同情するならチャクラくれ   作:あしたま

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039.幕間(三)

 

 

 

【会議で踊る】

 

 木ノ葉隠れの里、火影邸。

 執務室には、古びた紙の匂いと微かなパイプの煙が漂っていた。窓から差し込む夕暮れの影が、机上にうずたかく積まれた報告書の山を長く伸ばしている。

 

「ナルトにも困ったものじゃ。ミズキに唆されたとはいえ、秘伝の書を持ち出すとはの。……まあ、里外に漏れる前に事態を収束できたのじゃ、今回も大目に見てやるしかあるまい」

 

 三代目火影・猿飛ヒルゼンは、紫煙を細く吐き出しながら手元の書面を繰った。

 

「それに、あやつが合格したことで今年の卒業生は二十七名。ちょうど九つの班が作れる計算じゃ。悪いことばかりでもないのぅ」

 

 その時重厚な扉が、ノックもなしに乱暴に開かれた。ご意見番の水戸門ホムラが硬い表情で踏み込んでくる。その後ろから、上忍班長・奈良シカクが静かな足取りで続いた。

 

「……ホムラか。せめてノックくらいはしてほしいものだがの」

「そんな悠長なことを言っている暇はないだろう」

 

 ホムラが来客用の椅子を引き、シカクは一つ息を吐いてその隣に立った。

 

「……やれやれ。わざわざこの時期に呼び出すということは、また骨の折れる話なんでしょう?」

 

 シカクの落ち着いた声に、ヒルゼンは苦笑して手元の書類を二人の前に差し出した。

 

「今日呼んだのは、今度アカデミーを卒業する下忍の班編成についてじゃが、今年は少々特殊での」

 

 ホムラが目を細めて書類を手に取る。隣から覗き込んだシカクの目が、わずかに鋭さを増した。

 

「こりゃあ……。九尾の人柱力に、うちはの生き残り。日向の本家に、猪鹿蝶の本家筋まで揃っている。例年以上に、厄介な面子だのう」

「という事であれば、担当上忍を選ぶのに慎重となるのも無理はないですね」

 

 そう言いながらホムラが書類を机に戻すと、ヒルゼンは深く頷いた。

 

「そこでじゃ。まず第七班にはナルトにサスケ、そして座学で優秀な成績を残している春野サクラを据えようと考えておる。第八班には日向、油女、犬塚を入れた感知特化タイプ。そして第十班は、御三家である猪鹿蝶の三名とする」

「班編成に異論はない。だがヒルゼン、やはりナルトを里の外に出すのは反対じゃ」

 

 ホムラが即座に異議を唱えた。その声には、里を護る者としての強い警戒が滲んでいる。

 

「他国に狙われるリスクを考えろ。万が一、任務中に九尾が暴走すれば、周囲の被害は計り知れんぞ」

「お前たちもいい加減諦めてはくれぬか。儂はこの方針を変える気はない。あやつが成長するには、仲間という存在が必要なんじゃ」

「……ならばせめて、それ相応の担当上忍をつけることが絶対条件じゃな」

 

 一歩も引かないホムラに対し、ヒルゼンは力強く頷いた。

 

「それについては、はたけカカシに任せてみようと思っておる」

「カカシか。……写輪眼の保持者であれば、最悪の事態でも九尾を抑え込める可能性がある。妥当なところでしょう」

 

 シカクの冷静な評価により、ひとまず七班の議論は収束した。

 

「次に、第十班は……アスマにやらせてみようと思っておる。今はガイの奴も担当上忍として実績を上げ始めておるし、年齢的なところでいっても、あの世代に任せてみるのが筋じゃろう」

 

 ヒルゼンがそう言うと、シカクはわずかに視線を伏せた。

 第十班には、自分の息子であるシカマルが含まれている。面倒くさがりでやる気のないあの息子を導くには、アスマのような懐の深い男が適任だろう。親としては密かに安堵していたが、上忍班長という立場上、身内の贔屓と思われかねない発言は控えるべきだった。

 シカクの沈黙の意図を察したのか、ホムラが淡々と口を開く。

 

「御三家と繋がりの深い猿飛一族なら、適任だろう。なあ、シカク」

「守護忍十二士としての経験も、役に立つじゃろうからな」

 

