同情するならチャクラくれ   作:あしたま

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052.羨望

 

 

 電光掲示板の文字が止まり、会場がどよめきに包まれる。

 

 第八試合『日向ネジ VS 日向ヒナタ』

 

 日向宗家と分家、そして今期最大の注目株である「天才」と「落ちこぼれ」の対決。

 俺はバルコニーの手すりに指をかけ、階下へと視線を落とした。隣に立つカカシとアスマも、これまでの試合とは違う、張り詰めた空気を感じ取っている。

 

 「……因縁だね。日向の内部事情は君が一番詳しいだろうけど、どう見る?」

 

 カカシの問いには答えず、俺は会場へと降りていくヒナタの小さな背中を目で追った。あの子が積み上げてきたものが今日、ネジという名の壁に試される。

 

 「周りからの評価なんて当てにならないと証明するんだ、ヒナタ」

 

 その言葉が届いたかどうかは分からない。だが、ヒナタの足取りが、わずかに力強くなった気がした。

 

 

 

 

 闘技場の中央。対峙する二人の間には、重苦しい沈黙が流れていた。

 ネジの白い瞳には、激しい苛立ちと、隠しきれない羨望の情が混じり合っている。

 

 「……ヒナタ様。貴女がなぜ、あの人の班に配属されたのか、俺には理解できない」

 

 ネジの声は、氷のように冷たく、それでいて熱を帯びていた。

 

 「ホヘトさん、そしてヨフネ隊長……。あの二人は、日向の腐った『鳥籠』を壊し、分家に新たな道を示してくれた。俺にとって、二人は日向の歴史を塗り替えた恩人だ」

 

 ネジが拳を握りしめる。

 

 「その恩人が、新米の、それも日向の伝統にすらついていけない貴女の担当に就いた。宗家という血筋だけで最高の師を得た……その事実が、俺には我慢ならない」

 

 ヒナタは震える手を胸元で組み、ネジの言葉を正面から受け止めていた。以前の彼女なら、この時点で視線を逸らしていただろう。だが、今の彼女の瞳は逃げなかった。

 ヒナタはゆっくりと息を吐き、ネジを真っ直ぐに見返した。

 

 「ネジ兄さん……確かに私は、血筋で選ばれたのかもしれません」

 

 ヒナタは言葉を選びながら、慎重に話し始めた。

 

 「それでもヨフネ先生は、私が日向の出来損ないだと知った上で、地獄のような訓練を課してくれました。……何度も吐いて、何度も倒れて、それでも『自分の限界を自分で決めるな』って、私の手を引いてくれたんです」

 

 ヒナタが、ゆっくりと構えを取る。

 

 「私は……ネジ兄さんより優れているとは思っていません。ただ、先生たちが信じてくれた自分を、裏切りたくないだけです!」

 「笑わせるな……! ならばその成果、この俺が直々に確かめてやる!」

 

 ハヤテの開始合図と同時に、ネジが弾かれたように踏み込んだ。

 

 「八卦・二掌打!」

 「……っ!」

 

 ネジの掌打が、ヒナタの肩口を狙う。だが、ヒナタの反応はネジの予想を裏切った。

 ヒナタは最短距離のステップでネジの攻撃をいなすと、逆にネジの肘へ掌底を叩き込もうと肉薄する。

 

 「なっ、この足運び……柔拳の型ではない!?」

 

 バルコニーから見ていたカカシが身を乗り出した。

 

 「猟犬の基礎訓練だよ。あの子には、日向の優雅さよりも、泥臭い回避と生きるための体術を叩き込んだ」

 

 俺は満足げに解説する。ヒナタはネジの神速の連撃を、最小限の動きで回避し続けていた。

 

 「チョロチョロと……! そんなことで周りが認めてくれると思うな!」

 

 ネジが激昂し、チャクラを全開にする。指先が、目にも止まらぬ速度でヒナタの経絡系を狙って突き始める。逃げ場のない、全方位からの刺突。

 

