同情するならチャクラくれ   作:あしたま

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048.拉麺

 

 

 波の国での激闘から木ノ葉の里へ帰還して、早くも一カ月が経過していた。

 

 俺たち第八班は、週に一度のペースで里内の任務をこなしつつ、残りの時間を『形態変化』と『体術』の基礎修行に全振りしていた。

 

 第七演習場には、今日も朝から下忍たちの荒い息遣いと、木々を揺らす鈍い打撃音が響いている。ヒナタのチャクラコントロールは非常に繊細で、形態変化のコツを掴むのも早かった。だが、彼女には対人での近接戦闘において、ある根本的な問題が残っていた。

 

「……ヒナタ、そこまでだ」

 

 俺はヒナタへの攻撃を止め、汗まみれのヒナタを休憩させた。

 

「お前は、優しすぎる。だから、決定的な一撃を叩き込む瞬間に、どうしても攻撃の手が止まってしまう」

 

 俺の指摘が図星だったのか、ヒナタの小さな肩がビクッと跳ね、動きを完全に止めた。彼女は気まずそうに白眼を伏せ、自分の指先をギュッと握りしめる。

 

「……お前のその優しすぎる性格と、日向の『白眼』は、ひょっとすると致命的に相性が悪いのかもしれないな」

 

 俺が冷淡とも取れる声で告げた瞬間。

 少し離れた場所で組み手をしていたシノとキバの動きが、ピタリと止まった。

 

「おい、先生! いくらなんでもそこまで言うことねえだろ!」

 

 仲間想いのキバが、たまらず声を上げてヒナタを庇うように立ち塞がった。赤丸も俺に向かって低く唸り声を上げる。俺はキバの抗議を正面から受け止め、静かに問い返した。

 

「キバ、お前は組み手の時、俺に対して容赦なく本気で攻撃できるか?」

「へっ、そりゃあな! どうせ先生にはかすりもしねえし、思いっきりいけるぜ!」

「……じゃあ、もし俺の『心臓』が、皮膚も骨も透けて剥き出しの状態で丸見えだったとしたら。お前は躊躇なく、そこに苦無を突き立てられるか?」

 

 俺の言葉に、キバの威勢のいい表情がサッと凍りついた。

「えっ……そりゃあ、さすがに……ちょっと、無理、かも……」

 

 生々しい光景を想像したのだろう。キバが言葉を濁し、視線を泳がせる。

 

「ヒナタ……というよりも、白眼を持つ日向一族は、戦闘中常にそれが見えているんだ。相手の急所、心臓の鼓動、チャクラの巡り、そして負傷の度合いまで、すべてが嫌でも透けて見える」

 

 俺はヒナタの震える背中を見つめながら言葉を続けた。

 

「ただでさえ優しいヒナタの性格で、敵の心臓や致命的な急所が克明に見えている状態のまま、本気の攻撃が打ち込めると思うか?」

 

 演習場に、風の音だけが静かに流れた。

 

「……確かに、それは極めて難しいかもしれない」

 

 沈黙を破ったのは、シノの冷静な分析だった。

 

「何故なら、自分の次の一撃が敵を確実に殺す、もしくは再起不能の障害を残すと視覚的にハッキリ分かっていながら、ヒナタがそれを実行することは、彼女の精神に多大な負荷をかけるからだ」

「そういうことだ。だから、白眼とヒナタの性格は相性が悪いと言ったのさ」

 

 俺が結論づけると、三人は押し黙ってしまった。

 やがて、キバが頭をガシガシと掻きむしり、俺を真っ直ぐに睨みつけてきた。

 

「じゃあ、ヒナタはどうするべきだって先生は言うんだよ! このままじゃ……」

「感知能力としての白眼が最高峰であることに間違いはない。ただ、近接戦においては、ヒナタ自身の『心の持ちよう』が変わるまでは、いっそ白眼を使用せずに戦った方が良いと俺は思っている」

 

 キバとシノが顔を見合わせる。俺はそんな彼らに、軽く笑いかけた。

 

「実際、お前たちが最近、ヒナタの修行に裏で協力してやっていることは知っているぞ。木陰に隠れた位置から二人が死角を突いて苦無を投げ、ヒナタがそれを白眼で察知して打ち落とす特訓をしてるんだろう?」

「げっ……なんだよ、知ってたのかよ……」

 

