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言葉とは不思議なものだ。
なにげない一言が、相手を慰め、勇気づけることもあれば、反対に相手を傷つけ、悲しませてしまうこともある。それはどの時代であっても変わらないことで、昔の人が「言霊」というものを信じたのも頷ける。
一度、口に出してしまったそれは、取り消すことができない。もし、一つだけ、その発言を取り消せるとしたら、人はどのような言葉を選ぶだろうか。
俺は、彼女へのあの言葉を選びたい。
俺が小学生となる直前の春、父親の転勤が決まった。今までに住んでいた土地を離れ、新しい場所で新しい生活をするというのは不安もあったが、それを遥かに上回る期待と興奮があった。どんな友達とどんな遊びができるのか。それを考えるだけで興奮してしまい、特に入学式の前日はなかなか寝付くことができなかったことを覚えている。
時は流れ、俺が二年生への進級を迎えるころ、父親の転勤が再び決まった。当然、俺は反発した。今の友達と別れたくないと駄々をこねた。しかし、その反抗も無駄に終わり、俺は他県の小学校へと移った。
父親の転勤にともなう転校は決して、珍しいことではない。しかし、小学校を卒業するまでに四回の転校を経験する人は少ないだろう。
それぞれの学校で、友達はできた。そして、学校が変わるたびに彼らとは疎遠になった。別に、今更連絡を取り合いたいと思うわけではないが、一人だけ例外がいる。
俺にとって五つ目の小学校で出会った「星空凛」という友人だ。
「ねえ、ドッジボール一緒にやろうよ!」
転校初日の放課後、帰宅しようと席を立った俺の背後から声が聞こえた。振り返ると、ボールを両手にかかえ、にこやかに笑う女の子がいた。短くカットされたオレンジ色の髪は彼女のあどけなさの残る顔立ちとマッチし、よく似合っていたのを覚えている。
「……え?」
突然の遊びの誘いに俺の口からでた言葉は、肯定でも否定でもない間抜けなものだった。
「凛ちゃん、まずは自己紹介をしないとだめだよ?」
傍らにいた茶髪の女の子が、ボールを持った女の子をたしなめる。
「あ、そっか!さすがかよちんにゃ!」
コホン、と咳払いを一つ。
先ほどと変わらない、いや、より明るい笑みを浮かべ、女の子は言った。
「凛は星空凛!好きな食べ物はラーメンにゃ!これからよろしくね!」
忘れることができない俺と星空凛の出会い。これからの出来事は、今から数年ほど前のものであるが、昨日のことのように思い出せる眩しい思い出だ。