 それでもヒナタは攻撃を喰らいながらも、経絡系へのダメージは避けていた。

 それでも、衝撃は来る。体が弾かれ、床を転がった。立ち上がろうとするが、膝が震えて言うことを聞かない。

 

 「……まだ立つか」

 

 ネジの声に、わずかな驚きが滲んだ。だが彼はすぐにそれを押し込め、再び踏み込んだ。

 二度目の連撃が、今度はより精密に急所を狙う。ヒナタの防御が崩れ、鳩尾への掌打が深々と入る。呼吸が止まり、膝から崩れ落ちた。

 

(……立て、ヒナタ)

 

 俺はバルコニーから、声に出さずに念じた。

 ヒナタは床に手をつき、震えながらも顔を上げた。その瞳には、まだ光がある。

 

(……今だ。守護八卦を出せ)

 

 俺の脳裏に、修行中のヒナタの姿が浮かんだ。

 この術の出発点は単純なものだった。俺とホヘトが当初考えたのは、掌の点穴から細い紐状のチャクラを複数本伸ばし、それを鞭のようにしならせて相手の攻撃を撃ち落とす術だった。

 

 白眼の全方位視覚と、柔拳で培ったチャクラの精密な放出技術を組み合わせれば、理論上は実現可能なはずだった。

 だが、実際の修行は難航した。チャクラを紐状に保ちながら複数本同時に操作することは、ヒナタにとって想像以上に高い壁だった。伸ばそうとすれば途中で霧散し、密度を上げれば今度は硬直して思うように動かない。何十回試みても、紐は形を保てずにバラバラと崩れた。

 

 転機は、修行を始めて三週間が経った頃だった。

 限界まで追い込まれたヒナタが、ある日の訓練中に突然、全力でチャクラを押し込んだ。制御を諦めたわけではなく、むしろ極限の集中の中で、これまでとは全く異なる密度でチャクラを圧縮したのだ。その瞬間、紐は柔軟性を完全に失った。だが代わりに、空気を切り裂くほどの鋭利な刃へと変貌した。

 

 俺とホヘトは顔を見合わせた。捕縛術としては完全な失敗だ。しかし目の前にあるのは、日向の歴史に存在しない全く新しい何かだった。

 

 「切り裂いて守護する」

 

 それが守護八卦の設計思想となった。ただし、要求される集中力の密度は、ヒナタがこれまで経験したどの訓練よりも高かった。

 

 それでもヒナタは諦めなかった。泥だらけになりながら、血が滲むまで手のひらを酷使しながら、毎日同じ失敗を繰り返した。俺が「今日はここまでだ」と切り上げようとしても、「もう一度だけ」と食い下がった。その姿を見るたびに、俺は内心で舌を巻いた。技術的な才能よりも、この諦めない粘りこそが、ヒナタという忍の本質なのかもしれないと思った。

 

 中忍試験の前日、ヒナタはようやく、不安定ながらも守護八卦の形を数秒間だけ維持することに成功した。完成には程遠い。だが可能性は確かにある。俺はそれを「使えるかもしれない切り札」として、今日この場に持ち込ませた。

 

 失敗すれば、無防備な状態を晒すことになる。成功の確信が持てないまま発動することへの恐怖は、当然だった。

 キバが手すりを掴み、叫ぼうと口を開いた。ナルトも同時に身を乗り出し、何かを叫ぼうとした。

 その二人を出し抜くように、一つの声が会場に届いた。

 

 「ヒナタ。自分を信じろ!」

 

 シノだった。

 手すりに身を乗り出し、いつもの平坦な声とは違う、腹の底から絞り出した声でヒナタの名を呼んだ。

 バルコニーが、一瞬静まり返った。

 口を開けたまま固まったキバとナルトが、同時にシノを振り返る。

 

 「……あいつ、今叫んだか?」

 

 シカマルが信じられないものを見るように呟いた。テマリも目を丸くして視線をシノに向けている。

 俺はシノの横顔を見つめた。

 

(……どこか一歩引いた場所から仲間を見ていたあいつが、ここで身を乗り出した)

 

