シャインポスト Be your family   作:陽HARU

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5話

ひめちゃんが12歳になった頃。

小夢さんは相変わらず薬は飲んでないけど、

体調の波が完全に消えたわけじゃない。

イベント前になると「またあの頃みたいにステージに立てるかな」って不安が顔に出て、

夜中に「ひめちゃんに迷惑かけてないかな」ってぼそっと呟く日もあった。

 

そんなある日、俺は決断した。

今まで乗ってた普通のセダンじゃ、もう家族3人+荷物+小夢さんの衣装ケースがキツい。

ひめちゃんのピアノの発表会、

小夢さんの地方イベント、

学校の遠足の送迎、

週末の家族旅行…全部考えると、

もっと実用的な車が必要だった。

 

「新しい車を買う、ミニバンにしようと思う」

俺が夕飯の時に切り出すと、

小夢さんは少し驚いた顔をした。

 

「え、でも…高いよね?

私、昔みたいに毎月たくさん稼げてないのに…」

 

「アイドルの仕事も、ひめちゃんの習い事も、

これからもっと増えるだろ。

家族で動くなら、こっちのが絶対いい。

お前がステージから帰ってきてすぐ寝られるように、

後部座席フラットにできるやつ選んだ」

 

ひめちゃんが目をキラキラさせて

「ママの衣装いっぱい乗せられる!

私も友達乗せていい?」ってはしゃいだ。

 

結局、黒のトヨタ・アルファード(ファミリー向けのやつ)を買った。

ディーラーで納車の日、小夢さんが助手席に座って、

後ろの広いシートを見ながら

「…これ、ひめちゃんが赤ちゃんの頃だったら、

夜泣きしながら車で寝かせられたかもね」

って、ぽつりと言った。

その声に、ちょっと昔の暗い影が混じってて、

俺はハンドルを握る手が少し震えた。

 

でも小夢さんはすぐに笑って、

「今は、こうやって3人で乗れるだけで嬉しいよ」

って、俺の膝に手を置いてきた。

 

初めての家族ドライブは、

ひめちゃんのピアノコンクールの地方予選。

高速で小夢さんが後部座席を倒して仮眠して、

ひめちゃんが「ママ、昔の曲歌って!」ってリクエストして、

小夢さんが小さな声で「キラキラ☆」を歌い始めた。

声は昔より少し低くて、力強さが少し減ってるけど、

それでも「小夢の声」だった。

 

ひめちゃんが「ママの歌、好き」って言った瞬間、

小夢さんの目が少し潤んで、

「…ありがと。ママ、昔はもっと上手に歌えたんだけどね」

って自嘲気味に笑った。

俺はバックミラー越しに「今のが一番いいよ」って言った。

 

 

 

13歳になったひめちゃんは、

もう完全に「女の子」って感じで、

小夢さんに似てスタイルが良くなってきた。

でも時々、小夢さんが「私みたいにならなくていいよ」って、

過去の自分を重ねて不安げに言うことがある。

 

ある夜、ひめちゃんが学校でいじめられて帰ってきた。

軽いものだったけど、

小夢さんはそれを聞いて一瞬で顔色が変わった。

「私も昔…ステージで叩かれたことある」って、

急に昔のトラウマと重なって、

その夜は久しぶりに「消えたい」って言葉が漏れてきた。

 

俺は小夢さんを抱きしめて、

「今は違う。お前はもう一人じゃない。

ひめちゃんも、俺もいる」

って何度も繰り返した。

 

次の日、アルファードで3人で近所の海までドライブした。

ひめちゃんが波打ち際で走り回って、

小夢さんが「昔は海よりステージが好きだった」って笑いながら、

ひめちゃんの手を握って歩く。

 

帰り道、ひめちゃんが後部座席から

「ママが産後うつだったって聞いたよ。

先生に相談したら…ママが今笑ってるのって、すごいことなんだって」

 

小夢さんは前を向いたまま、少し間を置いて、

「…うん。ママ、ひめちゃんが生まれてから、

一度壊れかけた。でもパパが逃げなくて、

ひめちゃんが『ママ大好き』って言ってくれたから、

ここまで来れた」

 

ひめちゃんがシートベルトのまま前屈みになって、

「私、ママみたいにキラキラしたい。

でもママが今みたいに優しくて強いのも、かっこいいと思う」

 

俺はハンドルを握りながら、

あの産後3ヶ月目の暗闇を思い出した。

膝を抱えて泣いてた小夢さん、

「母親失格」って自分を責めてた声、

「触らないで」って震えてた体。

 

でも今、後部座席では、

ひめちゃんが小夢さんに寄りかかって寝てる。

小夢さんが俺の肩に頭を預けて、

「…アルファード買ってくれてありがとう。

これで、また新しいステージ始められるね」

って静かに言った。

 

俺は小さく頷いて、

「家族の形、ちゃんと守れたな」

って、もう一度あの言葉を呟いた。

 

小夢さんは目を閉じて、

「うん…約束、ずっと守れてる」

って、穏やかに微笑んだ。

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