 キバがバツの悪そうな顔をする。俺は猟犬のトップだ、教え子の動向くらいすべて把握している。

 

「だが、飛んでくる武器や『物』が相手であれば、ヒナタは躊躇なく完璧に捌けているはずだ。違うか?」

「その通りだ」

 

 シノが即座に頷く。

 

「となると、やはり白眼の能力自体や、ヒナタの体術のセンスに問題はない。ただ、対人戦の近接戦闘で生き残るには、これまでとは違うアプローチが必要になる」

「おっ! てことは、ヒナタもとうとう必殺技の伝授か!?」

 

 自分のことではないのに、キバが目を輝かせて尻尾を振る犬のように身を乗り出してきた。その素直な反応は、見ていて純粋に可愛いと思う。

 

「必殺技と呼べるものになるかは分からないが、色々と新しい方法を試してみようと思う」

 

 俺は今後のスケジュールを脳内で組み立てながら告げた。

 

「明日からは、午前中は今まで通り三人揃って基礎訓練をする。午後からは、シノとキバには猟犬連隊の手空きの隊員を呼んでやるから、色んなタイプの相手と組み手をして実戦経験を積め。うちの部隊には体術や幻術のスペシャリストもいっぱいいるからな」

「了解した。問題ない」

 

 シノがジャージの襟を直して頷く。

 

「午後からの時間は、俺はヒナタの新しい戦闘スタイルの構築に付きっ切りになりそうだ。もし修行で分からないことがあれば、いつでも猟犬の本部庁舎に来い。俺は基本的にあそこにいるから、夜中でも明け方でもいつでもいいぞ」

 

 俺が気兼ねなく言うと、キバとシノが顔を見合わせてコソコソと話し始めた。

 

「おいシノ……先生って、いつ寝てんだ?」

「分からない。だが、おそらく俺たちとは違う生き物なのだろう」

 

 教え子たちがヒソヒソと俺の社畜ぶりについて囁き合っているのを横目に、俺は視線を伏せ、一人で小さく息を吐いた。

 

(……ヒナタの優しさは、今の忍の世界では致命的な弱点だ)

 

 だが、その優しさゆえの『甘さ』が、やがて絶対に曲げられない『決意』へと変わる瞬間が来ることを、俺は知っている。

 

 他人の力に頼らざるを得ないことが、指導者として酷くもどかしく、悔しかった。俺の言葉だけでは、彼女の心の壁を壊してやることができないのだ。

 今はただ、彼女に『武器』を、一つでも多く持たせてやることしかできない。

 

 下忍たちにとって最初の大きな試練となる『中忍試験』は、もうすぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 第八班の指導に明け暮れる日々を送る一方で、俺は猟犬連隊のトップとしての業務も並行してこなしていた。

 それは、間近に迫った『中忍試験』の警備および防衛体制の構築である。

 

 木ノ葉の里、猟犬連隊本部庁舎の第一会議室。

 巨大な里の全景図が広げられた円卓には、苦いコーヒーの香りが漂っていた。

 

 部屋に集まっているのは、連隊長副官のタシをはじめ、第一大隊長のホヘト、第二大隊長のシスイ、第三大隊長のダエン、第四大隊長のトンボといった大隊長クラス。さらに、副官のサンタやムタ、事務担当のマナブ、そして、要人の護衛担当として不知火ゲンマも顔を揃えていた。

 

「……以上が、各試験会場における表向きの警備配置だ。今後俺たちの仕事が楽になるように、有望な若手がいたらメモしておいてくれ。じゃなきゃこの任務の労働力に見合わないからな」

 

 俺がブラックな本音をこぼすと、円卓の幹部たちが苦笑交じりに頷いた。

 

(……結局、音隠れと砂隠れの間に裏の繋がりがないか内偵を進めさせたが、決定的な尻尾は掴めなかったか)

 

 今回起こる可能性がある『木ノ葉崩し』に備えて猟犬部隊はここ二年、試験期間中の警備担当を買って出ていた。証拠はなくとも、警備を万全にするための下地はできている。

 

 何があっても里を守る。そう俺が内心で一人決意を固めていると、第三大隊長のダエンが手元の資料を叩いた。

 

