚か者もいるだろう」

 

 姉さんが、興味なさそうな口調で言った。

 

「分かってる」

 

 それはもう、嫌というほど。

 

 天麗夜月。

 

 この名前は、表の世界でも絶大な影響力を持っている。

 その理由が『天麗グループ』だ。

 いくつもの企業を買収し、瞬く間に事業を拡大させた世界的大企業。

 経済界において、その名を知らない者はほとんどいない。

 そして、それを率いているのが俺の姉である。

 つまり俺は、世界的な大企業のトップの妹なのだ。

 

 そりゃあ、近づいてくる人間だっているだろう。

 お近づきになりたい。

 コネを作りたい。

 あわよくば、天麗グループとの関係を築きたい。

 そんなことを考える人間は、きっと山ほどいる。

 しかも、俺がこれから通うヴァルキュリア総合学園は、そういう人間が集まりやすい場所なのだ。

 何せ、日本トップの異能力者専門教育機関。

 そこに在籍するのは、上流階級の子女と選りすぐりのエリート能力者たち。

 もう、この時点で面倒くさそうである。

 しかも学園内部には、強固な序列が存在している。

 生徒会長はゲームのお約束通り滅茶苦茶強いし、生徒会役員も揃って実力者。

 おまけに、クラス分けの時点で露骨なランク付けが行われるという徹底ぶりだ。

 

 なろう系学園モノでありそうな権力構造を、そのまま現実に持ち込んだような場所なのである。

 いや、ゲームの世界なんだけどね。

 そして俺はというと。

 当然のように最上位クラスへの所属が決まっている。

 すごいだろう?

 エリートだろう?

 選ばれし者だろう?

 

 ……。

 

 実力じゃなくて権力だけどな!!

 

 うわあああ!!

 情けない!!

 泣きそう!!

 

 本来、最上位クラスとは優れた異能力者が集められる場所だ。

 主人公やヒロインたちをはじめ、将来を嘱望される天才たちが揃っている。

 そんな場所に、姉の権力で放り込まれる俺。

 いや、一応チート能力持ちだから、能力の格だけなら文句なしなんだけど。

 問題は扱えるかどうかなのだ。

 俺の場合、そこが致命的に怪しい。

 というか、ゲーム本編の知識を信じるなら致命的どころではない。

 まさしく致命傷である。

 

 もう嫌だ。

 入学早々、実技試験とかやらされたらどうしよう。

 普通に負けるだけならまだいい。

 うっかり暴走でもした日には、学園生活どころか人生そのものが終了しかねない。

 何なら周りを巻き込む可能性まである。

 笑えない。

 本当に笑えない。

 

「おい」

 

「ッ!? なに!?」

 

 うぇ!?

 びっくりしたぁ!!

 突然声を掛けられ、思わず肩が跳ねた。

 顔を上げると、姉さんがこちらをじっと見つめていた。

 

「手が止まっているぞ」

 

「え?」

 

 言われて初めて、自分がフォークを持ったまま固まっていたことに気づく。

 考え事に夢中になりすぎていたらしい。

 俺は目の前の皿に視線を落とした。

 まだ料理が残っている。

 いや、残っているどころではない。

 結構な量がある。

 

「おなかいっぱいだよ。姉さん、作りすぎなんだもん」

 

「………」

 

 姉さんが小さく舌打ちした。

 ひえっ。

 怖いよぉ。

 そんな顔しないでよぉ。

 この身体、本当にそんなに食べられないんだってば!

 前世の俺なら余裕だったかもしれないけど、今は小柄な女の子なんだよ!?

 胃袋の大きさを考えてほしい。

 

「朝食にでもしろ」

 

「はいはい」

 

 俺は慣れた調子で返事をした。

 すると、姉さんの眉がほんのわずかに動いた。

 

 ……おっと。

 

 今の返事はまずかったか?

 まあ、何も言われていないし大丈夫だろう。

 たぶん。

 俺は残った料理を片付けながら、再び思考を巡らせる。

 

 さて。

 

 冗談みたいな境遇ではあるが、いつまでも現実逃避をしているわけにはいかない。

 何せ、こっちの命が懸かっているのだ。

 天麗唯月には、確定した破滅の未来が待っている。

 それも、一つや二つではない。

 放っておけば、いずれ何らかの形で死ぬことになるだろう。

 俺はそんな未来、絶対にごめんだ。

 せっかく二度目の人生をもらったんだから、今度こそ長生きしたい。

 出来れば平和に。

 美味しいものを食べて、好きなことをして、普通に学校に通って。

 そんな人生を送りたいのだ。

 

 ……まあ、世界を裏から支配している組織の幹部を姉に持つ時点で、普通の人生とは程遠い気もするけど。

 

 細かいことは気にしない!

