廃品回収業者をしていた、勇者を回収した   作:うずつるぎ

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第2話

 

 廃品回収業者をしていた、勇者を回収した。

 

 拾ったのが魔法のランプなら大富豪への道が開けそうな予感なのだが、いかんせんオレが拾ったのは、心を闇に閉ざした勇者ちゃんである。

「恥知らず」だの「死んで詫びろ」だの、散々落書きされた手押し車を磨きながら、ふと背後を向く。

 

「なぁ、勇者」

「ふー! ふーッ!!」

「オレってこれからどうすれば良いんだろうなぁ」

「ぐがぁぁあぁぁあ!!」

 

 せめて人語での返事が欲しいものである。

 正気を失った勇者ちゃんは狂乱のままにオレへと飛び掛かるが、その一撃はオレの構築した結界によってことごとく阻まれる。

 まぁ、仮にも元四天王第二位というわけだ。勇者ちゃんが真面だったらこうもいかないが、獣同然の攻撃はどうとでもなる。

 

「しかし、困ったな。ほとほと困った」

 

 心を閉ざした勇者ちゃんをどうしようか。クソジジイに任されたとは言え、オレの住処である街外れボロ屋に住ませるのは忍びない。勇者ちゃんはもっと、こう、大きなお屋敷でお姫様みたいに飼われるべきである(暴論)。

 加えて言うなら、クソジジイとの謁見している間に商売道具を傷付けられるほどのオレの嫌われっぷりもそうだし、それを許す治安の悪さもそうだ。

 

「うーん」

 

 どこかに良いアイデアは落ちていないものか。ちょっとした運動に勇者ちゃんの殺意マシマシな拳を躱しながらうんうん唸る。

 

「なぁ、勇者」

「グうぅぅぅ」

「ご飯は介抱すればいいし、寝床もちゃんと準備するけどさ」

「がぁぁぁああ!!」

「お風呂ってどうすればいい?」

 

 村娘みたいな薄っぺらい布切れを纏った勇者ちゃんは、ビクッと、その華奢な身体を震わせた。

 

「が……がるる……!!」

 

 なんか、一歩退いた。それで自分で自分の身体を抱き締めて、何かを警戒するみたいに漆黒の瞳でオレを睨み上げてきた。

 これ、もしかして意識あるんじゃないだろうか。あれか? えっちぃ方面で責めていったら、いつか心開いてくれるのか? 

 

「ま、取り敢えずアイツんとこ行くか」

 

 こういう面倒ごとをなんとかしてくれるのは、勇者ちゃんに負けず劣らず美人な我が腹心である。

 綺麗にした荷台をとんとんと叩いて勇者ちゃんを呼ぶ。もちろん勇者ちゃんが素直に乗ってくれるわけもないので、風魔法でちょいと持ち上げて荷台に座らせる。そしてオレはオンボロ手押し車をぎぃぎぃ鳴らしながら引く。

 

「勇者も仲良かったろ? カトレアに助言もらおうぜ」

 

 

 ♦♦♦

 

 

 魔王軍四天王第二位リリムの従順なるしもべであるカトレアという美少女は、人間の癖に大悪魔なオレに忠誠を誓った、頭のおかしな奴である。

 

 いや、悪魔のオレでさえちょっと可哀想だと思うような幼少期に偶然立ち会ったのだからこの結末は必然とも言えるのだが、まぁ、そんなことはどうでも良いか。 

 

 メイド服に、キリッとした顔立ち。

 勇者ちゃんとは真逆なタイプの美少女なカトレアは、とにかく、当時は極秘任務で人間に紛れ込んで生活していたせいで配下なんて一切できなかったオレにとって唯一の仲間となり、やがては腹心となってくれたわけだ。

 

 要するに、カトレアは大悪魔に魅入られ闇の契約を結ばされた果てに、人外の力を手にする羽目になったものすごく可哀想な女の子である。

 

「この辺だったかなー」

 

