同情するならチャクラくれ   作:あしたま

50 / 60
050.蛇手

 

 

 死の森の鬱蒼とした木々の奥。大蛇丸と第七班が対峙し、圧倒的な殺気の前に下忍たちが絶望へと沈みかけていた、まさにその頭上だった。

 音一つ立てず、樹冠の死角からテッセンの操る傀儡が滑るように急降下する。

 

 草隠れに化けている三人組とナルト達の頭上に、数本の無機質な円筒形の筒がパラパラと投下された。

 コロン、と足元に転がった小さな金属音。

 殺気も、チャクラの練り上がりも一切ない。未知の落下物に、なすすべなく立ち尽くすナルトたちが「え?」と間抜けな声を漏らした次の瞬間――俺たちの奇襲が起動した。

 

「よし、引き離せ!」

 

 俺のインカム越しの号令は、強烈な爆音にかき消された。

 網膜を焼き切るような苛烈な閃光と、三半規管を狂わせる凄まじい爆音が、死の森の一部を真っ白に染め上げた。猟犬特製の閃光音響弾、スタングレネードである。

 

 特製ゴーグルと防音装備をしている俺たち猟犬には一切のダメージはない。だが、何も知らずに光と音を真正面から浴びたナルト、サスケ、サクラの三人は、悲鳴を上げてその場にうずくまった。

 

(――がッ!? 何だ!? 目が……耳がッ!?)

 

 サスケは眼球を焼くような閃光と脳髄を揺らす爆音に為す術なく膝をついた。平衡感覚が完全に狂い、天地の区別すらつかない。

 だが、光と音を奪われた彼の『触覚』が、その直後に起きた異常な現象を捉えていた。

 

 背後の地面が凄まじい振動と共に隆起し、分厚い土の壁が形成されたのを感じた直後。無言の何者かに両脇を掴まれ、一気に後方へと抱え上げられたのだ。

 

(誰だ!? どこへ連れて行かれる!?)

 

 視覚も聴覚もない完全な無力状態。だが、自分を運ぶその腕には、一切の躊躇いも、力みも、無駄なブレすらない。

 

 サスケは自分が助けられたのかどうかも分からず、ただ圧倒的な『力のうねり』の中に木の葉のように巻き込まれていく恐怖だけを味わっていた。

 

「目標の引き剥がし完了!」

 

 インカムからの報告があった時、俺の持つ雷刀にはすでに極限まで圧縮された雷遁のチャクラが収束していた。

 狙いは、閃光の中で立ち尽くす大蛇丸の眉間。

 

──雷遁・超電磁砲

 

 鼓膜を突き破るような轟音と共に、音速を遥かに超えた合金弾が青白い尾を引いて放たれる。大気を焼き焦がす一撃は、草隠れの姿をした大蛇丸の頭部を正確に粉砕した。

 

 だが、手応えが軽すぎる。吹き飛んだ頭部から溢れ出したのは血ではなく、赤茶けた泥だった。

 

(泥分身か!)

「隊長ッ、上!」

 

 ホヘトの鋭い警告が響く。頭上の巨大な木の幹がヌルリと蠢き、そこから音もなく這い出た本物の大蛇丸が、白刃を俺の首筋へと振り下ろしてきた。

 いきなり指揮官の頭を取りに来たか。だが、その神速の凶刃に反応したのは、白眼を極限まで見開いたホヘトだった。

 

「八卦ッ!」

 

 ホヘトが俺の前に割り込み、掌底から放たれた柔拳のチャクラが刀の腹を正確に弾き飛ばす。軌道が逸れた刀を捨て、大蛇丸は空中で身を翻して後方へ着地しようとする。

 

 だが、そこはすでに猟犬の縄張りだ。

 大蛇丸の落下地点は、別の隊員が放った『黄泉沼』によって底なしの泥沼と化していた。間合いを取ろうとした大蛇丸の足が沈む――かに見えたが、流石は伝説の三忍。瞬時に足裏へチャクラを集中させ、泥沼の表面に水面歩行の要領で難なく降り立った。

 しかし、これで大蛇丸と、同じく草隠れに化けているであろう二人の部下との分断に成功した。

 

「『牙』、やれ!」

 

