同情するならチャクラくれ   作:あしたま

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030.救出

 

 

 冷たい空気が肺を刺す季節になっていた。

 俺――うたたねヨフネが二十四歳を迎えた。

 うちはの一件以降、木ノ葉隠れの里の勢力図は確実に形を変えつつあった。

 

 未だ、ダンゾウは行方不明のままであり、右眼に写輪眼を宿していたこともあって九尾事件の犯人としての容疑もかけられた。そのためビンゴブックに載せられ、各国に抜け忍として指名手配された。

 

 残った『根』については即日解体され、大部分が火影直轄の暗部に併合された。『根』の総数が何名だったか定かではないが、少なくない数がダンゾウと共に姿を消したと思われる。

 専門職の強い部署にも配属された元『根』も多くおり、情報部、暗号部、解析班、結界班などである。

 

 『根』の育成機関にいた幼い子供達は、夕日真紅──紅の親父さんが責任者として面倒を見ているらしい。

 

 そして、今までうちはが担当していた警務部隊は、特定の一族に偏らず、火影に任命権を持たせた。そして、負傷などで前線を退いた者なども再雇用されることとなった。インカムの使用など、部隊運用については猟犬でのノウハウも提供している。

 

 そして、今まで火影と相談役で決めていた物事について、今までもあった上忍会議の権限が強化される形となった。上忍会議は各部署の責任者や現場指揮官の上役である上忍班長が出席することになる。上忍班長の数も増え、俺も会議に参加することとなった。

 

 そして、この上忍会議においても一族の偏りは認めない方針であり、婆様は相談役を降りることとなった。

 

 「もう六十も超えておる。隠居したかったからちょうど良い」

 

 と言っていたがあれは嘘だとすぐ分かる。それに上役ではなくなったが、なんだかんだといろんな部署から相談は受けているようだし、元気で安心した。ひ孫が見たいと言い出し始めたのには困っているが。

 

 そして、俺が率いる『猟犬部隊』の里での評判は、隊員たちの血の滲むような頑張りもあって上々だ。決して慢心する事がないように扱いている事もあり、士気も練度も極めて高い状態を維持できている。下忍たちがすれ違いざまに憧れの眼差しを向けてくることも増え、上層部からは「里の盾であり剣」という評価が定着しつつあった。

 

 シスイも復帰まで少し時間がかかったが、今では変わらず任務についている。サスケとも同じアパートに住んでおり、隣同士で面倒を見ている。たまに猟犬部隊に来ることもあるが、俺や他の隊員には心をあまり開いていないようだ。

 

 同期たちの状況も様変わりしている。

 一つ下のカカシは「暗部」の若きエースとして、闇の中で数々のSランク任務を完遂し、その名を他国にまで轟かせている。光の猟犬と、闇の暗部。いつしか俺とカカシは、次代の木ノ葉を担う双璧として語られるようになっていた。

 

 一方で、三代目の息子であるアスマは、うちはの事件後、『守護忍十二士』に選出され、火の国大名の護衛として己の忍道を求めて里を離れている。

 

 それぞれが別々の重責を担い始めた中、里に残った他の同期たち――マイト・ガイ、夕日紅、エビスといった面々は、先に「名声」と「部隊長」の座を確立した俺やカカシに対し、強いライバル心を抱いて研鑽を積んでいた。

 

 俺達は現状に満足するつもりは微塵もなかった。

 訓練のマンネリ化を打破するため、そして今後の忍界で生き残るため、俺は新しい訓練を導入するつもりだった。

 

 それは『人質奪還』の訓練という、今までの忍では決して特化してやる事の無かった分野だ。

 建物内へ侵攻する為の訓練自体は行われているが、「忍は死して黙すべき」という思想が根底にあるこの世界では、仲間が捕まった場合は「見捨てる」か「機密ごと消す」のがセオリーであり、人質救出はある意味でタブー視されている。

 

 そうは言っても、単騎潜入などの任務もある忍にとって、人質となる機会は少なくない。思想はあっても、現実には救出を要請される任務が数多く存在している。

 

 しかし当然、任務の難易度はグンと上がる。人質を殺されては何の意味もない為、突入の際には敵に指一本動かす暇を与えない細心の注意と、圧倒的な制圧力が求められるからだ。

 