 勇者ちゃんを乗せた荷台をゴロゴロと狭い路地裏に引きながら、辺りをぐるぐると見回す。

 カトレアは頭がよくキレて冷静沈着な腹心だった。それがどの程度のモノかと言うと、もはや作戦の頭脳的な面はすべて彼女に丸投げしていたと言っても良いレベルである。

 カトレアが司令塔でオレは駒で、もうどちらが主で配下なのかはたっぷり一日話し合ってハッキリさせないといけないことだろう。

 

 そんなカトレアは魔王と勇者の抗争が終わった世界で、残念ながらオレの配下であったという事実により風評被害を背負い、今や路地裏でひっそりとリサイクル業者を営む悲しき生物となってしまったのである。

 

「おっ、見つけた」

 

 かぼちゃに顔を掘ったランタンが吊るされた店を見つけた。窓のカーテンは閉まっているが、内側からオレンジ色の光が洩れている。留守はしていないだろう。

 オレはなにとはなしに、ドアノブを握って。

 

「あっ……♡ もう少し、ゆっくりしてください。優しく、丁寧に、でございますよ」

 

 窓枠から洩れた甘い囁き。ピタリと、扉に手を掛けた腕が固まった。

 

「なんだろうか、今のは」

 

 オレも耳掃除をした方が良いだろうか。

 

「はい。お上手です。これは……思った以上に硬いですね。私も張り切っちゃいましょうか」

 

……ん?

 

「リズムが肝心ですよ。あぁ、そうです。気持ちいいですね」

 

 タン、タンタンと響くリズム。薄暗い路地裏。甘い声と窓に、かか、カーテン!?!?

 

「いや、まさかそんなバカな」

 

 あの冷静沈着なカトレアだぞ? でもカトレアだって一応人間だしそういう……けど、ええと。

 

 扉の前でオロオロと汗を流す大悪魔とはオレのことだぜ。勇者ちゃんなんていつの間にか、荷台から身を乗り出していたね。

 

「う˝ぅぅ……!!」

「ま、待て勇者! 今はダメだ! たぶん本当に駄目なやつだ!!」

 

 我が配下の名誉とオレの精神的安寧は最優先だ。扉をぶち壊さんばかりの勇者ちゃんへ飛び掛かり、身体ごと路上へ押し倒す。

 よし、決めたぞ。

 オレは今日、ここには来なかった。うんそういうことにしようそうしよう。それが一番いい。

 

「ふぅ……良い汗をかきました」

 

 最悪だ。

 配下の愛を最後まで盗み聞いてしまった。

 オレは今後、どんな顔をしてカトレアと話せばいいのだろうか。

 

「リリム様。いつまでそこに突っ立っているのですか」

「うひょへっっ!?!?」

 

 路上に勇者ちゃんを押し倒してフガフガと動く口を抑えていると、後ろから声を掛けられた。

 首だけ勢いよく振り返ると、いつもの冷静沈着なカトレアの鉄仮面がそこにある。

 先の醜態をオレが知っていることを一切知らぬ彼女は、淡々とため息を吐き鳴らす。

 

「どうせなら手伝ってくださっても良かったのに……」

「て、てつだ……!?!?」

 

 どういうことだ。一人では飽き足らず二人ということなのか。人間の業は時に悪魔をも上回るというが、流石に深すぎて──。

 

「中々硬いリサイクル品が多かったので、手ごわかったんです。最近雇った助手くんが頑張ってくれましたが」

「り、リサ…………?」

 

 マッチョな助手くんが、玄関口でマッスルポーズを魅せてくれた。その手には潰れた空き缶が握られていて…………ほ~~~~ん…………。

 

 

 なるほどな。

 

 

「…………恐怖に戦慄するあまり、オレの中のカトレアが死んでしまうところだった」

「悪魔が何言ってるんですか」

 

 

 ♦♦♦

 

 

 盛大なる勘違いにこの世の終わりを予感してしばらく、オレと勇者ちゃんはソファに腰を下ろし、カトレアと向かい合っていた。

 

「さて」

 

