同情するならチャクラくれ   作:あしたま

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045.鬼人

 

 

 商会本部の特別応接室。

 大人たちの会議が終わり、タズナたちが退出した後の部屋で、カカシは大きく息を吐いた。

 

「さて、少しは時間は稼げたかな?」

 

 ソファに深く腰掛け直した俺が、ティーカップを手に取りながら呟く。

 

「……ん? どういうことだ?」

 

 カカシは眉をひそめ、書類をまとめてイズミが出て行ったのを確認した。

 

「って、それよりも彼女だ! あれはどういう事だ、ヨフネ。なぜ死んだはずのうちはの人間が――」

「今は、その説明をしている時間はないんだ」

 

 俺はカカシの言葉を冷たく遮った。

 

「この任務が終わるまで待ってくれ。今はこの状況を片付けるのが先だ」

 

 俺の有無を言わせぬ響きに、カカシはギリッと奥歯を噛み締め、押し黙るしかなかった。そこへ、重厚な扉をノックする音が響き、コテツに率いられた木ノ葉の感知部隊が部屋に入ってくる。日向一族のコウ、油女一族のムタ。そして外で警備をしていた俺の班のキバ、ヒナタ、シノの三人だ。

 

「集まりました、ヨフネさん」

「ご苦労。さて……お前たちには、これから『探してほしい人物』がいる」

 

 俺は立ち上がり、波の国の地図が広げられたテーブルに手をついた。

 

「え? 海賊の洞窟を探すんじゃないんですか?」

 

 コテツが不思議そうに首を傾げる。

 

「たぶん、そっちの海賊連中は崖沿いを虱潰しにすれば簡単に見つかる。お前たち感知部隊の主力を集めたのは、もっと厄介な獲物を見つけるためだ」

 

 俺は、部屋にいる全員を見回した。

 

「お前たちに探してほしいのは、霧の抜け忍……『鬼人』桃地再不斬だ」

 

 その名前に、猟犬として様々な任務に就いてきたコウたちでさえも息を呑んだ。

 

「決して戦うなよ? 俺やカカシと同じ力量を持つ上忍だ。あいつが使うのは断刀・首斬り包丁。あの刀は人を斬っても刃こぼれしない。斬って相手の血を吸い、鉄分で自己修復する特性がある」

 

 俺はキバを見据えた。

 

「キバ。何の匂いを追えばいいか、分かるな?」

「……血が固まったような、濃い鉄の匂いだな」

 

 キバが頭の上の赤丸を撫でながら、真剣な顔つきで頷く。

 

「そうだ。ムタとシノ、お前たちは蟲を使って周囲に残留しているチャクラの痕跡を追うんだ。得意だろ?」

「ああ。任せておけ」

 

 油女一族の二人が、コートの襟元で微かに蟲の羽音を鳴らして短く応じた。

 

「コウ、ヒナタ。お前たち日向は、味方が感知した結果を『白眼』で確認する重要な役目だ」

 

 俺は地図の上に指を走らせ、素早く部隊を編成していく。

 

「ヒナタは俺とキバ。コウはムタとシノでスリーマンセルを組む。それらしい隠れ家を発見し次第、白眼で内部の状況を確認しろ。コウたちの班には、俺の『コン平』の分身をつけておく」

 

 コン平とは、うたたね一族に伝わる秘伝忍術で俺が契約している管狐だ。最大七十五匹にまで分裂し、広範囲の索敵や即時連絡を可能とする強力な手駒である。

 

「発見したらすぐにコン平を通じて俺に知らせろ」

「おい、ヨフネ」

 

 作戦を聞いていたカカシが、険しい顔で口を挟んだ。

 

「お前、まさか単身で再不斬の元へ乗り込もうってわけじゃないよな?」

「そのつもりだよ」

 

 俺がさらりと答えると、カカシが「おい!」と声を荒らげた。

 

「なにも殺し合いに行くわけじゃない。ちょっと『話し合い』をしに行くだけさ」

「相手があの鬼人だぞ。大人しく話を聞くとは思えないが」

「聞くさ。……絶対にな」

 

 俺は霧隠れ経由でザブザの情報や性格、そして説得できる確信のある手札は既に用意していた。

 