 ヒルゼンの言葉に、シカクは「ありがとうございます」と短く返した。

 

「よし、十班も決まりじゃ。……問題は、第八班なんじゃが。夕日紅はどうかの?」

 

 ヒルゼンが問うと、ホムラが露骨に眉をひそめた。

 

「紅も優れた幻術使いではあるが、感知タイプの班をまとめるのは専門外だろう。猟犬部隊のこれまでの功績を見る限り、早い内に専門分野について造詣が深い者に教わった方が、成長の効率が圧倒的に違うはずじゃ」

「確かに」

 

 そう言って、シカクが顎を撫でる。

 

「しかし、日向の本家がいる以上、初期教育で躓かせるわけにはいきません」

「この年代の感知タイプで、教育に適した優秀な忍といえば、飛竹トンボがおるではないか」

 

 ホムラの提案に、ヒルゼンは首を振った。

 

「いや、あやつは猟犬の中におってこそ輝く男じゃ。それに特別上忍じゃから担当とすることはできん。……となると、残りは……」

 

 室内を重い沈黙が支配した。感知に優れ、戦闘能力も一級品。そして教育者としての資質。

 条件を満たす候補は、あの世代では一人しかいない。

 

「……しかし、あやつは猟犬のトップですよ」

 

 シカクが心底困り果てたように頭を掻いた。

 

「波の国の裏回しから他国への介入まで、あいつの任務の予定はびっしりです。新米下忍の担当上忍なんて頼んだら……」

「あやつめ。祖母譲りの剣幕で詰め寄られるのは、儂も御免じゃ」

「やはり消去法で夕日家の娘しかおらんじゃろう。家系にも問題はないし、日向も文句は言わん」

 

 これで話は決着かと思われた。

 その時だった。

 

「親父! 俺にも子供が出来たぞ!」

 

 今度もまた、ノックなしに扉が開け放たれた。

 飛び込んできたのは、興奮で顔を上気させたアスマだ。里の重鎮であるホムラすら視界に入っていないほどの勢いである。

 

「…………何?」

 

 ヒルゼンが呆然と口を開ける。

 横ではシカクが目を丸くしつつも、不意に二年前に起こった決闘騒ぎを思い出していた。

 

(……そういえば、あの二人がくっつくきっかけを強引にお膳立てしたのは、ヨフネだったな)

 

「でかした!!」

 

 ヒルゼンは思わず立ち上がり、息子の肩を叩いた。執務室に、久しぶりに親子らしい喜びの空気が満ちる。三代目は小躍りしそうな勢いだ。

 だが、その背後でホムラが、氷のような、しかしどこか面白がるような声で告げた。

 

「……めでたいことだが、ヒルゼンよ。そうなると夕日紅は身重ということになる。とてもではないが、危険な任務には出られん。……さて、第八班の担当上忍は、どうするのじゃ?」

「むっ」

 

 ヒルゼンの間抜けな声が響いた。

 シカクが、同情に満ちた目で窓の外を見つめる。

 

「……やれやれ。あいつが二年前、良かれと思ってやったことが、ここで自分に返ってくるとは。……ひどく高くつくお節介でしたね、あいつにとっちゃ」

 

 かくして、木ノ葉の猟犬部隊隊長・うたたねヨフネの元に、下忍教育という名のお鉢が回ってくることになった。

 

 

 

 

 

【永遠のライバル達】

 

 木ノ葉隠れの里を、茜色の夕暮れが包み込もうとしていた。

 向かっているのは、里の郊外にある静かな森。かつての戦友たちの名が刻まれた、慰霊碑のある場所だ。

 

「いやあ、うちの教え子たちは本当に見どころがあるぞ、カカシ!」

 

 静寂を破るように、マイト・ガイが熱のこもった声を上げた。

 

「体術の厳しい特訓にも決して音を上げず、己の限界を超えるための努力を惜しまない。実に熱く、教えがいのある生徒たちだ!」

「……そう。それは良かったね」

 

 はたけカカシは、手元の『イチャイチャパラダイス』から目を離さないまま、気だるげに相槌を打った。

 

