『中古カード』専門店   作:新人28号

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第一話 開店に至るまで①

 

 

 カードゲームの勝敗で全てが決まる。ホビーアニメではそんなに珍しくもない設定だ。人の生き死にであったり、世界の命運であったり。本当に何でもアリだった。

 

 

 そんなアニメに触発されて、俺はいくつかのカードゲームに手を伸ばし、見事その沼にハマってしまった。最終的にお財布的な意味で、一種類に絞ることになったがそれも些細な話だろう。

 

 

 それもともかく、ルールなどの違いがあったとしてもカードゲームというものには共通点がある。

 最強の自分を演じれることだ。現実には存在しない英雄やドラゴンを召喚して、自分だけの軍勢を率いる指導者になったり。あるいは、それらの力を憑依させて自ら戦場に立ったり等など。

 

 

 そんなカードゲームは、俺は大好きであった。アニメでの『とある展開』を鑑賞することも含めて。生き甲斐とも言える――のだが。

 それ(・・)がリアルだったら話は変わってくる。

 

 

 俺は転生してしまったのだ。カードゲームの勝ち負けで、全部が決まってしまう世界に。TSというおまけ付きで。

 

 

 もちろんカードゲームは好きなので、その点は大歓迎だ。主流のカードゲームが全くの未知であったり、偶にノリでついていけないことはあるけど、それも細かいこと。俺が慣れれば良いだけ。

 

 

 ――けれど、俺が求めている『もう一つの願い』は心の奥底に封じ込めておくべき類のものだ。『あのシチュエーション』は創作であるから許されるのであって、現実で生きる人間に向けて良いものではない。

 

 

 カードゲームに興じつつ、俺はこの二度目の人生を悔いなく全うする。そのつもりだったのに。あの出会い(・・・・・)に、俺の人生設計は狂わされてしまった。

 

 

 

 

 ――現在の俺はカードゲームで友人相手に勝ったり、負けたりを繰り返したり。授業やテストで無双したりする絶賛『二度目』の人生を謳歌中のピチピチな中学一年生だ。

 

 

 今は帰り道が途中まで一緒だった友人達と別れて、一人で家までの帰路についている所だ。一応、安全面は大丈夫。日はまだ落ちていないし、周りには通行人の姿がちらほら。

 その上、この世界ではカードゲームで勝った者が正義。万が一変質者がいたとしても、最悪の場合ブチのめせば良いだけの話。

 

 

 さっき友人達に負けていることもあると言ったが、それはアイツらが強すぎるだけだ。俺は前世で他のカードゲームでの経験値があるお陰で、それなりに強い方……だと思っている。

 ちなみに、ここで大流行しているカードゲームは全くの初見のタイトルであったが。

 

 

 この世界で大流行しているカードゲーム、『ソウル・バースト』。自分の魂の化身――『ソウル・ユニット』を召喚し、相手のライフ(ソウル)を削り切るという対戦型カードゲーム。

 

 

 戦いの主役である『ユニットカード』。発動条件を満たせば、手札から使用可能な魔法『アーツカード』。ソウルが一定以下で使用できる超強力な逆転札『バーストアーツ』。

 

 

 これらの三種類のカードで成り立つ、シンプルながらも奥深いゲームである。閑話休題。

 

 

 まあ色々と脱線したが、俺は同世代だけではなくバトルの腕前は上の方。下手な犯罪者に負ける心配はない――あくまでも、それは相手が同じ土俵(・・・・)にいることが前提であるのだが。

 

 

 ――全くもって運が悪い(良い)ことに、俺はそんな人間と遭遇してしまうことになる。

 

 

「――おい、そこのお前」

「えっと……いきなり何でしょうか?」

「この俺とバトルをしろ。お前が負けたら……そうだな。お前の大切なものを一個差し出せ。拒否権はないぞ」

 

 

 ガラの悪そうな男性に、背後から呼び止められてしまった。用件を聞き返しても、一方的なアンティールールの要求を突きつけられる。

 

 

 紛うことなき、不審者そのもの。噂をすれば何とやら、ということだろうか。心の中で思っただけで、直接口には出してはいないのだが……。

 その辺りは気にしても仕方ないので、思考を穏便に現状を打開する為に切り替える。いくら腕に自信があると言っても、さっき触れた友人達のように、俺よりもこの男性が強い可能性はある。

 それに勝てたとしても、実力行使に出られたら体格差や腕力の差で普通に負けてしまう。

 

 

 目の前の男性への警戒を怠らず、視線を周りに向ける。通行人へ助けを求める為に――だが、気がつけば数人はいたはずの彼らの姿は影も形もなくなっていた。

 不気味なほどの静けさが、夕焼けに染まる住宅街を支配する。

 

 