 カトレアはお手本みたいに背筋を伸ばして座り、紅茶を一口。ふっくらとした唇を濡らして、エプロンドレスに色白い手を置く。

 

「三日ぶりでございますね、リリム様。廃品回収業を始めたはずですが、いつの間にナンパ師に転職したのでしょうか」

「鼻っから酷い言い草だ」

 

 これホントに俺の配下なんだろうか。

 

「今のオレとかモテモテだからな。そんなことしなくてもすぐにみんなが寄ってくれるぞ」

「音速で投げ付けられるのは愛でなくて小石でしょうに」

「うん。あれ結構痛いんだよね」

 

 長いまつ毛を伏せて嘆息するカトレア。

 正直やめて欲しい。たまに鉄剣とか投げられる分には壊れモノとして回収できるからいいのだが、小石はお金にならないのだ。

 威力業務妨害としてクソジジイに直訴しようかな。いや、意味ないか。「自業自得じゃろ(笑)」とか言われる未来しか思い浮かばんな。

 

 カトレアは伏せた瞼を持ち上げて、切れ長の青色の瞳に──オレの隣で結界魔法に拘束された黒髪美少女を映す。

 

「で、隣のソレは新しいリサイクル希望の廃品ですか? 今なら無料で引き取りますよ」

「え? キミ人間だよね? なんでクソジジイと同レベルの倫理観なの??」

「ちょっとしたジョークでございます」

「マジに笑えない」

 

 まったく表情を崩さずにホラーチックなことを言い出すカトレアは相変わらずだ。

 読み辛いからやめてよね。まぁホントに冗談だと思うけど。

 

「さて、おふざけはこの辺りにしましょうか」

 

 おっ、そろそろカトレアもお仕事モードに移ってくれるらしい。助かる。

 

「一体なにがどうなって、また勇者様と一緒にいるんですか」

 

 オレは ここに至るまでの経緯を すべてカトレアに曝け出した!

 

「なるほど……意図が読めませんね。我らが王は何を狙っているのでしょう」

「言葉の通り、オレと勇者ちゃんには僻地で永遠に大人しくしてて欲しいんじゃない?」

「……どうでしょうか。まだ判断に困りますね」

「それはともかくさ、カトレアの力で勇者ちゃんもなんとかならない?」

「私は医者ではないので、なんとも」

 

 さすがのカトレアでもどうにもならんか~。

 ってか、心閉ざした子ってどういう風に治すもんなんだろう。確か人間社会じゃ、病棟隔離という名の流刑にされるよな。

 魔物? 魔物社会じゃもちろんそのままなぶり殺しにされるが……?

 

「コレが精神的な病であるのならば、大自然の中で療養するのが一番ではないかと」

「自慢じゃないが、オレは勇者ちゃんのお陰で旅できるような金がない」

 

 カトレアは真顔で言った。

 

「勇者様の身ぐるみを剥いで見世物にすればいいじゃないですか」

 

 酷すぎる。コイツは悪魔だ。次代の魔族を総べる逸材だ。

 こんな奴がこの世に存在していいはずがない。オレはただちにカトレアを抹殺した。

 

「悪魔に魂を売ったとはいえ、私もそこまで畜生じゃありませんよ」

 

 どんと、見るからに重そうな袋が机に置かれる。紐を緩めると、中にたくさんの金貨が詰まっていた。

 さすがすぎる。コイツは天使だ。このお方こそが世の中を照らすべきなのだ。

 オレはカトレアの足に縋り付いた。

 

「いつ私の足に触れてよいと許可をしましたか?」

 

 淡々と頬を蹴飛ばされる。俺の配下はちと苛烈だぜ。

 カトレアは再び応接ソファに座り込み、オレと向かい合う。

 

「それに、リリム様も勇者様と二人きりで居られるのがお望みなのでしょう?」

 

 いきなり何を言い出すのかと思えば、オレが勇者ちゃんと2人っきりになりたいだと? おかしな妄想は大概にしろ!

