廃品回収業者をしていた、勇者を回収した   作:うずつるぎ

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第4話

 

 勇者ちゃんの故郷へ帰った。勇者ちゃんが少し元気になった。

 

 つい昨日までは野生の獣みたいに暴れ散らかしていた勇者ちゃんは、今や心を閉ざした奴隷みたいに、しゅんと黙り込んでいる。

 

 不憫でかわいい。

 

 そんな勇者ちゃんが獣から人間へと戻るきっかけとなったのは、間違いなく、魔族に支配され、人間がモノとして扱われる無残な故郷の有り様を目の当たりにしたからだろう。

 

「つまりは勇者ちゃんは、オレとの思い出の地デートを求めているというわけだな」

 

 そうして愛を積み重ねることで、快復していくのだと思う。

 

「という仮説が立ったので、もう暫くしたら騎士学校に向かおうと思う」

「ところどころでキツイ妄想を挟んでくるのはやめてもらっていいですか」

 

 朝、オレが薄っすい粉コーヒーをちびちび啜りながら力説すると、酷く冷たい青色の眼光で刺された。

 まるでオレが欲望全開のように映る光景だが、そうではない。オレは悪魔なのだ。欲望に従って何が悪い。いや、そうではない。

 

「しかし、随分と都合の良い筋書きですね」

 

 朝陽を浴びて、カトレアは安楽椅子に脚を組みながら本を捲る。実に似合っている所作だが、どうしてオレが地べたで正座しているのだろうか。

 

 オレの配下だしメイド服も着ているのだから、本来ならオレが椅子でカトレアはオレの背後に立っているのが正解な気もするが、美麗なので良しとしよう。

 

「まぁそう言うなよ。勇者ちゃんも復活の兆しがあったわけだし。それは良いことだろ?」

「昔からそうですが、リリム様はステラ様に甘過ぎでございます。どれだけ好きなんですか」

「うっ」

「うっ、じゃありません。私という美人な傍付きがいるのですから、サッサと治してください」

 

 優秀な配下を持つ主人というのは辛い。主人が思いも寄らぬ角度から刺してくるのだから、本当に恐ろしいものだ。

 いじらしく目を逸らしている主人を慮るとか、そういうことはしてくれないのだろうか。

 

「しかし、リリム様。私には分かりません」

「なにがだ?」

「リリム様は、()()()()()()()()()()()()()()()」 

 

 そりゃゆくゆくは魂まで骨抜きにしてめちょめちょに……グへへ。

 分厚い本でぺしんと頭を叩かれた。

 

「真面目な話です。昨晩の行動は、勇者様を復活させるためのものに見えました。しかし、我らが王は今の状態で飼い慣らすことを、」

「そりゃ元気な勇者ちゃんに戻って欲しいだろ。カトレアだってそうだろ?」

「まぁ……それはそうですが」

 

 ちょっと目を逸らして口元をごにょごにょさせるカトレア。やっぱカトレアも勇者ちゃん好きじゃん。言ったら睨まれるから言わないけど。

 とにもかくにも、カトレアは理解のある配下だ。

 

「ですが、盲目はいけません」

 

 前言を修正させて欲しい。カトレアは理解力があり過ぎるあまり、オレの心を抉る悪魔だった。

 

「矛盾はリリム様の本分とは言え、今は流れる枝葉と変わりません。このままでは──」

 

 留まることを知らない正論にオレが半泣きで鼻息を荒げようとしたところ、救世主が扉を開く。

 死んだ魚の目をした勇者ちゃんが、寝間着のままのそりと部屋に入ってきた。

 

「おっ、勇者ちゃん。おはよ」

「…………」

 

 返事はない。しかし自分の意志で動いていることだけは伝わってくるから、以前のビーストモードな勇者ちゃんを見ているよりも心にくるモノがある。

 カトレアは櫛を片手に、勇者ちゃんへと近づく。

 

「髪のお手入れをしましょうか」

「う˝ー!!」

 

 勇者ちゃん自慢の、八重歯剥き出し威嚇である。

 

「ほれほれ、怒んなよ、な? カトレアはオレと一緒で安心だからなー」

「…………」

 

 犬の頭を撫でるみたいに華奢な手の甲をぽんぽんと叩いてやると、勇者ちゃんは途端に大人しくなった。どういう原理なのかは知らないが、勇者ちゃんはオレにだけ心を一歩許してくれているようである。

 療養によく付き合っているのが功を奏しているのだろうか。となれば、オレはこのまま勇者ちゃんの心の隙間に潜り込んで……。

 

「気色悪いですね、この人たらし」

「悪魔ってそういう生き物だよねぇ!?」

 

 織姫と彦星みたいに天の川(と言う名のカトレア)によって引き裂かれたオレと勇者ちゃんの号泣が、朝日差しの満ちる森の小屋に響き渡った。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 ちょっと状況が複雑になってきたので認識をすり合わせようと思うが、今の世界の覇者は、魔王様である。

 

 なんでこんなことになっているかと言うと、単純明快、勇者ちゃんが魔王ことクソジジイに負けてしまったからである。

 

 世界は魔王様に支配されて、めでたしめでたし。となったあとのお話が、今の勇者ちゃんとオレってことだね。

 

「何もめでたくございませんが」

 

 だから、勇者ちゃんの故郷も魔族に支配されてるってこと。辺りを見回しても、やっぱり魔族だらけな有り様となっている。

 

「壊れていても、かまいません。どんなものでも、無料回収いたしますぅ~」

「廃品回収業者か、助かる」

 