「急げ! 十二時間後には海賊アジトの急襲作戦が始まる。移動や休息も考えれば、探索のタイムリミットはあと十時間だ! コテツとイズモは出撃準備を整えておけ!」

「はい!」

「カカシたちも、念のためタズナさんの警護をしておけよ。棟梁たちを失うわけにはいかないからな」

「……やれやれ。分かったよ」

 

 それぞれの役割が決定し、木ノ葉の忍たちが一斉に動き出した。

 

 

 

 

 俺、キバ、ヒナタの班は波の国の西側から。ムタ、シノ、コウの班は海賊のアジトがあるといわれる東側の岬方面から探索を開始した。

 

「ヨフネ先生、俺たちが東に行った方がいいんじゃないすか?」

 

 湿った土と腐葉土の匂いが立ち込める鬱蒼とした森の中を移動しながら、キバが不満げに鼻を鳴らす。海賊のアジトがある東側の方が、敵の本命がいる可能性が高いと考えたのだ。

 

「いいんだよ。向こうは崖などの起伏が激しい土地だ。犬の嗅覚よりも、空を飛んで広範囲に散れる『蟲使い』の方が索敵効率がいいのさ」

 

 俺は足場となる木の枝を蹴りながら、冷静に答える。

 

「それに、ザブザ達の最終的な目標はタズナさんの暗殺だろうからな。あえて海賊のアジトとは逆の、橋に近い西側に潜伏している可能性も十分にある。どちらにいるとは言えないさ」

「なるほどな……」

「今は北風だ。キバが匂いを探知しやすい風下からスタートするぞ。隊列は先頭がキバ、中央が俺、最後尾がヒナタだ。コン平の分身は、さらに左右へ広く展開させて警戒に当たらせている。……いくぞ」

 

 

 

 

 それから、六時間ほどが経過した頃だった。

 夜の冷気が森を包み込み、視界が極端に悪くなってきた中、先頭を走っていたキバがピタリと枝の上で立ち止まった。

 

「……先生が言った通りだ」

 

 キバが鼻をヒクつかせ、鋭い犬の目つきで暗闇を睨みつける。

 

「ありゃあ、何十人もの血が固まったみたいな……むせ返るような濃い鉄の匂いがしやがる」

「方角と距離は?」

「一時の方向。約二キロってところです」

 

 俺は背後のヒナタを振り返る。

 

「ヒナタ。確認しろ」

「はい……! 『白眼』!」

 

 ヒナタの目の周囲に血管が浮き上がり、先の森の奥を透視する。

 

「……古びた小屋があります。中に、女性くらいの体格の人間が一人と、大柄な男性が一人……」

「間違いなさそうかな? 大剣はあるか?」

「あ、あります。ベッドの横に、チャクラを纏った大きな剣が……」

「よし。当たりだな」

 

 俺は腰の竹筒に手を当て、小さく息を吐いた。

 

「じゃあ、ここから先は俺が一人で行くから、お前らはここで待機だ。絶対についてくるなよ?」

「なんでだよ!?」

 

 キバがムッとして牙を剥く。

 

「俺じゃ足手まといだっていうのかよ!?」

「そうだ。お前たち三人がかりで組み手をして、俺に手も足も出ないんだ。そんな相手の場に連れて行けるか。まだ我慢しとけ」

 

 俺は冷たく言い放つ。

 

「ヒナタは白眼で遠くから様子でも見とけ。俺が死ぬか、向こうがこっちに向かってくる素振りを見せたら、キバと一緒にすぐ逃げろ。いいな」

 

 反論を許さない俺の気迫に、キバも悔しそうに「……チッ、分かったよ」と引き下がった。

 俺は単身、キバ曰く濃密な血の匂いが漂う森の奥へと音もなく足を踏み入れた。

 

 

 

 

 深夜の森の奥深く。月明かりすら届かない木立の中に、その古びたあばら家はひっそりと建っていた。

 

(……この距離でも分かる。凄まじいチャクラと、研ぎ澄まされた殺気だ)

 

