廃品回収業者をしていた、勇者を回収した   作:うずつるぎ

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第3話

 

 優秀な配下からアドバイスを貰った。勇者ちゃんを片田舎で療養することになった。

 

 朝、寝癖だらけな勇者ちゃんは、部屋の片隅に逃げ込んで威嚇していた。

 

「う゛ー!」

「大人しくしてろよー。髪整えるだけだからなー」

 

 櫛を片手に、寝間着姿の少女へ這い寄る悪魔の姿。問答無用で憲兵に通報モノである。

 しかし、これはあくまで正当な行為であることを留意いただきたい。

 なにせオレはこれから、勇者ちゃんが快復するまで何から何に至るまでのお世話をしなければならないのだから。

 

 食事にお喋りに、お着替えの手伝いとお風呂まで……。

 

「グへへへ……!!」

「が……がるる……!?!?」

「何考えてるんですか、この変態悪魔」

 

 ぽこんと後頭部を叩かれた。痛い。俺は軋んだボロい床に倒れ伏す。

 振り返るとそこには、金髪のメイドちゃんが深く息を吐き出す姿が見える。

 

「き、貴様……!? 死んだはずでは……!!」

「私が死ぬときはリリム様が死ぬときですよ。ほら、馬鹿やってないで早く出発しましょう」

 

 カトレアの反応が途絶えた時はなんだなんだと思ったものだが、やはり優秀な配下だ。オレとの契約により手にした力を使って、敵襲も返り討ちにしてくれたらしい。

 

 一応、勇者ちゃんには聞こえないよう隣の部屋で事情を聞き取っておく。

 それが済めばいざ片田舎へ出発ということで、オレは勇者ちゃんとカトレアを荷台に乗せて、えっこらと回収車を引っ張る。

 

「リリム様、運転が荒いでございます。もっと優しく手押し車を動かしてください」

 

……おかしいな。カトレアはオレの配下であるはずなのだが、どうしてオレが一生懸命に人力車を引っ張っているのだろう。

 

 非難の目を向けると、彼女はえっらそうに足を組んで、隣で暴れる勇者ちゃんに荷物を持たせていた。

 もうメイド服着るのやめろ。

 

「目的地はあるんですか?」

「あぁ。勇者ちゃんの故郷行こうぜ。あそこ自然いっぱいで良い感じだし」

「私にとっては二度と帰りたくない場所ですね」

「じゃあ帰ってもいいよ」

「いえ、お供します」

 

 チッ。せっかく勇者ちゃんと2人きりになれるチャンスを。

 照る太陽の下、オレは優雅な配下と心を閉ざした勇者ちゃんを荷台に乗せて王都を発った。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 なんやかんや街道を歩いて行くと、青い雑草が生い茂る平原の向こうに、勇者ちゃんとカトレアの故郷が見えてきた。

 

 片田舎の街としての面影は、もはやない。

 建物や外壁は軒並み倒壊し、瓦礫の山となったそこでは、誰彼が復興に動いている。

 

「まぁ、オレが街を燃やし尽くしたのだから当然なんだが」

 

 ポツリと口の中で零し、さて。

 ここは、あちこちから魔物の飛び出す街道の機能を失った道とは違う。社会的生活が営まれている場所だ。

 そんなところに行き着いたなら、当然、オレがやるべきことは一つである。

 

「こちらは、廃品回収業者です。ご家庭で不要になりました、ローブ、大剣、鎧などの武器防具や、馬車など魔道具や大きなものなど、どんなものでも、無料回収いたしますぅ~」

 

 鋭い視線と小石が復興地の中でぶつけられた。痛い。

 

「おかしいな。廃品が街はずれに捨てられているあたり、壊れモノはあるはずなんだが」

「その声が神経を逆撫でるからだと思いますよ」

 

 まさかのクソジジイと同意見である。やめたほうがいいのだろうか。

 でもこれしないと、壊れモノ回収業者らしさが消えるんだよなぁ。

 

「とにかく、宿でも探しましょうか」

「泊めてくれるところあるかなぁ」

「金か暴力に物を言わせれば、大概のことはどうとでもなりますよ」

「……駄目だよ? 脅しは良くないからね?」

 

 カトレアはこう、幼少期の経験のせいで、中々にぶっ飛んだ考え方に落ち着くことが多々ある。

 それを悪魔に諫められるとはどうなっているのだろうか。不穏な配下を荷台の上に座らせて、オレは宿屋の門戸を叩く。

 

「裏切り者の悪魔が。お前に貸す部屋なんてねぇよ」

 

 がしゃんと扉を閉められた。

 

「リリム様」

「うん」

「どうやら、リリム様は皆さまからの心象が悪いご様子」

「そうだね。村唯一の宿屋断られちゃったね」

 

 駄目でした。いや、オレも自分に人望がないことは理解していたのだが、まさか金払っても泊めさせてもらえないほどとは……。

 

「せめてまともな食事は確保したいので私が交渉をします。居るだけで不安要素なリリム様は勇者様を引き連れてどこかに消えてください」

「酷いなぁ!? もうちょっとオブラートに言おうよ!!」

 

 キミほんとにオレの配下なの? 主人に対する敬意がミリも感じられないよ??

