同情するならチャクラくれ   作:あしたま

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037.幕間(一)

 

 

 【孫の縁談】

 

 木ノ葉隠れの里、うたたね本家の広間。

 縁側から差し込む穏やかな陽光の中、うたたねコハルは卓の上に積まれた何十枚もの釣書を前に、ほうと小さく息を吐いた。

 

「……また、ずいぶんと届いたものじゃ」

 

 うちは事件の収束に伴う体制変更により、コハルは長年務めた『火影の相談役』という第一線から退いていた。

 

 以前は監査役として里のあらゆる部署に目を光らせていたため、周囲から煙たがられることも多かった。だが、役職を降りてただの「ご意見番」となった途端、逆に里の者たちから政治的な思惑抜きで相談を持ちかけられることが格段に増えていた。全く、世の中というのは皮肉なものである。

 

 そんな隠居の身となったコハルの、目下の最大の楽しみ。

 それは、自慢であり、面倒ごとばかりを持って来る孫のヨフネの縁談を吟味することだった。

 

「さて、今日のはどこからじゃ……ふむ。性懲りもなく、林の国が持ち掛けておるの」

 

 コハルは一枚の釣書を手に取り、鼻を鳴らした。

 林の国――かつて志村ダンゾウ率いる『根』によって暗殺部隊である般若衆を壊滅させられ、半壊状態に陥っている国だ。

 

 ダンゾウが失脚した今、あそこは木ノ葉にすり寄ることで復興の足がかりを掴みたいのだろう。それに、奴らは姿を隠す特殊な忍術に長けている。

 

(ヨフネは般若衆の『隠密術』のノウハウを欲しがっているとも考えられるが……木ノ葉へのメリットが少なすぎるの。やはり、これはなしじゃ)

 

 コハルは林の国の釣書を容赦なく『不合格』の木箱へと放り込んだ。

 

 続いて目を通すのは、田の国、湯の国、茶の国といった小国からの縁談だ。猟犬部隊の隊長として諸外国にまで名が売れ始めた孫の価値は、もはや大国の要人クラスに跳ね上がっている。

 

「田の国……ここはあやつの報告によれば、大蛇丸やダンゾウの残党が潜伏している可能性が高い国として挙げられておったの。論外じゃ」

 

 二枚目も木箱へ直行する。

 

「次は湯の国か。温泉が有名な観光国じゃが、忍里としてはすでに縮小し『戦を忘れた国』とも呼ばれておる。部隊の戦力補強という点ではメリットは薄いが……」

 

 コハルはそこで少し考えるそぶりを見せ、釣書をそっと手元に置いた。

 

「……そうじゃな。無下にするのも角が立つ。一度、ワシが直接出向いて『温泉に浸かってから』話だけでも聞いてみるのもありかもしれんの」

 

 完全にただの観光目的であった。湯の国の釣書は、そっと『保留』の箱に分類された。

 

「さて、茶の国はのう……大陸で繋がっておるのは我が火の国だけで、独自の忍里を持たぬ国。ただでさえ同盟関係が強固だからの、わざわざ血を入れてまで縁を結ぶメリットは薄い……ん?」

 

 釣書に書かれた相手の素性を見て、コハルの老眼が見開かれた。

 

「相手は大名の血筋か……! ずいぶんとまた、思い切った手に出たものじゃ」

 

 一国の大名からの縁談。名誉なことではあるが、忍が大名の血を引く者を妻に迎えれば、里の内外で不要な政治的摩擦を生む。

 

「……私の一存ではどうにもならんな。ヒルゼンから大名経由で、角を立てずに断らせるとしよう」

 

 ため息をつきながら、コハルは茶の国の釣書を『火影案件』として脇へ避けた。

 

「それにしても、里内の有力な一族からの縁談は……最近はパッタリと止んだの」

 

 一時期は、ヨフネの能力と猟犬部隊のコネクションを狙って、木ノ葉の各一族からの縁談が引きも切らなかった。

 

 特に凄まじかったのは日向一族だ。日向宗家の誘拐未遂事件を防いだ恩があるとはいえ、ヨフネと歳の近い娘がいないからと、まだ十にもならぬ幼い娘の釣書を持ってきた時は、さすがのコハルもドン引きして追い返したほどだ。あれ以来、日向もさすがに懲りたのか大人しくなっている。

 

