同情するならチャクラくれ   作:あしたま

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015.桔梗

 

 

 渦の国での任務を終え、木ノ葉隠れの里へと帰還してから数日が経過していた。

 

 俺は火影邸の地下深くに位置する、厳重な結界が施された特別医療室にいた。目の前には、あの土蜘蛛一族の長老が横たわっている。

 

 里の医療班が「生体機能の限界を超えている」と評した彼の肉体は、ヒルゼン様との会談という目的のためだけに、辛うじて稼働している状態だった。

 

 会談の内容はSランクの極秘事項として処理されたが、その場に立ち会った関係者として、俺は事の顛末を知る立場にある。

 

 土蜘蛛一族は今後、火の国北部に位置する「葛城山」への移住が決定した。そこは険しい断崖と深い森林に囲まれた天然の要害であり、外部からの干渉を拒むには適した土地だ。彼らはそこで木ノ葉の庇護下に入る。

 

 その対価として、彼ら一族の血に伝わる禁術「怒髪天」は、木ノ葉隠れの里が管理する封印術によって厳重にロックされることとなった。

 

 霧隠れによって「使い捨ての爆弾」として消費される運命と比較すれば、それは合理的かつ人道的な結末と言えた。

 

「……良い取引じゃった」

 

 長老は、ヒルゼン様との調印を終え、俺と二人きりになった病室でそう漏らした。その顔からは、戦場で見せていた焦燥感や悲壮感は消え失せ、事務的な処理を終えた後のような、乾いた安堵だけが残っていた。

 

「……ゆっくり休んでくれ」

 

 俺が短く声をかけると、彼は小さく頷き、数分後にはモニターの心拍数がゼロを示した。ドラマチックな遺言も、涙を誘う別れもない。使い古された機械が機能を停止するように、彼は静かに息を引き取った。

 

 その後、一族の長の座は「役の行者」と呼ばれる壮年の男に引き継がれた。白髪交じりの長髪を背に流し、口元には蓄えられた髭。その立ち振る舞いは規律を重んじる武人のそれであり、感情を表に出すことはない。

 長老の密葬の際、彼は俺に対し、一礼した。

 

「貴殿らの判断と実行力に感謝する。この恩、土蜘蛛一族は記録し、記憶する」

「任務を遂行したまでです」

「……それでも、葛城山に来ることがあれば、歓迎させてくれ」

 

 彼はそう言い残し、生存した一族を率いて葛城山へと発った。彼こそが、禁術「怒髪天」の管理責任者となり、その封印の鍵を握る存在となる。その背中には重圧が見て取れたが、それは感傷的なものではなく、責任者としての覚悟によるものだった。

 

 

 *

 

 

 季節も変わり、戦況地図は大きく塗り替えられようとしていた。渦の国消滅という物理的・政治的なインパクトを経て、雲隠れと霧隠れの侵攻作戦は一時的な凍結状態に陥った。

 

 代わって主要な紛争地帯となったのが、火の国と風の国の国境線である。砂隠れの里は、長引く戦争による経済疲弊と資源枯渇を打開するため、国境付近の重要拠点に対して集中的な戦力投入を開始した。

 

 俺たちの班――戦功により正式に「ヨフネ班」として独立編成された小隊に、新たな辞令が下ったのは俺が十二歳になってすぐのことだった。

 

「桔梗峠へ向かえ」

 

 目的地は、火の国西部の山岳地帯にある要衝。

 

 赤茶けた岩肌が露出し、強風が吹き荒れる乾燥地帯だ。昼夜の寒暖差が激しく、砂塵が視界と精密機器を蝕む過酷な環境である。

 

 そして、その前線基地で指揮を執っていたのは、木ノ葉屈指の冷徹な知性だった。

 

 現地入りした初日。司令部として接収された天然の洞窟の入り口で、見張りをしていた下忍が俺たちに気づいて声をかけて来た。

 

「お、噂のヨフネですね!本部が送ってくれた援軍って貴方達のことだったんですか?」

 

 何だかやたらと媚びるような、持ち上げるような口調で話しかけてくる。正直、大蛇丸の周りにいそうなタイプではなかった。

 

「あ、俺は時好カブレっていいます!本部との伝令役です。よろしくお願いします!」

「こちらこそ、よろしく」

「さ、入って下さい。大蛇丸様が作戦立案中です」

 

「様」という敬称を使う彼の声には、盲信に近い信頼と敬愛が含まれていた。

 