「いずれにせよ、人に頼った監視だけでは必ず死角や不備が生じる。なにせ、監視する相手は論理で動く上忍ではなく、血気盛んで感情に流されやすい他里の下忍たちだ。試験官の目の届かない死角に入った途端、些細な挑発から本気の殺し合いに発展する。他国の要人が大勢来る中で、不祥事は起こせない」

「だからこそ、今回から導入する『アレ』が鍵になるわけだ」

 

 ゲンマが咥え千本を器用に転がしながら、ニヤリと笑ってトンボを見た。

 

「あの波の国で、再不斬経由でガトーの遺した裏の販売網を売り飛ばし、完全鎖国中の霧隠れから強引に巻き上げたお土産……だったか? まったく、うちの隊長はえげつねェ商魂だぜ」

「人聞きの悪いことを言うな。正当な外交取引と言ってくれ」

 

 俺が肩をすくめると、第四大隊長であり感知部隊『眼』のトップであるトンボが、重々しい溜め息を吐いた。

 

「その霧から隊長がふんだくった『感知水球』だけどな。こいつはとんでもない曲者だったよ。広範囲をカバーできる感知精度は素晴らしいが、チャクラの消費量が異常すぎる。まともに里全体を二十四時間監視しようなんて言われたら、うちの部隊の連中がチャクラを吸い尽くされてミイラになっちまう」

 

 そう抗議するトンボを宥めるように、事務担当のマナブが眼鏡の位置を直して口を開いた。

 

「ですから、運用は木ノ葉が元々持っている結界班のシステムと連動させます。カバー範囲を火影邸周辺、中央の商業エリア、各一族の居住区といった重要エリアに限定。第二次試験中は、会場となる『演習場』を中心に範囲を移します」

 

 マナブは事務的な手つきでシフト表を円卓に広げた。

 

「それでも感知水球の維持には莫大なチャクラが必要になる。そのため、トンボさんの『眼』と結界班だけで、実動大隊とは完全に別のローテーションを組みます。本部の事務作業や複雑なシフト管理は、私が全て責任を持ちます」

「助かるぞ、マナブ。……だが、その代償として、現場の実動大隊は感知役が不足したいびつな編成になる」

 

 俺は立ち上がり、机上の巨大なマップに駒を置いた。

 

「だから、本部の感知システムからの情報をもとに、各現場の大隊にはトンボがインカムで情報を伝える。現場の指揮官は常に通信を開いておけ」

「「了解」」

「感知水球がカバーできない死角は、『即応待機』『郊外の見回り』『里内の見回り』『休憩』の四つの役割を時間交代で回し、人海戦術で埋める」

 

 俺は各幹部の顔を見渡した。

 

「第一大隊はホヘト、第二大隊はシスイ、第三大隊はダエン。お前たちがそれぞれローテーションの指揮を執れ。第四大隊はトンボが水球にかかりきりになるため、副官のムタが代理で指揮官を務めろ」

「了解しました。蟲を使えば、ある程度の索敵の穴は埋められます」

 

 ムタの頼もしい返答に、皆が頷く。

 

「で、俺はどう動く? 今年も表の試験官でもやるか?」

 

 ゲンマが腕を組んで尋ねてきた。

 

「いや、お前は試験官の任務からは外す」

 

 俺の言葉に、ゲンマが少しだけ意外そうに眉を上げた。

 

「第三試験の本戦には、火の国の大名をはじめ、各国の有力者や大商人たちが多数観戦に訪れる。あいつらに万が一の事態があれば里の責任問題だ。だからお前とライドウ、イワシの三人は、VIPたちの専属護衛につける」

「なるほど、お偉いさん方の守り子ってわけだ。了解したぜ、隊長」

 

 ゲンマがふっと笑い、千本を噛み直す。

 

「……いいかお前ら。今年は風影様をはじめ、各国の要人が多数集まる。木ノ葉のメンツにかけて、完璧な警備網を敷くぞ。猟犬連隊の底力、見せつけてやれ」

「「「ハッ!!」」」

 

 百戦錬磨の幹部たちの気合いの入った返事が、重厚な会議室に力強く響き渡る。

 

 来るかもしれない里の危機に向け、木ノ葉の裏側で、巨大な防衛システムが静かに、そして確実に稼働し始めていた。

 

 

 

 