 指導者としての感慨が、静かに胸の奥に落ちた。シノが変わった。いや、もともとそこにあったものが、ようやく外に出てきたのかもしれない。

 闘技場の下で、ヒナタの顔が変わった。

 

 震えていた呼吸が、すっと整う。迷いが、一本の線のように収束していく。

 

 「……やります」

 

 誰にも聞こえないほど小さな声で、ヒナタはそう呟いた。

 ネジが最後の一撃を放つために踏み込んだ、まさにその瞬間。

 

 ヒナタの両手から、細く鋭いチャクラが溢れ出した。それは最初、不安定に揺れていた。刃が形になりかけては崩れ、また形になりかけては乱れる。何十回も繰り返してきた失敗の感触が、指先に蘇る。

 だが今度は、崩れなかった。

 極限まで絞り込まれた集中の中で、チャクラが一点に収束し、刃としての輪郭が鮮明になっていく。前日の訓練では数秒しか保てなかったそれが、今この瞬間、完全な形へと結晶した。

 

 「……守護八卦・六十四掌!!」

 

 その宣言と共に、ヒナタの両手から伸びたチャクラの刃が、輝くドーム状の壁を形成する。

 そして、ネジの放った一撃が、ヒナタの体に届く前にチャクラの刃に弾かれた。

 

 「……なっ、がはぁっ!?」

 

 ネジの指先から鮮血が舞う。ヒナタの刃に触れた瞬間、ネジの指の皮膚が切り裂かれたのだ。弾き飛ばされた衝撃で、ネジ自身が大きく後退する。

 

 「回天……ではない!? なんだこの術は、こんな秘伝は知らないぞ!」

 

 ネジが戦慄し、血の滲む指先を見つめた。

 

 「先生と、一緒に考えた術です……。敵を倒すためじゃなく、大切なものを守り抜くための……私の、柔拳です!」

 

 ヒナタの額には大量の汗が流れ、呼吸は限界に近い。この術のチャクラ消費量は、今の彼女の器では長くは保たない。

 ネジは動かなかった。

 

 目の前の光景が、彼の中の何かを揺さぶっていた。自分が憧れたヨフネという忍が、この「落ちこぼれ」に、日向の歴史に存在しない全く新しい力を授けた。宗家という特権に守られた「回天」ではなく、己の知恵と訓練で勝ち取った「守護」。

 

 そして何より、あれほど叩きのめされ、それでも立ち上がり続けたヒナタという人間が、今ここに立っている。

 ネジの全身全霊のチャクラが拳に込められた。「認めん」という言葉が喉元まで出かかり、消えた。

 代わりに、静かな問いが胸に落ちてきた。

 

(……俺が見てきたヒナタ様は、本当にこの人だったのか)

 

 その後の攻防は、もはや下忍の戦いではなかった。

 ネジの天才的な技術が、ヒナタの防御を少しずつ削り取っていく。ヒナタのチャクラが底を突き、守護八卦の輝きが霧散した。ネジの最後の一撃が、ヒナタの鳩尾に向かって伸びる――。

 

 だが、ネジの指先は、ヒナタの肌に触れる寸前で止まっていた。

 意識を失いながらも、ヒナタはその手でネジの手首をガシリと掴んでいたのだ。

 その瞳には、最後まで諦めない、強い執念が宿っていた。

 

 「勝者……日向ネジ」

 

 ハヤテの声が響く。

 だが、ネジは勝利のポーズを取ることもなく、膝をついて自分の手を見つめた。その指先からは、今も血が滴っている。

 

 ネジは長い間、動かなかった。やがて、ゆっくりと視線をヒナタの顔へと向けた。

 

(……俺は、ずっとこの人を見ていなかった)

 

 言葉はなかった。だが、その眼差しには、これまでの試合では一度も浮かんだことのない色があった。同じ日向の血を持つ者への、初めての、真っ直ぐな視線だった。

 俺はバルコニーの手すりを蹴り、闘技場の床へと飛び降りた。

 