 それを実現するために特注していた兵器の受取日が、今日だった。

 作って貰うのには、予想よりも遥かに時間がかかった。なにせ、この世界に目眩ましの光玉はあるが、強烈な「音」を発して三半規管を破壊するような代物は無い。

 

 こういう時に薬学や人体の構造に詳しい綱手様を頼りたかったのだが、彼女も大蛇丸の里抜け後、シズネを連れて里を離れてしまっている。自来也様も大蛇丸を追跡調査するために飛び回っており、今は木ノ葉の三忍は一人として里にいない。

 

 そこで、電磁砲用の弾丸製作で世話になっている街の老舗武具店“満点堂”に頼み込んだのだ。少し偏屈なおっさんだが、新しい物を作るのが好きで嫌がらずに受けてくれる。

 

 すんなり完成とはいかなかったが、火薬の調合で爆発事故を起こしかけながらも数回の試作を繰り返し、何とか今日、完成に至ったのだ。

 落ちていた気分を奮い立たせ、古びて立て付けの悪くなった満点堂の引戸を思い切って開けた。

 

 「おやっさん、来ましたよ! もう出来上がってます?」

 「五月蝿い! もう少し静かに入って来やがれ! 毎度毎度、馬鹿力で開けやがって、余計に立て付けが悪くなんだろうが!」

 「ごめんごめん。で、どうです?」

 「まったく……ほれ、お前さんの要望通りに仕上げたぞ」

 

 おやっさんはカウンターの後ろの壁に積み上げられた引き出しから、ずっしりと重い木箱を取り出しドンと置いた。俺は待ちきれずに蓋を開ける。

 

 そこには、筒状の手榴弾の様な形をした無骨な黒い鉄の塊――『音響閃光弾(スタングレネード)』が敷き詰められていた。

 

 「へえー。結局、こういう形になるもんなんだな」

 「ん? まあ、ちょっと見慣れない形にはなったが、ピンを抜いてから約二秒後に強烈な閃光と爆音が発生する。相手は少しの間だが、確実に身動きが取れなくなるだろうよ。……あと、一番よくわかんねえ要望だった『爆発して破片が飛び散らないようにする』ってのが、意外と大変だったぞ。殺傷力を持たせねえ爆弾なんて、忍具の常識から外れてやがる」

 「ありがと。裏で試しに使ってみても良いか?」

 「いつもなら良いって言うところだが、こいつは駄目だ。試しに作った時に裏で使ったら、母ちゃんにえれぇ怒られちまった。今度使ったら俺が殺されちまうよ。試すなら演習場でやんな」

 

 どうやら、その反応を見る限り大成功と見ていいだろう。何も知らない部隊のみんなに使ったら流石に怒るだろうか。

 

 「ただ大丈夫か? 使ってみて分かったが、これを使うときはこっちも完全防備にしなくちゃならん。当然こっちも音が聞こえないから、意思疎通が出来なくなるぞ?」

 「その点は大丈夫だよ。俺らの猟犬部隊は、言葉に出さなくても行動できる」

 「さすが、噂に名高い猟犬だな。改良して欲しい所があれば言ってくれ」

 「あいよ。ありがとね、おやっさん」

 

 

 *

 

 

 満点堂を出た俺は、その足で第三演習場へと向かった。

 三代目火影の許可を得て、新兵器のデモンストレーションを行う手はずになっていたからだ。そこには、俺の呼び出しに応じた三人の同期が待機していた。

 

 マイト・ガイ、夕日紅、そしてエビスの三人だ。

 

 「遅いぞヨフネ! 俺の青春の血潮は、今か今かと激突の時を待ちわびていたのだ!」

 

 ガイが白い歯を光らせて親指を立てる。

 

 「エリートである私を呼び出すとは、よほど画期的な戦術なのでしょうね。お手並み拝見といきましょう」

 

 エビスが丸いサングラスを押し上げながら不敵に笑う。

 紅は腕を組み、静かに俺を見据えていた。彼女の赤い瞳の奥には、俺の底を測ろうとする鋭い光が宿っている。

 

 「悪いが、ガイ。今日は青春の殴り合いをするつもりはない。これは対人制圧のテストだ」

 

 俺は懐から耳栓を取り出し、耳の奥深くまでねじ込んだ。さらに、光を完全に遮断する特殊な黒いゴーグルを装着する。

 

 「なに、その妙な格好は」

 

 紅が呆れたようにため息をつく。

 