 長引いてしまった会議を終え、俺は猟犬連隊の本部庁舎から外へと出た。

 冷たい夜風が頬を撫でる。ふと視線を上げると、すぐ目と鼻の先に火影邸の威風堂々とした輪郭が夜闇に浮かび上がっていた。

 

 現在、俺たち猟犬の本部は里の北側、火影邸や行政機関が集中する中枢エリアに移転している。

 かつてダンゾウが率いた『根』が、日の当たらない地下の奥深くにアジトを構えていたのとは対照的だ。これは、三代目火影が俺たち猟犬を里の正式な防衛力として認め、全幅の信頼を置いている何よりの証拠だった。

 

(……里は俺たちが守り抜く)

 

 決意を新たに息を吐き、俺は猟犬本部に溜めてしまっていた衣類などを洗濯するため、一旦居住区にある実家へと足を向けた。

 すっかり暗くなった通りを歩いていると、やがて豚骨と醤油の美味そうな匂いが漂ってきた。

 

 木ノ葉が誇る名店『ラーメン一楽』だ。

 暖簾の隙間から漏れる温かいオレンジ色の光。そして、その中から聞き慣れた騒がしい声が響いてきた。

 

「だから!絶対 オレの方が絶対早く水の上歩けるようになるってばよ!」

「フン、寝言は寝て言え。この前の朝練だって、体力以外は全部俺が勝ってただろうが」

 

 ナルトとサスケだ。

 二人が丸椅子に並んで座り、湯気を立てるラーメンを啜りながら言い合っている。

 

 いがみ合っているようでいて、その距離感は俺の記憶にある原作とは比べ物にならないほど近い。確かな『ライバルとしての絆』がそこにはあった。

 

(……少しずつ、俺の介入が良い方向に影響しているみたいだな)

 

 猟犬の仕事で、タシもシスイも今日は夜遅くまで任務に出ている。だから、この二人が一緒に夕飯を食べに来たのだろう。

 俺も夕飯の予定は決まっていなかったので、そのまま一楽の暖簾をくぐった。

 

「よう、二人とも。精が出るな」

「あ! ヨフネの兄ちゃん!」

 

 俺がサスケの隣の空席に腰を下ろすと、ナルトが顔を輝かせた。サスケも箸を止め、居住まいを正してこちらを向く。

 

「大将、チャーシュー麺を一つ。それと、炒飯の大盛りを三つと、餃子を三人前頼む」

 

 俺が注文を告げると、テウチさんが「あいよっ!」と威勢よく湯切り網を振った。

 

「「……」」

 

 隣から、猛烈に羨ましそうな視線が突き刺さってくる。育ち盛りの下忍二人にとって、炒飯と餃子という追加メニューはたまらない誘惑なのだろう。

 俺は苦笑して二人の頭を軽く小突いた。

 

「炒飯と餃子はお前たちの分もある。そんな腹を空かせた犬みたいな目で見るな」

「えっ、マジで!? やったー!!」

 

 ナルトが両手を上げて歓喜の声を上げる。カウンターの奥で、テウチさんもニッコリと目を細めていた。

 

「さすがヨフネの兄ちゃん! いつもサンキューだってばよ!」

「……ありがとうございます」

 

 サスケが丁寧に頭を下げた後、横のナルトを鋭く睨みつけた。

 

「おい、ウスラトンカチ。いくら馴染みでも、目上の人になんて口の利き方をしてやがる。感謝するならちゃんと言え」

「なんだとサスケ! お前だっていつもヨフネの兄ちゃんの前だけ良い子にしてるじゃねーってばよ!」

「いいよいいよ、気にするな。それに、お前たちの保護者であるタシやシスイに激務を振ってるのは俺だからな。これくらいは奢らせてくれ」

 

 俺が宥めると、ナルトは不満そうに口を尖らせながらも、運ばれてきた炒飯に勢いよく食らいついた。

 

「それにしてもさー、ヨフネの兄ちゃんって金持ちだよな。カカシ先生とか、シカマルん所のアスマ先生とかとなんか違うってばよ」

「まあ、俺はお前たちも波の国で見たように、色々と商売もやってるからな」

 

 そう言いつつ、俺は届いたチャーシュー麺のスープを掬い、一口飲む。美味い。コッテリとしつつも、舌に残るザラつきは無い。そしてくどく無い。醤油の香りがアクセントとなり、自然にもう一口飲みたくなる。俺が顔を上げるとテウチさんがサムズアップしてきた。

