もとい、こんにちは、こんばんわ。海原です。
脳味噌から出したワードを出力してます。
今回のテーマは、タイトル通り『もし、自分が物書きになって収入を得ることになったら』がテーマです。
小説家、海原翻車魚。本名は名乗りたくない。キラキラネームだからとかではなく、名前に墓が入ってる忌み名だからだ。
物を書き始めたのは、手慰みという建前で満たされない承認欲求を求めていたのが理由だ。
何作か書いた後、作家として物を書くようになった。ただ、身を削るように世間の求められる作品を描く内、精神の削れてはならない部分が削られた。
その穢れは作品には伝播したが、政が捗らない昨今と私の厭世感が妙にマッチしたことで更に精神を削られる羽目になる。
自身の厭世で身を削りながら、その厭世で血肉を稼ぐ。
嫌な商売だ。
相談したところ私担当の編集者から静養を勧められ、国内の辺鄙な温泉街を休養の場所にした。勿論、編集者にも読者にも会わない想定で宿をとった。
宿泊して数日、体には安らかな泥寧が充満していた。この気持ちよさを味わったのは就活が終わった時の大学生の頃以来だった気がする。
ぼうっとしていると
『いぐさの匂い、洗濯された布団の感触、吹き抜ける快い風、ゆらりと動く電灯の紐。先程まで食していた、天ぷらとすき焼きの匂いが冬の窓から抜けていくことに一抹の寂しさを覚える。』
普段のように筆を執るならそんな文言になるだろう、と考えていた。
けれど、今は静養中。所謂オフだ。
雪を見た子供のように両手両足を放り投げて温泉街を駆け回る方がいい。好きなゲームを全力でプレイする小学生でいい。好きな女子に無意味にアタックする中坊で良い。
分かっていてもなお、頭の中のキーボードが無機質にタイピングするあたりビョーキかもしれないとため息一つ。
備え付けの旅館名が入ったスリッパを引っかけ、廊下を練り歩く。年季が入っているであろうくすんだ赤いカーペットが道を示す。
館内案内に従いながら、旅館の目玉である天然温泉に向かう道。ふと、先生と呼ばれた気がした。医者でもいるのだろうとたかを括り歩みを進めようとすると肩をぽんぽんと叩かれた。
必要な時だけ話すスタンスなのだが、イレギュラーも噺のタネになるかと思い、対人用の表情を作る。
手の方向に向き直ると、女性がいた。
丹前を着込んでいる童顔の女性、丸ぶち眼鏡をかけ触りたくなるような黒髪をストレートに流している。視線はこちらをやや見上げていた。
さて、何用か。そう尋ねる前に向こうが口を開いた。
「海原先生、ですよね?!ストーカー猫の!?」
突然の出来事に目を丸くしてしまう。それもそうだ、自分のことを知るはずの無い地域を選んできたはずなのに、著作の名前を出されたからだ。
『何故バレた?』『何を求められている?』『そもそも誰?』『来なきゃ良かった……』『嫌な汗かいてきた』などと煩雑な思考が脳味噌を飛び回る。
天恵、天命、天道……一筋のヒラメキ。僅かに見える本と著作を知っている女性。ナンパするほど軟派には見えないから、恐らくサインか…?!
そうと分かれば、頭をサイン会モードに切り替えて対応する。
「あはは、読者の方でしたか。そうです、海原です。」
著者名には、『海原翻車魚』と銘打ってるが、苗字はとかく、知ってか知らずか名前の方は呼ばれない。まあ、マンボウ先生と呼ばれて振り向く自分を想像出来ないから仕方がない。
「あ、あああの!サインを!」
「良いですよ。」
差し出された本はやはりというかなんというか、年季の入った『ストーカー猫』の冊子だった。送り出した時は生まれたてだったのに、ここにいる猫は眠りが永遠になりそうな子だ。
「お名前は?」
「カオリです。香りを織ると書いて香織です!」
「承知しました。」
後書きの余白に筆を預ける。ちらりと後付けを見ると初版だった。古本屋で買ったのか、それとも読み続けてくれたのか……何にせよ書き手冥利に尽きる。印税という血税が今日も血肉になっているのは口にしない。
「サイン、ありがとうございます!」
気を抜こうとした刹那、ふと思った。読者がまだいるかもしれない。なので、
「一応、オフなのでナイショでお願いします。」
「!」
ちょっと釘を刺しておいた。
モーターを入れた赤べこのようにコクコクと激しく頷く彼女を背に硫黄の臭いが強い方へ歩みを進めた。窓枠に詰まった雪の冷たさも鼻を抜けた。
男湯の青い暖簾をくぐると、一層強くなった硫黄や香水の匂い、年寄りの臭い、ドライヤーや扇風機の駆動音、子供の騒ぐ声が私を出迎える。
些事はさておき支度を整え、体を洗い、いざ露天。
雪がしんしんと降る光景。
備え付けられた露天風呂に浸かりながら普段の苦汁や辛酸をゆっくりと心に落とす。
ふと、思う。
この方舟に満たされた神酒が、現実と寒さを隔絶してくれる聖域であれば喜ばしいことではないかと。
人気が少ないタイミングを見計らって、全身を風呂に潜らせる。
体で感じていた温もりが顔を含めた全身を疾駆する。
ただ、陸で生きる宿痾がすぐに不快感を募らせた。
悲しいかな、俗人が聖域に入るには人であることを捨てねばならない。
水面から顔を出すと共に、内省を言語化してしまっていた。
やっぱり病気じゃないか。
普段は下すから飲まない牛乳を購入し、一気に飲み干すと干し草の匂いを思い起こすほどに濃密な風味と冷たさが胃袋を突き抜けた。
俗に言う、『ととのう』というのはこういうことなのだろうと思い、身支度を整えた。
1話でバイバイした方、戻ってきて~……
と言っても、初見バイバイかましたのこっちですが。
これはある意味三色団子です。三つの文章を一つにした短編です。
『こことこことここだろ?』という感想お待ちしてます。