「夕日家や加藤家の娘とは同級生で釣り合いも取れておったが……夕日の娘は今度、ヒルゼンの馬鹿息子と結婚するしのう。加藤家の娘に至っては、綱手の馬鹿に連れ回されて里にいつ帰ってくるかも分からん」

 

 はぁ、とコハルは湯呑みの茶を啜りながら、深い深い老婆のため息をついた。

 

「ワシがひ孫の顔を見られるのは、まだまだ先かのう……」

 

 その時だった。

 残った郵便物の束の中から、一際上等な和紙で作られた、封蝋の押された真新しい封筒が出てきた。

 

「おや? これは新しいの……」

 

 差出人の紋章を見て、コハルの目が鋭く細められた。

 

「……ほう。雲隠れからか」

 

 とうとう、五大国からも直接縁談が来るようになったか。

 他国との婚姻は、平和の証となる一方で、血継限界や秘伝忍術の流出という危険を孕んでいる。

 

「あの里はどうにも昔から喰えん奴らが多いからの。さすがに身辺調査は慎重にせねばならん。……どれどれ、どんな娘かの」

 

 コハルは封を切り、中から数枚の書類と写真を取り出した。

 写真に写っていたのは、褐色の肌に銀色の髪をした、極めて理知的な顔立ちの若き女性だった。

 

「……ほう、美人じゃの。さらには時空間忍術の使い手……マブイ、か。優秀な忍じゃな」

 

 だが、コハルの視線は、釣書の備考欄に大きく書かれた一文に釘付けになった。

 

『面識有り』

 

「……雲め。やりおるな」

 

 コハルは思わず、口元に凄みのある笑みを浮かべた。

 ヨフネが以前、山のような見合い写真から逃げるために「話したこともない人と結婚するのは嫌だ」と口にしていたのを、雲隠れはどこかで聞きつけていたのだ。

 

 そして、おそらく波の国あたりでこのマブイというくノ一がヨフネと直接接触し、言葉を交わしていたという「事実」を最大限に利用してきたのかもしれぬ。

 

「雲の耳はずいぶんと良いようだ。……やはり、徹底的に警戒したほうが良いかもしれんな」

 

 コハルは警戒心を強めながら、同封されていた『相手方の条件(結納金など)』の書類に目を通した。

  そこに記された莫大な金額を見た瞬間、コハルは思わず息を呑んだ。

 

「……なっ」

 

 そこには、大国同士の結納金としても異常なほどの、桁外れの金額が記されていた。

 だが、問題はその「額」ではない。その金額の数字が、どういうわけか、コハルが試算したヨフネが『波の国』の裏市場で動かしていると思われる額と、ピタリと符合していたからだ。

 

(……わかりやすいの。波の国で稼いだ莫大な金を、あ奴が馬鹿正直にすべて里に報告しているとはワシも思っておらんかったが……)

 

 コハルは額に冷たい汗を滲ませた。

 雲隠れは、波の国を視察したマブイを通じて、ヨフネの莫大な資金洗浄の規模を完全に把握している可能性がある。

 

「……それにしても、改めてでかい額じゃの。ヨフネの奴、裏でどれだけ手を広げておるんじゃ……」

 

 コハルは頭を抱えた。孫の成長は喜ばしいが、やっていることのスケールがもはや小国の大名ならば凌駕し始めている。

 

「……いや。しかし待てよ」

 

 コハルは、元・ご意見番としての冷徹な思考を素早く巡らせた。

 雲隠れは武闘派であり、常に火の国との国境で小競り合いを起こす危険な隣国だ。だが、この結納金を呑んでヨフネが雲の重鎮と縁を結べば、経済的な結びつきによって、雲との戦争という最悪の事態は確実に回避できる。

 

「戦争を金で未然に防げると思えば……この額でも、案外安いものかもしれんの」

 

 コハルは釣書と条件書を綺麗に畳み、重々しい手つきで封筒に戻した。

 ただの孫の縁談選びのつもりが、いつの間にか国家の存亡とパワーバランスを左右する特大の政治案件へと変貌していたのだ。

 

「うーむ……。孫の将来のためとはいえ、さすがにこれはワシの一存では決められんな」

 

 コハルは立ち上がり、ゆっくりと腰を叩いた。

 

「……ヒルゼンとホムラを呼んで、久々に密室で『相談』といくか」

 

 木ノ葉の誇る老練なるご意見番の目には、すっかり現役時代の鋭い光が宿っていたのだった。

 

 

 

 

 

 【初恋】

 