 「気にするな、紅。お前ら三人は『人質を盾に取った敵』だ。俺が今からあの小屋に踏み込むから、全力で迎撃してみろ」

 

 俺は前方の廃小屋を顎でしゃくった。

 ガイたちは顔を見合わせ、やがて真剣な忍の顔つきに変わった。カカシや俺に遅れを取るまいと、彼らもまた死に物狂いで実力を磨いてきたのだ。決して侮れる相手ではない。

 

 三人が小屋の中に陣取ったのを確認し、俺は音響閃光弾のピンを抜いた。ゆっくりと足音を殺してドアに接近し、隙間から黒い筒を放り込む。

 

 「なんだ、これは……?」

 

 中からエビスの訝しむ声が聞こえた。

 と同時に小屋の隙間から、太陽が落ちたかのような強烈な閃光が漏れ出し、同時に空気を物理的に引き裂くような轟音が炸裂した。

 

 「ぐあああっ!?」

 「きゃあっ!」

 

 悲鳴。

 俺はドアを蹴破り、白煙の中へ突入した。

 小屋の中では、最強の体術を誇るガイが三半規管を揺さぶられて膝をつき、嘔吐感を堪えていた。精神集中の極致にいる紅の幻術も、爆音によって強制的に霧散させられ、耳を塞いでうずくまっている。エビスに至っては完全に白目を剥いて壁に激突していた。

 

 視覚と聴覚を奪われた無防備な三人の喉元に、俺は流れるような動作でクナイの峰を押し当てた。

 突入から制圧まで、わずか三秒。

 

 「……王手だ」

 

 ゴーグルを外し、耳栓を抜いて俺は告げた。

 

 「な、なんだ……今の光と音は……。全く、力が入らん……」

 

 ガイがふらつきながら立ち上がり、信じられないものを見る目で俺のクナイを見た。紅は床に手をついたまま、耳鳴りの中でゆっくりと顔を上げた。

 彼女の目に映ったのは、硝煙の中でただ一人、一切の乱れもなく冷徹に立ち尽くす俺の姿だっただろう。

 

 忍の旧態依然とした殺し合いを否定し、一切の反撃を許さずに「勝利」だけを手繰り寄せる。

 紅の赤い瞳が、微かに揺らいだ。それは同期としての対抗心を超えた、手の届かない高みへ駆け上がっていく者に対する、熱く、苦しいほどの憧憬の眼差しだった。

 もしくはまた訳のわからない物を作ったな、という呆れかもしれない。

 

 「……何も出来なかったわ。あんた、またとんでもない物作ったわね」

 

 紅が呆れるように笑い、俺は無言でクナイを収めた。

 どうやら呆れの方だったらしい。

 

 

 *

 

 

 装備ができてから二週間。

 部隊で突入訓練を徹底的に反復し、実戦投入の準備が整った矢先、救出作戦を実践する機会が突然訪れてしまった。

 

 担当上忍が、中忍試験に落ちた下忍を騙して、秘伝の巻物を盗んで里を抜け出したのだ。

 主犯の担当上忍は緑青アオイ。騙された下忍は森乃イダテ。尋問部の隊長となった森乃イビキの弟だ。

 

 イビキは弟を抜け忍としない為に単独で追跡したが、罠に嵌められ、同行していた暗部と共に捕らえられたという。巻物の暗号解読の為には、解析班であるイビキの知識が必要だったらしい。

 

 イビキの頭にはまだ、あの原作で見たような無惨な拷問の跡はない。あの傷を残さない為にも、一刻も早く助け出さなければならない。

 

 事態を知らせて来たのは、イビキが囮になって逃げ出させた暗部の一名だった。

 

 「イビキを、イダテを頼みます。私の教育が至らなかったばかりに……」

 

 出撃前、エビスが珍しく取り乱した様子で俺に頭を下げてきた。彼もまた、教育係としての責任に苦悩していた。

 

 「イビキが時間を稼いでいるうちに無傷で助け出せるのは、あんたの部隊だけよ」

 

 紅もまた、祈るような瞳で俺に情報を託した。

 

 「そんなわけで、暗部から俺の小隊も一緒に参加させてもらうよ」

 

 里の門前で部隊を整列させていると、ひょっこりと現れたのは、はたけカカシだった。

 

 「わざわざ火影直轄のエースがお出ましかよ」

 「いや、正直言うと捕まってるのは俺の部下なんだわ。俺と、逃げる事が出来た部下、それにもう一人加えたこのスリーマンセルで参加させて欲しい」

 