 大切なのは、これからどうするかだ。

 そして実は、俺には一つだけ希望がある。

 それが、明日から通うヴァルキュリア総合学園なのだ。

 あそこは日本中から優秀な異能力者が集まる場所。

 当然、様々な系統の能力者が存在する。

 攻撃に特化した者。

 防御に優れた者。

 回復や支援を得意とする者。

 そして、特殊な能力を持つ者。

 ゲームをやり込んだ俺は、その中でも特に注目すべき存在を知っている。

 

 能力者の御三家。

 その一角である、古月家だ。

 古月家は、封印能力で知られる名門である。

 封印。

 そう、封印だ。

 

 俺にとって、これほど魅力的な言葉があるだろうか。

 何せ、天麗唯月の最大の問題は、その強大すぎる異能力をまともに制御できないことなのだ。

 だったら、能力を封印してしまえばいい。

 少なくとも、暴走を防ぐ手段にはなるかもしれない。

 もちろん、そんなに簡単な話ではないだろう。

 封印能力にも得手不得手はあるだろうし、そもそも俺の能力に通用するかどうかも分からない。

 それに、封印した結果、別の問題が起きる可能性だってある。

 だが、試してみる価値は十分にあるはずだ。

 何もしないよりは、ずっといい。

 それに、学園には古月家以外にも優秀な能力者が大勢いる。

 もしかしたら、俺の能力を安全に扱えるようにしてくれる人が見つかるかもしれない。

 そうなれば、破滅ルートを回避できる可能性は一気に高くなる。

 

 よし。

 

 希望が見えてきたぞ!

 まずは学園で情報を集める。

 それから、能力をどうにかする方法を探す。

 そして、出来ることなら主人公の彼方君たちとも仲良くなる。

 最終的には、あの忌々しい死亡フラグを全部へし折ってやるのだ。

 完璧な計画じゃないか!

 

 ……いや、具体的な手段はまだ何一つ決まってないんだけどね。

 

 そこはまあ、これから考えるということで。

 何せ俺には、原作知識という最大の武器がある。

 少なくとも、どんな危険が待ち受けているのか、何も知らない人間よりは遥かに有利なはずだ。

 たぶん。

 きっと。

 そうだといいなぁ……。

 

「何を笑っている」

 

「えっ?」

 

 顔を上げると、姉さんが訝しげにこちらを見ていた。

 どうやら、考えていることが顔に出ていたらしい。

 

「ううん。明日が楽しみだなって」

 

「……そうか」

 

 姉さんは短く答えた。

 それから、再びワイングラスに口をつける。

 相変わらず、何を考えているのか分からない。

 けれど、俺はそんな姉さんを見ながら小さく笑った。

 この人も、ゲームでは様々な運命を辿る人物だ。

 そして俺は、その多くを知っている。

 今はまだ、何が出来るのか分からない。

 だが、少なくとも一つだけ、はっきりしていることがある。

 俺はもう、ゲームの画面越しに物語を眺めるだけのプレイヤーではない。

 天麗唯月として、この世界で生きているのだ。

 だったら、結末だって変えられるかもしれない。

 いや、変えてみせる。

 

 俺は死にたくない。

 せっかく転生したんだ。

 大好きだったゲームの世界を、もっともっと楽しみたい。

 彼方君にも会いたいし、ヒロインたちとも仲良くなりたい。

 美味しいものだって、まだまだたくさん食べたい。

 それに何より。

 俺は、平穏な学園生活を送ってみたいのだ!

 目指すは破滅回避!

 死亡フラグなんて全部ぶっ壊してやる!

 待ってろよ、ヴァルキュリア総合学園!

 待ってろよ、彼方君!

 この天麗唯月、今度こそ幸せな人生を送ってみせるからな!!

 

 ……。

 …………。

 

 ところで。

 ゲーム本編の序盤で俺って何回死んでたっけ?

 確か、学園関係のイベントにも死亡シーンがあったような……。

 

 ……。

 …………。

 

 あれ?

 もしかして、明日からもう危なくない?

 俺の実家とされてた屋敷に行ってももう会えなくない?

 

 …………。

 

 前途多難すぎるだろ、俺の第二の人生!!

 誰か助けてくれぇぇぇ!!

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