 俺たちは彼の先導で、洞窟の最奥部へと進んだ。司令室として機能している空間には、巨大な地図と数台の無線機が設置されていた。ランプの光が揺らめく中、その男は地図にピンを刺し続けていた。

 

「……君がヨフネ君ね。シビからの報告書は読んでいるわ」

 

 大蛇丸。

 伝説の三忍の一人。蒼白い皮膚と、爬虫類を思わせる金色の縦長の瞳。その視線は、俺たちを「人間」としてではなく、「機能を持った駒」としてスキャンしているようだった。

 

「はっ。ヨフネ班、ただいま到着しました」

 

 俺が到着報告すると、大蛇丸は無言で俺たちの装備、特に俺の腰にある雷刀“牙”に視線を走らせた。

 

「感知タイプ三名に、超遠距離打撃力を持つ雷遁使い一名。……効率的な編成ね。シビの性格がよく表れているわ」

 

 彼は手元の資料をめくり、俺の術に関するデータを確認した。

 

「霧の忍刀……雷刀“牙”を用いた『超電磁砲』。射程距離、貫通力ともに従来の忍術の規格外。……素晴らしいわね」

 

 賞賛の言葉だが、そこには感情の温度がない。あるのは性能への評価だけだ。

 

「その術、単なる暗殺道具として使うには惜しいわ。……もっと戦術的な運用をしましょう」

「戦術的運用、ですか」

「ええ。君の射程と、この小隊の索敵能力があれば、戦場をコントロールできる」

 

 大蛇丸は地図上の数箇所――峡谷の入り口、岩場の高台、補給ルート――を指し示した。

 

「敵を殺傷するだけが能じゃないのよ。……敵を『動かす』の。こちらの意図する場所へ、意図するタイミングで。最大何発撃てるの?」

「……七発です」

「弾を一つ飛ばすだけのはずだけど、燃費が悪いのかしら。それとも貴方のチャクラが少ないのかしら」

「……両方かと思います」

「そう。惜しいわね。まあ使い所を間違わなければ良いだけの話よ」

 

 久しぶりにチャクラ量について言及された気がする。少しだけ、少しだけ胸が痛い。

 そんなことは知らない時好が、誇らしげに頷いた。

 

「大蛇丸様の計算に狂いはないんです。作戦を信じてたら勝てますよ!」

 

 

 *

 

 

 大蛇丸の指揮下に入って数週間。桔梗峠での攻防戦を通じて、俺の彼に対する評価は「危険人物」から「極めて有能な指揮官」へと修正された。悔しいが時好が言っていた通りだった。

 

 もちろん、その根底にある冷酷さが消えたわけではない。しかし、戦場において彼の冷徹さは「合理性」という形で味方に益をもたらしていた。

 

「無駄な損耗は避けるべきよ」

 

 定例の作戦会議で、大蛇丸は淡々と述べた。

 

「感情に任せた突撃や、精神論に基づいた死守命令は愚策の極み。……計算されたリスクの中で、リターンを最大化する。それが私のやり方よ」

 

 彼の采配は、感情を排した最適解の連続だった。兵士の個々の能力、性格、チャクラ量を正確に把握し、パズルのピースのように適材適所に配置する。

 

 俺たちヨフネ班に割り当てられた任務は、まさに俺たちの特性を骨の髄までしゃぶり尽くすような、計算され尽くした内容だった。

 

 任務パターンA:指揮系統の物理的遮断。

 

 これは従来の狙撃任務の延長だが、標的の選定基準が異なっていた。

 

「まず副官を狙撃しなさい。隊長は判断能力が低そうだから生かしておいて、混乱を拡大させるの」

 

 大蛇丸は敵の指揮官の性格までプロファイリングし、誰を殺せば最も敵部隊が混乱するかを指示した。俺は2キロメートル先から、指定された順序で頭部を破壊する。これにより、敵の指揮を強制的に遅延させ、木ノ葉側が常に主導権を握る状況を作り出した。

 

 任務パターンB:キルゾーンへの誘導。

 

 これが大蛇丸戦術の中核だった。

 桔梗峠の複雑な地形を利用し、俺は敵の進行ルートに対して「威嚇射撃」を行う。必ずしも直撃させる必要はない。足元や、すぐ近くの岩盤を粉砕するだけでいい。

 

 見えない狙撃手に怯えた砂隠れの部隊は、射線が通らないと思われる岩陰や、狭い峡谷へと逃げ込む。

 だが、その「安全地帯」こそが、大蛇丸が設定したキルゾーンだ。

 そこには、伏兵部隊や、配置された大量の起爆札、あるいは毒ガスのトラップが待ち構えている。

 