 俺は気配を完全に殺したまま、小屋の扉の前に立つ。肌にまとわりつくような冷たい夜霧の中、長年の任務で培った暗殺者の勘が、扉の向こう側にいる二人の特異な力量を正確に弾き出していた。

 

 俺は小さく息を吐き、何の警戒もしていないような軽い足取りで、木製の扉に手をかけた。

 

「こんばんはー」

 

 間延びした声と共に扉を開けた瞬間。冷気と共にヒュッと空気を切り裂く音。

 視界の死角、真上から、霧隠れの暗部の仮面を被った小柄な影が、必殺の速度で千本を構えて飛びかかってくる。俺の表情は全く動かない。

 

(雷遁・身体強化)

 

 俺が雷の性質変化を覚えてから叩き込んできた技術。体内の雷属性チャクラを電気信号に変換し、神経伝達を極限まで加速させる。俺は懐から無造作に『鉄球』を二つ取り出し、前後へ向かって同時に弾き飛ばした。

 

 前方にいた白の姿が、鉄球の直撃を受けてパツンと冷たい水音を立てて弾ける。水分身だ。

 そして、いつの間にか背後の空間に生成されていた、空気を急速に凍りつかせる『氷の鏡』の中から音もなく飛び出そうとしていた本物の肩口に、もう一つの鉄球が重い音を立ててめり込んだ。

 

「くっ……!」

 

 後ろから襲おうとしていた白が苦悶の声を漏らし、体勢を崩して床に転がる。

 致命傷は避けてある。相手にしてみれば完全に初見のはずである『魔鏡氷晶』の死角からの奇襲を、振り返りもせずに迎撃した異常な反応速度だった。

 

「やだなー。いきなり怖いじゃないですか」

 

 俺は肩をすくめ、何事もなかったかのように小屋の中へと足を踏み入れた。白が床から跳ね起き、再び冷気を帯びた千本を構える。

 

「……白、やめとけ。お前じゃ勝てねェ」

 

 部屋の奥、暗闇の中から低くしゃがれた声が響く。白の動きがピタリと止まった。

 ギチリ、とベッドの軋む音。そこには、身の丈ほどもある巨大な首斬り包丁を傍らに置いた、桃地再不斬が胡座をかいて座っていた。

 

「何の用だ……『木ノ葉の死神』」

 

 再不斬の鋭い眼光が、俺を射抜く。

 

「あー、知られてましたか」

 

 俺は苦笑して首の後ろを掻いた。

 

「……白、こいつが何で死神と言われているか知っているか?」

 

 再不斬が忌々しそうに舌打ちをした。

 

「前の大戦のときだ。こいつは戦場で姿を見せないまま、何十、何百という忍を葬ってきた。最初は木ノ葉が何か新しい広範囲の術でも開発したのかと言われたが……こいつ『一人』の仕業だと判明した時、霧隠れは騒然となった。それ以来だ。こいつがいる戦場では、誰かが死んでからようやく反撃できるんだ。確実に誰かが死ぬ。……俺ら二人が今生きてるってことは、こいつに少なくとも『今は』戦闘する気がねェってことだ。分かったら静かにしてろ」

 

 霧隠れから聞いていた通り、しっかり冷静に分析している再不斬の警告を聞き、白は無言のまま張り詰めた空気で構えを解いた。

 

「……で? 堂々と正面から来るってこたァ、殺し合いが目的じゃねェんだろォ?」

 

 再不斬が首斬り包丁に手をかけたまま問う。

 

「そういうことです。じゃあ本題に入るか」

 

 俺は口調を、猟犬のトップとしての冷徹なそれに切り替えた。

 

「君の雇い主は……まあ誰でも良いんだけど、君にいくらの値段をつけた?」

「……俺を買収する気か?」

 

 再不斬が鼻で笑う。

 

「抜け忍に落ちぶれて薄汚ェ仕事も請け負っちゃいるが、金積まれただけでホイホイ尻尾を振ると思われてんのは心外だぜ」

「簡単とは思っていないさ。……再不斬、君はなんのために大金を求める?」

「てめェには関係ねェだろォが」

「それが関係あるんだよな」

 

 俺は再不斬の目を真っ直ぐに見据えた。

 

「再不斬、お前……まだクーデター、諦めてないだろ?」

 

