(完結)よくある聖女召喚   作:埴輪庭

8 / 19
第二王女⑦

 ◆

 

 イギリス艦隊、魔導戦艦「キャメロット」。

 

 イギリスは魔術と科学の融合において、世界をリードする存在である。

 

 その象徴が、エクスカリバー・システムだ。

 

 アーサー王伝説に登場する聖剣の名を冠するこの兵器は魔術と科学技術を極限まで融合させた「魔科融合兵器」の最高峰である。その原理は一言で言えば「艦の自壊を顧みないエネルギー収束」だ。

 

 通常のエネルギー兵器は艦の安全性を考慮して出力に上限が設けられている。いくら強力な砲でも、発射の反動で艦が壊れては意味がない。だがエクスカリバー・システムはその制限を完全に撤廃した。

 

 艦に搭載された全エネルギー──核融合炉、魔力蓄積装置、緊急用バッテリー、果ては生命維持システムの電力までを、一点に収束して放出する。

 

 その際、魔術的な「存在圧縮術式」が重要な役割を果たす。

 

 存在圧縮術式は物理的なエネルギーを「存在密度」という概念に変換し、さらに再び物理エネルギーに戻す技術だ。この変換プロセスを経ることで、通常なら相互干渉して減衰してしまうはずの異なる種類のエネルギーが、損失なく合算される。

 

 核融合エネルギー、魔力、電力、熱エネルギー、運動エネルギー。

 

 すべてが「存在密度」という共通の形式に変換され、一つに束ねられ、そして解放される。

 

 最大出力は千二百兆メガワット。

 

 光子波動砲の八百三十兆メガワットを遥かに凌駕する、地球圏最大級の火力だ。

 

 ただし、エネルギー収束の関係上、攻撃範囲は光子波動砲より狭い。その範囲内にあるものは例外なく消滅する。ここまではいいのだが、問題もある。発射した艦は確実に自壊するという点だ。全エネルギーを吐き出した後、艦は動力を完全に喪失し、内部崩壊を起こす。乗組員の生存率は脱出に成功した場合でも三割を切る。

 

 仮に地球に使用すれば、地球は焼き尽くされる!!! 

 

 エクスカリバー・システムは文字通りの「切り札」なのだ。

 

 魔導戦艦「キャメロット」の艦橋で、ダッジは静かに報告を聞いていた。

 

「エクスカリバー・システム、起動完了。エネルギー収束率、上昇中」

 

「乗組員の脱出準備は」

 

「完了しています。発射と同時に、全員が緊急脱出ポッドで離脱します」

 

 ダッジは頷いた。

 

「キャメロットを失うのは惜しいが……仕方あるまい」

 

 ◆

 

 中国艦隊、超弩級五行戦艦「崑崙」。

 

 中国の軍事技術は道教の秘術を基盤としている。

 

 その最高峰が、天絶陣だ。

 

 天絶陣は厳密には「兵器」ではない。それは「陣法」──空間そのものを作り変える術式である。

 

 その原理を理解するにはまず道教における「気」の概念を知る必要がある。

 

 道教では宇宙は「先天の清気」と「後天の濁気」という二種類の気で構成されると考える。先天の清気は宇宙誕生以前から存在する根源的なエネルギー。後天の濁気は物質世界を構成する通常のエネルギーだ。

 

 我々が呼吸する空気、感じる重力、認識する空間──すべては後天の濁気で満たされている。

 

 天絶陣はこの後天の濁気を先天の清気に置換する術式だ。

 

 両気の入れ替えが起こる過程で、空間の秩序は「混沌の玄機」によって組み替えられる。いうなれば、無と有、静と動、因果と結果の法則が逆転した虚無の空間が生成されるのだ。前後左右の別が乱れ、時間の流れすら不確定になる。

 

 現代科学の用語で言えば、これは人工的なブラックホールの生成に近い。

 

 だが通常のブラックホールとは異なり、天絶陣は「三段階の滅却」を行う。

 

 第一段階──「天」。

 

 陣に侵入した存在はまず「存在感覚」を奪われる。自分がどこにいるのか、何をしているのか、そもそも自分が存在しているのかすら分からなくなる。量子力学的に言えば、観測者と被観測者の関係が崩壊し、存在の確率波が収束しなくなる。

 

 第二段階──「地」。

 

 それでも物理的な運動を続ける存在に対しては「地」の力が働く。これは空間の不連続性を利用した物理的破壊だ。陣内では隣り合う二点の間に無限大の距離が生じることがある。その結果、物体は内部から引き裂かれ、五体がバラバラに砕け散る。

 

 第三段階──「人」。

 

 第一、第二段階を耐え抜く存在──例えば、高度な防御術式を持つ仙人級の存在──に対しては陣主が「人」の紙旛を振る。これにより、先天の清気と後天の濁気の境界で雷鳴が発生し、対象を灰燼に帰す。この雷は通常の電磁気的な雷とは異なり、存在の根源そのものを焼き尽くす。

 

 天絶陣の最終形態は直径数千キロメートルに及ぶ人工ブラックホールの生成だ。その内部に取り込まれた物質は三段階の滅却を経て、完全に消滅する。

 

 出力換算は不可能。なぜなら、天絶陣はエネルギーを放出するのではなく、空間そのものを変質させるからだ。だが、その破壊力は光子波動砲にも引けを取らない。

 

 仮に地球に使用すれば──いや、地球を天絶陣の中心に置けば地球は存在ごと消滅する!!! 

 

 陣法母艦「崑崙」の中枢部、八卦台と呼ばれる制御室。

 

 六十四人の道士たちが、八角形の陣を囲んで座禅を組んでいた。彼らの前にはそれぞれ三枚の紙旛──「天」「地」「人」と書かれた霊符が置かれている。

 

「符陣展開、開始」

 

 龍金平の声が響く。

 

 道士たちが一斉に印を結び、真言を唱え始めた。

 

「太上老君急急如律令……」

 

 紙旛が宙に浮かび上がる。その表面に刻まれた符文が、淡い光を放ち始めた。

 

 艦の外殻では巨大な魔法陣が展開されていく。直径百キロメートルに及ぶ八卦の陣が、恒星間生物を囲むように形成されていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。