シャインポスト Be your family 作:陽HARU
ひめちゃんが生まれてから3ヶ月。
小夢さんは最初のうちは「可愛すぎて死ぬ」って笑ってたのに、ある日を境に急に静かになった。
夜中、ひめちゃんが泣き出すたびに
小夢さんはベッドから起き上がるんだけど、
目が虚ろで、機械みたいに抱っこして授乳して、
終わったらそのままソファに座り込んで動かなくなる。
俺が仕事から帰ってくると、
リビングの電気もつけてなくて、
暗闇の中で小夢さんが膝を抱えて座ってる。
「…ごめん、今日もご飯作れなかった」
声が掠れてる。
「ひめちゃん、ミルクあげたけど…私、なんか…胸が張ってるのに出なくて…
私、母親失格だよね。こんなんで…」
俺が近づくと、体がビクッてなる。
触ろうとすると「…今は、触らないで」って小さな声。
夜、俺がひめちゃんのオムツ替えて寝かしつけてると、
小夢さんは隣の部屋で泣いてる音が聞こえる。
「消えたい」って言葉が、壁越しに漏れてくる日もあった。
医者には「産後うつ」の診断。
薬もらって、カウンセリングも通い始めたけど、
最初の1ヶ月はほとんど効果感じられなくて、
小夢さん自身が「薬飲んでも私がダメなのは変わらない」って自分を責め続けてた。
俺は仕事減らして、なるべく家にいるようにした。
でも正直、俺も怖かった。
「このまま小夢が壊れたらどうしよう」って、
夜中に何度も起きて、寝てる小夢さんの呼吸確認してた。
ある夜、小夢さんがぽつりと言った。
「…昔の私、キラキラしてたよね。
ステージで笑って、ファンの人に手を振って…
今は、鏡見るのも怖い。
お腹の皮膚、たるんでるし、胸も垂れてきて…
こんな体で、ひめちゃん抱いてる自分が、気持ち悪くて」
俺はただ、黙って手を握った。
「…それでも、お前は俺の小夢だよ」
って、何度言っても信じてもらえなくて、
でも言い続けた。
ひめちゃんが5歳になった頃。
小夢さんは薬を減らして、カウンセリングも月1回くらいに。
まだ完全に「元通り」じゃないけど、
朝起きてひめちゃんの髪結ってあげたり、
一緒に公園行ったりできるようになってた。
ある日、幼稚園の発表会。
ひめちゃんが「ママみたいに踊りたい!」って言って、
簡単なダンスの発表。
小夢さん、客席の後ろの方で、
最初は体が固まってた。
昔の自分を思い出して、涙が止まらなくなったみたいで。
でもひめちゃんがステージで一生懸命踊ってるの見て、
小夢さん、俺の手をぎゅっと握ってきて、
「…私、あの頃みたいにキラキラはもうできないけど…
ひめちゃんには、ママが頑張ってたって、伝えたい」って。
発表会終わって、ひめちゃんが走ってきて抱きついてきたとき、
小夢さん、初めて人前でちゃんと笑った。
ちょっと震えてるけど、間違いなく「小夢の笑顔」だった。
家に帰って、ひめちゃんが寝た後、
小夢さんが俺に寄りかかってきて、
「…あのとき、消えたかった。
でも今、ひめちゃんの『ママ大好き』って言葉聞くたび、
生きててよかったって、ちょっとずつ思えるようになってきた」
俺はただ、頭撫でて、
「…よく頑張ったな」って言った。
小夢さん、俺の胸で小さく泣いて、
「ありがと…パパが逃げなかったから」って。
ひめちゃん10歳。
もう小夢さんの膝に乗らなくなったけど、
学校から帰ってくると必ず「ただいまー!」って大声で、
リビングに飛び込んでくる。
小夢さんは今、たまにイベントで昔の曲歌ったり、
ファン向けの配信とか細々やってる。
体型は産前のままには戻らなかったけど、
それを「これが今の私」って受け入れてる。
ある休日、3人で近所の公園。
ひめちゃんがブランコ漕いでるのを見ながら、
小夢さんがぽつりと言った。
「…あの頃の私、ひめちゃんのことさえ愛せなくて、
自分が許せなかった。
でも今思うと、あのどん底があったから、
今こうやって普通に笑えてるのかも」
俺「…お前がそこまで這い上がったんだから、
ひめちゃんも、きっと強い子になるよ」
ひめちゃんが走ってきて、
「ママ! パパ! 見て見て、逆上がりできたよ!」
って、鉄棒で得意げに。
小夢さん、目を細めて笑って、
「すごーい! ママも昔、逆上がり得意だったんだよ〜」
って、ひめちゃんを抱き上げようとして、
「うわ、重っ! もう無理〜!」って笑い転げる。
俺も笑って、2人を抱き寄せて、
「…3人で、新しいステージ、ずっと続けよう」
って、あの産後3日目の言葉を、もう一度呟いた。
小夢さん、俺の目を見て、静かに頷いて、
「…うん。約束、守れたね」