 最近も『冷血カカシ』やら何やらと暗部内で囁かれているようだが、やはり仲間は大事にしているらしい。リンを殺した心の傷は、まだ完全には癒えてはいないのだろう。

 

 「良いけど、条件がある。まず一緒に行動する以上、現場での俺の指示は絶対だ。それと暗部として単独行動させるつもりもないから、その面も取れ。最低限の信頼を俺の部下たちに見せて欲しい」

 「ああ、俺はそれで構わないよ。ほら、テンゾウ達も面を取れ」

 

 カカシが素直に頷き、逃げ出して来た忍ともう一人も動物の面を取って素顔を見せた。

 連れていたもう一人は、大きすぎる黒目をした無表情な顔にフェイスガードをしていた。名前を聞いた時に薄れ始めた記憶に引っかかる物があったが、彼は間違いなく後のヤマト隊長だ。

 

 「よろしく、テンゾウ」

 「……暗部でも噂されている猟犬部隊の隊長が、カカシ先輩の同期だなんて知りませんでした。勉強させて貰います」

 

 テンゾウは少し警戒を含んだ目で、俺の手を握り返した。

 二人と握手を交わした後、俺達はすぐに雨の国との国境付近にある、最初に監禁されていたという小屋に向かって木々を駆け抜けた。

 

 案内に従い着いた小屋は既に全焼しており、周囲に人の気配などない。ただ、少なくとも二人は負傷したのか、その先の森に向かって僅かだが点々と血痕が残されていた。

 

 「カカシ、出番だぞ」

 

 さすがにカカシは長い付き合いなだけあって、俺の言葉で素早く印を結んでいく。こうやって肩を並べて任務をするのは久しぶりだが、印を結ぶ早さ一つとっても、自分と同等以上に成長しているのが分かる。

 

 「口寄せの術!」

 

 印を結んだカカシが焦げた地面に手をつくと、ボフンッという白煙と共に、フレンチブルドッグのパックンを始めとする忍犬達が姿を現した。

 

 「よ! 久しぶりじゃのヨフネ」

 「久しぶりで悪いんだけど、早速この血の匂いを追ってくれないか?」

 「任せておけ! それに焦げた匂いも同じ方向に進んでおる。すぐに見つけてやるわい」

 

 パックンの言葉通り、追跡はすぐに開始され、連れてこられた先には切り立った崖を背にした二階建ての木造小屋があった。先ほどの場所から人質を抱えて移動したとすれば、約半日といった距離だろう。

 

 「ホヘト、内部の様子を調べてくれ」

 

 隣に控えていたホヘトに白眼で透視させる。人質や内部構造を白眼で確認しない事には、完璧な突入作戦を立てることは出来ない。

 

 俺はホヘトに声をかけると同時に、タシとスクイを除いた他の隊員たちに、無言のまま指先と腕の動き――ハンドシグナルだけで指示を出し、周囲へ散開させた。

 

 音もなく一瞬で散開する猟犬の動きに、サインに反応できなかった暗部組の三人は、ぽつんと立ち尽くしていた。

 

 「……カカシ先輩、ヨフネさんが出した今の合図はなんなんでしょう?」

 

 テンゾウが小声で尋ねる。

 

 「さあ、正直俺にも分からない。でもまあ、見張りの配置を確認しに行ったってとこでしょ」

 「でも、あれだけのサインでですか? 斥候するにしても、隊列や散開位置の指示までは出たようには見えなかったんですが」

 「それはあらかじめ一定の戦術パターンが決まっていて、後は現場の判断で動けるように訓練されてるからだよ、テンゾウ。……俺たちのやり方とは違う」

 

 カカシが目を細めて俺を見た。

 

 『ヨフネ隊長、敵の見張りを確認しました。数は一個小隊です』

 

 脳内に、山中一族であるサンタの心伝身による念話が響いた。

 

 『よし、全員一旦戻って来い』

 『『『了解』』』

 

 急に黙り込んだ俺に不審な目を向けているカカシ達に振り返り、口頭で説明してやる。

 

 「今、うちの山中一族から心伝身の術で報告があった。また後で説明するが、お前達は見張りを倒してくれ。その後は小屋の表側に回って、出て来た敵を捕らえて欲しい。もし無理なら殺しても構わない」