 意識を失ったヒナタは、倒れ込む直前に辛うじて膝をついた格好のまま、ぴくりとも動かない。近づいて抱え上げると、その体は驚くほど軽く、全身が細かく震えていた。チャクラを使い果たした体に、まだ力を振り絞ろうとしている。

 

 「よくやった」

 

 誰にも聞こえない声でそう告げてから、俺は待機していた医療班へとヒナタを渡した。

 

 「頼んだぞ。チャクラの枯渇と、経絡系への負荷を最優先で診てやれ」

 「はっ、お任せください」

 

 担架に乗せられたヒナタが運ばれていくのを見送り、俺は一度だけネジの方へと視線を向けた。彼はまだ膝をついたまま、ヒナタが運ばれていく方向を静かに見つめている。その背中には、何かが決定的に変わった静けさがあった。

 俺は何も言わず、バルコニーへと戻った。

 

 

 

 

 電光掲示板が静止し、会場の空気が一変した。これまでの試合とは明らかに異質の、肌を刺すような殺気が闘技場を支配する。

 

 第九試合『ロック・リー VS 我愛羅』

 

 俺の隣に立つガイが、これまでにないほど真剣な顔で、愛弟子の背中を見つめていた。

 

 「……ヨフネ。見ていてくれ。これがリーの、私の誇る最高に熱い青春だ!」

 「ああ。しっかり見せてもらうよ」

 

 俺は腕を組み、手すりを強く握りしめた。

 チャクラの総量が絶望的に少ない俺と、忍術も幻術も使えないリー。形は違えど、俺たちは「持たざる者」としてこの理不尽な世界に放り込まれた。己の限界を知りながら、それでも前に進もうとする者同士の、根っこにある飢えは、同じはずだった。

 

 試合開始の合図と共に、リーが動いた。

 だが、そのすべての打撃は、我愛羅の意思とは無関係に蠢く砂の壁によって完全に遮断される。

 

 「……砂の盾か。意思に関わらず動く自動防御とは、隙のない作りだな」

 

 俺は静かに分析したが、内心ではその絶望的な防御能力に舌を巻いていた。どんなに速く、重い一撃を放とうとも、物理的な接触すら許されない。

 

 「リー! 外してしまえ!」

 

 ガイの叫びが響く。リーは笑って、足首に巻かれた重り、努力の証を外した。

 重りが床に叩きつけられた瞬間、闘技場全体が揺れ、石材が粉砕された。凄まじい質量だ。あんなものを脚に付けて、あれほど軽快に動いていたのか。

 

 「……おいおい、正気かよ」

 

 アスマが呆れたように声を漏らす。

 重りを捨てたリーの速度は、もはや下忍の域を、いや、忍の常識を完全に逸脱していた。残像すら残さない神速。我愛羅の砂が、リーの速度に追いつけず、その防御網に綻びが生じる。

 

 「当たった……!」

 

 バルコニーの誰かが叫んだ。リーの蹴りが我愛羅の顔面を捉え、その砂の鎧を砕き散らす。

 俺の心拍数が跳ね上がった。

 チャクラという才能に恵まれず、それでもただ一つの武器を研ぎ澄まし続け、絶対的な相手に風穴を開けるその姿。

 

(行け、リー。……理屈じゃない強さを、ここで証明して見せろ)

 

 俺は、自分の冷徹な理性が熱に浮かされていくのを感じていた。

 だが、我愛羅は笑っていた。

 

 「もっと……もっと血を寄越せ……」

 

 不気味な呟きと共に、砂の暴威が加速する。

 リーはついに、禁断の扉を開いた。

 

 「八門遁甲の陣……第一門・開門、開!」

 

 忍の体内には、チャクラの流れを制御する八つの門が存在する。通常それらは体を守るために閉じられているが、強制的にこじ開ければ、肉体の限界を超えた力を引き出せる。その代償として、体は内側から壊れていく。

 第一門を開いた直後、リーの速度が跳ね上がった。

 

 「表蓮華!!」

 