 白の呼吸が僅かに乱れる音が、静かな部屋に響いた。

 

「お前にこんなこと言えば否定するだろうが、お前は、お前なりに里のことを心配していたんだろう?」

「……笑わせるな。俺は、俺のやりたいように、気に食わない奴がいたから殺そうとしただけだ」

「その気持ちもあったんだろうが、お前は結果として里のために動いたのさ。霧隠れで迫害される『血継限界』の子を、こうしてわざわざ連れて歩いているのが、何よりの証拠さ」

 

 俺の指摘に、再不斬は顔をしかめた。

 

「勘違いすんな。こいつはただの『道具』だぜ」

「そう言い張るならそれで良いさ」

 

 俺は再不斬の強がりをあっさりと流し、最大のカードを切る。転生者としての未来知識と、猟犬が長年かけて構築してきた霧の内部情報網。そのすべてを並べる。

 

「俺から提示できる条件は三つ。クーデターに必要な継続的な『資金支援』。霧隠れに入る『ルートの確保』。それと……クーデターを起こそうと組織を拡大している、血継限界を持つ改革派リーダーへの『橋渡し』さ」

「な……っ!」

 

 これには流石の再不斬も驚愕に目を見開いた。

 

「何故お前が、あの完全に引きこもってやがる里の内部事情を知ってやがる!?」

「それを信じるかどうかは、お前次第だ」

 

 俺は肩をすくめた。

 

「合流した後、リーダーになれるかどうかもお前次第だが、向こうは『忍刀』を持つお前の実力。そして、四代目水影に近づいた方法、それらを持っているお前をぜひ受け入れたいと言っている」

 

 再不斬は沈黙した。木ノ葉の猟犬が持ちかけてきた、あまりにも魅力的な提案。

 

「別に、今すぐ答えを出せなんて言わないさ」

 

 俺は背を向け、扉に手をかけた。

 

「たぶん、後で会う事になるだろうから、その時答えを聞かせてくれ」

「それは、どういう意味だ?」

「すぐに分かるさ」

 

 俺は扉を開け、振り返らずに言い放つ。

 

「ああ、再不斬。ちなみにもし君の依頼人がさ、愚かにも君を裏切ってたら、どうする?」

「……フン」

 

 再不斬は暗闇の中で凄惨な笑みを浮かべた。

 

「その時は、てめェ……死体が一つ増えるだけだぜ」

「そうか。それが分かっただけでも来た甲斐があったよ。おやすみ」

 

 俺は静かに扉を閉め、血の匂いが漂う隠れ家を後にした。

 

 

 

 

 翌朝。波の国、東側の岬周辺。

 木々の間で数時間の仮眠を取った後、俺は海賊討伐部隊を率いる日向コウの前に立っていた。

 

「コウ、お前が指揮官だ。二小隊できっちり海賊を捕らえて来い」

「はっ! ……えっ、ヨフネ隊長はどこに?」

 

 コウが目を丸くする。

 

「俺は、今回の事件を解決するためにも『取りこぼし』がないように動く。東側の掃除は、お前に任せる!」

「はいっ! 頑張ります!」

 

 コウが力強く返答する。俺はそれを見届け、東側の索敵を終えて合流したシノ、そしてキバ、ヒナタの三人に向き直った。

 

「さて、俺たち『ヨフネ班』は、橋に向かうぞ」

「え? なんでだよ?」

 

 キバが赤丸を頭に乗せたまま、不思議そうに首を傾げる。

 

「今回の事件の黒幕を捕まえるための、海賊退治なんだろ?」

「いいからついて来い。……答え合わせの時間だ」

 

 俺はニヤリと笑い、西の海へと向かって駆け出した。

 

 

 

 

 俺たちは海面を歩き、北上する形で未完成の大橋へと向かった。

 海賊のアジトを強襲する予定の朝の七時頃。建設中の大橋に到着したが、周囲はすでに数メートル先も見えないほどの異様な濃霧に覆われていた。

 

(……この霧は、再不斬の術によるものだな。少し遅れたか)

 

 俺は海面から橋の裏側に張り付くようにして立ち止まり、背後のヒナタに指示を出す。

 