 シッシとハエでも払うようなカトレアからそそくさと退散し、寝床はどうするか。まぁせっかくだし、あそこに行くか。

 

 ちいさな街のはずれから伸びる丘陵の山道を登り詰め、かつてはオレ達の秘密基地だった山小屋に辿り着く。

 異空間に収納してい置いた廃品を取り出し、魔法で木材を宙に操ったり組み立てたりして、犬小屋も完成である。

 

「勇者ちゃん、ハウス」

「ぐぅぅうう!!」

 

 荷台でかくんかくんと鼻ちょうちんを膨らませている勇者ちゃんを番犬小屋に入れると、当たり前に怒られた。

 これは完全に遊びが過ぎたぜ。オレを押し倒しながらげしげしと殴りつけてくる勇者ちゃんの愛は、甘んじて受け入れようじゃないか。

 

「配下である私が酷く苦労したというのに、リリム様は呑気に戯れているんですね」

 

 買い物袋に夕食を抱えて帰って来たカトレアは、青い瞳をジト目に細めた。それから、勇者ちゃんにご飯をあげ始めた。

 オレは宿泊先を確保したというのに、どうしてかご飯を貰えなかった。

 

 そうこうしているうちに森は夜の帳に包まれて、辺りは真っ暗闇。オレの食事事情も真っ暗。そして夜空は満天の星空。

 山小屋のランタンだけがぼやりと闇を和らげる世界で、カトレアが水魔法を使ってシャワーを浴びる音が良く響く。

 本来なら俺が請け負うはずだった勇者ちゃんのお風呂は、既にカトレアの手によって済まされてしまったのだ。なんだろ、オレもう王都帰っても良い?

 

「それはそれとして、やるべきことはやらないとな」

 

 完全寝間着体制に移行した勇者ちゃんを、くいと引っ張る。いや、力強く抵抗されて全然引っ張れない。重力魔法でも使ってるんだろうか。

 

「カトレア。ちょっと勇者ちゃん借りるぞ」

 

 オレは勇者ちゃんを連れて山を登った。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 夜に山を登っていると、思い出す記憶がある。

 

 もう、数年と前のことだ──焦げ臭い香りが、冷たい夜風に乗って木々の隙間を縫った。

 オレは勇者ちゃんの手を引いて、森の獣道を必死に駆けていた。

 

 そして森の崖先に見下ろしたのは──業火に包まれた、故郷の有り様。

 

 パチパチと、パチパチと、家屋が炎に弾ける音だけが木霊する。

 時折、魔物の嘶きと人間の悲鳴が聞こえた気がした。

 そんな重苦しい静寂の山中で、オレはポツリと、隣で立ち竦んだ勇者ちゃんに呟く。

 

「……街、燃えちまったな」

 

 まぁ、街を魔物の大群で襲わせ、火を付けさせたのはオレなんだが。

 よくもまぁ平然とした顔でいけしゃあしゃあと宣ったものである。

 

 勇者ちゃんから返事はない。その漆黒色の瞳は炎に朽ちていく故郷を見つめるばかりで、生気というモノを宿していなかった。

 育ての親を魔物に引き裂かれ、故郷を壊され、友を食い散らかされ。絶望に囚われた勇者ちゃんを見て──

 

──勝った。勇者の心を折ってみせた。

 

 ここまでどん底に落とされた彼女が立ち上がることはないだろうと、オレはそのことを確信していたのだ。

 

 だからオレは、炎に朽ちていく街を眺めて、ニヤリと細く微笑んだ、

 

 そのはずだったのに。

 

「……わたし……負けない……!」

 

 ぐっと、華奢な拳が震える。生きる屍同然だった瞳が、真っ直ぐな輝きを取り戻していく。

 

「絶対に、魔王になんか負けない……! わたしは、勇者だから……!!」

 

 それは聖火のごとき意志の輝きだった。後に名実ともに勇者となるに相応しい、絶望への反抗だった。

 分からなかった。何が勇者をそれほどにまで奮い立たせるのか。折れたはずの心が、再起してしまったのか。

 

 唖然と、勇者を見つめる。するといつの間にか、勇者は燃える故郷から向き直って、オレを見ている。

 そして。

 

「だから──()()()()()()()()() ()()()()

 

 労わるように浮かぶ微笑み。

 なにを、言っている? 思わず口元を抑える。そしてオレは気が付く。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 大好きな壊れモノが目の前にあるのに、なぜ。

 

 それでも。

 

「わたしは、ちゃんとここにいるよ?」

 

 その言葉に、オレの世界は救われていた。

 あぁ、そうだ。きっとこの時、壊れモノしか愛せないオレの世界は、決して壊れない彼女に壊されてしまったんだ。

 

「……なぁ、ステラ」

 

 だから、復興の進みつつある故郷を見て、勇者が何を想うのか、オレは分かっていたはずだ。

 連れて来るべきではない。王様はそんなことを望んでいない。だけど。でも。

 

 結局のところ、オレはまたオレが分からなくなって、こうするしかなかったんだ。

 

「がぁぁぁ!!」

「お前は精一杯、頑張ったよ」

 

 山猫みたいに夜の森を暴れ狂う勇者を躱しながら、いつか二人で見下ろした崖上に辿り着く。

 一直線に木の枝から跳び降りてきた勇者の後頭部を鷲掴み、そのまま大地へ叩きつけた。地面と頬擦りをさせながら、故郷の有り様を、まざまざと見せつける。

 

「だからさ、もう、楽になれ。な?」

 

『だからさ、リーくん。わたしに力を貸してほしいな』

 

 記憶がうるさい。結末はこれだ。そうだ。だから、だから──

 

『それで、世界が平和になったら、また一緒にあそこから街を眺めようよ』

 

──病んでいた漆黒の瞳が、一瞬、大きく膨らむ。

 

「…………ぅ」

 

 そして桜色の唇から漏れたのは、本能に染まった獣の呻きではなく、少女のモノで。

 

「……リー……くん」

 

 相変わらず虚ろな目は、()()()()()()()()()()()()()()を見下ろしたまま、夢うつつに呟いた。

 

 

 




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 次の投稿日は明日の2月3日です。
 よろしくお願いします。
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