 「待ってよ、そこは俺達も突入組でしょ。こっちは仲間を人質に取られてるんだ!」

 

 テンゾウが一歩前に出て抗議した。

 

 「……今回は人質の無傷での救出がメインだ。確実に助けたいなら、さっきみたいにサイン一つで全員が秒単位で動かなきゃいけない。それに、お前達は『装備』も持っていない」

 「装備なんて! そんなの最初に言ってくれれば準備したじゃないか! つまりお前は最初から俺たちを……」

 

 対閃光ゴーグルや特殊な耳栓なんて、すぐに準備出来る物じゃない。カカシ達の準備を待ってはいられなかったから仕方がないのだ。

 

 「最初にヨフネ隊長が仰いましたよね? この隊においてヨフネ隊長の命令は絶対です。装備だって、貴方達に言った所で揃えられる物じゃないんです」

 「……タシ、やめろ」

 「すみません、出過ぎたことを。しかし……私を信じろとは言いませんが、我々の隊の戦術は信じて下さい」

 

 元暗部のタシが、暗部のエリートであるカカシ達相手に一歩も引かずに反論した。その確固たる自信の表情を見て、カカシはテンゾウを制し、渋々ではあるが納得してくれたようだ。

 

 話がついたところで、斥候に出ていた隊員達が音もなく戻って来た。ホヘトの方も中の確認は終わっているようだ。

 

 「よし、敵の監視はどうだ」

 「はい。サンタが報告した通り数は一個小隊。小屋を中心にして東西南北の死角で見張っています」

 「次、ホヘト頼む」

 「人質は、見張りの二人と共に二階の西側の部屋にいます。その向かい側の部屋にも敵が二人。一階は居間に四人、奥にある二部屋にそれぞれ二人がいます」

 

 周囲を見て来た班からの報告によると、出入り口は玄関と裏口の二つ。各部屋には窓が一つあるようだ。作戦を成功させるには十分すぎる条件だ。

 

 「分かった。カカシ班は入口のある南側、第二小隊は東側、第三小隊は北側、第四小隊は西側の見張りを無音で倒せ。見張りを倒したら、第三小隊とカカシ班で小屋を完全に包囲しろ。一人として敵を逃がすな」

 「はい」

 「……分かった」

 「見張りを倒したら、第一小隊は一階入口、第二小隊は二階の東側の部屋、俺たち第四小隊は人質がいる二階西側の部屋に突入出来るよう外壁で待機しろ。二階に突入した三秒後に、第一小隊は一階へ突入だ。音響閃光弾を使用して、人質は必ず『生きたまま』確保するぞ」

 「「「はいッ!」」」

 「散!」

 

 テンゾウは暗部のやり方とは全く違う、忍術を一切組み込まない作戦に何か言いたいことがありそうな顔をしていたが、流石に黙っていた。

 

 (まあ見ていろ。イビキも、お前たちの仲間も、無傷で助けてやる)

 

 配置についた俺達第四小隊の前方には、敵が真面目に見張りを続けていた。俺は足元の石を拾い、あえて少し離れた草むらへ投げて一瞬だけ注意をそちらにズラす。そのコンマ数秒の隙に背後へ音もなく回り込み、首の骨をへし折った。

 

 その様子を見ていたタシ達と共に小屋の壁に近づき、二階の窓近くの外壁にチャクラを吸着させて音もなく貼り付いた。

 全員が遮光ゴーグルと耳栓を装着したのを確認し、全体に念話で連絡を取る。

 

 『第四小隊、準備完了』

 『第一小隊、準備完了』

 『第二小隊、準備完了』

 『了解。カウントダウンを開始する……5、4、3、2、1……GO!!』

 

 合図を出すと同時に、窓ガラスを蹴り破り、部屋の中央へ音響閃光弾を投げ入れる。

 次の瞬間。

 

 部屋の中で人工の太陽が瞬き、内臓を揺らすほどの轟音が肌を震わせた。訓練で分かってはいたが、閉鎖空間での威力は絶大だ。

 

 白煙の中へ飛び込むと、主犯の緑青アオイともう一人の敵忍は、鼓膜を破られたように耳を抑え、平衡感覚を失って床に蹲っていた。椅子に縛り付けられたイビキ達も苦しそうに顔を顰めているが、拷問で指を切り落とされるよりはマシだろう。

 

 「確保ォッ!」

 