 火の国から遠く離れた、とある宿場町の安酒場。

 昼間から酒の匂いと紫煙が立ち込めるその店内で、伝説の医療忍者であり、また別の意味での伝説のカモとしてギャンブラーたちに名を馳せる女――綱手は、ジョッキをドンッと乱暴にテーブルへ叩きつけた。

 

「くぁーっ! また負けた!」

 

 顔を赤くして天を仰ぐ綱手の前で、愛豚のトントンを抱き抱えたシズネが、すっからかんになった財布と家計簿を交互に見比べて青ざめていた。

 

「つ、綱手様……。そろそろ、本当にお金が底をつきますよ……!」

「ブヒーッ……」

 

 主人の危機的状況を察してか、シズネの腕の中でトントンも情けなく鳴き声を上げる。

 だが、当の綱手は悪びれる様子もなく、残った酒をグイッと煽った。

 

「その時は、その辺のヤブ医者では治せないような重病人を私がサクッと治してやって、莫大な治療費でも請求するさ。お前、もうこの辺りの金持ちで、病に困っている人物がいるかどうかは調べてあるんだろう?」

「それは、まあ……一応調べてはいますが。それに、たまたまお金持ちの患者さんがいるから、どうにかなるかもしれないってだけですからね! いつも上手くいくとは限りませんよ!」

 

 シズネが涙目で抗議するが、綱手は豪快に笑い飛ばした。

 

「ハッハッハ! まあ、その時は借りるか、踏み倒すかして夜逃げするさ!」

「後で平謝りするのは、いつも私なんですけど!?」

 

 ギャーギャーと騒ぐ愛弟子を尻目に、綱手は立ち上がり、気怠げに首を鳴らした。

 

「しょうがないね。じゃあ、その金持ちの患者のところに案内しな。さっさと治して、金ふんだくってずらかるよ」

「……はあ。次はどこへ向かうつもりですか?」

「賭場で面白い噂を聞いてな」

 

 綱手はニヤリと笑い、シズネの顔を覗き込んだ。

 

「最近、商人たちの間で話題の『波の国』なんだが。何やら、島の中に『賭事野(カジノ)』とやらができたらしい。チンチロや花札だけじゃなく、見たこともないような盤や機械を使ったデカい賭け事が山のようにあるって話だ」

「えっ……波の国、ですか?」

 

 シズネの表情が、パッと明るくなった。その反応を見た綱手は、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべる。

 

「ん? 何やら嬉しそうだな。……ははーん、さては『うたたねの小僧』に会えるかもしれないのが嬉しいんだな?」

「ち、ちがいますよっ!」

 

 図星を突かれたのか、シズネは顔を真っ赤にして勢いよく否定した。腕の中のトントンが驚いて「ブヒッ」と身をよじる。

 

「ヨフネ君やトンボ君とは、下忍時代にシビ先生の『第四班』でずっと一緒に苦労してきた仲じゃないですか! それなのに私、綱手様についていくために、二人にも先生にも何も言わずに里を出てきちゃったから……いまだに、ちょっと気まずいだけです!」

「何年も昔の話じゃないか」

 

 綱手は呆れたように肩をすくめた。

 

「あれか? お前、まさか初恋をまだ引きずっているのか? んん?」

「ち、違いますってば……!」

 

 シズネは顔を真っ赤にして否定したが、その声は先ほどよりもわずかに小さく、自信がなさそうに尻すぼみになっていた。

 

「でも……流石に昔のこととはいえ、気にはしますよ。いきなり音信不通になったんですから」

 

 必死に目を逸らしながらブツブツと弁解するシズネの姿を見つめているうち、綱手はふと、少しだけ気まずそうに視線を泳がせた。

 

(……よく考えりゃ、若い頃から私に連れ回されて、借金取りから逃げる日々だ。こいつに、同年代の男と恋する暇も与えなかった現状を作り出したのは……私か)

 

 伝説の三忍としての豪胆な振る舞いの裏で、綱手の胸にほんのわずかな罪悪感がよぎる。だが、彼女はそれを振り払うように、わざとらしくパンッと両手を叩いた。

 

「ま、噂じゃあ、あいつも今や『猟犬』だの『木ノ葉の死神』だの、随分と物騒な名前がついているらしいがな。その分、裏でかなり儲けてそうじゃないか」

 

 波の国という巨大な経済圏の裏で糸を引いているのが、あの五月蝿い婆さんの生意気だった孫だというのだ。世界は本当に狭い。

 