 大蛇丸から切り離され、樹上に孤立した二人に向けて、攻撃部隊『牙』の隊員たちが前後から挟み込むように強力な火遁を浴びせる。

 業火の逃げ場を失った二人の頭上へ、さらにテッセンの上空の傀儡から、起爆札を括り付けた大量のクナイが雨のように降り注いだ。

 連続する爆発が樹上を吹き飛ばす。

 

『目標二名のチャクラ反応喪失。クリア』

 

 インカムから、ホヘトの冷徹な確認報告が入る。開戦からここまで、わずか十秒足らず。これで心置きなく、本命のバケモノ一人に集中できる。

 俺は構え、大蛇丸へ射線を向けた。

 

 俺のレールガンの威力を警戒したのか、大蛇丸は即座にその場から跳躍して離脱を図る。しかし、大蛇丸の頭上にはすでにテッセンの傀儡が旋回し、次なる起爆札の雨を降らせ始めていた。

 

 上に気を取られた大蛇丸の胴体を狙い、俺は二発目の超電磁砲を放つ。さらに周囲の隊員たちが一斉に火遁の追撃を加えた。

 一瞬にして死の森の一角が巨大な爆風と熱波に包まれ、乾燥した落ち葉に火が点いて猛烈な勢いで舞い上がる。

 

 だが、インカムからはホヘトの「クリア」の声が聞こえてこない。

 俺は隣のサンタへ素早くハンドシグナルを送った。戦況のマッピングではない、俺とホヘトの『視覚』を直接繋げという指示だ。

 

 サンタの術により、燃え盛る爆煙の奥の光景が俺の脳内に直接映し出される。

 爆風の中心。そこには、数匹の巨大な蛇が折り重なるようにとぐろを巻き、絶対的な防御壁を形成している姿があった。そしてその蛇の壁のさらに中心に、わずかに身を縮めた人影が見える。

 

(あの質量を盾にしてやり過ごしたか)

 

 俺は爆風が晴れるのを待たなかった。視界共有によって完全に捕捉している人影の座標へ向け、三発目の超電磁砲を間髪入れずに叩き込む。

 音速の弾丸は、チャクラで硬質化された蛇の分厚い鱗と肉を貫通した。だが、その極限の密度のせいで弾道がごく僅かにズレる。

 

 脳内の視界で、人影の左腕が根元から吹き飛ぶのが見えた。

 よし、削った。すぐさま四発目の追撃を放とうとチャクラを練った瞬間、凄まじい暴風が爆炎を吹き飛ばした。

 

「風遁・大突破ッ!」

 

 突風によって煙が晴れる。周囲の土遁使いが即座に大蛇丸を土のドームに閉じ込めようと印を結んだが、それより早く、土壁の上部から片腕の影が天高く跳躍した。

 

 影は空中の死角へ苦無を放ち、待機していたテッセンの傀儡を正確に打ち抜き墜落させる。そして、空中からこちらに小さな蛇を飛ばしてくる。今度は傀儡を撃ち落とされたテッセンや他の部下達が手裏剣を飛ばし、蛇を撃ち落とす。しかし、その隙にその人物は静かに地面へと着地した。

 

 つい数十秒前まで鬱蒼としていた死の森の木々は、俺たちの爆撃と大蛇丸の風遁によって跡形もなく吹き飛び、クレーター状の見晴らしの良い荒野と化していた。

 

 そして、ようやく土煙の晴れた視界の先で対峙した『大蛇丸』の姿は、草隠れの顔が半分ドロドロに溶け落ち、俺の記憶にあるかつての顔――いや、それよりも遥かに若々しい、青年のように不気味な顔を晒していた。

 

「……まったく、厄介な相手になったものね。ヨフネ」

 

 吹き飛ばされた左肩から血を流しながら、大蛇丸が舌舐めずりをして俺を見る。

 

「それはどうも光栄ですね。第三次大戦の桔梗峠で、あなたに叩き込まれた戦術のおかげで、俺たちもこうしてあなたと戦えるようになったんですから。……ついでに、このまま大人しく捕まってくれると非常に助かるのですが」

「それは欲張りすぎよ。私はまだ、この木ノ葉で欲しい物を手に入れてないもの」

 

 大蛇丸の視線が、後方で気絶から目を覚ましつつあるサスケの姿を舐めるように動いた。

 