 俺の怒声と共に、タシとスクイが素早く人質の拘束を解いて連れ出し、俺は蹲るアオイの顔面を容赦なく蹴り飛ばして物理的に気絶させた。同時に、背後でサンタが心転身の術でもう一人の敵の精神を乗っ取り、動きを完全に封じた。

 

 サンタが敵を拘束した次の瞬間、階下で地響きが鳴り、建物が揺れるのを感じた。第一小隊が一階へ突入した音だ。

 ここまで、突入から時間にして約五秒。

 一階の敵は二階が先に攻撃されたと思い、迎撃態勢を整える為に一階に留まらざるを得なかったはずだ。そんなタイミングで一階へ突入させることにより、完全な挟撃と混乱を演出する事ができるのだ。

 

 俺は気絶したアオイを担ぎ上げ、窓から外へ飛び降りた。サンタも心転身を解いてすぐに付いて来る。二階東側の残存部隊の制圧は、シスイたちが問題なく担ってくれるはずだ。

 

 『人質を救出。首謀者ともう一名も確保した。残りの抵抗する敵は殺して構わん』

 

 念話で各班へ冷徹に指示を出し、俺は救出されたイビキの元へと歩み寄った。

 

 「イビキ、大丈夫だったか?」

 「ああん!!? なんだあれは!! おかげで今はまだ耳が全然聞こえん!!!」

 

 激しい耳鳴りのせいとは言え、巨漢のイビキの野太い声で叫ばれると流石に鼓膜が痛い。手当をしているタシに確認する方が良さそうだ。

 

 「タシ、二人の怪我はどうだ?」

 「二人とも身体に打撲や切り傷を負っています。おそらく尋問の初期段階だったのでしょうが、命に別状はありません」

 「そうか、良かった」

 

 見た所、頭部も無事なようだ。顔の一部に傷は出来ているが、まださほど時間が経っていないため、タシの高度な医療忍術ですぐに塞がり、跡も残らず治るだろう。原作のあの痛々しい傷を背負わせずに済んだことに、俺は密かに安堵の息を吐いた。

 

 「ヨフネ隊長、こちらも制圧終わりました」

 

 突入開始からわずか二分。ホヘト達も一階と二階の敵を完全に殲滅したようだ。死傷者はゼロ。盗まれた秘伝の巻物に関しても、アオイの懐から無事に回収出来ている。雨隠れにはまだ情報が持ち込まれていなかったようで助かった。

 さて、残るは後処理だ。

 

 『第三小隊、作戦完了だ。小屋と中にある遺体、忍術の痕跡も一切残らないように破壊しろ』

 『了解』

 

 直後、激しい火遁の炎が小屋を包み込んだ。

 忍は死して遺体を残さず、が原則である。裏切ったとはいえアオイたちは元木ノ葉の忍。敵国に死体や戦術の情報が渡るのは絶対に避けなくてはいけない。

 

 燃え盛る炎を背に、暗部の面を外したカカシが歩み寄ってきた。その後ろで、テンゾウが信じられないものを見るような顔で俺たちを見つめている。

 

 「カカシ、作戦終了だ。満足出来る結果だったか?」

 「……正直、此処までとは思ってなかったよ。忍術を一切使わずに、たった二分で要塞化した小屋を無傷で制圧するなんてな。……すまなかったな、俺たちが足手まといになった」

 

 カカシは素直に非を認め、肩をすくめた。

 

 「別に気にしちゃいないさ。俺の部隊が異常なだけだ」

 

 俺も今回の結果にはかなり満足している。

 後は里に戻ってアオイから経緯を聞き出せば終わりとなるだろう。詳しい尋問は、怒りに燃えるイビキがたっぷり可愛がってくれるはずだ。

 

 夕暮れの空を見上げる。

 俺が作り上げた『猟犬』というシステムは、ついに忍の歴史の常識を覆す領域に達しようとしている。

 

 「さて、里に帰って三代目に請求書を叩きつけるとしようか」

 

 俺の呟きに、タシがくすりと笑った。

 理不尽な死が蔓延るこの世界で、俺は俺のやり方で、仲間たちの命を絶対に死守してやる。

 

 





 
油女ムタ
油女一族の中では喋る方。ヨフネの六歳下。原作ではカブトのアジトを探索していたアンコの先発偵察隊の一員。蟲袋の中に起爆粘土を入れられ、サソリにチャクラ糸で操られていた。
 
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