「波の国の『賭事野』とやら……私の血が騒ぐね。金持ちの小僧から巻き上げてやるのも、楽しみだ。よし! ササッと元手を作ってから、さっさと行くぞシズネ!」

「ああっ、もう! 待ってくださいよ、綱手様!」

 

 意気揚々と酒場を出ていく綱手の背中を、シズネはトントンを抱えたまま小走りで追いかけた。

 

(まったく、綱手様は相変わらずなんだから……)

 

 ため息をつきながらも、シズネの胸の奥では、何年も鍵をかけていたはずの「淡い感情」が、出てきていた。

 

(本当に、何年ぶりだろう。……ヨフネ君)

 

 下忍時代。過酷な死の森で、泥だらけになりながら誰よりも冷静に班を導いてくれた、大人びた背中。紛れもない、彼女の初恋だった。

 

(今のヨフネ君は『猟犬』の隊長で、他国にも名前が轟くくらい出世してて……。波の国を裏で動かすほどの、すごい大物になっちゃってるんだよね)

 

 シズネは歩きながら、ふと店先の窓ガラスに映った自分の姿を見つめた。

 くたびれた着物。すっからかんの財布が入った懐。そして、腕の中には「ブヒ」と鳴く子豚のトントン。

 

 自分はあの日から、綱手様を追いかけてきたが、借金取りから逃げ回る毎日で……浮いた話の一つもない。

 

(なんだか……綱手様があんな事言うから、ちょっと緊張するな……)

 

 シズネは無意識に、自分の頬や髪にそっと触れた。

 相手は、手の届かないくらい立派な大人の男になっているのだ。昔のボロボロだった下忍時代のままの感覚で会ったら、どう思われるだろう。変に老け込んだり、所帯染みて見えたりしないだろうか。

 

(ヨフネ君もトンボ君も、もう立派な大人だもんね……)

 

 トントンを抱き直す手に、少しだけ力が入る。

 

(……恋人とか、奥さんとか。もう、いるのかな……)

 

 不安と、コンプレックスと。

 そして、それらを上回るほどの「もしかしたら」という、甘酸っぱい期待。

 波の国へ向かうその足取りは、いつもの借金取りからの逃亡とは違う、どこか浮き足立ったような、年相応のときめきに満ちていたのだった。

 

 

 

 

 

 【地雷原】

 

 常に濃霧に覆われ、日の光すら満足に届かない水の国。

 そのさらに奥深く、反乱軍の拠点として使われている地下の隠れ家の中。

 蝋燭の揺らめく灯りに照らされながら、反乱軍のリーダーである照美メイは、執務机に頬杖をつき、ひどくアンニュイなため息をこぼした。

 

「……ねえ、青。そろそろ、波の国に行く時期じゃないかしら?」

 

 その言葉に、部屋の隅で書類仕事に追われていた側近の青が、大袈裟にペンを置いた。

 

「またですか? メイ様。波の国には、半年前に行ったばかりでしょう。ヨフネ殿の組織とは定期的に連絡を取っていますし、シラカワ商会を通じて資金も物資も滞りなくこちらの隠れ家に送ってもらっています」

 

 青は呆れたように肩をすくめ、真っ当な正論を口にする。

 

「それに、各地の同志たちに声をかけ、ようやくこれだけの戦力と仲間が集まったんです。今は我々トップが里を空けるより、この里で皆をまとめ上げるほうが先決です」

「そうなんだけどねえ……」

 

 メイは形の良い唇を尖らせ、不満げに蝋燭の火を見つめた。

 

「前回行った時は、波の国にヨフネがいなかったじゃない。わざわざ出向いたのに、空振りだったのよ」

 

(……反乱軍のカリスマリーダーが、あの木ノ葉の小僧のことになると途端にこれだ)

 

 青は内心で深くため息をつきながらも、表情には出さずに頷いた。

 

「確かに、かの人物はこの反乱軍にとって最重要の出資者であり、我々は彼に頼り切っていると言っても過言ではありません。……しかし、引っかかることもあります」

 

 青は右眼の眼帯を軽く指で叩き、声を潜めた。

 

「『忍刀』についてです。我々が探している失われた忍刀について、彼は相変わらずだんまりですか? 奴が『雷刀・牙』を持っている時点で、他の忍刀も同時に回収している可能性が高いのは彼のはずなんですが」

「そうなのよね」

 

 メイも表情を引き締め、有能な指揮官の顔に戻る。

 