 アカデミーの卒業シーズン。上忍たちが新たな下忍の担当を受け持つこの時期、ガイは昨年に引き続き、同じ教え子たちを熱心に鍛え上げている。

 

「お前の方はどうなんだ、カカシ。去年も、候補生たちを全員不合格にしてアカデミーに差し戻したじゃないか」

 

 ガイの言葉に、カカシはページをめくる手をぴたりと止めた。

 

「……まあね」

 

 パタン、と本を閉じ、忍具入れにしまう。視線の先には、木々の合間から黒い慰霊碑の姿が見え始めていた。

 

「ただ、最近俺が落とした子たちから、妙なことを言われてね」

 

 カカシはぽつりと零した。

 

「『先生のおかげで、忍として本当に大切なものに気づくことができました』……だってさ。感謝されちゃったよ」

「ほう。それは素晴らしい青春の気づきじゃないか」

「でも、俺自身がその『気づき』を正しく教えられているのか、正直自信がないんだよね。何せ、人にものを教えた経験なんてないからさ」

 

 カカシの視線が、慰霊碑の黒く磨かれた石板に注がれる。そこには、彼がかつて己の未熟さゆえに喪った親友、うちはオビトの名が刻まれている。

 

 他者と連携し、仲間を大切にすること。それを教えようとすればするほど、過去の自責の念がカカシの足を重くさせていた。

 

「そういえば……ヨフネも、まだ通常の下忍の担当を持ったことはないよな」

 

 ふと、空気を変えるようにカカシが別の同期の名を口にした。

 

「あいつは猟犬部隊の中で、引き抜いた下忍たちを一から鍛え上げている。部隊の指揮から後進の育成まで、本当に何でも完璧にこなすよな。……正直、羨ましいくらいだ」

 

 どんな絶望的な状況でも正解を導き出し、仲間を死なせない。オビトやリンを救えなかった自分とは違う。そんな自嘲めいた響きが、カカシの言葉には混じっていた。

 だが、ガイはきっぱりと首を振った。

 

「みんなそうは言うがな。俺は違うと思っている」

「……違う?」

「ああ。あいつが完璧だというのは、周囲の勝手な思い込みだ。知っての通り、ヨフネは致命的なまでにチャクラ量が少ない」

「でも、それを完璧な戦術と部隊の連携で補っているじゃないか。結果的に、全く弱点になっていない」

 

 カカシが反論すると、ガイは慰霊碑の前に立ち止まり、真剣な眼差しで親友を振り返った。

 

「違う。あいつ自身は、その弱点を補うために必死なんだ。以前、俺と共に八門遁甲の修業に挑戦したことがあったが……あいつは第一の『開門』までしか開くことができなかった」

「……八門遁甲を。まあ、それは俺も同じだけどね」

 

 カカシが少し驚きつつも肩をすくめる。

 

「ええい、最後まで聞けカカシ。俺が言いたいのは、皆があいつを『完璧だ』なんだと持ち上げすぎているということだ」

 

 ガイの声が、夕暮れの森に静かに響いた。

 

「あいつは万能じゃない。必死に足掻いている一人の忍だ。それなのに、里の上層部も俺たちも、知らず知らずのうちに『ヨフネならなんとかしてくれる』と、あいつに頼りきってしまっている」

「……」

 

 カカシは反論できなかった。実際、これまで里の危機や厄介な問題の多くを、ヨフネは最前線で解決してきたからだ。

 

「全部あいつに背負わせすぎたんだ、俺たちは」

 

 ガイは慰霊碑の石板を静かに見つめた。

 

「みんな、あいつによく『他人に頼れ』と口にする。だが、それを一番させていないのは、他でもない俺たち周囲の人間なんじゃないかと……最近、そう思うんだ」

 

 静寂が降りた。風が木々の葉を揺らす音だけが聞こえる。

 

「……なら、お前はどうするのが一番良いと思っているんだ?」

 

 カカシが真顔で問うと、ガイは迷いなく答えた。

 

「俺はな。あいつも、通常の担当上忍をやるべきだと思っている」

「担当を持つのは上忍の義務だけど……」

 

 カカシは少し考えてから指摘した。

 