「ヒナタ、白眼で霧の中を見てくれ。橋の上はどうなっている?」

「はい……!」

 

 ヒナタが眼脈を浮き立たせ、橋の上の状況を透視する。

 

「カカシ先生が、戦っています! 大剣を持った男の人と……。ナルト君達は、棟梁の人達を守って、氷の鏡のドームの中で戦っているみたいです!」

「良かった、ギリギリ間に合ったな」

 

 俺は視線を、自分たちの頭上――橋の裏側の骨組みへと向けた。

 

「橋の下も見てくれ。誰かいるか?」

「っ……人が、沢山います! 何かを、橋の橋脚に付けているようです!」

「爆弾だぜ、そりゃあ」

 

 キバが鼻をクンクンと鳴らし、嫌そうに顔をしかめた。

 

「火薬の匂いがプンプンしやがる」

「シノ、橋には他に誰かいるか?」

 

 俺が問うと、周囲に蟲を放っていたシノが、コートの襟に口元を隠したまま淡々と答えた。

 

「百名以上の人間が、橋の手前に待機している。だが、チャクラの反応はない。……なぜなら、忍ではないからだ。ただのゴロツキの集まりだと推測する」

 

(ガトーの私兵のチンピラどもか。タズナたちごと橋を吹き飛ばす気だな)

 

「よし。キバとヒナタは、橋の下の爆弾の解除に向かえ」

「おう!」

「分かりました!」

「シノ。お前は橋の端から、ガトーの私兵のチンピラどもを無力化していけ。……声を上げさせないようにできるな?」

「問題ない。俺の蟲に気付ける者はあの中にはいない。なぜなら、彼らは忍ではないからだ」

 

 シノがコートの襟元から無数の蟲を羽ばたかせながら、淡々と答えた。

 

「よし。キバとヒナタは、爆弾の除去が終わったらシノと合流しろ。これから俺が霧を晴らすが、術に巻き込まれるなよ」

 

 俺は懐から管狐の『コン平』を取り出し、ポンと叩いて二匹に分裂させた。

 

「シノ、このコン平を連れていけ。二人と合流したら、俺に合図を送るように指示しろ」

「了解した」

 

 三人の下忍たちが、それぞれの任務を帯びて音もなく霧の中へと散開していく。それを見送った後、俺は海面を蹴り、霧の範囲から離れた北側の風上へと素早く移動した。

 

(さて……まずはこの鬱陶しい霧を、一気に吹き飛ばすか)

 

 俺は足元の水面に、さらに四匹に分裂させたコン平を四角形になるように配置し、結界を張った。そして、腰から二振りの雷刀を引き抜き、結界の中心の水面へと突き立てる。

 

 チャクラの絶対量が少ない俺にとって、大規模な術は燃費が悪い。だからこそ、自然の現象を利用する。雷属性のチャクラを、両手の雷刀を通じて水中に放電させた。青白い閃光が水面下でバチバチと弾け、凄まじい高圧電流によって海水が『電気分解』されていく。

 

(科学知識に基づく、酸素と水素の混合気体。最も燃焼効率が高い気体だが、雷遁の火花で早期引火しないよう、コン平の結界で完全に隔離しておく必要がある)

 

 発生した極めて引火性の高い気体が、ブクブクと大量の気泡となって水面へ浮上してくる。四方に張られたコン平の結界が、その気体を空気中へ拡散させずに留め続けた。

 

 十分に気体が溜まったのを確認し、俺は印を結ぶ。風遁を使い、結界内の気体を『正四面体』の形に圧縮して練り上げる。

 準備が完了した。

 そして、俺の肩に乗っていたコン平の本体が、ピクッと耳を動かした。

 

『コンッ!』

 

 シノたちとの合流を知らせる鳴き声。

 俺は霧の向こう、橋の端にいるであろうヒナタの白眼に向け、両手で『耳を塞げ』というジェスチャーを送った。そして、圧縮した正四面体の気体を、一気に霧の上空へと押し上げる。

 

 さて、この霧を晴らして、長かった戦いを終わらせるか。

 

 気体の塊が上空の霧の中へ到達したのを視認し、俺は指先を向けた。

 

――狐火

 

 

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