 と声高々に言うつもりが、ずいと、カトレアはソファから中腰になって青色の瞳にオレを覗いた。

 

「壊れた勇者様なんて、リリム様の大好物じゃないですか」

「……」

 

 そうだ。オレは、壊れモノだけが友達の大悪魔だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だから、オレは心を閉ざした勇者を横目に眺めれば、全身の細胞という細胞が狂喜の歓声に包まれる、

 

「……はず、だったんだけどなぁ」

 

 深く、ため息を吐き出す。

 

 いったい、いつからだろう。

 どれだけ勇者ちゃんを壊しても、それが輝いて見えなくなったのは。

 

 

 ♦♦♦

 

 

「んじゃあ、適当にステラが休めそうなとこ行って来るわ、ありがとな」

 

 そう言って適当に手を振る銀髪で赤目のいかにもな悪魔は、まるで少女と見間違えるような長髪を揺らして、すっかり夜に染まった路地裏を歩いていく。

 カトレアは両手を下腹部に結んで深く頭を下げ、その姿が表通りに消えるまでを見送った。

 

「……しかし」

 

 まさか勇者様がこのような形で処分となるとは。一体、我らが王はなにを目論んでいるのか。

 カトレアは肝心なことに疑問を巡らせようとして、いや、その答えがどちらに傾くかは、もう明白なことである。

 

 店前で顎に人差し指を当てながら、はて、と首を傾げる。

 

「やはり、リリム様と勇者様を二人きりになんてさせたくありませんね。あとで押しかけましょうか」

 

 そして同意を求めるように、カトレアは路地裏の狭い夜空を見上げて──。

 

()()──()()()()

 

──降り注ぐ、魔法の矢。

 

 カトレアはひらりとロングスカートを揺らして凶刃の雨を踊る。合わせて夜空を覆い隠すように、複数の人影が跳び下りた。

 カトレアを取り囲んだのは……完全武装した人族。

 なるほど。その身なりからして騎士団か何か。険相に眉間へ皺を寄せた彼らへ、カトレアは流し目を向けながらくすりと笑声を洩らす。

 

「これはこれは、私も随分と人気者になったようですね」

「ほざけ! 人の身でありながら、魔王幹部の腹心となった……裏切り者が!!」

 

 裏切り者とは失礼な。初めに私の世界を絶望させたのは、あなたたち人間の方であったというのに。リリム様は、ただ私の世界を救ってくれただけだというのに。

 

「あなたは性善説を信じる性質ですか? しかし、誰もが生まれた種族に忠誠を誓うわけではございませんよ?」

 

 答えはない。チャキリと、騎士たちは直剣を構える。

 

「狙いはリリム様ですか? それとも、勇者様ですか?」

 

 まぁ、どちらでも構いませんか。カトレアはメイド服に隠した短剣を抜き出す。

 

「しかしどちらにせよ、あなた方では──」

 

──逆立ちしても、リリム様から力を貸していただいた私には勝てませんよ。

 

 カトレアは口の中で転がしながら、騎士たちの反応できない速度で路地裏を蹴り上げて、

 

 

 

 

 ずぶり

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 胸に、痛みがあった。

 

 熱く大切なモノが、どろりと零れ落ちた。

 

 カトレアはゆっくりと、その正体を確かめるために視線を落とした。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ッ……!?!?」

 

 騎士たちの困惑した顔が霞む。ごぽりと口の中をせり上がる鉄錆の香り。

 カトレアは反射的に吐き出し、尻目に元凶を覗く。

 

「じょ、しゅ……!」

 

 凶手は助手だった。助手は魔物の姿をしていた。

 

 殺す。いや捕らえて情報を。手足は急速に冷えていく。

 残り少ない火種を燃やして、カトレアは我が主君の消えた表通りへ手を伸ばす。

 

「リリム、さま……──!!」

 

 危機を訴える今際の声は、夜の静寂に吞まれた。

 

 




 次回の投稿日は明日2月2日の正午頃です。
 よろしくお願いします。

 最後にはなりますが、お気に入り、感想、ここ好きなど、皆さまありがとうございます!! 筆者は皆様に励まされております!!
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