「あいつは猟犬部隊で、ここ最近は毎年下忍を引き受けているから、通常の人事は免除されているんじゃなかったか? 現に、引き受けた下忍たちの多くを立派な中忍に育て上げている。今さら、通常班の担当を持たせる必要があるのか?」

「ヨフネの部隊に入っているのと、担当上忍を持つことはまるで違うぞ、カカシ」

 

 ガイは力強く言った。

 

「今までのあいつのやり方は、部下に徹底した訓練をさせ、信頼できる基準に達すれば任務に連れ出す。そして部隊に戻して反省点を洗い出し、また訓練させる。……組織の歯車を作る上では、それは非常に効率的で理にかなっているのかもしれない」

 

「だがな」と、ガイは言葉に力を込めた。

 

「それは、あいつが支配する『猟犬』という特殊な環境でしか通用しない育成だ」

「……」

「皆が皆、ずっと猟犬で働く訳じゃない。部隊を離れ、それ以外の場でも一人で活躍できるように、一からすべて面倒を見る。どんなに手際が悪くても、面倒でも、他人に……それも未熟な下忍に任務を『任せる』勇気を持たなきゃいけないんだ」

 

 他人に任せ、失敗を見守り、共に成長する。

 

「一から育てるということは、教える側の上忍もまた、生徒から学ばされることが多いんだ」

 

 ガイの言葉に、カカシはハッと息を呑んだ。

 オビトの名が刻まれた慰霊碑の前で語られるその言葉は、カカシの胸の最も深い部分に真っ直ぐに突き刺さった。

 

「だから、三代目はお前にも担当上忍をさせたいと思っているんだと、俺は思っている」

 

 ガイがニッと笑って白い歯を見せる。

 火影が自分に下忍をあてがう理由。それは単なる戦力育成ではなく、過去に縛られたカカシ自身を「他者と関わらせる」ための親心だったのだと、カカシは初めて理解した。

 

「……なるほどね」

 

 カカシは小さく息を吐き、憑き物が落ちたような顔で慰霊碑を見上げた。

 

「それに、あいつは任務を抱えすぎなんだ。波の国の国づくりだなんて、到底ただの忍の仕事じゃないだろう」

 

 ガイが呆れたように腰に手を当てる。

 

「確かに」

 

 カカシは今度こそ、心からの苦笑を漏らした。

 

「自分を休めるためにも、担当上忍として下忍たちと泥にまみれながら、一、二年くらいゆっくりしたって良いじゃないか。なあ、カカシよ」

 

 夕日が一層赤みを増し、二人の顔を照らしている。

 カカシはポケットに両手を突っ込み、いつもの気だるげな調子に戻って肩をすくめた。

 

「まあ、俺は担当も持たずに、ここ二年もゆっくりしちゃったけどね」

「さて! 辛気臭い話はここまでにして、今日も永遠のライバル対決と行こうじゃないか、カカシ!」

 

 ガイが突然テンションを跳ね上げ、ビシッと親指を突き立てる。

 

「え、嫌だよ」

 

 カカシは秒で即答し、くるりと背を向けて歩き出した。

 

「なっ!? 待てカカシ! 今日こそは俺と熱い勝負を……!」

 

 夕暮れの森に、ガイの暑苦しい声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

【仲の良い雛鳥】

 

 アカデミーの演習場は、乾いた土の匂いと夕暮れの朱色に包まれていた。

 放課後の自主練を終えた生徒たちが次々と帰路に就く中、俺――うちはサスケは、額に滲んだ汗を手の甲で乱暴に拭った。

 

「お前、なんでそんなにピンピンしてんだよ……」

 

 膝に手をつき、肩で息をしている犬塚キバが恨めしそうに声を上げる。

 その視線の先では、うずまきナルトが息一つ乱さずに丸太の上に立ち、両腕を頭の後ろで組んで笑っていた。

 

「へへっ! 猟犬部隊の朝練に勝手に混ざって走り込んでるからだってばよ!」

「お前、勝手に訓練に混ざってんのかよ!?」

 

 キバの驚愕の声に、俺は手裏剣の的を見つめたまま内心でひそかに舌打ちをした。

 

(……俺だって、あの基礎訓練には食らいついている)

 