 我愛羅の体が空中へと弾き飛ばされ、そのまま地面へと叩きつけられる。だが、我愛羅は砂の瓢箪をクッションにして致命傷を避けていた。

 リーは止まらなかった。第二門・休門、第三門・生門、第四門・傷門、そして第五門・杜門。門を開くたびに、リーの肌の色が変わり、全身から蒸気が噴き上がる。その速度はもはや肉眼では追えない。

 

 我愛羅の砂が、リーの軌道を捉えようとして追いつけない。防御の要であった砂の盾が、初めて機能しなくなっていた。

 そこからの結末は、あまりにも残酷だった。

 動けないリーの左手足が、我愛羅の砂縛柩によって無慈悲に粉砕される。

 

 「そこまでだッ!!」

 

 ガイが闘技場へ飛び込み、我愛羅の追撃を弾き飛ばした。

 試合終了。

 

 意識を失い、ボロボロになりながらも、リーは立ったままガイを迎えようとしていた。

 

 「リー……お前はもう、立派な忍者だよ……」

 

 ガイの涙混じりの声が、静まり返った会場に響く。

 俺は、震える自分の手を見つめていた。

 

(……負けた。だが、あんなものを見せられて、誰が努力は無駄だなんて言えるんだ。俺は……個人の能力向上から逃げていないか?)

 

 命そのものを燃やした戦いを、俺はただ黙って見届けた。

 担架で運ばれていくリーを見送りながら、俺はガイの隣へと歩み寄り、低く声をかけた。

 

 「ガイ。……波の国に、綱手様がいる」

 

 ガイがゆっくりとこちらを向いた。涙の跡が残る顔に、じわりと何かが灯るのが分かった。

 

 「今すぐ連絡を入れて、移送を打診する。リーの容態次第だが……可能性はある」

 

 ガイはしばらく黙っていた。それから、ぐっと唇を引き結んで、深く頷いた。

 

 「……頼む、ヨフネ」

 

 普段の大仰な言葉も、熱血めいた台詞も、今のガイにはなかった。それだけに、その二言が重かった。俺は短く頷き返し、インカムを起動した。

 

 

 

 

 会場の重苦しい空気を引きずったまま、予選の最終試合が始まった。

 

 第十試合『秋道チョウジ VS ドス・キヌタ』

 

 アスマの班のチョウジが、恐怖に震えながらも闘技場へと降りていく。

 

 「チョウジ! 終わったら焼肉だぞ! 頑張れ!」

 

 アスマがバルコニーから激励を飛ばすが、相手は音隠れのリーダー、ドスだ。

 試合は、ドスの圧倒的な優位で進んだ。チョウジは肉弾戦車で勝負を仕掛けるが、ドスの操る音響攻撃の前では、その巨体もただの大きな標的でしかなかった。

 

 ドスの腕に仕込まれた装置が振動し、低く不快な音を放つ。

 

 「……音の共振からは逃げられない。お前の体の中の水分を、直接揺さぶってやる」

 

 その音が闘技場に充満した瞬間、チョウジの三半規管が狂わされ、彼は無様に床を転がった。

 

(……音を武器にするか。あの装置の仕組みと出力次第では、防音加工した装備で対策できるな。猟犬の装備改良の参考になる)

 

 「勝者、ドス・キヌタ」

 

 ハヤテの冷静な宣言が響く。これで、予選のすべてのカードが終了した。

 俺はバルコニーから、勝ち残った者たちの顔ぶれを見渡した。

 

 サスケ、シノ、カンクロウ、テマリ、シカマル、ナルト、ネジ、我愛羅、ドス……。

 

 俺の介入によって試合の流れは変えることは出来ても、勝ち上がったメンバーは変わらなかった。

 担架で運ばれていくチョウジを横目に、俺は隣のカカシを見た。

 

 「……終わったな」

 「ああ。……でも、ここからが本番だ、ヨフネ」

 

 カカシの視線の先には、冷静に試験を見届けていた三代目火影の姿があった。大蛇丸という毒蛇が潜む中で、本戦までの準備期間が始まる。

 俺は猟犬のインカムに手を触れた。

 

 「感知班へ。予選終了。これより、里の警備体制をプランCに移行する」

 