 俺は羊飼いが犬を使うように、弾丸という鞭を使って敵の集団を死地へと追い込む役割を担った。この戦術により、木ノ葉側の被害は最小限に抑えられ、敵の損耗率は劇的に跳ね上がった。

 

 任務パターンC:精密誘導支援。

 

 大蛇丸が独自に開発し、役に立つからと教えてくれた「雷遁・雷光」。

 

 殺傷力を持たない微弱なレーザー状の雷遁を、視界不良な砂嵐の中で敵拠点や傀儡師に照射する。

 それを合図に、後方に控える火遁部隊や、秋道一族の倍化部隊が、マーカー地点へ向けて面制圧攻撃を行う。

 

「東の山の中腹」という曖昧な指示ではなく、「光っている点を撃て」という単純明快なプロセス。

 

 これにより、誤射や無駄弾は激減し、補給物資の節約にも貢献した。大蛇丸は、俺たちの能力を単なる「点」の火力ではなく、戦場という「面」を支配するためのツールとして運用した。

 

 そして、敵に位置がバレやすい俺たちにはしっかり護衛もつけてくれた。

 

 その手腕には、恐怖を通り越して感嘆すら覚える。

 「卑怯」「陰湿」と陰口を叩く者もいるが、結果として多くの木ノ葉の忍が生きて帰還できている事実は揺るがない。

 

 

 *

 

 

 ある日の夜間戦闘終了後。

 俺は前線基地の外れで、酷使した雷刀のメンテナンスを行っていた。そこへ、任務を終えた他の忍が足音荒く近づいてきて、俺の隣に座り込んだ。

 

「……はあ、疲れた。今日のお前達の誘導、タイミングは悪くなかったぞ」

 

 彼の服は砂と煤で汚れているが、大きな外傷はないようだ。今日の昼間、彼が囮として敵を誘引した際、岩陰に潜んでいた砂隠れの傀儡師が彼の死角から毒針を発射しようとしていた。

 

 俺はホヘトとの視覚共有リンクでそれを感知し、傀儡師ごと岩を貫通射撃して排除した。

 

「別に。貴方に死なれると、俺が代わりに前線で囮役をやらされそうだから。リスク管理の一環です」

「素直じゃないな」

 

 彼は口の端を吊り上げて笑うと、懐から一冊の薄汚れた巻物を取り出し、俺の膝の上に放り投げた。

 

「ほら、これは礼だ」

「……なんです、これ?」

「アンタが吹き飛ばした傀儡師が持ってたんだ。死体を確認した時に拾った『傀儡の術』の教本なんだが。ここで返せるお礼なんてこれぐらいしかなくてな」

 

 俺は巻物を受け取り、内容を確認した。砂隠れの里が得意とする傀儡の術。

 指先から放出したチャクラを糸状に変化させ、木製のカラクリ人形を遠隔操作する技術体系。

 

 図解には、チャクラ糸の放出制御法や接続のノウハウが詳細に記されていた。流石にカラクリの仕組みや作り方なんかは載っていないが充分役に立ちそうだ。

 

「……なるほど。これはありがたい」

「良かった。一応試しては見たが俺にはチャクラコントロールが細かすぎて無理そうだったんだ」

 

 俺は苦笑しつつ、再び巻物の図解に意識を集中させる。

 

(チャクラを物理的な干渉力を持つ「糸」に変換し、離れた物体を操作する……)

 

 前世の記憶を持つ俺の脳内で、この技術は単なる「人形劇」の道具とは異なる意味を持って結びついた。

 

 現代戦における、無人航空機。ドローン。そこまでいきなりできるとは思わないが研究のしがいがありそうだ。

 

 この世界の傀儡師は、主に「人型」の重たいカラクリを動かすことに固執している。隠し武器、毒ガス、防御機構。それらを詰め込んだ人形は強力だが、地上を移動する制約からは逃れられない。

 

(……人形である必要はない。飛翔体であればいい)

 

 もし、このチャクラ糸を使って、極限まで軽量化された「飛行ユニット」を操作したらどうなる?