 技術や手裏剣術、忍術の型においては、俺が圧倒的に勝っている。相手にならないほどだ。だが、こと体力と異常な回復力にかけてだけは、どれだけ追い込んでもあのドベに勝てない。それが無性に腹立たしかった。

 

 少し離れた木陰のベンチで、奈良シカマルが面倒そうに片目を開けた。その隣では、秋道チョウジがマイペースにポテチを齧っている。やる気のある奴らはさっきまで演習場で汗を流していたが、この二人は早々にベンチへ退避していた。

 

「……ナルト。お前、よく気安く猟犬部隊に近づく気になるな」

 

 シカマルが呆れたように言うと、ナルトは跳ねるように振り返った。

 

「ヨフネの兄ちゃんは……普段は飯奢ってくれたりして優しいし、隣に住んでるタシの姐ちゃんも優しいぞ!他のみんなも里の大人と違って俺を避けないし」

 

 猟犬部隊トップ、うたたねヨフネ。医療班長のタシ。あの男の圧倒的な実力と、部隊を統率する冷徹さは、この里を見渡してもそうはいない。残された数少ないうちはの一族であるシスイでさえ、一目置いている男だ。

 

 俺がいつか、あの男に届くための、明確な「超えるべき壁」の一つだった。

 

「でもさ、猟犬部隊って今一番スゲー部隊だろ!? 卒業したら絶対あそこに入ってやるんだ」

 

 キバが目を輝かせて熱弁を振るう。

 

「……確かに。あそこは個人の武力以上に、システムとしての完成度が求められる。自分を忍として効率的に磨くには、最適な環境かもしれない」

 

 油女シノが、ジャージの襟元を直しながら淡々と分析した。

 

「俺は御免だね」

 

 シカマルがベンチの上で寝返りを打ちながら吐き捨てた。

「うちのダエンの兄貴を見てみろよ。頭の良さを買われたせいで、部隊の戦術立案やら後方支援の計算やら、頭脳労働ばっかり押し付けられてる。たまに帰宅途中の姿見るけど、いつも死んだ魚みたいな目をしてるぜ。あんな寿命が縮むような過酷な部隊、絶対に行きたくねえ」

「ポテチがゆっくり食えない部隊は、僕も困るなあ」

 

 チョウジが袋の底に残った欠片を口に流し込みながら同意する。

 

(……フン。お前らには、あの部隊の本当の価値が分かっていない)

 

 俺は内心で鼻で笑った。

 猟犬部隊の合理性と、圧倒的な実力主義。俺が復讐を果たすための最短距離は、間違いなくあの部隊にある。だが、キバのように浮ついた調子で憧れを口に出すのは、うちはの誇りが許さなかった。

 

「それにさ! 何よりあの『瞬身のシスイ』がいるんだぜ! めちゃくちゃカッコいいよな、シスイさんって!」

 

 キバが興奮気味に声を上げた瞬間。

 俺の口角が、意思に反してピクッと吊り上がった。

 

(……当然だ。シスイ兄さんだからな)

 

 今やうちは一族はイタチ、シスイ、そして俺の三人しかいない。その数少ない身内が手放しで称賛されている事実に、どうしようもない優越感と誇らしさが込み上げて顔がにやけそうになる。俺は慌てて口元を片手で覆い、そっぽを向いて必死に表情筋を殺した。

 

「……おいサスケ。お前、どうしたんだ?すげーニヤついてたぞ」

「……気のせいだ。どこへ行こうが、俺のやることは変わらない」

 

 ベンチからのシカマルのジト目を、俺は冷たい声で一蹴した。

 

「みんな、俺が火影になったら猟犬部隊に入れてやっから心配すんなってばよ!」

 

 ナルトがそう言いながら丸太から飛び降り、ポンポンと服の土を払った。

 

「あッ!そろそろ帰らねーと。今日はタシの姐ちゃんが飯作って待ってるんだったってばよ」

 

 俺は覆っていた手を下ろし、小さく息を吐いた。

 

「……まずは卒業だ。ドベのお前は落ちなきゃ良いな」

「なんだとサスケ! お前こそ俺に負けて泣くなよ!」

 

 騒ぎ立てるナルトに背を向け、俺たちはそれぞれの家へと帰路に就いた。

 

 

 

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