「かよちん、今日来れないって……」
「え!?花陽が来れない!?」
涙目で俺に告げる凛の様子から、それが冗談の類ではないということが分かる。
初秋の晴天に恵まれた約束の日曜日、期待に胸を躍らせて集合場所である最寄りの駅についた俺たちを待ち受けていたのは悲しい現実であった。
「うん……。かよちん、風邪ひいちゃって熱があるんだって、おばさんが……」
「そうか……。それは残念だな……」
季節の変わり目だけあって、ここ最近は寒暖の差が激しく、体調を崩すクラスメートが多かった。とはいえ、花陽もこのタイミングで風邪をひくなんて……。俺はいるかも分からない神を呪った。
「かよちんが、『私の分も楽しんできてね』って言ってくれてたっておばさんが……。凜は二人でも遊園地に行きたいんだけど……一緒に来てくれる?」
招待券の期限は今日までであった。だから、花陽の件は残念であるが、遊園地に行くことを延期することはできない。凛が行きたくないのならば仕方ないが、行く意志があるのなら断る理由は全くない。
「よかった……。かよちん来ないから帰るって言われるかもしれないと思って、凛、怖くて……」
「なんで花陽が来ないからって帰ると思ったのさ?」
「だって、凛と二人だとつまらないかなって……」
「そんなことないって!俺は凛と一緒にいるとすごく楽しいよ!」
凛の自分を卑下する物言いに、怒りでつい声が大きくなる。近くの人が何人かこちらを見ていたが、気にせず続けた。
「だから、そんなこと言うなよっ!!」
言い終わると同時に俺は我にかえった。
回りを見て、完全に周囲の視線を集めてしまったことに気付き、羞恥心にとらわれる。
「……」
凜は無言で俯いていた。急に俺が大きな声を出したせいで、驚かせてしまったのだろうか。
「ごめん、大きな声だして」
今度は小さな声で謝る俺に凜は数回、左右に首を振る。数回、鼻をすすった後、彼女はバッと勢いよく顔を上げた。
「なんか、凛、嬉しくて……。どんな顔をしたらいいのか分からないにゃ……」
目を背けて、頬を朱色に染めた凛はなぜだか普段以上に可愛らしく、魅力的に見えた。だから、俺は自信を持って言った。
「そのままの凛でいいよ」
「おお……っ」
初めての遊園地を眼前にして、感嘆の声が俺の口からこぼれた。
窓口で凜が二枚の招待券を係員に渡し、代わりに一日フリーパス券を受け取る。このフリーパスがあれば、今日はどのアトラクションであっても乗り放題。俺たちにとってそれは魔法の紙切れである。
豪華なゲートをくぐり抜けると、たくさんのアトラクションが視界に現れた。メルヘンチックなメリーゴーランドに男児に人気なゴーカート、遠くには大きなジェットコースターや観覧車も見える。
「凛、お化け屋敷があるぞ!」
俺が真っ先に興味を惹かれたのが、その中の一つであるお化け屋敷であった。係員と思われる男性が何かの妖怪と思われるコスプレをしており、それが目についたからだ。
「凜は別に怖くないけど、大丈夫?」
大丈夫か、と問われても俺はお化け屋敷自体が初めてなので自分がこの手のものに不得手なのかは実際のところ分からない。しかし、テレビで放映されるホラー映画なんかは特に問題なく視聴することができる。仮に、苦手であったとしても男としては女の子の手前、「やっぱり行くのをやめよう」なんて言えるわけもないが。
「うん、大丈夫。むしろ、凛こそ怖いんじゃないの?」
俺の安い挑発に凛は表情を変えた。
「ふ、ふん!お、お化けなんて怖くないにゃ!さ、さっさといくにゃ!」
言うや否や、凛が速足でお化け屋敷に向かって行く。ちょっと煽りすぎたかな、そう反省しながら凛の後を駆け足で追った。
お化け屋敷はかなり本格的なものであった。暗いからといって内装に手を抜いた様子はなく、例えば、ドアは古びた木の扉に似せて作られていた。見た目だけでなくノブをひねった時、それが本当に錆びついているかのような嫌な音を立てることなどから、細部に気を配られているのが分かる。
「で、でたにゃぁ!!」
お化け屋敷のギミックが作用し、前方から何やら赤い人影のようなものが現れた。それを見て、凜は声をあげて俺の背中にぴったりとくっつく。凜はどうやら、本当はこういったアトラクションが苦手なようで、先ほどから悲鳴をあげたり、泣きそうになったりと大忙しであった。
「大丈夫だから、ほら、俺の手を離さないでね?」
少しでも恐怖心を和らげることができるように凛の手を握る。繋いだ手に凛が力を込めたのが伝わってきた。
「ぜったい、ぜーったい離さないでね!?」
手をつないで少し落ち着いたからか、凜は俺の背後から横に居場所を変える。凛の頬にできた細い筋に館内のわずかな照明が当たり、鈍く輝く。どうやら、俺の想像以上に凜は恐怖を感じていたらしい。
「絶対離さないから、安心して」
凜を安心させるために彼女の目を見て力強く言い切る。俺の言葉に凜がなんども頷いた。
その後、出口まで俺たちの手は離れることはなかった。時折、凜がビクリと体を震わせてはいたものの、手を繋ぐ前とは違い、悲鳴をあげることもなければ涙を浮かべることもない。結局、すんなりとゴールまでたどり着くことができた。
「手、つないでくれたから、途中からは怖くなかったよ。そ、その……ありがとにゃ!凛、トイレ行ってくるね!」
お化け屋敷から出た直後、凛が俺に早口でそう言った。暗所から出たばかりであったため、この時の凛がどのような表情であったかは分からない。
ようやく外の明るさに慣れたときに見えたのは、駆けていく凛の背中だった。
凛ちゃんとの遊園地デートを書いていたら、予想以上に文字数が増えたので分割しています。
残りはまだ手直しが終わっていないので、終わり次第投稿する予定です。
のんびりと、お付き合いくださいm(__)m