 例えば、猛禽類を模した小型のグライダー。

 

 そこに、山中一族の心転身の術を応用した「視覚共有タグ」や、映像転送用の術式を組み込む。そうすれば、俺たちは岩陰に隠れたまま、上空からの視点を手に入れることができる。

 

 偵察だけではない。その飛行ユニットに起爆札を積載し、敵陣へ突入させる。完全誘導できる「ミサイル」の完成だ。

 

 敵からすれば、音もなく空から爆弾が降ってくる。感知タイプでなければ回避は不可能に近い。

 

(……実現可能か?風遁チャクラを使えば、プロペラやモーターといった複雑な機構すら省略できる可能性もあるな)

 

 俺の心臓が、静かな興奮で鼓動を速めた。

 この世界にはまだ「航空戦力」という概念が希薄だ。

 

 一部の鳥使いや秘伝忍術の使い手が存在する程度で、組織的な空爆や空中偵察は確立されていない。

 もし、この「ドローン戦術」を確立できれば、俺たちは戦場を支配できるかもしれない。

 

 思わぬ拾い物にほくそ笑みながら、改めて礼を言った。

 

 

 *

 

 

 桔梗峠の戦いは、大蛇丸の的確な指揮によって徐々に木ノ葉有利へと傾いていった。数で勝る砂隠れに対し、木ノ葉は最小限の被害で、着実に敵の拠点を削り取っていた。

 

 じわじわと、真綿で首を締めるような戦い方。大蛇丸の描く「詰将棋」は、あと数十手で完成するはずだった。

 

 だが、決着は唐突に、そして理不尽な形で訪れた。

 

『総員、攻撃を中止』

 

 ある日の早朝、大蛇丸からの伝令が入った。

 

「何が起きるんですかね?」

 

 サンタの問いに返す間もなく、戦場の空気が変わった。

 

 敵の本陣。数キロ先にある、砂隠れが要塞化した岩山。

 

 そこへ向けて、木ノ葉の本隊が一斉に何かを投擲したのが、ホヘトの白眼によって確認された。無数のクナイだ。

 

 黒い雨のように、敵陣地へと放物線を描いて降り注ぐ。砂隠れの忍たちは、突然の遠距離攻撃に戸惑いながらも、嘲笑うかのように盾を構え、あるいは回避するような構えを見せた。

 

 一見、ただのクナイの投擲。直撃しても死ぬような威力はない、ただの牽制に見えたはずだ。

 

「……狙いが雑すぎる」

 

 ホヘトが訝しむ。だが、その疑問は次の瞬間に氷解した。空中に、地面に、岩肌に。ばら撒かれた無数のクナイの柄には、見覚えのある特殊な術式札が巻かれていた。

 

「……まさか、あれは」

 

 俺が息を呑んだ、その時だった。世界から「時間」という概念が消失した。

 

 戦場の端にいたはずの金色の影が、消失。次の瞬間、敵陣地の中心部に現れたかと思うと、また消失。

 

 右へ、左へ、上へ、下へ。

 

 クナイが刺さった座標、その全てを、黄色い閃光が線で結んでいく。

 

 ドッ、ガッ、ズバッ!!

 打撃音が、遅れてやってくる。閃光が走るたびに、砂隠れの忍が喉を掻き切り、心臓を穿たれ、崩れ落ちていく。

 

 術による派手な爆発などない。あるのは、クナイの場所へ瞬時に移動し、無防備な背後から急所を一撃で断つ、極めてシンプルで、極めて残酷な「作業」の繰り返し。

 

「……な、なんだよアレ……」

 

 隣にいた俺たちの護衛役の忍が、震える声で言った。彼の目は見開かれ、これまでの作戦が霞むほどの、圧倒的な「個」の暴力に言葉を失っている。

 

 五十、いや百近い敵の上忍たちが、何もできずに死体の山を築いていく。印を結ぶ暇もない。

 

 クナイの雨が降ったエリアは、そのまま波風ミナトの絶対的なテリトリーとなっていたのだ。物理法則を無視した三次元機動。

 

 それは戦術などではない。回避不能な災害だ。ものの数十秒。静寂が戻った戦場には、ばら撒かれた特製クナイと、それと同じ数だけの死体、そして中央に静かに佇む一人の男だけが残されていた。

 

 波風ミナト。

 

 木ノ葉の黄色い閃光。彼が、別の戦場から駆けつけ、たった一人で戦争を終わらせたのだ。俺たちがあれほど苦労して削り、誘導し、罠に嵌めてきた敵を。大蛇丸が何週間もかけて積み上げてきた、緻密な戦場を。

 

 彼は「速さ」という暴力だけで、盤ごとひっくり返してしまった。

 

「……終わりね」

 

