とある曲を聞いて着想を得ました。
色々書いていて筆が乗ったのを採用する形になっているので投稿が遅くなりました。ごめんなさい。
大して重くないので安心してご覧下さい。人の心はまだ持ってます。外スラ空振りで笑える程度には心はあります。
小さい頃、父が渋い顔をしながら緑色の汁を飲み下すのをよく見た。その顔の歪み方は、機微に疎い幼児ですら口の中に苦さを覚えるほどだった。
何故か、と問うと父は気まずそうな顔で話をよくそらした。『外食に行こう』『遊びに行こう』『ゲームを買おう』、と。
中学で裁判の傍聴を社会科見学として見に行った。
他の生徒は荘厳な風景に興奮したり気圧されている中、私は木槌を握り普段のラフな格好とは似ても似つかない父を見た。
響く怒声や理性的な声、そして静寂を取り戻すべく振るわれる槌が嫌に耳にこびりついた。
その厳粛さ、高潔さ、非常さに圧倒された。
その風景が目蓋にこびりついたから、父を避けるようになった。
そのような出来事があっても、不可逆の潮流は人々を洗い流す。
就職した頃、社会人として話そうと思い立ち実家に帰った。
相も変わらず草を煮詰めて煎じたような汁を飲む父に、あの時聞けなかったことを聞いた。
「親父、それ何?」
「……青汁だ。」
「健康のため?」
「そうでもあるし、そうでもない。」
「どういうこと?」
最後の一滴を飲み下すと父は、
「俺が裁判所勤めなのは知ってるな」
「うん」
トラウマになったことだ、今でも瞬きをすれば目にうつる。
「人を裁くのもまた人だ。」
「そりゃあね。」
「人なんだからミスはするだろ?」
「多少はそうだろうけど」
「万一、何でもない人に罰を与えてしまったとしたら?万死に値する人間を野に解き放ってしまったら?」
「……」
父の問いに言葉が詰まる。どちらも裁きとして下の下だ。有って良い筈がない。そんな言葉が不思議と口から出てこようとしない。
「そういうミスを誰が咎められる?誰が裁ける?」
「…誰もいない。」
「そうか…」
父は口直しの水を汲むでもなく、俺を見据える。
「ちょっと聞き方を変えるか。」
胡座の足を組み替えながら父は一旦目線を切った。
「お前も給料って金をもらってるだろう?」
「そりゃあね。」
「俺だって仕事で給料を貰っている。」
「うん」
「そこには、流した汗と背負った責任があるだろう?」
「……」
「余程のミスじゃない限りその金が引かれる訳じゃないんだ。」
父は導線を作っているつもりだろうが、話が混迷しているように感じる。懐中電灯を目に向けられている気分だ。
「で、結局何が言いたいのさ。」
答えに至らぬこちらに呆れるでもなく、気持ちを汲まぬ子供に怒るでもなく父は真っ直ぐにこちらを見た。
「……いいか?法を守るために人はいるわけじゃない。」
卵が先か鶏が先かの話に聞こえた。
「人を守るために法はあるんだ。じゃなきゃ、自分が法律だと騒ぐヤツが出てくる、だろ?」
箱庭の話をしていたようだ。
懐中電灯が篝火に変わる。
次々に灯る灯火を頼りに俺は歩く。
その道に対して文句をつけたかった訳じゃないが、
「それはそうかもだけどさ、法律なんて教習所で習ったくらいしか知らねえよ……」
そんな言葉が口をついて出た。
「浮気があったら探偵なり興信所使うだろ?」
「?!」
「それと同じだ。」
「何か違くね?」
見当違いをしていると思い、一笑に伏す。
話はよく分からなかったし、核心のようなものも聞けなかった。
3年後、親父は死んだ。
無罪を主張していたが親父が判事をしていたせいで臭い飯を食うことになったとほざいているヤツに刺された。
何度も、何度も、何度も。頭を、腹を、足を、腕を。
生きていたなら、『針のむしろだ』とカラカラ笑うだろう父の顔は弔うために整形された綺麗な顔だった。縫われた跡が無ければ最後に会ったあの日のままだった。
ゴタゴタを何とか片付けて、親父の仏壇の座布団に座り込む。
埃を被った親父のコップを洗い、青汁を注ぐ。
「献盃」
静粛に響くそれが弔いになるかは分からない。
ゴク、ゴクと喉に引っ掛かる感触が嫌に長く感じた。
コップを再び洗い、仏前に供え直す。
目蓋の裏は、笑い飛ばした筈の親父の顔になっていた。
「……そうか」
何となく、分かった気がする。
いつだか父が気まずそうに話を逸らした感覚が腑に落ちる。
閻魔大王のセットドリンクって感じで青汁です。
野菜ジュースですら飲みたくないのに青汁飲むことになったら自棄起こして炭酸ジュース飲む自信があります。
では、またいつかお会いしましょう。