 冷徹な指揮官の顔に戻りながらも、俺の胸の奥には、リーが見せたあの戦いの熱が、まだ引っかかっていた。

 

(計算だけで守れるほど、この世界は甘くない。……俺も、もう少し欲を出してみるか)

 

 

 

 

 予選が終了し、静まり返った塔の廊下。熱狂の余韻と、負傷者の運搬がもたらす騒がしさが入り混じる中、俺はカカシと共に第七班と第八班の教え子たちを連れて出口へと向かっていた。

 

 「ヨフネ先生、少し話がある」

 

 足を止めたのはサスケだった。その瞳は、勝利の喜びなど微塵もなく、ただ渇いた力への執着だけを宿している。

 

 「どうした、サスケ」

 「修行をつけてほしい。あの死の森で大蛇丸を退けた組織的な戦い方もそうだが……何より、俺が知るどの忍よりも強い。……俺には、それが必要だ」

 

 サスケは自分の手のひらを見つめ、拳を強く握りしめた。

 原作では呪印という呪いに縋った彼だが、今作では俺たちが大蛇丸を圧倒する姿を特等席で見せつけてしまった。その結果、彼は俺のレールガンの破壊力に、復讐への道筋を見出そうとしている。

 だが、俺は首を横に振った。

 

 「サスケ。悪いが、俺の戦い方はお前には向かない。俺はチャクラの少なさを補うために、物理法則や組織の力を借りているに過ぎないんだ。お前のように才能ある奴が、一対一で勝つための最善手は俺の手元にはないよ」

 「……そんなことはない」

 「あと、隣にいる先生を忘れてるんじゃないか? 少なくとも一対一の戦闘技術に関して、カカシは俺より遥かに強いぞ」

 

 俺が横に立つカカシを指差すと、サスケは意外そうな顔をして彼を見た。カカシはいつものように愛読書を読みながら、片手をひらひらと振る。

 

 「ま、ヨフネにそうまで言われるのは嬉しいな。サスケ、とっておきの術を教えてやるつもりだ。……お前なら使いこなせると思ってる」

 

 カカシはそう言いながら、視線を愛読書へと戻した。その飄々とした様子が、逆にサスケには十分な説得力として映ったようだ。

 

 「だったら、オレは!? カカシ先生、オレの修行はどうなるんだってばよ! サスケばっかりズルいぞ!」

 

 ナルトが割り込むように叫ぶ。自分だけが置いていかれることへの焦燥が、その大声に滲んでいた。

 

 「ナルトにはナルトに合う先生を用意してある。今のお前に必要なのは、チャクラコントロールの徹底した見直しだからな」

 「特別な先生? 誰なんだってばよ!」

 「明日になりゃ分かるさ」

 

 カカシの含みのある言い方に、俺はピンときた。

 

(……エビスのことか。二人の相性の悪さを思い出すと、少し気の毒になるな)

 

 今のナルトにとって最も必要なのは、九尾のチャクラを抑制しつつ、自分の力を正確に引き出すための精密な制御だ。それに、自来也様に会うためにも俺は関わらないほうが良い。

 

 「いいかナルト。カカシが用意した先生は、指導者としては一流だ。素直に学べば、一ヶ月後には化ける。……俺は少し里を離れるから、お前もその人にしっかりついていけ。大丈夫だ」

 「ヨフネの兄ちゃんまで……。分かったってばよ、オレ、誰よりも強くなってやるからな!」

 

 ナルトが鼻の下を指でこすり、強気な笑顔を見せた。俺はキバ、シノ、ヒナタを振り返った。

 

 「第八班も、まずはしっかり休養だ。タシのところでケアを受けてこい。本格的な修行は二日後から再開する。……覚悟しておけよ」

 「「「はいッ!!」」」

 

 教え子たちの返事を聞き届け、俺は塔の出口へと向かいながら、空を見上げた。

 本戦まで、あと一ヶ月。やるべきことは山積みだ。だが今夜だけは、この騒がしい連中の気配を少しだけ、悪くないと思っていた。

 

 

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