「この場で思い当たるあなたの標的は、二つだけですけどね。写輪眼か、それとも――」

 

 そう言って俺はナルトを、正確には九尾を宿す人柱力を見た。

 俺が油断なく右腕を構え直した時、背後から荒い息遣いが聞こえてきた。呪印の痛みに耐えながら駆けつけてきたアンコだ。

 

 若返っているかつての師の姿を見たアンコの瞳に、強烈な憎悪と恐怖が浮かぶ。

 

「大蛇丸……アンタ、その顔……!」

「うるさいわね。用済みのオモチャがしゃしゃり出てこないで頂戴」

 

 大蛇丸が冷酷に一瞥した瞬間、アンコの首の呪印がさらに激しく明滅し、彼女は絶叫を上げてその場に崩れ落ちた。

 

「アンコさん、下がってください! 足手まといです!」

 

 医療班のタシが駆け寄ってアンコの腕を引くが、彼女は「離せ、あいつは私が……!」と血を吐くように抵抗する。

 俺は一瞬だけ視線をタシに向け、短く顎を振った。

 タシは躊躇なくアンコの頸動脈に手刀を打ち込み、彼女を気絶させる。そのまま抱え上げ、部隊の後方へと即座に離脱しようと背を向けた。

 

「……逃がすと思う?」

 

 大蛇丸が不敵に嗤い、袖口から高速の蛇をタシの無防備な背中へ向けて放った。必殺の奇襲。

 だが、その射線上に二人の猟犬隊員が音もなく割り込んだ。

 

「「土遁・土流壁!」」

 

 瞬時に隆起した岩壁が蛇の牙を完全に弾き落とす。二人の隊員は大蛇丸を一瞥することすらなく、ただ無言で盾として立ち塞がり、タシたちの後送を完璧にカバーした。

 

 私情も、慢心もない。ただ負傷した仲間を守り抜く。それが猟犬だ。

 

「……さあ。お邪魔虫も消えたし、続きを……と言いたい所なんだけど。あなたたちと今ここで戦うのは得策じゃなさそうね」

「そう言われましても、逃がすという選択肢はこちらにはありません。五十対一のリンチになりますが、卑怯とは言わせませんよ。……数の暴力による確実な殲滅。これも戦場であなたに教わったことなので」

 

 俺の言葉に、大蛇丸は肩を揺らしてクックッと笑った。

 

「数の暴力? ……なら、これならどうかしら」

 

 大蛇丸が、人間の骨格を無視するように異常なほど口を大きく開いた。

 次の瞬間、その口内から数千、数万という無数の毒蛇が、文字通り『津波』となって吐き出された。万蛇羅ノ陣。当たり一帯を埋め尽くすほどの、圧倒的で広範囲の術だ。

 

(あんな術、どうやって……!?)

 

 耳鳴りが収まり、徐々に視界が戻りつつあったサスケが、土壁の裏でその絶望的な光景を見て息を呑む。だが――。

 俺がインカムで指示を飛ばすよりも早く、猟犬は動き出す。

 

『防御班!』『攻撃班、合わせろ!』

 

 前衛の土遁使い十数名が一斉に印を結び、巨大な防壁を半円状に展開して蛇の津波を堰き止める。そこに生まれた一瞬の停滞を見逃さず、後衛の火遁使いが防壁の隙間から一斉に業火を吹き込んだ。

 断末魔を上げる間もなく、数万の毒蛇の津波は瞬く間に灰燼に帰し、ただの焦げた匂いへと変わった。

 

(あの規模の術を、一言の指示もなく完全に殺しきった……これが、組織の連携……!?)

 

 個の圧倒的な暴力を、息の合った集団の暴力が無表情にすり潰していく。サスケはその次元の違う戦闘を前に、全身の粟立つような戦慄を覚えていた。

 

「流石ね。あのダンゾウが、尻尾を巻いて木ノ葉から逃げ出すわけだわ」

 

 焼け焦げた蛇の残骸を踏みしめながら、大蛇丸が楽しげに笑う。その言葉に、俺の目がスッと細められた。

 

「……なるほど。あなたとダンゾウには何かしらの接触があるようです。また一つ聞きたいことが増えました。ますます、逃がすわけにはいかなくなりましたね」

 

 俺が背手にハンドシグナルを送ると、後方に控えていた『尾』の封印班が、無言で巨大な巻物を展開した。対象のチャクラを強制的に練れなくする拘束用の術式だ。

 

(これだけで伝説の三忍を拘束できるとは毛頭思っていない。だが、意識を削ぐ一瞬の隙にはなる)

「五十対一……ね。君、自分の最大の弱点を忘れてるんじゃないの?」

 

 大蛇丸が金色の瞳を細めて、俺を嘲笑うように見た。

 

(……ッ!?)