 

「獣臭さみたいなのが薄くなりましたね。シラカワ商会から仕入れた『波豚』はどうでした?」

「この通りさ。今までの豚とは雲泥の差だな。同じ品種とはとても思えねえよ」

「色々と生産者にも試行錯誤してもらいましたからね。感想とか気付きがあれば、次の仕入れの時にでも伝えてあげて下さい」

「値段が下がってくれればそれで良いよ」

「一番難しい問題ですね」

 

 そう言いながら、俺たちは顔を合わせて笑った。

 

「次はチャーシューも食ってみてくれ」

 

 そう促されて、器に綺麗に並べられたチャーシューを摘み、一度スープに浸してから口に運ぶ。口に入れた途端に溶ける豚の脂の甘みを感じる。これも美味い。

 

 この世界の豚の飼育環境を見たのは、波の国での依頼の最中、たまたまだった。詳しくない俺でも知っていた豚は綺麗好きだという情報。そんな環境とはかけ離れ、ぎゅうぎゅうに押し込まれた豚達。与えられるのは宿などで出た人間の残飯。

 

 道理で、美味い豚はこの世界にいないはずだと納得させられる光景だった。すぐにイズミに金に困っている畜産農家を調べさせ、買収した。綺麗な飼育環境、広い小屋、そして与える餌を規格外のサツマイモなどに変更し、世代交代させながら完成したのがこの『波豚』である。

 

「ナルト、一楽のラーメンさらに美味くなったよな?」

「今までの独特の匂いも好きだったってばよ。……でも、こっちの方がやっぱり美味しいってばよ!」

 

 そのナルトの笑顔につられて笑いながら、あえて真面目なトーンで告げた。

 

「この豚も俺の資金で改良させたんだ。いいか、お金にこだわり過ぎるのは忍として三流だが、お金が『大切な力』であることに変わりはない。要は、使い方次第さ」

 

 俺の言葉に、炒飯を頬張っていたサスケの手がピタリと止まった。

 

「お前たちが波の国で手も足も出なかった、あの『鬼人』再不斬。あいつだって、結局は『資金力』と『人脈』があったからこそ、こちらに引き込むことができたんだ」

 

 俺は二人の顔を順番に見据えた。

 

「忍術や体術の才覚だけが、忍の強さじゃない。純粋な実力で勝る相手に勝つには、手札や手段が多い方が圧倒的に有利なんだよ」

「……じゃあ、ヨフネさんは、再不斬より弱いのか?」

 

 サスケが、探るような真剣な眼差しを向けてきた。

 

「純粋な『チャクラ量』だけで見るなら、俺は再不斬の半分以下だな」

 

 俺が事実をあっさりと口にすると、サスケは信じられないというように目を見開いた。

 

「そ、そんなに差があるのか……!?」

「ああ、ただの事実だ」

 

 俺は麺を啜ってから、冷徹な声で断言した。

 

「チャクラだけならな。だが、殺し合いになれば、俺はあいつに絶対に負けない」

 

 圧倒的な自信を込めた言葉に、ナルトとサスケが息を呑むのが分かった。

 

「技術の精度、仲間、情報、そして圧倒的な資金力。総合的な戦力で見るなら、俺が再不斬を圧倒している。ただそれだけのことだ。……視野を広く持て、二人とも。目に見える力だけがすべてじゃないぞ」

 

 俺の提示した『別の強さの形』に、サスケは何か考えるそぶりを見せる。

 

「この『波豚』にしても、忍と関係ないと思っただろう?」

 

 コクコクと二人が頷いて反応を返してくる。

 

「例えばだ。この豚が美味しいという噂を聞きつけた他国の商人が買いに来る。そして、少しだけ安く売ってあげる。その時、俺は今までなかった人脈を手にすることができる。そうやって、俺は敵を知るための情報をより集めやすくしているんだ」

 

 絶対的な才能と瞳力を持つ兄・イタチを殺すため、ひたすらに純粋な力だけを求め続けていたサスケ。俺の言葉で価値観を変えるきっかけに少しでもなってくれたら良い。

 

「……いただきます」

 

 やがてサスケは小さく呟き、静かに餃子へと箸を伸ばした。そして餃子を頬張った横顔には、さっきまでの暗い表情は消え、少年のあどけなさが浮かんでいた。

 

 

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