廃品回収業者をしていた、勇者を回収した   作:うずつるぎ

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第1話

 

 魔王と勇者の抗争が終わると、世界は平和になってしまった。

 

 すると職を失ったので、瞬く間に金が底を尽きた。

 オレは知り合いに泣きついた。

 

「では、廃品回収業でも始めたらどうですか? リリム様にお似合いのお仕事でございますよ」

「え? 養ってくれないの??」

「寄生虫のカスでございましたか」

 

 クソデカため息と共に向けられる冷酷な視線。

 華麗なる蹴りに、オレは玄関口へと叩き出される。

 

 金髪青目ちゃんはオレとは長い付き合いであるが、ヒモにはしてくれなかったのだ。えんえん。

 

 そういうわけで、オレは助言に従って、王都で壊れモノ回収業者でも始めてみたのである。

 

「壊れていても、かまいません。どんなものでも、無料回収いたしますぅ~」

「貴様ッ! 例の廃品回収業者だな!!」

 

 お天道さまの下でお仕事をしていると、なぜだか王都の憲兵に声を掛けられてしまった。そのままかしゃんと手錠を嵌められ、あれよあれよという間に王城まで連行される。

 

「おかしい」

 

 オレは古物商許可証を取って真っ当に仕事をしているのだが。

 法を守らぬ王に激怒してやろうかと思っていると、いつの間にか謁見の間に通される始末だ。

 

 裸体の勇者もびっくりの展開だぜ。

 

「時にお主、今は壊れモノ回収業者なんぞをやっとるらしいな」

「どんなものでも、無料回収いたしますぅ~」

「その声は鼻に突くから止めんか」

 

 シッシと羽虫でも払うような態度で王座に居座るクソジジイである。

 酷い。せっかく録音の魔道具でマニュアル化したのに。無駄に広い謁見の間で地団駄を踏んでやろうか。

 

 よし、一通り茶番劇は終えたな。

 

 さて、王様なんかが、壊れモノ回収業者になんの用があるんですかね。

 

「うむ。よくぞ聞いてくれた」

 

 パチンと、王様が指を鳴らす。

 途端に謁見の間の暗幕がバサーっと開かれた。無駄に王様っぽい演出である。

 

「……ん?」

 

 なんか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。

 

「お主には、コレを引き取ってもらいたくての」

 

 鎖に繋がれて封印されていたのは、勇者ちゃんだった。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 壊れモノ回収業者というのは、ご家庭(世界)で不要になったモノ(勇者)を、(精神的に)壊れていても構わないので回収させていただく仕事である。

 

 いや違う。どう考えてもスリーアウトである。

 世界を救わんとした勇者に対するこの始末。我が国の王クソジジイには血も涙もないのだろうか。

 

「このクソ王がッ! 人でなし!! 悪魔!!!」

「お主にだけは言われとうないわ」

 

 正論パンチがストレート過ぎてなにも言えない。

 でもよく考えたら、壊れモノ回収業者ってナマモノは扱ってないよね? うん。

 

「え? なに? 王命に逆らうの? 死刑ぞよ(笑)」

 

 口元に手を当てた失笑。ウザすぎる。

 しかし残念ながらと言うか、クソジジイは我らが王だ。従わないわけにはいかない。

 そういうわけで、檻の中で両手を鎖に繋がれたまま、微動だにしない勇者ちゃんに近づいてみる。

 

「いやぁ……えぇ……コレ……勇者ちゃん、なのか……?」

 

 覇気がない。

 

 勇者ちゃんを勇者ちゃんたらしめていた、あの希望に満ちた輝かしいオーラが一切ない。

 

 あるのは、虚無だけ。

 深い深い虚無。

 ハイライトの消えた漆黒の瞳は何も映していなかった。こんなの闇堕ち勇者ちゃんの完成である。

 

「そうじゃよ。人間の祈りを一身に戦った勇者じゃ」

 

「尤も、今はこの有様じゃがな」

 

 キラキラしていない勇者ちゃんなど、もはやありふれた黒髪美少女でしかなかった。

 

「さて。お主は勇者とのんびり戦後生活でも送ってくれんかの。どうせ暇じゃろ?」

 

 クソジジイのことだから言葉のままの嫌がらせに違いないのだが──或いは、一抹の可能性としては。

 

「まともに剣は振れん。魔法も使えん。記憶障害か躁鬱か。どちらにせよ木偶であることに変わりはない。まさしく壊れモノ、」

おい

 

 冷え切った低声を割り入る。

 勇者ちゃんに対するそれ以上の冒涜は、オレが許さない。眉間に皺を寄せて睨み上げれば、クソジジイはホッホと余裕に笑った。

 

 顔面陥没パンチぶちかましてやろうか。

 

「冗談じゃよ、冗談。まぁ、ともかく引き取ってくれんかの? 勇者には借りがあるじゃろ?」

 

…………まぁ、勇者ちゃんに借りがあることは、確かだな。

 

「次に会う時には、その悪辣も改善してろよ」

「ふむふむ。善処する」

 

 さてさて、それでは壊れモノ回収業者として、勇者ちゃんを無料回収いたしますぅ~。

 

「ガァァァァアアアッ!!」

 

 びっくした!!!

 勇者ちゃんが檻の鎖を引き千切る勢いでオレに飛び掛かって来たんだよ。もう衝撃のあまり、オレは一歩後ろに退いちゃったね。

 虚ろ目の勇者ちゃんは悔しそうに八重歯を剥き出して、必死に手を藻掻かせている。

 

「およおよ? 木偶となっても、やはり匂いで分かるものなのかのぉ?」

 

 いやに上機嫌な王様の声が響く。

 その先の言葉は、あんまり言って欲しくないんだけどなぁ。クソジジイのことだから言っちゃうんだろうなぁ。

 

「勇者様は、『悪魔』が憎いご様子じゃな」

「……」

 

 詰まるところ、憎悪に狂った勇者ちゃんが、俺へと敵意を向ける理由は。

 

「のう? リリム。()()()──」

 

……そうだ。オレ様は、

 

「──()()()()()()()()()()、『空哭(くうこく)』のリリムよ」

 

 

 人類にとって憎き仇の──()()()なのだから。

 

 




 やぁ。
 初めましての方は初めまして! 一週間ぶりの方は一週間ぶりです!

 うずつるぎと申します。

 次回の投稿日は明日の2月1日(日)の午前9時台となります。
 よろしくお願いします。
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