 心臓が冷たい手で掴まれたような感覚に陥った。

 レールガンをすでに四発撃ち、俺のチャクラは半分を切っている。だが、息一つ乱さず、筋肉の微かな震えすら抑え込んで完璧なポーカーフェイスを貫いていたはずだ。

 

 こいつは、俺の僅かなチャクラの揺らぎや細胞の疲労を、ただ見ているだけで完全に見抜いたというのか。

 

(ああ、この人は本当に嫌なところを突いてくる。だが、俺のチャクラ量が少ないことなど、俺自身が一番よく分かっている!)

 

 大蛇丸が地を蹴って動こうとした瞬間、俺はすでに五発目の超電磁砲を放っていた。

 回避を許さない完全なタイミング。合金弾は大蛇丸の胴体を真正面から捉え、その上半身を跡形もなく吹き飛ばした。

 

――だが。

 残された下半身の断面から、突然、二つの巨大な白い手が『内側』から這い出してきた。

 メリメリと自らの肉の皮を引き裂き、粘液に塗れた全く無傷の大蛇丸が、脱ぎ捨てた着ぐるみから這い出るようにして現れたのだ。

 

 吹き飛ばしたはずの左腕も完全に再生している。これが、大蛇丸による『変わり身の術』。究極の脱皮。

 

「……笑うしかないな。完全に人間辞めてやがる」

 

 猟犬の隊員たちも、そのおぞましい光景に一瞬だけ目を剥いた。だが、彼らの瞳に『恐れ』は一切ない。どんなバケモノが現れようと、俺たちにはこれを殺し切るための連携と、確実に急所を撃ち抜く隊長がいるという絶対的な信頼。

 

 脱皮を終えた大蛇丸が素早く印を結ぶ。

 次の瞬間、凄まじい白煙と共に、森の跡地を埋め尽くすほどの巨大な質量が出現した。

 

 かつて木ノ葉を襲った九尾と遜色ないのではないかと思えるほどに巨大な、紫色の蛇。その頭頂部に、粘液に塗れた大蛇丸が悠然と立っていた。

 

「この圧倒的な質量……チャクラの少ない君がどう倒すのか、見せてほしいところだけれど。私も少し予定が押していてね……。また遊びましょう、ヨフネ」

 

 そう言い残し、大蛇丸の姿がシュンッと掻き消えた。瞬身の術。残されたのは、俺たちを威嚇するように鎌首をもたげる超巨大な蛇のバケモノだけだった。

 

「ホヘト!」

「ダメです、大蛇丸の反応は周辺にはいません!」

「トンボ!」

 

 インカム越しに本部のトンボが叫ぶ。

 

『感知水球の範囲からも完全に離脱しました! 追えません!』

「よし、深追いはしない。全員、ここからはインカムでの通信に切り替える! トンボ、猟犬本部に連絡して待機中のメンバー全員に非常招集をかけろ!」

『了解!』

 

 俺は瞬時に頭を切り替え、目の前の巨大蛇を睨み据えた。

 これだけの質量を持つ生物だ。チャクラの力押しで倒すには、俺のガス欠が先に来る。なら、論理的かつ生物学的に狩るまでだ。

 

「顔の前に――」

 

 インカムで指示を飛ばそうとした俺は、ふと口の端を吊り上げた。

 号令をかけるより早く、前衛の火遁使い達がすでに印を結び終え、巨大蛇の顔の前に強力な火球を放っていたのだ。

 

 指示など待つまでもない。巨大生物の感知を潰すのは、猟犬の対大型生物戦術における基本だ。

 強烈な熱源を目の前で焚かれ、蛇の視界が完全にホワイトアウトする。

 

「そのまま煙幕!」

 