 この男性の登場から、明らかに何かが変だ。ついさっきまで、確実に人の気配があったというのに。目の前の男性は囮で、死角に他の人間でも潜んでいて俺を狙っているのか――いや転生者であることを除けば、今の俺は普通の女子中学生。

 そんな手の込んだことをするだろうか。

 

 

 しかし、そうでないとしたらこの違和感は一体――。

 

 

(もしかして――)

 

 

 そこで、今の状況に既視感を抱く。確か、あれは前世でよく視聴していたホビーアニメ達。そのほとんどが、序盤こそカードゲームを中心とした少年少女達の日常を描いた和やかな作品と思わせおいて。

 世界征服を企む悪の組織や、この男性のように他者の大事な物(カード)を奪っていく敵役などが、闇に紛れて暗躍していき、やがては世界も巻き込む大騒動に発展する――という展開はある意味では王道だった。

 

 

 その中で、敵役の一部はオカルトと言っても過言ではない超常的な力を行使する時がある。そんな力をこの男性が持っていて、既に使われている。

 その可能性はないだろうか。そうであるなら、男性から感じられる異様な雰囲気や、通行人の姿がなくったことも説明がつく。

 些かぶっ飛んだ発想かもしれないが、俺自身が転生という非科学的な事象の体験者だ。どんな可能性も、ないとは言い切れない。

 

 

 もしも、その想像が現実のものであった場合、俺に抵抗する術はあるだろうか。走って逃げる――のは無理だろう。前世の体ならいざ知らず、特別に運動神経が良い訳でもないこの体ではすぐに追いつかれる。

 また謎の力(オカルト)があるのなら、物理的な逃走は始めから不可能に近い。

 

 

 そして、嫌な予想は最悪な形で実現してしまう。

 

 

「――さっきから黙っているけど、どうするんだ? まさか逃げるつもりじゃないだろうな? 人払いはしたが、無駄な時間を使われるのも癪だ。――特別室にご案内だ」

 

 

 男性は、懐から一枚のカードを取り出す。それは今世で見慣れた『ソウル・バースト』のカード――ではない。こちら側からでは片面しか見えないが、そのカードは黒で塗り潰されていた。

 そのカードを見ていると、まるで深淵を覗き込んでいるような。心の奥底まで暴かれているような錯覚に襲われる。

 

 

 忌避感を抱くべきはずなのに、『アレ』を『本能』が欲しいと囁いてくる。

 

 

 ――体感温度が、一気に下がる。そのカードから黒い霧が溢れ出たと思ったのも束の間、視界まで真っ暗に染められてしまう。

 

 

(一体、何が起きて――っ!?)

 

 

 恐る恐る、目を開けてみる。俺は、前世の記憶が戻った時以来の驚きや混乱に見舞われる。

 

 

 辺り一帯は、とてもこの世のものとは思えない景色に様変わりしていた。人々の営みの温かさに満ちた住宅街の面影は全くない。

 全てが漆黒で埋め尽くされた、地平線の果てが見える謎の空間。その中で、異物である俺と男性。

 

 

 未だに状況が飲み込めない俺に対して、男性は生理的嫌悪感を煽る笑みを浮かべる。その反応だけで、この現実離れした現象を起こした下手人が男性であることが分かる。

 

 

「――どうだ、驚いたか? この『闇のカード』の力に。アイツからもらったこの力さえあれば、何でも思い通りなんだよ!」

 

 

 男性は高らかに笑う。絶対的な力を誇示しながら。

 しかし、おかしな話だ。こんな力を持っているのだから、俺一人何か簡単に調理できるはずなのに、わざわざバトルすることを要求してきた。

 

 

 もしかしたら、目の前の男性が振るう『闇のカード』の力。相手をどうこうするには、勝負で勝つ必要があるのかもしれない。

 あくまでも想像に過ぎないが。しかし、もしもそれが当たっているとしたら。俺にも、まだ抵抗のチャンスはある。

 強張っていた口角が、僅かに上がるのを感じる。

 

 

「――じゃあ、バトルしましょうか」

「はははっ、怖気づいて声も出ないか! だったら不戦勝扱いで、俺の勝ちにでも……は?」

 

 

 馬鹿みたいな笑い声が止まる。最後の方に怒気が混じっていたような気もするが、どうでも良い。

 むしろ、さっきの仮説の証明の補強にもなる。

 

 

「えっと……もう一度言った方が良いですか? バトルをしましょうって。お兄さんも、余計な時間を使いたくないですよね? ほら、ウィンウィンです」

「ちっ、調子に乗りやがって……! 俺が勝ったら、生まれたこと自体を後悔させてやる!」

「あっ、そう言えば何を差し出すか言ってませんでした。――『私』の全てを差し上げます。もっとも、負けるつもりは毛頭ないので。逆に『私』が勝ったら、その素敵なカードをもらえますか?」