 勇者ちゃんの故郷は戦争の爪痕を濃く残していて、当然ガラクタで溢れている。そこで壊れモノ回収業者なオレの出番と言うわけだ。

 こうして真っ当に商売相手として見て貰えているのは、仮面で顔を隠しているお陰だったりする。

 

「なぁ、ステラ。もうちょっとここでゆっくりしたらさ、今度はオレ達の学校にでも行こうぜ」

「…………」

 

 故郷にもあった小さな学び舎は、門をひしゃげたまま放置されていた。

 そして魔王が勇者を打ち負かした今、この学校が蘇ることはないだろう。人間たちの奴隷闘技場にでもされるんじゃないだろうか。

 

「色々あったよなぁ、武闘大会とか遠征とか、ホント色々。騎士学校の授業もだいぶと面倒臭かったよなぁ」

「リリム様は学校をふける度に、ステラ様に連れ戻されていましたからね」

 

 武闘大会に乱入してきた魔王軍第四位を追い払うのも苦労したし、遠征先で聖剣の奪還戦が勃発したのも懐かしい。まぁ、全部オレが裏で手を引いていたんだが。そして最後の最後で騎士学校を破壊し尽くしたんだが。

 それでも、騎士学校で過ごした数年はかけがえのない青春であったと掛け値なしに言えるし、それだけ打ちのめされてもなおも立ち上がった勇者ちゃんは本当にすごいと思う。

 

「じゃ、帰るか」

「…………」

 

 返事をくれない勇者ちゃんとカトレアを荷台に乗せて、山小屋へと引き返す。そうこうしているうちに日が暮れて、森の緑は真っ暗闇。オレの未来もお先真っ暗。

 ちょっと希望の光でも見たいので、森の開けた場所でキャンプファイヤーでも。

 

「我らの希望を、返してもらおうか」

 

 複数の影が、空から降り立ってオレ達を囲んだ。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 篝火に揺れる無数の人影は、人間にしては、相当な魔力を持った連中で構成されていた。

 

 その誰もがおっかない武器をオレへと向けていることは、いつものことである。

 どうしてこうなるのか。カトレアがそっと、勇者ちゃんを匿うように一歩前に出た。オレは横目に眺めながら、炎でよく焼けた串肉をはむはむ喰らう。

 

「そのお方は、貴様のような薄汚れたカスが触れていい存在ではない。今すぐに離れろ」

 

 元四天王第二位のオレ相手に、そんなお願いが実現すると思っているのだろうか。人間というのはやはり理解に苦しむ生き物である。

 

「勇者ちゃんは見ての通り療養中だ」

「貴様ら悪魔のする不確かな治療より、我らの方が上手くできる」

「テメェらザコがオレに勝てるとでも?」

「勇者様が戻って来られるのであれば、我らの命など安いもの。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 オレの権能がヤベーと知っていてこの対応である。クソッ、覚悟ガンギマリじゃねぇ―か。

……と言うか、仮面によるお顔隠しは完璧だったはずなのだが、なぜオレがここに居るとバレたのだろう。

 

「影のない生き物なんぞ、貴様らの他に居ると思うか?」

 

 篝火に照らされて影を伸ばさないのは、オレとカトレアだけだった。

 

「……仕方ない、な」

 

 ため息と共に仮面を吐き捨て、我が身に秘めたる魔力を、開放する。

 

 空気を波紋して震える世界という世界。周囲を囲む人間たちが、顔を青くして身震いするのがよく分かる。

 勇者ちゃんが近くに居る以上、惨いことはしない。ただ、無力化するだけ──

 

 

──第三勢力が闇夜に現れたのは、その瞬間だった。

 

 

「なにッ!?」

 

 ひゅんと振るわれる鉤爪。背後を取られた騎士が倒れる。俺を囲んだ人間を更に囲うようにして、そこには、無数の魔物がひしめいている。

 

「き、貴様……謀ったな!?」

 

 これはオレに背を向けて必死に魔物をなぎ倒す人間の声。でもよく聞いて欲しいんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 人間サイドも一人一人が戦場を左右するほどに強いが、魔物の軍勢に押されつつある様子である。

 

「あトナノカ……! アと7日……!!」

 

 そして明らかに、何者かに操られて歪な声を響かせる魔物たち。魔物としては上級の強さを誇っているため、束になれば上澄みの人間にも拮抗できてしまっている。不味いな。

 

「……ぁ……!」

 

 季節外れの紅葉みたいに血に染まりゆく森中で、勇者ちゃんが目を見開きながら狼狽えた。これ以上は良くない。反射的に勇者ちゃんの目元を覆い隠す。

 だが……どうする。()()()()()()()()()()──

 

「……リリム様。ご判断を」

 

 苦虫を噛み潰したようなカトレアの一言に、オレは未だ答えを振り絞れれなくて──と、その時。

 

 

 流星のごとき白光が、夜闇に飛来して森中を切り裂いた。

 

 

「…………いじめ……ないで……」

 

 それは、勇気ある者の声だ。

 思わず振り返る。勇者ちゃんは漆黒の瞳を病んだままだが、確かに、魔力の光を剣の形に凝縮している。

 

「……いじめ、ないで……!」

 

 やがて彼女は──大地を強く蹴り上げ、光の剣を地表へ振るって。

 

リーくんを……いじめないでっ!!

 

 怒気の籠った魔力の一撃を、人魔問わずにぶち込んだ。

 

 




 次回の更新は2月4日の水曜日となります。
 よろしくお願いします。
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