 俺の意図を完全に先読みした連携に、数十個の煙幕弾が間髪入れずに放たれる。ただの煙ではない、強烈な硫黄の匂いを放つ特製の煙幕だ。蛇が舌を出して匂いの粒子を集める嗅覚が、強烈な刺激臭によって完全に麻痺する。

 

 二つの重要な感覚器官を同時に潰された巨大蛇は、パニックを起こして周囲を無差別に破壊しようとのたうち回り始めた。

 

 規格外の太さを持つ巨大な尾が、デタラメに振り回されて猟犬の前衛部隊へと迫る。

 

「『脚』、耐えろ!」

「「「土遁・土流壁ッ!!」」」

 

 巨大な尾を避ければ陣形が崩れる。数名の土遁使いが逃げることなくその場に踏み止まり、多重の岩壁を展開した。

 凄まじい質量が壁を粉砕し、隊員たちが衝撃で口から血を吐く。だが、彼らは一歩も引かずに蛇の尾の軌道を逸らした。

 

(俺たちがここで死んでも、隊長が必ず心臓を撃ち抜いてくれる)

 

 そんな絶対的な信頼が、バケモノの暴威を力ずくで押さえ込む。

 

「サンタ! 俺とホヘトの視界を繋げ!」

「はいッ!」

 

 再び俺の脳内に、白眼による透視の視界が展開される。分厚い鱗と肉の奥、脈打つ巨大な心臓の座標がはっきりと見て取れた。

 

「脚部! 最後の土遁で一瞬だけ、奴の頭を撥ね上げろ!」

 

 血を流した土遁使い達が呼吸を完全に合わせ、巨大蛇の顎の下から岩柱を急速に隆起させた。

 凄まじい勢いで突き上げられた蛇の頭が天を仰ぎ、その柔らかい腹部――蛇の急所である『七寸』が、俺の射線上に完全に無防備に晒された。

 

「終わりだ」

 

 俺は躊躇いなく、最後の一撃となる超電磁砲を放った。音速の弾丸は、分厚い鱗の隙間をすり抜け、ホヘトの白眼が捉えた巨大な心臓のど真ん中を正確に貫いた。

 

 限界までチャクラを絞り出した身体が、熱を持って微かに痙攣しているのを悟られないよう、俺はゆっくりと腕を下ろす。

 鼓動が止まる。断末魔を上げる間もなく、巨大蛇はボンッという音と共に大量の白煙へと変わり、霧散して消え去った。

 

 後に残されたのは、静まり返ったクレーター状の荒野だけ。

 開戦からここまで、時間にしてわずか数分。大蛇丸の襲撃は、猟犬たちの完璧な連携によって、最悪の事態だけは免れた。

 

 俺は歩み寄り、土壁の裏で呆然としている三人を静かに見下ろした。

 サスケの首元を一瞥する。噛まれたような痕はない。どうやら、大蛇丸の『仕込み』が完了する前に間に合ったらしい。

 

「……安心しろ。化け物は俺たちが撃退した。もう終わったぞ」

 

 俺がそう告げると、サスケの強張っていた肩がビクリと跳ね、その口から小さく安堵の息が漏れた。

 自分は助かったのだという、抗いようのない本能的な安堵。

 

 だが――直後、這いつくばったままのサスケは、己の弱さを呪うように、血が滲むほど強く唇を噛み締めた。

 圧倒的な『個』の暴力を前に為す術もなく、それを理不尽にねじ伏せた『組織』の暴力にただ守られ、あろうことか「安心」してしまった自分への痛烈な無力感と屈辱。

 

「す、すっげぇ……なんだってばよ、今の……!」

 

 純粋な驚愕に目を丸くするナルトの横で、サスケだけは食い入るように俺たちを見つめていた。

 その瞳に浮かんでいるのは絶望ではなく、新たな『力』の形に対する、強烈な渇望だった。

 

「……お前たちは、このまま試験を続けろ。今の襲撃で失格にはならないよう、裏で手を回しておく」

 

 それだけを言い残し、俺は部隊に撤収の合図を出した。

 大蛇丸の出現。そして、ダンゾウとの繋がり。事態は、急を要していた。

 

「急ぐぞ。すぐに火影邸へ向かい、ヒルゼン様に直接報告を入れる」

 

 俺たちは死の森を後にし、木ノ葉の中枢へと全速力で駆け出した。

 

 

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