「じゃあ、またね!」
「ばいばーい!」
「じゃあ、凛たちも帰ろうか!」
各々が別れの挨拶を口にしながら、家路につく。俺は、家が偶然にも星空さん、小泉さんの家と近かったため、二人と一緒に下校する運びとなった。
「楽しかったね、凛ちゃん!」
「うん!……どう?みんなと仲良くなれそう?」
おずおず、といった様子で星空さんが俺に尋ねる。
「うん、星空さんのおかげで仲良くなれそうだよ!」
俺は転校を四回経験したが、初日からこうしてクラスメートと遊ぶのは初めてだった。星空さんが、ドッジボールに誘ってくれたおかげでクラスになじむことができた。誰とでも親しくなることができる彼女の周りに人が絶えることはない。男女問わず慕われる彼女はきっと、クラスの人気者なのだろう。
「え、あ、べ、別に凛が何かしたわけじゃないし……」
明るい彼女らしくない反応に、表情には出さないが驚いた。てっきり、「ふふふ、凛に感謝するにゃ!」なんて茶目っ気たっぷりのリアクションを予想していたからだ。
「いやいや、そんなことないよ。ね?小泉さん?」
「そうだよ、凛ちゃんが誘おうって言ったんだもん、何もしてないわけじゃないよ?」
「そ、そうかなぁ……?」
なんとも言えない表情を浮かべる星空さん。これ以上、この話題をするのは得策ではないと判断した俺は話題を変えることにした。
「そういえば、二人は幼馴染なんだっけ?」
「そうだよ!凛とかよちんは幼馴染だにゃ!」
小泉さんとの話題になると、さっきまでの様子はどこかへ、一転してイキイキする星空さん。二人の仲の良さが改めて分かるワンシーンだ。
「凛ちゃんとは幼稚園のころからお友達なんだ」
「凄いなぁ……。ケンカとか、したことないの?」
「うーん……ない……かな?」
「ないにゃ」
即答だった。
ケンカするほど仲がいい、とはいうけれどこの二人には当てはまらないようだった。俺にも幼馴染、と言っていいのかは分からないが、引っ越しをする前の古い友人はいた。「いた」というのは、現在、一切の交流がないからだ。だからか、二人のような特別な絆で結ばれたかのような関係が眩しく見えた。
「あれ?どうかしたかにゃ?」
少し、過去を思い出して無言になった俺を星空さんが不思議そうな顔で見つめる。
「あ、いや、俺には二人みたいに長い付き合いの友達はいないからさ、羨ましいな、って」
「あっ……」と、小さな声が小泉さんの口からこぼれる。俺も、暗くなるようなことを口にだしてしまったのを後悔したが、星空さんだけは違っていた。
「どういうこと?凛ちゃん?」
ふふふ、と星空さんが不敵に笑う。
夕陽に照らされた、彼女の美しい笑顔にどきり、と胸が大きく高鳴った。
「フフフ、凛ちゃんらしいね!……これから、よろしくね?」
「うん、こちらこそよろしく!星空さん、小泉さん」
そう返事をしながら、素晴らしい友人が二人もできたことを神に感謝する。
二人を見ると、怪訝な表情を浮かべていた。なにか、おかしなことを言ったのかと不安になったが、それはすぐに打ち消されることになる。
「友達なのに『さん』付けは……ねぇ?凛ちゃん」
うんうん、と星空さんが続ける。
「友達なんだから、ちゃんと下の名前で呼んでほしいにゃ!」
「え、わ、わかった……」
「ほら、早速呼んでみるにゃ!」
同性の友達を下の名前で呼ぶことに抵抗はない。が、二人は女の子である。異性を下の名前で呼ぶなんて、いつ以来だろうか。少なくとも、小学校に入ってから呼んだ記憶はない。だから、少し、いや、かなり気恥ずかしい。
「……まじで?」
「大マジにゃ」
「うん」
じーっと二人に見詰められると、恥ずかしさで余計に言いづらくなる。そんな俺にニヤリと笑みを浮かべ、凛が言った。
「あ、照れてるにゃ!かよちんと一緒にゃ!」
「はっ!?て、照れてないし!」
「わ、私!?え、どういうことっ!?」
「ふふーん!悔しかったら捕まえてみるにゃ!」
唐突に走り出す凛。ランドセルを背負っているとは思えない彼女のスピードに驚愕する。……今、思い返すとドッジボールで凛の運動神経の良さは知っていたのだから、驚くこともないといえるのだが。
「え!ま、待てよ!凛!」
言うや否や、ぴたりと足を止めてこちらを見る凛。クスクスと花陽の笑い声が左から聞こえる。どうやら、凛にハメられたようだった。
「呼べたね、名前」
「……なんか負けた気がするんですけど」
「細かいことを気にする方が負けにゃ!」
「意味分からない……」