 司令部のテントに戻ると、大蛇丸は椅子に深く腰掛け、つまらなそうに報告書を眺めていた。その横顔には、隠しきれない苛立ちと、暗い感情が渦巻いていた。

 

「あっという間でしたね、ミナトさんは」

 

 俺が恐る恐る声をかけると、大蛇丸はフンと鼻を鳴らした。

 

「ええ。彼にかかれば、軍略も、工作も、兵站管理も、全てが児戯に等しいわ。……たった一つの『才能』が、全てを凌駕する」

 

 その言葉には、強烈な嫉妬と、絶望にも似た諦観が含まれていた。大蛇丸は禁術を研究し、知識を貪り、積み重ねて強さを手に入れた。

 

 今回の戦いだってそうだ。彼の指揮があったからこそ、戦線は維持され、多くの命が救われた。だが、歴史に刻まれるのは「大蛇丸の的確な指揮」ではない。

 

「黄色い閃光がクナイの雨と共に現れ、一瞬で敵を殲滅した」という英雄譚だけだ。

 

「……風が、強すぎるわね」

 

 大蛇丸はポツリと漏らした。その目は、ミナトがいるであろう方向を見つめていた。

 

 そこには、同胞への信頼などはなく、ただ超えられない壁を見上げる者の、ドロリとした執着だけがあった。

 

 俺は背筋が寒くなるのを感じた。この戦争の勝利は喜ばしい。だが、この勝利が、大蛇丸という傑物を木ノ葉から遠ざける決定打になったような気がしてならなかった。

 

 完璧すぎたヒーローの存在が、大蛇丸の歪みを加速させる。そんな不吉な予感が、勝利の歓声の中で俺の胸に残った。

 

 そして、この戦いが終わったその足で、大蛇丸が戦災孤児の少年――薬師カブトと運命的な出会いを果たしていることなど、今の俺は知る由もなかった。

 

 

 *

 

 

 一つの戦争が終わった。対砂隠れとの戦争は、木ノ葉の勝利という形で幕を閉じた。

 

 多くの犠牲が出たが、里は守られた。戦後処理と論功行賞が行われる中、俺たちヨフネ班は異例の高評価を受けた。

 直接的な戦果こそミナトさんには及ばないものの、戦術面での革新性、被害抑制への貢献、そして重要ターゲットの排除率。

 

 大蛇丸が提出してくれた報告書には、俺たちの働きが詳細に、そして極めて高く評価されていた。彼は個人的な感情とは裏腹に、部下の査定に関しては最後まで公平で、有能な上司であり続けた。

 

「また一緒に任務やろうぜ」

 

 解散式の日、俺が助けることのできた忍達が笑顔で手を振って去っていった。彼らの背中を見送りながら、俺は複雑な気分になる。次に会う時、彼らはまだあの笑顔でいられるだろうか。

 

「……似合うじゃないか、ヨフネ」

 

 火影邸からの帰り道。シビ先生が、珍しく相好を崩して俺の肩を叩いた。

 

「ありがとうございます、先生」

 

 俺は新品のベストに袖を通しながら、照れくさく笑った。緑色のタクティカルベスト。中忍のものとは違う、上忍の証。

 

 砂との戦いが終わり誕生日を迎えた俺は、十三歳での上忍昇格となった。特例中の特例だ。

 

 周りを見れば、山中サンタと日向ホヘトは試験免除で昇格を認められ、中忍となった。

 

「これからは、お前が隊長として正式に部隊を率いることになる。……責任は重いぞ」

「わかっています。……俺たちの戦い方は、これからもっと必要になるはずです」

 

 俺は雷刀の柄を握りしめた。俺が目指すのは、ただ強いだけの忍ではない。戦術と技術で、戦場を変える忍だ。

 

 大蛇丸の下で学んだ「合理性」と、ミナトさんに見せつけられた「個の力」。その両方を知った今、俺にはやるべきことが山ほどあった。

 

 平和になった街並み。だが、俺は知っている。これが束の間の平和であることを。

 九尾の襲来。うちはの悲劇。そして、大蛇丸の離反。そして第四次忍界大戦。

 これから起こるであろう悲劇の数々。

 

(……準備しなきゃな)

 

 新しいベストの重みを感じながら、俺は決意を新たにした。生き残るために。そして、この理不尽な世界で、少しでもマシな結末を手繰り寄せるために。

 

 





 
忍界歴45年
桔梗峠の戦い
砂隠れとの戦闘が行われ木ノ葉の勝利に終わった。
砂隠れは降伏に近い形で屈辱的な不平等条約を締結することとなった。
 
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