 

 

 その言葉に呼応するように、俺達の間には漆黒のバトルフィールドが形成された。

 

 

 

 

 ――俺は、負け犬だった。社会の底辺だった。弱者だった。『ソウル・バースト』で勝ったことなんて、勝ったことがあるのは小さな頃の数回だけ。

 

 

 何をやっても上手くいかず、怒られるばかり。

 若い内は、まだマシだ。だけど年は重ねるにつれて、怒鳴られる頻度は増えて、果てには俺よりも歳下の奴にまで怒られる始末。

 今日だって、コンビニのバイトで一応先輩にあたる女子高生にグチグチと文句を言われた。

 

 

 下げたくもない頭を必死になりながら、謝り続ける。どこで、俺は間違えたんだろう? こんな親不孝者でごめんなさい、お母さん。お父さん。

 

 

 ――だけど、そんな俺にも素晴らしい『出会い』があった。

 

 

『――やあ、そこの辛気くさい顔をしたお兄さん。優しいボクは、君に特別なプレゼントをあげよう。この『闇のカード』があれば、何でも君の思い通りになるよ! さあ、楽しい人生を送ってくれたまえ!』

 

 

 ふざけた格好に、胡散臭い言動ではあったが、『闇のカード』の力は本物だった。ある程度全能感を味わい、街をぶらついていた時に、一人の女子中学生を見かけた。

 背中の半分くらいまで伸ばされた黒髪。ちらりと見えた横顔は、あの日に俺を怒鳴りやがった女子高生にどことなく似ていた。

 

 

 忘れていたはずの怒りが、僅かに再燃する。そうだ、八つ当たりかもしれないが、あの女への鬱憤をぶつけてやるとしよう。

 

 

 そのつもりで、声をかけた。苛つく物言いをされたが、俺には『闇のカード』がある。全てが終わった後、たっぷりと遊んでやるぜ!

 

 

 そう思っていたはずなのに、これはどういうことだ?

 

 

 ――異空間に設置されたバトルフィールド。その上に展開された盤面は、俺にとって絶望的なものであった。

 

 

 呼び出した『ソウル・ユニット』は尽く奴に倒されて、焼け野原。起死回生で放った『バーストアーツ』はあっさりと対処された。

 打つ手が全くない。もう詰みであった。

 

 

 そんな俺の内心を知ってか知らずか、対戦相手の少女は首を軽く傾ける。

 

 

「――もしかして、もう終わりでしょうか? あれだけ息巻いていたのに、この程度とはガッカリです。じゃあ、これで最後の攻撃になりますね。お願いします、■■■■」

 

 

 少女が切り札であろう『ソウル・ユニット』に指示を下す。この俺を仕留める為の。

 

 

 俺は後悔した。『闇のカード』の力により、『ソウル・ユニット』達は実体化して、プレイヤーへのダメージは現実のものとなっている。

 負けてしまえば、ショックで最悪死んでしまう。

 

 

「ま、待ってくれっ!? もう二度とお前には手を――」

 

 

 ――少女は命乞いをする暇すら与えてくれなかった。

 

 

 

 

 ――黒い霧が晴れる。

 男性を下して、俺は現実空間へと帰還することに成功した。

 

 

(はあ……思ったよりも弱くて助かった)

 

 

 リアルダメージがあったのか、敗北者である男性は地面に転がっている。一ダメージも食らうことがなかったので、全く分からなかった。

 

 

 白目を剥いているが、胸は上下して呼吸はしているので多分大丈夫だろう。

 

 

(あっ、そうだ。俺が勝ったんだし、戦利品はきちんともらわないとな)

 

 

 男性の周りに散らばっているカードの中から、お目当ての物を見つけ出し、多少の躊躇いを見せながらも回収する。

 手で『闇のカード』に触れた瞬間、コレが持つ力を直接的に理解させられた(・・・・・・・)

 

 

 どうやら、コレには『異空間の形成』と『敗北者のカード化』の能力が宿っているらしい。

 また似たようなモノが何枚もあるとか、なんとか。

 

 

 だが、そんなことはどうでも良かった。だって、どうしてコレを一目見た瞬間に欲しいと思ったのか、分かったから。

 

 

 カードゲーム好きな俺が前世から秘めていた『もう一つの願い』――『可愛い女の子が負けて、カード化されるシチュエーション』を自分でやってみたい。

 ソレが実現可能な、夢のようなアイテムだと直感的に察していたのだ。

 

 

 俺は一枚の『カード』を手に、静かに笑みを浮かべ、その場を立ち去った。

 

 

 ――ここまでお膳立てされたら、やらない方が失礼だよな?

 

 

 え? あの男の人は放置するよ。俺が『カード化』したいのは可愛い女の子であって、何の魅力もない男は始めから眼中にない。よって、無視無視。

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