「これだけ我々を支援してくれているのに、忍刀の情報すら渡さないとなると……戦火の中で紛失したか。もしくはこちらから『提供できる対価』が無さすぎるのが原因かしらね。金はあちらの方が持っているし」

「こちらから提供できるもの、ですか」

 

 青は顎に手を当てて少し考え込み、ふと冗談めかした口調で笑った。

 

「ははっ、どうします? いま我が軍で提供できるものと言えば……誰か、手頃な『若い娘』でも送り込みますか?」

 

 部屋の温度が、物理的に五度ほど下がった。

 

「……青」

 

 メイが、凄絶な笑みを浮かべて青を睨みつける。

 

「黙れ、殺すぞ」

「ヒッ!?」

(な、なぜ!? 今の会話のどこに地雷が!?)

 

 若い娘を送る=私は若くないから対価にならない、とでも脳内変換されたのだろうか。青は冷や汗を滝のように流しながら、必死に話題を逸らした。

 

「そ、そういえば! 最近何やら、波の国には『賭事野』とやらができたらしいですぞ!」

「……カジノ? 何をする所なの?」

 

 殺意を引っ込め、メイが不思議そうに首を傾げる。

 

「何やら、大掛かりな賭場らしいです。私はどうにも、ああいう不健全な賭け事は『好かん』のですが、若い連中の中には興味を持っている者も多いようですな」

 

 青は安堵の息を吐きながら、得意げに情報を語り続ける。

 

「まったく、ただのサイコロを『振って』何が楽しいのやら。……あ、カジノの他にも、大きな遊郭や温泉宿、立派な病院などもできているらしいですよ。華やかな若い女性も多いでしょうから、あのヨフネ殿も色々と『目移り』するでしょうな!」

 

 青が気持ちよく語り終えた、その時だった。

『好かん』『振って』『目移り』。

(――目移りして、好きじゃなくなって振られる……!?)

 

 メイの全身から、先ほどとは比べ物にならないほどのドス黒い殺気と、溶遁のチャクラがマグマのように噴き出した。

 

「黙れ、溶かすぞ……!!」

「ヒィイイイイイイイッ!? も、申し訳ありません!!」

 

 理不尽極まりない地雷の踏み抜き方に、青は土下座スレスレの勢いで平謝りした。この美しきリーダーの機嫌を損ねれば、本気で骨まで溶かされかねない。

 

「……さて。くだらない話はこれくらいにして、仕事に戻るわよ」

 

 数分後。すっかり冷静さを取り戻したメイが、冷徹な指揮官の顔で切り出した。

 

「四代目水影・やぐらはどこに隠れているのやら。……そっちの報告はない?」

 

 その声に、青も背筋を正し、歴戦の忍の顔つきに戻る。

 

「ハッ! そ、そうですね。隠れ家の候補をいくつか絞ることはできましたが、依然として本人の正確な居場所は掴めておりません。それに、奴が一人きりになる瞬間が全くなく、我々や皆の前に姿を現す際は、すべて『水分身』でした」

「水分身ばかり……異常なほどの警戒ぶりね。暗部の手練れでも近づけないわ」

 

 メイが怪訝そうに眉を寄せる。

 

「そうなると、本人がすでに死んでいる……あるいは、何者かに操られている可能性もあるんじゃない?」

「いえ、それはないかと」

 

 青はきっぱりと否定し、右眼の眼帯に手を触れた。かつて木ノ葉の日向一族から奪い取った、戦利品である『白眼』。

 

「間違いなく、あのチャクラは尾獣・三尾のもの。そして四代目・やぐら本人のものでした。この右眼の白眼で視認しましたので、間違いありません」

「そう……」

 

 メイは小さく息を吐き、冷たく湿った隠れ家の天井を見上げた。

 血で血を洗う同志討ち。常に誰かを疑い、暗殺の恐怖に怯えなければならない狂気の里。

 

 波の国のような、眩しいほどの活気と光に満ちた場所を夢見ながらも、彼女はこの血霧の里から逃げるつもりは一切なかった。

 

「四代目を早く見つけなくちゃね。そして、すべての元凶を断つ」

 

 メイの瞳に、揺るぎない覚悟の炎が灯る。

 

「早くこの里も、平和な場所にしたいわ」

 

 狂気に支配された血霧の里を変えるため。

 照美メイと青たち反乱軍の長く過酷な戦いは、水面下で確実に臨界点へと向かいつつあった。

 

 

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